小説用倉庫。
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次に目が覚めたとき、外は明るいようだった。
時間の感覚はすでに無い。
そこでふと、時間の数え方に疑問を持つ。
そもそも、此処はどこだろう。
疑問符に埋められた頭で周りを見ると、寝台の足元に近い所に青年がいた。
稲穂の様な金の髪は流れるように肩に落ち、紺色の衣服の上に光を落としている。
手には何かの書類。
真剣な表情で字面を追っている。
身を起こすと、彼はこちらに気付き、手に持った書類もそのままに立ち上がった。
「やぁ、起きた? と、まだ無理はしないほうが良い」
鈍く痛む胸に顔を顰めた途端、青年は気遣わしげに顔を歪めた。
問うように顔を向けると、手に持った書類を枕もとの机に置く。
「私の名前はルヴィア。君は北の草原で倒れている所を見つけてきたんだよ。……君の、名前は?」
「……ッ」
名前。
頭が一瞬空白になった。
思い出せないことはないはずなのに。
あるはずだ。
自分の、名前が。
「……ルシェイド」
ぽつりと。
浮かんだ名前を、特に何も考えずに呟く。
声は初めて出したかのようにかすれていた。
子供のような少し高めの声。
ルヴィアはそれを聞いて笑んだ。
「そうか。ルシェイドは、どうして草原で倒れていたんだ? 見つけたとき、酷い怪我をしていたよ」
「……怪我?」
首をかしげると、ルヴィアは手を伸ばし、ルシェイドの手を取った。
その手には白い包帯が巻かれていた。
だから随分体が痛かったのかと、思う。
「……覚えてない?」
怪訝そうにルヴィアが聞く。
覚えていない。
最初の記憶は暗いこの部屋だったから。
「此処、は?」
ルシェイドが聞くと、ルヴィアは首をかしげた。
訝しげな表情。
「……此処は」
時間の感覚はすでに無い。
そこでふと、時間の数え方に疑問を持つ。
そもそも、此処はどこだろう。
疑問符に埋められた頭で周りを見ると、寝台の足元に近い所に青年がいた。
稲穂の様な金の髪は流れるように肩に落ち、紺色の衣服の上に光を落としている。
手には何かの書類。
真剣な表情で字面を追っている。
身を起こすと、彼はこちらに気付き、手に持った書類もそのままに立ち上がった。
「やぁ、起きた? と、まだ無理はしないほうが良い」
鈍く痛む胸に顔を顰めた途端、青年は気遣わしげに顔を歪めた。
問うように顔を向けると、手に持った書類を枕もとの机に置く。
「私の名前はルヴィア。君は北の草原で倒れている所を見つけてきたんだよ。……君の、名前は?」
「……ッ」
名前。
頭が一瞬空白になった。
思い出せないことはないはずなのに。
あるはずだ。
自分の、名前が。
「……ルシェイド」
ぽつりと。
浮かんだ名前を、特に何も考えずに呟く。
声は初めて出したかのようにかすれていた。
子供のような少し高めの声。
ルヴィアはそれを聞いて笑んだ。
「そうか。ルシェイドは、どうして草原で倒れていたんだ? 見つけたとき、酷い怪我をしていたよ」
「……怪我?」
首をかしげると、ルヴィアは手を伸ばし、ルシェイドの手を取った。
その手には白い包帯が巻かれていた。
だから随分体が痛かったのかと、思う。
「……覚えてない?」
怪訝そうにルヴィアが聞く。
覚えていない。
最初の記憶は暗いこの部屋だったから。
「此処、は?」
ルシェイドが聞くと、ルヴィアは首をかしげた。
訝しげな表情。
「……此処は」
言いかけたところで扉が開いた。
足音は聞えなかった。
戸を叩く音もなかった。
それは突然開かれた。
ふたりは扉に目を向けた。
入ってきたのは最初に出会った青年だ。
紫がかった黒髪と、紫闇の瞳。
ルヴィアは立ち上がって近づく。
青年はルヴィアに視線を合わせ、唐突に口を開いた。
「セレイアが呼んでいる」
「わかった。……この子はルシェイド。こいつはセイラスだ。無理はさせるなよ」
簡単に名前だけ紹介して、ルヴィアは書類を手に部屋を出て行った。
去り際に釘を刺され、肩をすくめながらセイラスが来る。
ルヴィアが座っていた椅子に腰掛けると、暫くの逡巡の後に口を開いた。
「……ルシェイドと、いうのか」
確かめるように言われ、反射的に頷いた後に首をかしげた。
「……多分……」
「……?」
訝しげな顔。
「何処から来たのか言えるか?」
問いに首を左右に振る。
「ならば此処が何処だか分かるか?」
もう一度首を振る。
何もかも分からない。
全ては闇の中。
ただ、正さなければならないという想いが強い。
何を正すのか、どうすれば良いのか。
そういうものは何一つわからないのだけれど。
「記憶がないのか……」
顎に手を当てて考え込むと、不意に立ち上がる。
「少し待て」
言い捨てて出て行ってしまう。
止める間もない。
止めたところで何を言えば良いのか分からなかったけど。
どうして記憶がないのだろうと考えてみても、答えは出なかったし、何も思い出せなかった。
最初の記憶は暗い部屋。
と、不意に思い出した。
暗闇の中、響いていた声を。
ルヴィアの声ではない。
セイラスの声でもない。
一度だけ顔を見た、女性の声でもない。
見た覚えのない、聞き覚えのある声。
何と言っていたか。
とてもとても強く、唯一つを願う声だった。
最後に叫んだ、『彼女』の名前は――。
足音は聞えなかった。
戸を叩く音もなかった。
それは突然開かれた。
ふたりは扉に目を向けた。
入ってきたのは最初に出会った青年だ。
紫がかった黒髪と、紫闇の瞳。
ルヴィアは立ち上がって近づく。
青年はルヴィアに視線を合わせ、唐突に口を開いた。
「セレイアが呼んでいる」
「わかった。……この子はルシェイド。こいつはセイラスだ。無理はさせるなよ」
簡単に名前だけ紹介して、ルヴィアは書類を手に部屋を出て行った。
去り際に釘を刺され、肩をすくめながらセイラスが来る。
ルヴィアが座っていた椅子に腰掛けると、暫くの逡巡の後に口を開いた。
「……ルシェイドと、いうのか」
確かめるように言われ、反射的に頷いた後に首をかしげた。
「……多分……」
「……?」
訝しげな顔。
「何処から来たのか言えるか?」
問いに首を左右に振る。
「ならば此処が何処だか分かるか?」
もう一度首を振る。
何もかも分からない。
全ては闇の中。
ただ、正さなければならないという想いが強い。
何を正すのか、どうすれば良いのか。
そういうものは何一つわからないのだけれど。
「記憶がないのか……」
顎に手を当てて考え込むと、不意に立ち上がる。
「少し待て」
言い捨てて出て行ってしまう。
止める間もない。
止めたところで何を言えば良いのか分からなかったけど。
どうして記憶がないのだろうと考えてみても、答えは出なかったし、何も思い出せなかった。
最初の記憶は暗い部屋。
と、不意に思い出した。
暗闇の中、響いていた声を。
ルヴィアの声ではない。
セイラスの声でもない。
一度だけ顔を見た、女性の声でもない。
見た覚えのない、聞き覚えのある声。
何と言っていたか。
とてもとても強く、唯一つを願う声だった。
最後に叫んだ、『彼女』の名前は――。
そこまで考えたところで扉が開いた。
セイラスは、何かの紙を持って戻ってきた。
何も言わずに寝台の上に広げる。
それはどうやら地図のようだった。
真ん中と、左右に大陸があって、小さな島がいくつかあるようだ。
「見たことは?」
返事は否。
「地理は、分かるか?」
もう一度同じ答え。
セイラスは特に表情を変えずに地図の一点を指した。
それは真ん中の大陸の、中心よりやや右下の位置だった。
「此処が、今居る場所。王都ロスウェル」
「……王都?」
「今、この現界を治める王が居る都だ」
きっぱりと断言する声は、少し誇らしげな響きがあった。
相変わらず表情はあまり変わらなかったが。
「大陸は、昔は4つあったらしいが、今は3つだ。ユーディリス大陸と、トゥーディス大陸、ヴァイサーシアー大陸」
左、右、真ん中の順で指差す。
聞き覚えがあるような気がする。
実際に行った事があるのかもしれない。
「4つ目の大陸は、何処にあったの?」
不意に聞くと、セイラスは少し考えて、地図の上を指した。
「この辺りにあったと聞く。今はもう地図も残っていないから、名前も一部にしか伝わっていない」
ヴァイサーシアー大陸の、上。
地図から消された島。
「レイヴァント大陸、という名前だったそうだ」
どくん、と一瞬心臓が大きく脈打った。
知らない場所のはずだ。
古い大陸だから。
なのに何故。
こんなにも懐かしい気がするのだろう。
「……講義はこれまでにしよう。これは此処に置いておくから、後で見るといい。今はまた暫く眠れ」
寝台に開かれた地図を畳むと、枕もとの机に置く。
「眠くない」
「駄目だ。寝転がっているだけでも、体力は回復する。……焦らなくて良い」
肩を押されて寝台に寝ながら、少し不満そうに地図に目をやる。
「また次に、教えてやる」
不承不承、といった感じで素直に布団を肩まで上げ、目を閉じる。
衣擦れの音がして、扉が開閉する音が聞えた。
眠気は暫くして訪れた。
セイラスは、何かの紙を持って戻ってきた。
何も言わずに寝台の上に広げる。
それはどうやら地図のようだった。
真ん中と、左右に大陸があって、小さな島がいくつかあるようだ。
「見たことは?」
返事は否。
「地理は、分かるか?」
もう一度同じ答え。
セイラスは特に表情を変えずに地図の一点を指した。
それは真ん中の大陸の、中心よりやや右下の位置だった。
「此処が、今居る場所。王都ロスウェル」
「……王都?」
「今、この現界を治める王が居る都だ」
きっぱりと断言する声は、少し誇らしげな響きがあった。
相変わらず表情はあまり変わらなかったが。
「大陸は、昔は4つあったらしいが、今は3つだ。ユーディリス大陸と、トゥーディス大陸、ヴァイサーシアー大陸」
左、右、真ん中の順で指差す。
聞き覚えがあるような気がする。
実際に行った事があるのかもしれない。
「4つ目の大陸は、何処にあったの?」
不意に聞くと、セイラスは少し考えて、地図の上を指した。
「この辺りにあったと聞く。今はもう地図も残っていないから、名前も一部にしか伝わっていない」
ヴァイサーシアー大陸の、上。
地図から消された島。
「レイヴァント大陸、という名前だったそうだ」
どくん、と一瞬心臓が大きく脈打った。
知らない場所のはずだ。
古い大陸だから。
なのに何故。
こんなにも懐かしい気がするのだろう。
「……講義はこれまでにしよう。これは此処に置いておくから、後で見るといい。今はまた暫く眠れ」
寝台に開かれた地図を畳むと、枕もとの机に置く。
「眠くない」
「駄目だ。寝転がっているだけでも、体力は回復する。……焦らなくて良い」
肩を押されて寝台に寝ながら、少し不満そうに地図に目をやる。
「また次に、教えてやる」
不承不承、といった感じで素直に布団を肩まで上げ、目を閉じる。
衣擦れの音がして、扉が開閉する音が聞えた。
眠気は暫くして訪れた。
扉を開くと、そこには見慣れた姿があった。
漆黒の髪。
滑らかな肢体をドレスに包んだ彼女は、入ってきたルヴィアに気付くと椅子から立ち上がった。
「セレイア。何かあったのか?」
呼びかけると、彼女は深刻な顔をして告げた。
「西の境に配置しておいた兵のところで、小規模の戦闘が2度起きたと報告が来てるわ」
「2度? この間の報告から3日経ってないぞ」
驚愕の声をあげつつ、セレイアが差し出した報告書に目を通す。
戦闘の規模、動員した兵の数、損傷程度、その他諸々が書いてある。
「……」
被害の欄を見て、表情を険しくする。
例え小規模の戦闘だったとしても、被害は大きい。
「……全兵数の、約半分か」
「治療者の数が足りないの。……この状態で更に戦闘を続けさせるなら、全滅することも考えないといけないでしょう」
「だけど、撤退するわけにはいかない」
強い意志をこめて断言する。
例え勝ち目が薄くても。
「分かってるわ。けれど、最悪の状態も常に考えておかないといけないのよ」
セレイアが諭すように首を振る。
一つ頷くと、ルヴィアは窓の外に視線を向けた。
そこには、戦争とはかけ離れたのどかな風景が広がっていた。
気持ちが悪い。
軽い吐き気と、身体の倦怠感で意識が目覚める。
胃の辺りが重い。
寝ていられなくて身を起こすと、眩暈に襲われた。
深呼吸をして掛け布をどかす。
ひんやりとした石の床に足を下ろすと、少し気分が良くなった気がした。
まだ少し痛む身体を引きずって、扉まで歩く。
前回よりは息が切れていない。
扉を開ける。
そこは部屋と同じような石でできた廊下だった。
頬に少し冷たい風が当たる。
何処から風が入ってくるのか、それは外の匂いがした。
風の吹くほうに足を向けた。
廊下の所々には、蝋燭が灯っているので躓く心配がなさそうだ。
少し歩くと、階段が見えた。
だいぶ息が切れていたのでそこで少し休む。
「……ルシェイド?」
声はいきなり振ってきたように感じた。
見上げると、明かりを背にして誰かが立っていた。
逆光で顔は見えない。
けれど声で判断はついた。
「……セイラス?」
「何をやっている。こんな所で」
怪訝そうな声には心配も含まれているようだ。
体重を感じさせない猫の様な動きで近くまで下りてくると、傍らに膝をついた。
「寝ていろと、言っただろう」
手を差し出し、抱えていこうとするのを拒否し、ルシェイドは首を振った。
「何故だ?」
問う声は感情があまり入っていない分、冷徹に響いた。
怯えたように更に首を振るルシェイドを見て、セイラスはため息をついた。
「……理由が、あるのか?」
上手い言い方が見つからなかったらしく、先程と同様の質問を繰り返す。
けれど理由が上手く説明できず、ただもう一度首を振った。
気持ちの悪さはかなり酷くなっている。
座っているだけなのに息は切れ、手足が細かく震えている。
さぞ、具合が悪く見えるだろうと何処か客観的に見ていると、頭上で靴音がした。
漆黒の髪。
滑らかな肢体をドレスに包んだ彼女は、入ってきたルヴィアに気付くと椅子から立ち上がった。
「セレイア。何かあったのか?」
呼びかけると、彼女は深刻な顔をして告げた。
「西の境に配置しておいた兵のところで、小規模の戦闘が2度起きたと報告が来てるわ」
「2度? この間の報告から3日経ってないぞ」
驚愕の声をあげつつ、セレイアが差し出した報告書に目を通す。
戦闘の規模、動員した兵の数、損傷程度、その他諸々が書いてある。
「……」
被害の欄を見て、表情を険しくする。
例え小規模の戦闘だったとしても、被害は大きい。
「……全兵数の、約半分か」
「治療者の数が足りないの。……この状態で更に戦闘を続けさせるなら、全滅することも考えないといけないでしょう」
「だけど、撤退するわけにはいかない」
強い意志をこめて断言する。
例え勝ち目が薄くても。
「分かってるわ。けれど、最悪の状態も常に考えておかないといけないのよ」
セレイアが諭すように首を振る。
一つ頷くと、ルヴィアは窓の外に視線を向けた。
そこには、戦争とはかけ離れたのどかな風景が広がっていた。
気持ちが悪い。
軽い吐き気と、身体の倦怠感で意識が目覚める。
胃の辺りが重い。
寝ていられなくて身を起こすと、眩暈に襲われた。
深呼吸をして掛け布をどかす。
ひんやりとした石の床に足を下ろすと、少し気分が良くなった気がした。
まだ少し痛む身体を引きずって、扉まで歩く。
前回よりは息が切れていない。
扉を開ける。
そこは部屋と同じような石でできた廊下だった。
頬に少し冷たい風が当たる。
何処から風が入ってくるのか、それは外の匂いがした。
風の吹くほうに足を向けた。
廊下の所々には、蝋燭が灯っているので躓く心配がなさそうだ。
少し歩くと、階段が見えた。
だいぶ息が切れていたのでそこで少し休む。
「……ルシェイド?」
声はいきなり振ってきたように感じた。
見上げると、明かりを背にして誰かが立っていた。
逆光で顔は見えない。
けれど声で判断はついた。
「……セイラス?」
「何をやっている。こんな所で」
怪訝そうな声には心配も含まれているようだ。
体重を感じさせない猫の様な動きで近くまで下りてくると、傍らに膝をついた。
「寝ていろと、言っただろう」
手を差し出し、抱えていこうとするのを拒否し、ルシェイドは首を振った。
「何故だ?」
問う声は感情があまり入っていない分、冷徹に響いた。
怯えたように更に首を振るルシェイドを見て、セイラスはため息をついた。
「……理由が、あるのか?」
上手い言い方が見つからなかったらしく、先程と同様の質問を繰り返す。
けれど理由が上手く説明できず、ただもう一度首を振った。
気持ちの悪さはかなり酷くなっている。
座っているだけなのに息は切れ、手足が細かく震えている。
さぞ、具合が悪く見えるだろうと何処か客観的に見ていると、頭上で靴音がした。
階段の上に、更に人影が入ってきたところだった。
「何をしているの?」
聞えた声は今まで聞いたことのない声だった。
「リィーナ」
セイラスが呟く。
足音を立てて降りてくる彼女は、裾の長いローブを纏い、手に長い杖を持っていた。
「……大丈夫?」
「……ッ!」
そっと、リィーナが頬に手を触れると、バチッと衝撃が走った。
彼女は驚いたように目を見開くと、おもむろに杖で床を叩き、低く何かを呟いた。
途端、周囲を風が舞った。
セイラスが心持ち眉をひそめる。
気持ちの悪さが少し減ったような気がして、ルシェイドは改めてリィーナに視線を合わせた。
「少しは楽になった?」
こくり、と頷くとリィーナが微笑む。
「どういうことだ?」
怪訝そうにセイラスが問う。
「感受性が強いようだから、魔法の気にあてられたのね。最近は相手も魔法師を投入したみたいだから、中和させないと辛いわよ」
「今までは大丈夫だったようだが?」
「本人にもよるのよ。魔法の素質があるようだし」
そう言ってリィーナが片目を瞑って笑った。
「それで、こんな所で何してるの?」
首をかしげて問われ、更にセイラスからも視線で促されてルシェイドが答えを探す。
「……気持ちが、悪かったから、風のあるほうに……」
「なら、もうあの部屋じゃないほうが良いわね。ルヴィアに言ってくるわ。あとよろしくね、セイラス」
さらりと言って踵を返し、階段を上がっていく。
ルシェイドは訳が分からず、答えを求めてセイラスを見上げた。
苦虫を噛み潰したような顔で、セイラスは返事をせずにルシェイドを抱えあげた。
驚きに身を強張らせると、ぼそりと呟かれた。
「部屋を変える」
どうやらこの状態で運ばれるらしい。
「……歩ける」
「大人しくしてろ」
小声で抗議するも、一蹴されてしまう。
仕方なく、そのまま運ばれた。
「何をしているの?」
聞えた声は今まで聞いたことのない声だった。
「リィーナ」
セイラスが呟く。
足音を立てて降りてくる彼女は、裾の長いローブを纏い、手に長い杖を持っていた。
「……大丈夫?」
「……ッ!」
そっと、リィーナが頬に手を触れると、バチッと衝撃が走った。
彼女は驚いたように目を見開くと、おもむろに杖で床を叩き、低く何かを呟いた。
途端、周囲を風が舞った。
セイラスが心持ち眉をひそめる。
気持ちの悪さが少し減ったような気がして、ルシェイドは改めてリィーナに視線を合わせた。
「少しは楽になった?」
こくり、と頷くとリィーナが微笑む。
「どういうことだ?」
怪訝そうにセイラスが問う。
「感受性が強いようだから、魔法の気にあてられたのね。最近は相手も魔法師を投入したみたいだから、中和させないと辛いわよ」
「今までは大丈夫だったようだが?」
「本人にもよるのよ。魔法の素質があるようだし」
そう言ってリィーナが片目を瞑って笑った。
「それで、こんな所で何してるの?」
首をかしげて問われ、更にセイラスからも視線で促されてルシェイドが答えを探す。
「……気持ちが、悪かったから、風のあるほうに……」
「なら、もうあの部屋じゃないほうが良いわね。ルヴィアに言ってくるわ。あとよろしくね、セイラス」
さらりと言って踵を返し、階段を上がっていく。
ルシェイドは訳が分からず、答えを求めてセイラスを見上げた。
苦虫を噛み潰したような顔で、セイラスは返事をせずにルシェイドを抱えあげた。
驚きに身を強張らせると、ぼそりと呟かれた。
「部屋を変える」
どうやらこの状態で運ばれるらしい。
「……歩ける」
「大人しくしてろ」
小声で抗議するも、一蹴されてしまう。
仕方なく、そのまま運ばれた。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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