小説用倉庫。
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「この村に来た用件は?」
今までの人懐こそうな表情を消して、アィルが囁く。
真剣な。
表情をして。
ヴィオルウスは無言で懐から小さな、手のひら位の箱を取り出した。
「……『アィル=ディーン=ウィステリアスに』」
ことりと小さな音を立ててそれを机の上に乗せる。
「『レヴィアール=ファーリース=ディ=アスランから』」
何かに書かれた文面を読み上げるように、ほぼ無表情で言い切る。
「……配達の、頼まれごとだよ」
苦笑して言うと、アィルは片眉を上げた。
「何で、本人が持ってこないんだ?」
「……さぁ。わたしもこれを人づてに頼まれただけだから」
ふたりで首を傾げる。
何の変哲も無い箱。
「こんな箱、見たこと無いしなぁ。……本当にこれ、レヴィアールからなのか?」
「そう言ってたけど。その人って知り合いなの?」
「3年位前までここに住んでた」
考え込むように腕を組んで、箱を凝視する。
見れば、答えが出るかのように。
「見てもわかんないなぁ。ところで何でヴィオルウスが持って来るんだ?」
「……他に誰も行きたがらなかったから、かな」
表情をわずかに曇らせてヴィオルウスが答える。
「どうして」
「わたしに聞かれても答えられないよ。とりあえず、届けたからね」
訝しげな表情のまま、アィルが箱を手に取る。
今までの人懐こそうな表情を消して、アィルが囁く。
真剣な。
表情をして。
ヴィオルウスは無言で懐から小さな、手のひら位の箱を取り出した。
「……『アィル=ディーン=ウィステリアスに』」
ことりと小さな音を立ててそれを机の上に乗せる。
「『レヴィアール=ファーリース=ディ=アスランから』」
何かに書かれた文面を読み上げるように、ほぼ無表情で言い切る。
「……配達の、頼まれごとだよ」
苦笑して言うと、アィルは片眉を上げた。
「何で、本人が持ってこないんだ?」
「……さぁ。わたしもこれを人づてに頼まれただけだから」
ふたりで首を傾げる。
何の変哲も無い箱。
「こんな箱、見たこと無いしなぁ。……本当にこれ、レヴィアールからなのか?」
「そう言ってたけど。その人って知り合いなの?」
「3年位前までここに住んでた」
考え込むように腕を組んで、箱を凝視する。
見れば、答えが出るかのように。
「見てもわかんないなぁ。ところで何でヴィオルウスが持って来るんだ?」
「……他に誰も行きたがらなかったから、かな」
表情をわずかに曇らせてヴィオルウスが答える。
「どうして」
「わたしに聞かれても答えられないよ。とりあえず、届けたからね」
訝しげな表情のまま、アィルが箱を手に取る。
箱は小さいくせにそれなりの重さがある。
くるりと一回転させて、首を傾げた。
「これ、どこから開けるんだ?」
開けるための取っ掛かりすらなくて、困ったようにアィルが言う。
ヴィオルウスは額に指を当てて呟いた。
「……確か、『其と同一なる証を立てよ』みたいなことを言われたけど、そのことかなぁ」
「…………ああ、そういうことか」
アィルは苦虫を噛み潰したような顔をして答える。
何をするのだろうと思ってみていると、アィルは懐から短剣を取り出して指先に当てた。
指先から血が流れる。
「こういうことだろ?」
そう言ってその血を箱の上に垂らした。
赤い色が広がって、そして吸い込まれるように消えた。
カチリと何かがはまるような音がして、ゆっくりと箱の一部が開かれる。
中から出てきたのは細い銀色の指輪だった。
黄色い宝石がついている。
「……それだけ?」
ヴィオルウスは疑問に思って問い掛けてみる。
けれどアィルはそれを凝視したまま動かない。
短剣をしまうのすら忘れたように。
「……アィル?」
呼びかけると、其の声に肩を震わせた。
怯えたような
(何に)
目が、ヴィオルウスを捉える。
「大丈夫?」
「ああ、……何でもない」
ため息をついて髪をかきあげるアィルの行動は、どう見ても何でもないとは思えない。
「……歩き通しだったから疲れたろ。今日はもう休もう」
結局、そのまま部屋を出てしまったアィルを追うこともできず、ヴィオルウスは割り当てられた部屋に戻った。
明かりをつけずに部屋の中央まで進む。
わずかな月明かりが照らし出すその光はヴィオルウスには届かず、ただ淡く輝く。
ベッドまでたどり着いて横になると、月が見えた。
どうやら疲れていたらしく、ヴィオルウスの意識は徐々に薄れていった。
――赤。
取り出された記憶はまだ完全ではなく思い出せずにいる。
けれどそれは純然たる記憶。
現実に、起こったこと。
くるりと一回転させて、首を傾げた。
「これ、どこから開けるんだ?」
開けるための取っ掛かりすらなくて、困ったようにアィルが言う。
ヴィオルウスは額に指を当てて呟いた。
「……確か、『其と同一なる証を立てよ』みたいなことを言われたけど、そのことかなぁ」
「…………ああ、そういうことか」
アィルは苦虫を噛み潰したような顔をして答える。
何をするのだろうと思ってみていると、アィルは懐から短剣を取り出して指先に当てた。
指先から血が流れる。
「こういうことだろ?」
そう言ってその血を箱の上に垂らした。
赤い色が広がって、そして吸い込まれるように消えた。
カチリと何かがはまるような音がして、ゆっくりと箱の一部が開かれる。
中から出てきたのは細い銀色の指輪だった。
黄色い宝石がついている。
「……それだけ?」
ヴィオルウスは疑問に思って問い掛けてみる。
けれどアィルはそれを凝視したまま動かない。
短剣をしまうのすら忘れたように。
「……アィル?」
呼びかけると、其の声に肩を震わせた。
怯えたような
(何に)
目が、ヴィオルウスを捉える。
「大丈夫?」
「ああ、……何でもない」
ため息をついて髪をかきあげるアィルの行動は、どう見ても何でもないとは思えない。
「……歩き通しだったから疲れたろ。今日はもう休もう」
結局、そのまま部屋を出てしまったアィルを追うこともできず、ヴィオルウスは割り当てられた部屋に戻った。
明かりをつけずに部屋の中央まで進む。
わずかな月明かりが照らし出すその光はヴィオルウスには届かず、ただ淡く輝く。
ベッドまでたどり着いて横になると、月が見えた。
どうやら疲れていたらしく、ヴィオルウスの意識は徐々に薄れていった。
――赤。
取り出された記憶はまだ完全ではなく思い出せずにいる。
けれどそれは純然たる記憶。
現実に、起こったこと。
そのときちょうどアィルは扉の前を歩いていた。
部屋の中から大きな音が聞こえたので、何事かと扉を開けようとする。
「!」
開けると同時に向こうからも押されて、アィルは扉に額をぶつけてしまう。
「いてッ! ……?」
飛び出してきたのはヴィオルウスで、扉を開けるとそのまま倒れた。
「おいッ!」
とっさに受け止めるが、ヴィオルウスは気を失ったままだ。
アィルはヴィオルウス越しに部屋の中を見る。
特に変わった様子は見えない。
眉をひそめてヴィオルウスの顔を見ると、暗い中でもかなり青ざめているのがわかる。
きつく目を閉じたまま。
「おい……起きろ。何があったんだ?」
頬を軽く叩くが起きる気配はない。
しかたなしにヴィオルウスを抱き上げると、用心しながら部屋に入る。
異常がないのを確かめてベッドに横たえるが、それでも起きなかった。
寝息が穏やかになったのを見て取り、アィルは静かに部屋から出た。
ヴィオルウスのいる部屋には、他に誰もいないのに。
何故こんなにも取り乱していたのか。
後ろ髪を引かれつつ自室に戻る。
「……いてぇ」
額に手をやると、血が流れているのがわかった。
扉にぶつけたときに切れたのだろう。
近くにあった布で額を拭うと、アィルはベッドに横になった。
部屋の中から大きな音が聞こえたので、何事かと扉を開けようとする。
「!」
開けると同時に向こうからも押されて、アィルは扉に額をぶつけてしまう。
「いてッ! ……?」
飛び出してきたのはヴィオルウスで、扉を開けるとそのまま倒れた。
「おいッ!」
とっさに受け止めるが、ヴィオルウスは気を失ったままだ。
アィルはヴィオルウス越しに部屋の中を見る。
特に変わった様子は見えない。
眉をひそめてヴィオルウスの顔を見ると、暗い中でもかなり青ざめているのがわかる。
きつく目を閉じたまま。
「おい……起きろ。何があったんだ?」
頬を軽く叩くが起きる気配はない。
しかたなしにヴィオルウスを抱き上げると、用心しながら部屋に入る。
異常がないのを確かめてベッドに横たえるが、それでも起きなかった。
寝息が穏やかになったのを見て取り、アィルは静かに部屋から出た。
ヴィオルウスのいる部屋には、他に誰もいないのに。
何故こんなにも取り乱していたのか。
後ろ髪を引かれつつ自室に戻る。
「……いてぇ」
額に手をやると、血が流れているのがわかった。
扉にぶつけたときに切れたのだろう。
近くにあった布で額を拭うと、アィルはベッドに横になった。
目を開けたとき外はすでに明るかった。
窓から差し込む光を見ながら、ヴィオルウスは身体を起こす。
(ここは)
瞬きを数回して、やっと今いる状況を思い出した。
鳥の声が聞こえると思って窓を見ると、窓枠に止まってこちらを見ていた。
他に物音がしないかと耳を澄ます。
けれど聞こえるのは鳥の声だけ。
ベッドから下りると、驚いたのか鳥は外に飛んでいってしまった。
簡単に身支度を整えて、部屋から出る。
奥の部屋に視線を走らせるが、人の気配は感じない。
頭を掻きながら階段を下りる。
やはり人の気配がない。
「どこに……」
(ここは)
書斎への扉を開けてみるがそこにも
(もう)
誰もいない。こちらかと思って台所のほうも見る。
(誰も)
そちらも結果は同じだったので昨日は見なかった階段の奥の扉を開けてみた。
「あれ、起きたのか?」
そこにはいろいろな種類の薬草が置いてあった。
壁一面を覆い尽くす棚に、様々な道具が入っている。
一番多いのが何かの瓶だ。
アィルはその部屋の中央にある机の前にいた。
「……ここは?」
「ここで、取ってきた薬草とかを調合したりするんだ。変な匂い、するだろ」
ちょっと笑ってアィルが答える。
確かに嗅いだことのない臭気が漂っている。
アィルが手に持っているのは緑色の草。
その近くには、先日彼が持っていた袋もあった。
「ちょっと急ぎの用が入ったからさ……少し待っててくれ。これが終わったらメシにしよう」
窓から差し込む光を見ながら、ヴィオルウスは身体を起こす。
(ここは)
瞬きを数回して、やっと今いる状況を思い出した。
鳥の声が聞こえると思って窓を見ると、窓枠に止まってこちらを見ていた。
他に物音がしないかと耳を澄ます。
けれど聞こえるのは鳥の声だけ。
ベッドから下りると、驚いたのか鳥は外に飛んでいってしまった。
簡単に身支度を整えて、部屋から出る。
奥の部屋に視線を走らせるが、人の気配は感じない。
頭を掻きながら階段を下りる。
やはり人の気配がない。
「どこに……」
(ここは)
書斎への扉を開けてみるがそこにも
(もう)
誰もいない。こちらかと思って台所のほうも見る。
(誰も)
そちらも結果は同じだったので昨日は見なかった階段の奥の扉を開けてみた。
「あれ、起きたのか?」
そこにはいろいろな種類の薬草が置いてあった。
壁一面を覆い尽くす棚に、様々な道具が入っている。
一番多いのが何かの瓶だ。
アィルはその部屋の中央にある机の前にいた。
「……ここは?」
「ここで、取ってきた薬草とかを調合したりするんだ。変な匂い、するだろ」
ちょっと笑ってアィルが答える。
確かに嗅いだことのない臭気が漂っている。
アィルが手に持っているのは緑色の草。
その近くには、先日彼が持っていた袋もあった。
「ちょっと急ぎの用が入ったからさ……少し待っててくれ。これが終わったらメシにしよう」
「……見てていい?」
聞くと、アィルは驚いたような顔をしたが、少し笑って頷いた。
「あんまり面白くないと思うけどな」
アィルは手に持っていた緑の草を石で出来ているらしい白い器に入れる。
「これは緑菜草。すりつぶして使うんだ」
器と同じような白く短い棒を使って、草をすりつぶす。
すでに乾燥している草は徐々に粉々になっていく。
慣れた手つきに、思わず見とれる。
ふと、アィルは背後の棚から小さな瓶を取り出した。
中に入っている赤い実を少量入れる。
「それは?」
「ん? これか。これは炎花の実。花が咲くと綺麗だよ」
見分けがつかないほど粉々になると、アィルは今度は棚の下から瓶を取り出した。
中に白い半透明の液体が入っているのが見える。
それを器の中に2、3滴落す。
長い硝子のような棒でかき混ぜると、とろりとした暗緑色の液体になった。
眉をひそめて、ヴィオルウスが聞いてくる。
「……それ、飲むの?」
アィルはきょとんとした顔をしてから、腹を抱えて笑い出した。
「飲まねぇよ! ……これは塗り薬! それにまずいと思うぞ? これ」
くすくす笑いながら、器の中を指差す。
最初は暗緑色だったものが、次第に色あせていく。
「しばらくすれば透明になる。そうすりゃおまえでも見たことあるものになるだろ。……さっきレイザが来てな。ばあさんの腰の調子が悪いらしい」
わからないような顔をしているヴィオルウスに、笑いながらアィルが説明する。
「腰に塗るんだ。さっきの緑菜草は痛みに、炎花の実は温める効果があるから」
「腰痛?」
「そう。……飲まないからな」
「それはわかったよ!」
ヴィオルウスは顔を赤らめて抗議する。
その表情にまたアィルが笑う。
透明になった液体を、空の瓶に流し込む。蓋をしっかり閉めてから、麻の袋に入れた。
「じゃあ、ご飯を食べたら、これを届けてくるから……。……一緒にくるか?」
まだ笑いながらアィルがたずねる。
「行く」
すねた表情で、それでも好奇心には勝てないのかヴィオルウスが頷く。
「レイザの家は村の入り口近くだ……その格好で行くつもりか?」
言われて、そういえば寝巻きに上着を羽織っただけの格好だったことにに気づく。
「き、着替えてくる!」
慌ててヴィオルウスが部屋を飛び出した。
階段の途中で何かにぶつかる音と、声が聞こえて思わずまた笑ってしまった。
聞くと、アィルは驚いたような顔をしたが、少し笑って頷いた。
「あんまり面白くないと思うけどな」
アィルは手に持っていた緑の草を石で出来ているらしい白い器に入れる。
「これは緑菜草。すりつぶして使うんだ」
器と同じような白く短い棒を使って、草をすりつぶす。
すでに乾燥している草は徐々に粉々になっていく。
慣れた手つきに、思わず見とれる。
ふと、アィルは背後の棚から小さな瓶を取り出した。
中に入っている赤い実を少量入れる。
「それは?」
「ん? これか。これは炎花の実。花が咲くと綺麗だよ」
見分けがつかないほど粉々になると、アィルは今度は棚の下から瓶を取り出した。
中に白い半透明の液体が入っているのが見える。
それを器の中に2、3滴落す。
長い硝子のような棒でかき混ぜると、とろりとした暗緑色の液体になった。
眉をひそめて、ヴィオルウスが聞いてくる。
「……それ、飲むの?」
アィルはきょとんとした顔をしてから、腹を抱えて笑い出した。
「飲まねぇよ! ……これは塗り薬! それにまずいと思うぞ? これ」
くすくす笑いながら、器の中を指差す。
最初は暗緑色だったものが、次第に色あせていく。
「しばらくすれば透明になる。そうすりゃおまえでも見たことあるものになるだろ。……さっきレイザが来てな。ばあさんの腰の調子が悪いらしい」
わからないような顔をしているヴィオルウスに、笑いながらアィルが説明する。
「腰に塗るんだ。さっきの緑菜草は痛みに、炎花の実は温める効果があるから」
「腰痛?」
「そう。……飲まないからな」
「それはわかったよ!」
ヴィオルウスは顔を赤らめて抗議する。
その表情にまたアィルが笑う。
透明になった液体を、空の瓶に流し込む。蓋をしっかり閉めてから、麻の袋に入れた。
「じゃあ、ご飯を食べたら、これを届けてくるから……。……一緒にくるか?」
まだ笑いながらアィルがたずねる。
「行く」
すねた表情で、それでも好奇心には勝てないのかヴィオルウスが頷く。
「レイザの家は村の入り口近くだ……その格好で行くつもりか?」
言われて、そういえば寝巻きに上着を羽織っただけの格好だったことにに気づく。
「き、着替えてくる!」
慌ててヴィオルウスが部屋を飛び出した。
階段の途中で何かにぶつかる音と、声が聞こえて思わずまた笑ってしまった。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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