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2012/07/25 (Wed)
 言いかけたところで扉が開いた。
 足音は聞えなかった。
 戸を叩く音もなかった。
 それは突然開かれた。
 ふたりは扉に目を向けた。
 入ってきたのは最初に出会った青年だ。
 紫がかった黒髪と、紫闇の瞳。
 ルヴィアは立ち上がって近づく。
 青年はルヴィアに視線を合わせ、唐突に口を開いた。
「セレイアが呼んでいる」
「わかった。……この子はルシェイド。こいつはセイラスだ。無理はさせるなよ」
 簡単に名前だけ紹介して、ルヴィアは書類を手に部屋を出て行った。
 去り際に釘を刺され、肩をすくめながらセイラスが来る。
 ルヴィアが座っていた椅子に腰掛けると、暫くの逡巡の後に口を開いた。
「……ルシェイドと、いうのか」
 確かめるように言われ、反射的に頷いた後に首をかしげた。
「……多分……」
「……?」
 訝しげな顔。
「何処から来たのか言えるか?」
 問いに首を左右に振る。
「ならば此処が何処だか分かるか?」
 もう一度首を振る。
 何もかも分からない。
 全ては闇の中。
 ただ、正さなければならないという想いが強い。
 何を正すのか、どうすれば良いのか。
 そういうものは何一つわからないのだけれど。
「記憶がないのか……」
 顎に手を当てて考え込むと、不意に立ち上がる。
「少し待て」
 言い捨てて出て行ってしまう。
 止める間もない。
 止めたところで何を言えば良いのか分からなかったけど。
 どうして記憶がないのだろうと考えてみても、答えは出なかったし、何も思い出せなかった。
 最初の記憶は暗い部屋。
 と、不意に思い出した。
 暗闇の中、響いていた声を。
 ルヴィアの声ではない。
 セイラスの声でもない。
 一度だけ顔を見た、女性の声でもない。
 見た覚えのない、聞き覚えのある声。
 何と言っていたか。
 とてもとても強く、唯一つを願う声だった。
 最後に叫んだ、『彼女』の名前は――。
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