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2024/11/24 (Sun)
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2012/02/05 (Sun)
 箱は小さいくせにそれなりの重さがある。
 くるりと一回転させて、首を傾げた。
「これ、どこから開けるんだ?」
 開けるための取っ掛かりすらなくて、困ったようにアィルが言う。

 ヴィオルウスは額に指を当てて呟いた。
「……確か、『其と同一なる証を立てよ』みたいなことを言われたけど、そのことかなぁ」
「…………ああ、そういうことか」
 アィルは苦虫を噛み潰したような顔をして答える。
 何をするのだろうと思ってみていると、アィルは懐から短剣を取り出して指先に当てた。
 指先から血が流れる。

「こういうことだろ?」

 そう言ってその血を箱の上に垂らした。
 赤い色が広がって、そして吸い込まれるように消えた。
 カチリと何かがはまるような音がして、ゆっくりと箱の一部が開かれる。

 中から出てきたのは細い銀色の指輪だった。
 黄色い宝石がついている。

「……それだけ?」
 ヴィオルウスは疑問に思って問い掛けてみる。
 けれどアィルはそれを凝視したまま動かない。
 短剣をしまうのすら忘れたように。
「……アィル?」
 呼びかけると、其の声に肩を震わせた。

 怯えたような
(何に)
 目が、ヴィオルウスを捉える。

「大丈夫?」
「ああ、……何でもない」
 ため息をついて髪をかきあげるアィルの行動は、どう見ても何でもないとは思えない。
「……歩き通しだったから疲れたろ。今日はもう休もう」


 結局、そのまま部屋を出てしまったアィルを追うこともできず、ヴィオルウスは割り当てられた部屋に戻った。
 明かりをつけずに部屋の中央まで進む。
 わずかな月明かりが照らし出すその光はヴィオルウスには届かず、ただ淡く輝く。
 ベッドまでたどり着いて横になると、月が見えた。
 どうやら疲れていたらしく、ヴィオルウスの意識は徐々に薄れていった。


 ――赤。

 取り出された記憶はまだ完全ではなく思い出せずにいる。
 けれどそれは純然たる記憶。
 現実に、起こったこと。
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