小説用倉庫。
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飲み込まれそうな漆黒の瞳をしている彼女は、セイラスの隣りに立っているルシェイドを見て首を傾げる。
「セイラス、どうしたの?」
綺麗とは言えないが、良く通りそうな声だ。
「教えてやってくれ」
端的に言うと、リィーナにはわかったらしい。
首をかしげたままルシェイドを見て、一つ頷く。
「そうね。よろしく。ルシェイド」
「教えてくれるの?」
聞くと、リィーナは微笑んで頷いた。
顔を輝かせるルシェイドに、セイラスが言う。
「だが、まだ駄目だ」
不満そうな顔をしてセイラスを見上げると、セイラスは微かに眉を寄せてルシェイドを見ていた。
「おまえ、怪我人だろう。無理だ」
「怪我してたの?」
「重体だといって良い」
驚くリィーナに、セイラスは平然と言った。
「じゃあ、駄目ねぇ」
「怪我なら平気だ!」
ルシェイドが言うと、リィーナは間近まで顔を寄せていった。
「怪我を甘く見たら駄目よ。同時に、魔法もね」
強く言われ、ルシェイドは迷った末に頷く。
リィーナはにっこりと笑った。
「怪我が治ったらいらっしゃい。歓迎するわ」
そう言って少年たちの方に戻って行った。
セイラスに促され、その場から歩き出す。
「セイラス」
呼びかけると、セイラスは意外そうな顔をしていた。
そのまましばらく黙っているルシェイドの頭に手を乗せる。
「何だ?」
「セイラスは、剣を扱うんでしょう」
「……まあな」
「魔法は使わないの?」
「使えるが……それがどうかしたのか?」
ルシェイドは少し考えて言った。
「怪我してると魔法は使えないの?」
「……使えないことはない」
苦虫を噛み潰したような表情でセイラスが答える。
「じゃあ、どうして駄目なんだ?」
「おまえが素人だからだ」
言われて、目の前が暗くなるのを感じた。
傷の所為ではなく、何か。
『素人だから』
駄目なのだと。
過去。
あの時の。
言い知れぬ悔しさ。
焦燥。
何の?
「セイラス、どうしたの?」
綺麗とは言えないが、良く通りそうな声だ。
「教えてやってくれ」
端的に言うと、リィーナにはわかったらしい。
首をかしげたままルシェイドを見て、一つ頷く。
「そうね。よろしく。ルシェイド」
「教えてくれるの?」
聞くと、リィーナは微笑んで頷いた。
顔を輝かせるルシェイドに、セイラスが言う。
「だが、まだ駄目だ」
不満そうな顔をしてセイラスを見上げると、セイラスは微かに眉を寄せてルシェイドを見ていた。
「おまえ、怪我人だろう。無理だ」
「怪我してたの?」
「重体だといって良い」
驚くリィーナに、セイラスは平然と言った。
「じゃあ、駄目ねぇ」
「怪我なら平気だ!」
ルシェイドが言うと、リィーナは間近まで顔を寄せていった。
「怪我を甘く見たら駄目よ。同時に、魔法もね」
強く言われ、ルシェイドは迷った末に頷く。
リィーナはにっこりと笑った。
「怪我が治ったらいらっしゃい。歓迎するわ」
そう言って少年たちの方に戻って行った。
セイラスに促され、その場から歩き出す。
「セイラス」
呼びかけると、セイラスは意外そうな顔をしていた。
そのまましばらく黙っているルシェイドの頭に手を乗せる。
「何だ?」
「セイラスは、剣を扱うんでしょう」
「……まあな」
「魔法は使わないの?」
「使えるが……それがどうかしたのか?」
ルシェイドは少し考えて言った。
「怪我してると魔法は使えないの?」
「……使えないことはない」
苦虫を噛み潰したような表情でセイラスが答える。
「じゃあ、どうして駄目なんだ?」
「おまえが素人だからだ」
言われて、目の前が暗くなるのを感じた。
傷の所為ではなく、何か。
『素人だから』
駄目なのだと。
過去。
あの時の。
言い知れぬ悔しさ。
焦燥。
何の?
「……ルシェイド?」
心配そうな声に目を開けると、目の前にセイラスの顔があった。
「傷が痛むか。戻るか?」
「平気」
何か言いたそうだったが、部屋には戻らないでくれた。
言いたいことを、分かってくれる。
この人は。
「あ、あの」
中庭を後に歩き出したセイラスに、ルシェイドが話し掛ける。
セイラスは振り返ると、無言でルシェイドを見つめた。
その沈黙が先を促すものだと気づくのに少しかかったが、聞きたかったことを聞こうとして口を開き。
そこで凍りついたように動きを止めた。
あまりに唐突な停止の仕方に、セイラスが訝しげに眉を寄せる。
「……おい?」
不安に思ったのだろう、躊躇いがちに声をかけるが、ルシェイドが微動だにしない。
ルシェイドの視界の中で、セイラスの姿が大きく歪んだ。
同時に風を切るような音が周囲を圧して響く。
平衡感覚が失せる。
立って居られない。
ぐらりと倒れこむように視界が揺れ、それを耐えるように瞼をきつく閉ざす。
だが全身に強い風を感じて目を開けると、眼下に町並みが見えた。
さっきまで廊下に居たはずだ。
混乱して辺りを見回す。
右手に高い山がそびえ、左側には町並みと、少し高台に城のようなものが見えた。
その城に、少し見覚えがあった。
ロの字型。
石造りの其処に、さっきまで居たのだと妙な確信があった。
視界で赤い色がゆれた。
城のさらに向こう、いくつかの森と草原の彼方に動く赤い色。
段々大きくなっていく。
近づいてきているのか。
それとも自分が近づいているのか。
嫌な気配がする。
ざわりと髪が逆立つほどの、不快感。
あれは排除すべきもの。
取り除かなければ役目に反する。
(役目?)
耳慣れない言葉。
世界を正しく動かす為に。
(何の、話を)
その声は耳に聞こえるものではなく、内から響いているようだった。
淡々とした、感情を感じさせないまるで機械のような。
激しくかぶりを振る。
(そんなものは知らない)
強くそう思っても声は消えない。
あれを排除するのだと。
方法も理由も告げずにただそれだけを繰り返す。
けれど、あの赤いものが自分や、自分が今居る場所にとっても危険なのだと、何故かわかった。
それでも。
(そんなもの、僕は知らない――!)
「ルシェイド!」
切り裂くような鋭い声に、ルシェイドは目を瞬いた。
心配そうな声に目を開けると、目の前にセイラスの顔があった。
「傷が痛むか。戻るか?」
「平気」
何か言いたそうだったが、部屋には戻らないでくれた。
言いたいことを、分かってくれる。
この人は。
「あ、あの」
中庭を後に歩き出したセイラスに、ルシェイドが話し掛ける。
セイラスは振り返ると、無言でルシェイドを見つめた。
その沈黙が先を促すものだと気づくのに少しかかったが、聞きたかったことを聞こうとして口を開き。
そこで凍りついたように動きを止めた。
あまりに唐突な停止の仕方に、セイラスが訝しげに眉を寄せる。
「……おい?」
不安に思ったのだろう、躊躇いがちに声をかけるが、ルシェイドが微動だにしない。
ルシェイドの視界の中で、セイラスの姿が大きく歪んだ。
同時に風を切るような音が周囲を圧して響く。
平衡感覚が失せる。
立って居られない。
ぐらりと倒れこむように視界が揺れ、それを耐えるように瞼をきつく閉ざす。
だが全身に強い風を感じて目を開けると、眼下に町並みが見えた。
さっきまで廊下に居たはずだ。
混乱して辺りを見回す。
右手に高い山がそびえ、左側には町並みと、少し高台に城のようなものが見えた。
その城に、少し見覚えがあった。
ロの字型。
石造りの其処に、さっきまで居たのだと妙な確信があった。
視界で赤い色がゆれた。
城のさらに向こう、いくつかの森と草原の彼方に動く赤い色。
段々大きくなっていく。
近づいてきているのか。
それとも自分が近づいているのか。
嫌な気配がする。
ざわりと髪が逆立つほどの、不快感。
あれは排除すべきもの。
取り除かなければ役目に反する。
(役目?)
耳慣れない言葉。
世界を正しく動かす為に。
(何の、話を)
その声は耳に聞こえるものではなく、内から響いているようだった。
淡々とした、感情を感じさせないまるで機械のような。
激しくかぶりを振る。
(そんなものは知らない)
強くそう思っても声は消えない。
あれを排除するのだと。
方法も理由も告げずにただそれだけを繰り返す。
けれど、あの赤いものが自分や、自分が今居る場所にとっても危険なのだと、何故かわかった。
それでも。
(そんなもの、僕は知らない――!)
「ルシェイド!」
切り裂くような鋭い声に、ルシェイドは目を瞬いた。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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