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2013/03/12 (Tue)
「……ルシェイド?」
 心配そうな声に目を開けると、目の前にセイラスの顔があった。
「傷が痛むか。戻るか?」
「平気」
 何か言いたそうだったが、部屋には戻らないでくれた。
 言いたいことを、分かってくれる。
 この人は。

「あ、あの」
 中庭を後に歩き出したセイラスに、ルシェイドが話し掛ける。
 セイラスは振り返ると、無言でルシェイドを見つめた。
 その沈黙が先を促すものだと気づくのに少しかかったが、聞きたかったことを聞こうとして口を開き。
 そこで凍りついたように動きを止めた。
 あまりに唐突な停止の仕方に、セイラスが訝しげに眉を寄せる。
「……おい?」
 不安に思ったのだろう、躊躇いがちに声をかけるが、ルシェイドが微動だにしない。
 ルシェイドの視界の中で、セイラスの姿が大きく歪んだ。

 同時に風を切るような音が周囲を圧して響く。
 平衡感覚が失せる。
 立って居られない。
 ぐらりと倒れこむように視界が揺れ、それを耐えるように瞼をきつく閉ざす。
 だが全身に強い風を感じて目を開けると、眼下に町並みが見えた。
 さっきまで廊下に居たはずだ。
 混乱して辺りを見回す。
 右手に高い山がそびえ、左側には町並みと、少し高台に城のようなものが見えた。
 その城に、少し見覚えがあった。
 ロの字型。
 石造りの其処に、さっきまで居たのだと妙な確信があった。
 視界で赤い色がゆれた。
 城のさらに向こう、いくつかの森と草原の彼方に動く赤い色。
 段々大きくなっていく。
 近づいてきているのか。
 それとも自分が近づいているのか。
 嫌な気配がする。
 ざわりと髪が逆立つほどの、不快感。
 あれは排除すべきもの。
 取り除かなければ役目に反する。
(役目?)
 耳慣れない言葉。
 世界を正しく動かす為に。
(何の、話を)
 その声は耳に聞こえるものではなく、内から響いているようだった。
 淡々とした、感情を感じさせないまるで機械のような。
 激しくかぶりを振る。
(そんなものは知らない)
 強くそう思っても声は消えない。
 あれを排除するのだと。
 方法も理由も告げずにただそれだけを繰り返す。
 けれど、あの赤いものが自分や、自分が今居る場所にとっても危険なのだと、何故かわかった。
 それでも。
(そんなもの、僕は知らない――!)

「ルシェイド!」
 切り裂くような鋭い声に、ルシェイドは目を瞬いた。
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