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2012/09/07 (Fri)
 扉を開くと、そこには見慣れた姿があった。
 漆黒の髪。
 滑らかな肢体をドレスに包んだ彼女は、入ってきたルヴィアに気付くと椅子から立ち上がった。
「セレイア。何かあったのか?」
 呼びかけると、彼女は深刻な顔をして告げた。
「西の境に配置しておいた兵のところで、小規模の戦闘が2度起きたと報告が来てるわ」
「2度? この間の報告から3日経ってないぞ」
 驚愕の声をあげつつ、セレイアが差し出した報告書に目を通す。
 戦闘の規模、動員した兵の数、損傷程度、その他諸々が書いてある。
「……」
 被害の欄を見て、表情を険しくする。
 例え小規模の戦闘だったとしても、被害は大きい。
「……全兵数の、約半分か」
「治療者の数が足りないの。……この状態で更に戦闘を続けさせるなら、全滅することも考えないといけないでしょう」
「だけど、撤退するわけにはいかない」
 強い意志をこめて断言する。
 例え勝ち目が薄くても。
「分かってるわ。けれど、最悪の状態も常に考えておかないといけないのよ」
 セレイアが諭すように首を振る。
 一つ頷くと、ルヴィアは窓の外に視線を向けた。
 そこには、戦争とはかけ離れたのどかな風景が広がっていた。



 気持ちが悪い。

 軽い吐き気と、身体の倦怠感で意識が目覚める。
 胃の辺りが重い。
 寝ていられなくて身を起こすと、眩暈に襲われた。
 深呼吸をして掛け布をどかす。
 ひんやりとした石の床に足を下ろすと、少し気分が良くなった気がした。
 まだ少し痛む身体を引きずって、扉まで歩く。
 前回よりは息が切れていない。
 扉を開ける。
 そこは部屋と同じような石でできた廊下だった。
 頬に少し冷たい風が当たる。
 何処から風が入ってくるのか、それは外の匂いがした。
 風の吹くほうに足を向けた。
 廊下の所々には、蝋燭が灯っているので躓く心配がなさそうだ。
 少し歩くと、階段が見えた。
 だいぶ息が切れていたのでそこで少し休む。

「……ルシェイド?」

 声はいきなり振ってきたように感じた。
 見上げると、明かりを背にして誰かが立っていた。
 逆光で顔は見えない。
 けれど声で判断はついた。
「……セイラス?」
「何をやっている。こんな所で」
 怪訝そうな声には心配も含まれているようだ。
 体重を感じさせない猫の様な動きで近くまで下りてくると、傍らに膝をついた。
「寝ていろと、言っただろう」
 手を差し出し、抱えていこうとするのを拒否し、ルシェイドは首を振った。
「何故だ?」
 問う声は感情があまり入っていない分、冷徹に響いた。
 怯えたように更に首を振るルシェイドを見て、セイラスはため息をついた。
「……理由が、あるのか?」
 上手い言い方が見つからなかったらしく、先程と同様の質問を繰り返す。
 けれど理由が上手く説明できず、ただもう一度首を振った。
 気持ちの悪さはかなり酷くなっている。
 座っているだけなのに息は切れ、手足が細かく震えている。
 さぞ、具合が悪く見えるだろうと何処か客観的に見ていると、頭上で靴音がした。
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