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2012/02/05 (Sun)
 ガサッ!


 突然の物音に、息を飲んでそちらを見る。
 この山にはほとんど動物はいないのに、こんな音がするなんて。
 薄氷か誰かかと思っていたのに、そこにいたのはまったく見たこともない青年で。
 印象的なのは背に流した青緑の髪。

「誰だ……?」

「金の髪をした青年を知らないか」
 唐突に聞かれて面食らう。

 涼やかな声音を裏切るかのような表情。
 金の髪。
 まさか、酒星のことかと思い警戒する。

「この辺にいるはずなんだ」
「……誰だよおまえ」
「お前には関係ない」
 切り捨てるような声に、カチンとくる。
「見つけてどうするんだ。教えないならこっちだって教えるもんか」

「邪魔なら、殺す」
「何だって!?」

 ふいと、青年は視線を逸らした。
 山の麓、町に向けて。
「あそこか……」
 つられてそちらを見た一瞬の隙をついて、青年は走り出した。

(まさか)
 愕然としながらも追いかける。
 近道を繰り返しながら町に、シンズィスに向かって。

 山道ならこちらの方が詳しい。
2012/02/05 (Sun)
 茂みをいくつか突っ切ってきたので頭やら身体やらに葉がたくさんついてしまった。
 けれどどうやら先についたようだ。
 そのまま町に向かって走る。
 だいぶ離れたところで振り返ると、人影が出てくるのが見えた。
(早い)
 もっと遅いと思っていたのに。

 ふと視線を前に戻し、そこに見慣れた金髪の人影を目に留める。

「酒星……!」

 半ば呆然と呟いてから、全速力で彼のもとに向かう。
 酒星はこちらに気づいて笑顔で手を上げかけ、表情を強張らせた。
「……踏青サン……? どうしたんです」

「……駄目だッ! 逃げろ……ッ!」
 必死に言うが、酒星は訝しげにこちらを見ているだけだ。
「何かあったんですか?」
「人、が……ッ……!」
 全力で走ったので息が切れてうまく話せない。

「お前……お前が邪魔をするのかッ!」

(追いつかれた)
 すぐ後ろから声がして、絶望的な気分で振り返る。

 酒星を半ば隠すように立ち位置を変える。
「誰です」
 よく状況がつかめていないらしい。

 けれどこちらを排除しようと、目の前の人物が行動してくる。

 魔法力。
(魔法使い……!)
 力が凝縮していくのがわかる。
 魔力があるわけではないが、そういうものを感じ取る力は備わっていた。
 だからある程度はわかる。

 それが、自分を殺すためのものだということが。

 腰の後ろに手を持っていき、そこに隠してある護身用の短剣を握る。
 魔法使いは物理攻撃に弱い。
 短剣を握りなおし、思い切り投げた。

 狙ったのは、心臓。
2012/02/05 (Sun)
 けれど。
 見えない壁に跳ね返されて、短剣は虚しく地に落ちた。
 その瞬間に、青年は魔力を形あるものに変える。

 見えない人はたぶん何も見えないであろうそれは、巨大な鎌の形をしていた。
 避ける術はない。
 避けたら酒星が殺されてしまう。

 どうすれば。

 逡巡のうちに青年が走った。
 ほぼ一瞬のうちに間合いを詰められる。
(駄目だ)
 彼は大きく鎌を振りかぶって
(避けきれない!)


 そこで動きを止めた。


「踏青! 酒星!」


 聞きなれた声。
 いつもの。

「邪魔をするなッ!!」

 青年は叫ぶと、身体の自由を取り戻した。
 その時点で、何故青年が動きを止めたのかがわかった。

 邪眼。

 使われるはずのなかった力。
 あってはならないもの。

 自分が知る、数少ない薄氷の、力。
 自分が知っているということを彼は知らないはずだけれども。
 こんな、咄嗟の時に。

「踏青! 逃げろッ!」

 薄氷の声で我に返る。
 気がつくと目の前に刃が迫っていた。

 それはまるでスローモーションのように。
 実感もなく。
 脈絡もなく
(ああ)
 もう駄目だと思った。
(死ぬのか)

 潔く目を閉じるなんてできなかったけれど。
 薄氷のその必死な表情ははじめて見た気がして。

 少し。
 ほんの少しだけ。

 嬉しかった。
2012/02/05 (Sun)
 漂う波間から抜け出た時。

 目にしたのは鮮やかな青。


 夢に漂う自分をそこから連れ出してくれたように思った。

 不器用な声で。
 不機嫌な顔で。

 自分が救えなかったものを。


 いつか夢に、見たように。
2012/02/05 (Sun)
 思い出したくもないほど昔のこと。

 すべて捨てて逃げた。

 その場所に、その人たちの傍になどいたくもなかった。

 涙が出るほどの憤りと。
 何も出来ない悔しさと。

 総ての人に向けられた憎悪が。
 この身を蝕み、息を詰まらせていく。


 悪意と憎悪に染まった自分からも逃げたかった。

 身の内をどろどろとした何かが蠢く。
 気持ちが悪かった。


 辿り着いたのはほんの偶然。


「大丈夫? 名前何ていうの?」

 答えられなかった。
 答えたくなかった。
 もう何もいらない。

「名前無いと不便だよね。えっとねーそれじゃあ……」
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