小説用倉庫。
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フォリィアに案内されて行った第2応接室は広かった。
第1応接室はもっと広いのだと苦笑とともに言われて、エディウスは驚いていた。
自分の城では、部屋はあまり広くない。
その代わり庭が多いのだが。
「サファ、来たぞ」
部屋の中央に立つ人影にフォリィアが声をかける。
「お待ちしておりました」
薄い茶色の髪を後ろでゆるく結わえているその人は女性だった。
落ち着いた雰囲気で、フォリィアを、次いでエディウスに視線を向ける。
わずかに首を傾げて見ていると、彼女はエディウスの前に膝を着いた。
「お目にかかれて光栄です……エディウス様」
「……君は、……ぼくのことを、知っているの……?」
「どういうことだ、サファ」
怪訝そうに聞くフォリィアに答えようとしたとき、彼女の後ろにいる人影が動いた。
今までそこにいるということにほとんど意識を向けなかったので気づいていなかった。
それが、誰かということに。
金の瞳。
ルシェイド以外許されない色を右目に宿した彼は、悠然とこちらに近寄ってきた。
「……あなたが、神王か」
耳に響く低い声。
エディウスはどう返事をしたらいいのかわからず、戸惑っている。
「サファ、誰だ?」
答えようとしたサファを手で制して、彼はふたりのほうに向き直った。
「私の名前はディリク=アーゼリシア」
「……何故……?」
呆然と見ているその視線の先に気づいたのか、ディリクはわずかに顔を伏せた。
自然と右目が隠れる。
左眼は普通の青色だ。
「ルシェイドから聞いていないのか? 連絡はついているはずだが」
「……聞いて、ない……」
ディリクはフォリィアのほうに向き直ると、まっすぐに見つめて言った。
「あなたに魔法をかけたのは私だ」
第1応接室はもっと広いのだと苦笑とともに言われて、エディウスは驚いていた。
自分の城では、部屋はあまり広くない。
その代わり庭が多いのだが。
「サファ、来たぞ」
部屋の中央に立つ人影にフォリィアが声をかける。
「お待ちしておりました」
薄い茶色の髪を後ろでゆるく結わえているその人は女性だった。
落ち着いた雰囲気で、フォリィアを、次いでエディウスに視線を向ける。
わずかに首を傾げて見ていると、彼女はエディウスの前に膝を着いた。
「お目にかかれて光栄です……エディウス様」
「……君は、……ぼくのことを、知っているの……?」
「どういうことだ、サファ」
怪訝そうに聞くフォリィアに答えようとしたとき、彼女の後ろにいる人影が動いた。
今までそこにいるということにほとんど意識を向けなかったので気づいていなかった。
それが、誰かということに。
金の瞳。
ルシェイド以外許されない色を右目に宿した彼は、悠然とこちらに近寄ってきた。
「……あなたが、神王か」
耳に響く低い声。
エディウスはどう返事をしたらいいのかわからず、戸惑っている。
「サファ、誰だ?」
答えようとしたサファを手で制して、彼はふたりのほうに向き直った。
「私の名前はディリク=アーゼリシア」
「……何故……?」
呆然と見ているその視線の先に気づいたのか、ディリクはわずかに顔を伏せた。
自然と右目が隠れる。
左眼は普通の青色だ。
「ルシェイドから聞いていないのか? 連絡はついているはずだが」
「……聞いて、ない……」
ディリクはフォリィアのほうに向き直ると、まっすぐに見つめて言った。
「あなたに魔法をかけたのは私だ」
「何だと? どういうことだ、それは」
いきなりの内容に、フォリィアの顔色が変わる。
エディウスはディリクの顔を見たまま動かない。
性格には、その瞳を。
「受けた依頼は最後までやることにしている。……可能な限りは」
眉一筋も動かさずにディリクは答えた。
そのときサファが動いた。
「フォリィア様、エディウス様も。立ったままではなんでしょう。こちらへ」
サファに案内されて、皆がソファに座る。
一度彼女は席を外し、戻った時にはいい匂いのするカップを持っていた。
それを皆の前に置き、一息ついた所で空間が歪んだ。
「……ルシェイド……」
エディウスが呟いた一瞬後にルシェイドが姿を現す。
「……なんで君には分かるのかな」
何とも言えぬ表情をしてルシェイドは首をかしげるが、エディウスはさして動かない。
彼は溜息を吐くと皆に向き直った。
「やぁ、フォリィア。ディリクに聞いたかい?」
「ほんの少しな」
「……ルシェイド。連絡をしておいたのではなかったのか」
「え、伝わってない?」
驚いた表情をしたルシェイドはサファに視線を移す。
彼女が答えを知っているかのように。
「敢えて、伏せさせていただきました。……今は大事な時ゆえ、いたずらに乱されるわけにはまいりません」
淡々と答える彼女に、片眉をあげて問いをなげる。
「それは知ってるけどさ。このままだとちょっと取り返しのつかないことになりそうなんだ。……どうする気?」
いきなりの内容に、フォリィアの顔色が変わる。
エディウスはディリクの顔を見たまま動かない。
性格には、その瞳を。
「受けた依頼は最後までやることにしている。……可能な限りは」
眉一筋も動かさずにディリクは答えた。
そのときサファが動いた。
「フォリィア様、エディウス様も。立ったままではなんでしょう。こちらへ」
サファに案内されて、皆がソファに座る。
一度彼女は席を外し、戻った時にはいい匂いのするカップを持っていた。
それを皆の前に置き、一息ついた所で空間が歪んだ。
「……ルシェイド……」
エディウスが呟いた一瞬後にルシェイドが姿を現す。
「……なんで君には分かるのかな」
何とも言えぬ表情をしてルシェイドは首をかしげるが、エディウスはさして動かない。
彼は溜息を吐くと皆に向き直った。
「やぁ、フォリィア。ディリクに聞いたかい?」
「ほんの少しな」
「……ルシェイド。連絡をしておいたのではなかったのか」
「え、伝わってない?」
驚いた表情をしたルシェイドはサファに視線を移す。
彼女が答えを知っているかのように。
「敢えて、伏せさせていただきました。……今は大事な時ゆえ、いたずらに乱されるわけにはまいりません」
淡々と答える彼女に、片眉をあげて問いをなげる。
「それは知ってるけどさ。このままだとちょっと取り返しのつかないことになりそうなんだ。……どうする気?」
「……ルシェイド……」
黙って聞いていたエディウスが、不意に声をかける。
「……いまいち、話が見えないんだけど……」
「……ああ、そっか。説明してあげてくれる? フォリィア」
くるりとフォリィアに向き直って、ルシェイド。
「私にもよく飲みこめないのだが?」
わずかに首を傾けて、意地悪く笑う。
そんなフォリィアにルシェイドは呆れたような何とも言えぬ表情を作って口を開いた。
「もうすぐ戴冠式、あるでしょ? ……そのことだよ」
「誰が戴冠するか、まだ決まっていないはずだ」
眉を寄せてきっぱりと言い放つフォリィアを見て、ルシェイドはサファに視線を移す。
「そのとおりです。まだ、決まっておりません」
「どうやら、急ぎすぎたようだぞ、ルシェイド」
「でも、もう時間がないことは確かなんだ。……どういうことだろう」
「戴冠式の前日に発表なさるとの話ですが?」
さして表情も変えずにサファが言う。
「前日!? 何でそんな間際に……!」
「……王の、決定です」
「父上か……」
苦虫を噛み潰したような表情でうめく。
エディウスはそんな皆の様子をただ見るとはなしに見つめていた。
「……失礼」
ふと、突然ディリクが立ち上がった。
足音を立てずに扉まで近づき、一気に開け放つ。
「何者か」
そこにいたのは黒い服を着た3人の男だった。
顔が見えないように覆面をしている。
黙って聞いていたエディウスが、不意に声をかける。
「……いまいち、話が見えないんだけど……」
「……ああ、そっか。説明してあげてくれる? フォリィア」
くるりとフォリィアに向き直って、ルシェイド。
「私にもよく飲みこめないのだが?」
わずかに首を傾けて、意地悪く笑う。
そんなフォリィアにルシェイドは呆れたような何とも言えぬ表情を作って口を開いた。
「もうすぐ戴冠式、あるでしょ? ……そのことだよ」
「誰が戴冠するか、まだ決まっていないはずだ」
眉を寄せてきっぱりと言い放つフォリィアを見て、ルシェイドはサファに視線を移す。
「そのとおりです。まだ、決まっておりません」
「どうやら、急ぎすぎたようだぞ、ルシェイド」
「でも、もう時間がないことは確かなんだ。……どういうことだろう」
「戴冠式の前日に発表なさるとの話ですが?」
さして表情も変えずにサファが言う。
「前日!? 何でそんな間際に……!」
「……王の、決定です」
「父上か……」
苦虫を噛み潰したような表情でうめく。
エディウスはそんな皆の様子をただ見るとはなしに見つめていた。
「……失礼」
ふと、突然ディリクが立ち上がった。
足音を立てずに扉まで近づき、一気に開け放つ。
「何者か」
そこにいたのは黒い服を着た3人の男だった。
顔が見えないように覆面をしている。
突然のことに驚いていた彼らは、フォリィアに視線を合わせると素早く部屋に入ってきた。
「……知りあい……?」
「……覆面をつけて部屋に乱入してくるような知りあいは思い当たらないな」
「どっちにしてもろくな知りあいじゃないだろ」
肩を竦めてルシェイドが言う。
そうしているうちに、男たちは刀を出した。
「あんたの命、貰い受ける」
地を這うような低い声で呟き、彼らは一斉に飛び掛かってきた。
「ディリク!」
ルシェイドの声と同時に、ディリクが動いた。
近くにいたひとりの懐に入りこむと、どこに持っていたのか、棍を操り、その男を殴り飛ばす。
ふたりめの頭を殴り倒してからもうひとりを見ると、フォリィアの足元にうずくまっていた。
手には剣の鞘。
傍らに膝を突くと、覆面を剥ぎ取る。
それを見て顔をしかめたフォリィアに近づき、ディリクが問う。
「何だ、こいつらは」
「……見たことがある。……ルークと一緒にいた奴等だ」
苦々しく言われた言葉に、サファが顔を上げる。
「では、ルーク様が刺客を差し向けたと?」
「いや、私が戴冠しては困るやつらだろうな。……ルークは多分違う」
皆が顔を合わせてため息をつく。
「けど、戴冠式ってもうすぐでしょ? なんか準備とかしないの?」
無邪気に問うルシェイドに、フォリィアが顔をしかめる。
言葉を返さない彼に代わって、サファが口を開く。
「誰が戴冠するかによって準備も変わるので、準備のしようが今のところありません」
「……でも、それじゃ、大変なんじゃ……ないの……?」
「父上は考えてるようで他のことは考えていないからな。何であんなやつが王位についているのかが私には不思議でならない」
「フォリィア様。他の方々の前ですよ」
吐き捨てるように言ったフォリィアをたしなめる。
「……知りあい……?」
「……覆面をつけて部屋に乱入してくるような知りあいは思い当たらないな」
「どっちにしてもろくな知りあいじゃないだろ」
肩を竦めてルシェイドが言う。
そうしているうちに、男たちは刀を出した。
「あんたの命、貰い受ける」
地を這うような低い声で呟き、彼らは一斉に飛び掛かってきた。
「ディリク!」
ルシェイドの声と同時に、ディリクが動いた。
近くにいたひとりの懐に入りこむと、どこに持っていたのか、棍を操り、その男を殴り飛ばす。
ふたりめの頭を殴り倒してからもうひとりを見ると、フォリィアの足元にうずくまっていた。
手には剣の鞘。
傍らに膝を突くと、覆面を剥ぎ取る。
それを見て顔をしかめたフォリィアに近づき、ディリクが問う。
「何だ、こいつらは」
「……見たことがある。……ルークと一緒にいた奴等だ」
苦々しく言われた言葉に、サファが顔を上げる。
「では、ルーク様が刺客を差し向けたと?」
「いや、私が戴冠しては困るやつらだろうな。……ルークは多分違う」
皆が顔を合わせてため息をつく。
「けど、戴冠式ってもうすぐでしょ? なんか準備とかしないの?」
無邪気に問うルシェイドに、フォリィアが顔をしかめる。
言葉を返さない彼に代わって、サファが口を開く。
「誰が戴冠するかによって準備も変わるので、準備のしようが今のところありません」
「……でも、それじゃ、大変なんじゃ……ないの……?」
「父上は考えてるようで他のことは考えていないからな。何であんなやつが王位についているのかが私には不思議でならない」
「フォリィア様。他の方々の前ですよ」
吐き捨てるように言ったフォリィアをたしなめる。
「でも、戴冠するのはフォリィアなんだから、刺客をどうにかすればいいだけでしょ?」
「私が戴冠するとはまだ決まっていないと……」
「王になるのはあなた以外ありえない」
断言するディリクに、言葉を詰まらせる。
揺るぎない瞳。
ありえないと称された瞳に、吸い込まれそうになる。
「ま、ここで何言ってもしょうがないみたいだし。僕はもう戻るよ」
「ルシェイド」
「……わかってるよ」
ディリクの咎めるような言葉に、ルシェイドはフォリィアの額に手を当てた。
一瞬の目眩を感じて思わずフォリィアは後ろに下がった。
「これでいいだろ」
どこか憮然とした表情でディリクに言い、それからフォリィアに向き直る。
「今この時から戴冠が終わるまで、いかなる魔法の攻撃も君には届かない。……だけど注意して。魔法の攻撃のみ、だからね。物理攻撃は君が何とかしてくれ」
返事をする間もなく、ルシェイドは宙に消えた。
「あの人もそれなりに忙しいようだ。私も失礼しよう。何かあれば呼んでくれ……」
そう言うとディリクも消えてしまう。
一気にふたりいなくなって、残された三人は互いに顔を見合わせる。
「……どうしよう……ね……」
「……お暇でしたら、どうぞごゆっくりとお過ごしください」
一礼してサファが出て行く。
「ここでゆっくりと過ごせるか? ……私の部屋に行こう」
ふと、エディウスが扉を見やる。
「フォリィア様、いますか?」
顔をのぞかせたのはツェリーシュだった。
げんなりとフォリィアがそちらに顔をやると、彼を見つけたツェリーシュがうれしそうな表情になる。
「フォリィア様にお客様です。頼み事があるとか言ってました。女の人ですよ」
「どこに?」
「城門のところにいます。中まで通すなって衛兵さんが」
「先に行っててくれ」
エディウスに言ってから、ツェリーシュの後に続いて部屋から出て行く。
周りを見渡してから、エディウスは部屋から出た。
珍しく、歩いていこうと思ったからだ。
「私が戴冠するとはまだ決まっていないと……」
「王になるのはあなた以外ありえない」
断言するディリクに、言葉を詰まらせる。
揺るぎない瞳。
ありえないと称された瞳に、吸い込まれそうになる。
「ま、ここで何言ってもしょうがないみたいだし。僕はもう戻るよ」
「ルシェイド」
「……わかってるよ」
ディリクの咎めるような言葉に、ルシェイドはフォリィアの額に手を当てた。
一瞬の目眩を感じて思わずフォリィアは後ろに下がった。
「これでいいだろ」
どこか憮然とした表情でディリクに言い、それからフォリィアに向き直る。
「今この時から戴冠が終わるまで、いかなる魔法の攻撃も君には届かない。……だけど注意して。魔法の攻撃のみ、だからね。物理攻撃は君が何とかしてくれ」
返事をする間もなく、ルシェイドは宙に消えた。
「あの人もそれなりに忙しいようだ。私も失礼しよう。何かあれば呼んでくれ……」
そう言うとディリクも消えてしまう。
一気にふたりいなくなって、残された三人は互いに顔を見合わせる。
「……どうしよう……ね……」
「……お暇でしたら、どうぞごゆっくりとお過ごしください」
一礼してサファが出て行く。
「ここでゆっくりと過ごせるか? ……私の部屋に行こう」
ふと、エディウスが扉を見やる。
「フォリィア様、いますか?」
顔をのぞかせたのはツェリーシュだった。
げんなりとフォリィアがそちらに顔をやると、彼を見つけたツェリーシュがうれしそうな表情になる。
「フォリィア様にお客様です。頼み事があるとか言ってました。女の人ですよ」
「どこに?」
「城門のところにいます。中まで通すなって衛兵さんが」
「先に行っててくれ」
エディウスに言ってから、ツェリーシュの後に続いて部屋から出て行く。
周りを見渡してから、エディウスは部屋から出た。
珍しく、歩いていこうと思ったからだ。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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