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2024/05/22 (Wed)
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2012/02/05 (Sun)
 自らの居城に戻ったエディウスは、そのままベッドに倒れこんだ。
 無理矢理魔法を解こうとしたことが、彼を疲れさせていた。

 予想もしていなかった。
 まさか、それが彼の魔法だとは。
 訝しげに眉をひそめて、思い直す。
 簡単に、彼の魔法を見ることはない。

 なぜなら。

「……ルシェイド……ぼくの声が、聞えるか……?」
「呼んだ?」

 呟きに答えるように、不意に虚空から少年が出現した。
 ロスウェルで見た姿より幾分幼い。
 エディウスは何とか顔だけを上に上げる。
「……フォリィアに、魔法をかけた……?」
 聞くと、ルシェイドは驚いたようだった。
「かけてないけど、なんかあったの?」
 エディウスはその答えに眉をひそめた。
 調停者である彼がかけたものなら、それなりの理由があるから。
 それを聞こうと思ったのに。

「……君と、同じ魔法の、気配がしたんだ……」
「僕と?」
 ルシェイドは考えこむように腕を組む。
「もしかして、彼かな」
「……知っているの……?」
「うん、心当たりはあるよ。聞いてこようか?」
 笑顔で言われたことに、エディウスはうなずく。
「……できれば、魔法を解いてあげたいんだけど……」
「そうだね。……無理をした? ……もう休むと良いよ」
 苦笑して、ルシェイドは右手を振る。
 途端眠気がエディウスを襲う。

 ベッドに倒れこんだエディウスにきちんと布をかけてから、ルシェイドは虚空に姿を消した。
2012/02/05 (Sun)
 目が覚めた時、あれから2日が経っていた。
 エディウスは腕に纏わりつく髪を払って、立ち上った。
 頭がぼうっとしている。

「……ルシェイドは……」
 ぽつりと呟いた時、近くに気配を感じた。
「や、目が覚めた? ……そんなに疲れるまで頑張ったとは思わなかったよ」
 現れたのはルシェイドだった。
 苦笑いを浮べて、エディウスの側に寄る。
「フォリィアの魔法は解いてきたよ。……大した理由じゃなかったしね」
「……」
「……もちろん一度に、じゃないから平気だよ」
 口を開きかけたエディウスを遮るようにルシェイドが言う。

 ふいに宙を見上げると、ルシェイドは呟いた。
「……またか」
「え……?」
「ん、こっちの話。来たばっかだけど、もう帰るよ。それじゃあね」
 手を振って消える。
 彼はいつも唐突だと、思う。
 呼べば来るけども。

 エディウスは着替えると、界を開くために部屋を出た。
2012/02/05 (Sun)
 どこかの森ではなく、今度はロスウェルに直接行く。
 街中では目立つので、人気の少ない裏路地に出た。
 上を仰げば城が見える。
 荘厳といっていいものかどうかの判別がいまいちつかなかったが、綺麗だと、思う。
 青い空に映える、その白さを。
 それなりに月日は感じられるけれども。

 城に向かって歩いていくと、騒がしい集団と出くわした。
 その中に見た覚えのある人影を見つける。
 声をかけようとして、そういえばしゃべらないんだっけと思い直す。
 見つかっても面倒だと、目を合わせないように通り過ぎようとする。

 けれど。
 不意に日が翳った。
 見上げると、傍らに馬に乗ったその人がいた。

 ルーク。
 フォリィアの弟だ。

「こんなところで会うとは、偶然だなっ!」
「……」
 やはり何も話さないでいると、ルークは少し眉間にしわを寄せた。
「何だよ、俺には何も話せないって言うのかよ」
 エディウスはやはり答えず、ただ彼を見上げている。
 じっと。
 深く青い瞳に見つめられルークがたじろぐ。
 その様子にエディウスは思わず笑みをもらすと、その場から歩きさった。
 顔を赤くしたルークは馬上から陶然とエディウスを見送った。

 歩き始めてしばらく。
 ルークのことなど綺麗さっぱり忘れていたエディウスは、城の入り口で金色の光を見つけた。
 それは髪の色が金色だからとかではなく。

 身体からにじみ出るような。
 神々しい、気配。

 魔法を解かれた影響なのか、少し成長している。
 それに伴った影響力。
 思わず目を見開いていた。

 綺麗な現界の王。
 黄金の。

 彼はこちらに気づくと、表情を変えずに走りよった。
2012/02/05 (Sun)
 近くまで来ると、フォリィアは耳元で囁いた。
「しばらく待て。……部屋にいけるか?」
 エディウスは頷くと、城の陰に入った。
 それを見届けてから、フォリィアは入り口に戻った。

 陰に入ったエディウスは、転移の魔法を使う。
 一瞬後には、この間訪れたフォリィアの部屋だ。

 ソファに座ってしばらく待つ。
 ぼうっとしていると眠気が襲う。
 あんなに寝ていたのに。

 うとうとしていると、肩を叩かれた。
 目を開けるとフォリィアがいた。
 どうやらすこし眠っていたらしい。日はすでに傾き始めていた。
「まだ疲れが取れないのか?」
「……ルシェイドに聞いたの……?」
「ああ、2日も姿を見せなかったのはその所為だとな」
 溜息交じりに言われて、エディウスは困ったように首をかしげた。
「……本当に、大丈夫なのか?」
 少し顔色の悪いエディウスを見て、フォリィアが問う。
「……平気……」
 微笑んでフォリィアを見上げる。
「……魔法、解けたんだね……」
「ああ、あいつが右手を一振りしただけなのに」

 それほどの。
 魔力の持ち主。

 フォリィアはエディウスに向き直ると、表情を引き締めて聞いた。
「あいつは、何者なんだ?」
「……前に、言わなかったっけ……?」
「ミッシュローアに記述があると、それだけだ」
 エディウスは考え込むように俯く。
 その近くに椅子を持っていき、腰をおろすと頬杖をつく。

 沈黙。
 時計の音が耳につく。
2012/02/05 (Sun)
「……運命の調停者……」
 ポツリと、エディウスが呟く。
 ともすれば聞き逃しそうな声音で。
 続く言葉を待っていると、ゆっくりと話し始めた。
「……金色の瞳って、見たことある……?」
 否とフォリィアが答えると、エディウスは少し目を伏せた。
「……それは、……彼にのみ許された、色だから……」

 ルシェイドの。
 役目の者にのみ。

「……なぜ?」
「……ぼくも、詳しくは、知らないんだけど……。本当に、この世界では、彼だけなんだって……」

「フォリィア様―!」
 のんきな声を聞いて、フォリィアはがっくりと首を落とした。
「あいつは……またか」
 うんざりしたように、フォリィアが立ち上がる。
 扉を開け放つと同時に声を出す。
「今度は何の用か!!」
「あ、フォリィア様、サファが呼んでます、急いでくださいって」
「用件は」
 いらいらと訊ねると、ツェリーシュは首をかしげた。
「えーと、聞いてません」
「今度からは聞いてこい」
「はーい。第2応接室だそうです」
 それだけ言うと、彼は走って行ってしまった。
 どうやら忙しいらしい。
 溜息をついて、フォリィアはエディウスを振り返った。
「すまない。どうやら急ぎのようだ」
「……そうだね……」

 と、遠くに行ったはずのツェリーシュが戻ってきた。
「すいません、言い忘れました。エディウス様もよければどうぞということです」
「何でエディウスの事を知ってるんだ」
「さあ、何ででしょう」
 首をかしげて、エディウスが聞く。
「ぼくも、……行ったほうが、いいの……?」
 溜息をつくと、しばらく逡巡してから頷いた。
「行ったほうがいいだろう。向こうが知っているのだからな」
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