小説用倉庫。
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ザザッ――!!
藪の方から大きな音がして、人が転がり出てきた。
嫌でも慣れた色。
「ルシェイド?」
彼はこちらを見て一瞬安堵に顔を歪ませた。
(安堵?)
「何を……」
「何をしているんだ!」
聞こうとしていたことをそっくりそのまま返され、アィルは困惑する。
「こんな、ところで……!」
理不尽な怒りだと思ったけれど、それが心から自分を心配してのことだとわかったので、何も言わずただルシェイドを見つめた。
「……何見てるんだよ。平和そうな顔をして! 僕たちがどれだけ……ッ!」
「ルシェイド、見つかったのか?」
漆黒の夜のような声が、ルシェイドの声をさえぎった。
「ディリク……」
「あぁ、こんなところにいたのか」
ため息とともに言われた言葉。
「話が見えないんだけど、俺、今までおまえと一緒にいたよな?」
眉間にしわを寄せてルシェイドを指差すと、彼らは互いに顔を見合わせた。
「何を言っているんだ? ルシェイドはずっと私と一緒におまえを探していたが」
困惑したようにディリクが言う。
ルシェイドを見ると、なぜか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……あいつはおまえじゃないのか?」
憮然とした声で、それでもルシェイドは答える。
「……僕だよ。たぶんね」
「はぁ? 多分って何だ多分て」
「同じ存在がひとつ所に一緒にいることはできないって事さ」
この話は終わりだとばかりに半ば投げやりに右手を振る。
「そんなことより、どうしてアィルはここにいるんだい?」
「どうしてって、歩いていたら着いたんだ」
「それはありえない」
ありのままを答えたつもりだったのに、ディリクに一蹴されてしまった。
「ここは人間がいるところではない。普通に歩いて辿り着くことはまず無理なんだ」
「でも、ヴィオルウスが……」
言いかけて、視線を向ける。
城の、ある方角に。
「あそこに、いるのか?」
「……わからない。だけど……」
沈黙が下りる。
城に行かなければならない気がする。
けれど行ってはいけないと心のどこかで誰かが叫ぶ。
どうしようか迷っていると、ルシェイドがぽつりと言った。
「どうして、あの子は君を選んだんだろうね」
本当に聞き取りにくいほどかすかに呟かれた言葉。
(どうして)
(君を)
「選んだって、どういうことだよ」
ルシェイドはアィルを見て告げる。
「行こう。多分、あそこに答えがある」
藪の方から大きな音がして、人が転がり出てきた。
嫌でも慣れた色。
「ルシェイド?」
彼はこちらを見て一瞬安堵に顔を歪ませた。
(安堵?)
「何を……」
「何をしているんだ!」
聞こうとしていたことをそっくりそのまま返され、アィルは困惑する。
「こんな、ところで……!」
理不尽な怒りだと思ったけれど、それが心から自分を心配してのことだとわかったので、何も言わずただルシェイドを見つめた。
「……何見てるんだよ。平和そうな顔をして! 僕たちがどれだけ……ッ!」
「ルシェイド、見つかったのか?」
漆黒の夜のような声が、ルシェイドの声をさえぎった。
「ディリク……」
「あぁ、こんなところにいたのか」
ため息とともに言われた言葉。
「話が見えないんだけど、俺、今までおまえと一緒にいたよな?」
眉間にしわを寄せてルシェイドを指差すと、彼らは互いに顔を見合わせた。
「何を言っているんだ? ルシェイドはずっと私と一緒におまえを探していたが」
困惑したようにディリクが言う。
ルシェイドを見ると、なぜか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……あいつはおまえじゃないのか?」
憮然とした声で、それでもルシェイドは答える。
「……僕だよ。たぶんね」
「はぁ? 多分って何だ多分て」
「同じ存在がひとつ所に一緒にいることはできないって事さ」
この話は終わりだとばかりに半ば投げやりに右手を振る。
「そんなことより、どうしてアィルはここにいるんだい?」
「どうしてって、歩いていたら着いたんだ」
「それはありえない」
ありのままを答えたつもりだったのに、ディリクに一蹴されてしまった。
「ここは人間がいるところではない。普通に歩いて辿り着くことはまず無理なんだ」
「でも、ヴィオルウスが……」
言いかけて、視線を向ける。
城の、ある方角に。
「あそこに、いるのか?」
「……わからない。だけど……」
沈黙が下りる。
城に行かなければならない気がする。
けれど行ってはいけないと心のどこかで誰かが叫ぶ。
どうしようか迷っていると、ルシェイドがぽつりと言った。
「どうして、あの子は君を選んだんだろうね」
本当に聞き取りにくいほどかすかに呟かれた言葉。
(どうして)
(君を)
「選んだって、どういうことだよ」
ルシェイドはアィルを見て告げる。
「行こう。多分、あそこに答えがある」
城に向かって進むにつれて、アィルは今いる場所がさっきまでと違うことを認識せざるを得なくなった。
「何かいる……」
警戒して言うと、呆れたように肩をすくめてルシェイドが答える。
「当たり前だよ。ここだって生き物住んでるんだからね」
さっきまでいたところは生き物の気配などなかった。
飛んでいた鳥でさえ、動かなければわからなかったほどに。
あとは――。
思い出したものに思わず口元を覆うと、怪訝そうにディリクが口を開く。
「どうかしたか?」
「……何でもない」
「無理はするな」
わかっていると口を開きかけ、不意に城の方を仰ぎ見る。
暗くなってきている。
それも城の一部分だけが。
見ていると、雷が落ちた。
地を揺るがすほどの轟音。
「急ごう。手遅れになる前に」
ルシェイドが厳しい顔つきで走り出す。
つられて走る。
城の方へ。
城の入り口まで来ると、誰かが座っているのが見えた。
獣の耳が生えている。
青年のようだ。
負傷しているのか、衣類の所々が裂け、赤いものが滲んでいる。
彼はこちらに気づくと、右肩を抑えながら立ち上がった。
「ルシェイド、急いでくれ。グラディウスが中にいるんだ」
かすれた声。
「……わかった。アレン、他の者は?」
「いない。退避、させてある」
「少し休め。酷い怪我だ」
ディリクが心配そうに言うと、アレンは唇の端をあげて笑った。
「……平気だ。オレは、丈夫だからさ」
ふと、笑顔を消すと、厳しい顔で城の方にあごをしゃくる。
「行ってくれ。止められるのは、多分おまえたちだけだろ。……頼んだよ」
ルシェイドはアレンに手を貸し、彼が座っていたところにもう一度座らせる。
「すぐ戻るから」
そう言って手を翳す。
淡い光。
癒しの。
アレンは目を閉じた。
どうやら眠りに落ちたらしい。
「ルシェイド」
「……平気だよ」
苦笑して、アレンから目を逸らす。
「行こう……」
「何かいる……」
警戒して言うと、呆れたように肩をすくめてルシェイドが答える。
「当たり前だよ。ここだって生き物住んでるんだからね」
さっきまでいたところは生き物の気配などなかった。
飛んでいた鳥でさえ、動かなければわからなかったほどに。
あとは――。
思い出したものに思わず口元を覆うと、怪訝そうにディリクが口を開く。
「どうかしたか?」
「……何でもない」
「無理はするな」
わかっていると口を開きかけ、不意に城の方を仰ぎ見る。
暗くなってきている。
それも城の一部分だけが。
見ていると、雷が落ちた。
地を揺るがすほどの轟音。
「急ごう。手遅れになる前に」
ルシェイドが厳しい顔つきで走り出す。
つられて走る。
城の方へ。
城の入り口まで来ると、誰かが座っているのが見えた。
獣の耳が生えている。
青年のようだ。
負傷しているのか、衣類の所々が裂け、赤いものが滲んでいる。
彼はこちらに気づくと、右肩を抑えながら立ち上がった。
「ルシェイド、急いでくれ。グラディウスが中にいるんだ」
かすれた声。
「……わかった。アレン、他の者は?」
「いない。退避、させてある」
「少し休め。酷い怪我だ」
ディリクが心配そうに言うと、アレンは唇の端をあげて笑った。
「……平気だ。オレは、丈夫だからさ」
ふと、笑顔を消すと、厳しい顔で城の方にあごをしゃくる。
「行ってくれ。止められるのは、多分おまえたちだけだろ。……頼んだよ」
ルシェイドはアレンに手を貸し、彼が座っていたところにもう一度座らせる。
「すぐ戻るから」
そう言って手を翳す。
淡い光。
癒しの。
アレンは目を閉じた。
どうやら眠りに落ちたらしい。
「ルシェイド」
「……平気だよ」
苦笑して、アレンから目を逸らす。
「行こう……」
内部は酷いありさまだった。
元は整理されていたであろう空間は、暴風雨に見舞われたとしか思えない様相を示していた。
「何があったんだ……?」
呆然とするアィルの手を取って、ルシェイドは半ば強引に移動させる。
「早く」
何かを焦っているかのような表情に首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「……いいから、急いでくれないか」
ディリクが低い声で言う。
しかたなしに、アィルは先を行くルシェイドのあとをついていった。
ギリギリで避けた、つもりだった。
けれど実際は壁に激突するわ、服の袖が破れるわで全然避けられないことが示されている。
すでに満身創痍といっていい状態だ。
「……いってぇー……」
たいして表情も変えずに呟くと、顔を上げる。
相手はすでに致死の魔法を放とうとしていた。
もう駄目かなと一瞬考える。
防御の魔法は間に合わない。
走ったところで逃げられないだろう。
観念して目を瞑る。
元は整理されていたであろう空間は、暴風雨に見舞われたとしか思えない様相を示していた。
「何があったんだ……?」
呆然とするアィルの手を取って、ルシェイドは半ば強引に移動させる。
「早く」
何かを焦っているかのような表情に首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「……いいから、急いでくれないか」
ディリクが低い声で言う。
しかたなしに、アィルは先を行くルシェイドのあとをついていった。
ギリギリで避けた、つもりだった。
けれど実際は壁に激突するわ、服の袖が破れるわで全然避けられないことが示されている。
すでに満身創痍といっていい状態だ。
「……いってぇー……」
たいして表情も変えずに呟くと、顔を上げる。
相手はすでに致死の魔法を放とうとしていた。
もう駄目かなと一瞬考える。
防御の魔法は間に合わない。
走ったところで逃げられないだろう。
観念して目を瞑る。
予想していたことは何も起こらなかった。
何が、と思って顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。
その向こうにも見たことのある青年がいる。
どうやら結界を張ってくれているらしい。
「……ルシェイド……?」
彼は半分泣きそうな顔でこちらを睨みつけると、その場に膝をついた。
「この、馬鹿! おまえは、子供に親を殺させる気なのか!?」
「いや、そんなつもりはなかったけど……でも、こっちが攻撃するわけにはいかないし……」
安堵と怒りの混ざったルシェイドの顔を見て、あぁなんだか嬉しいなと、こんなときなのに笑ってしまう。
「だから、君は馬鹿だっていうんだよ! グラディウス……!」
「……悪かった」
「……あんた、ヴィオルウスの親なのか?」
第三者の声が聞こえて、初めてグラディウスはまわりに視線を送った。
「きみ、誰?」
「俺はアィル」
「……ヴィオルウスが選んだ子だよ」
ルシェイドが静かに口を挟む。
その言葉に、グラディウスが驚いたようにアィルを見た。
けれどそれも一瞬で、すぐに納得したように視線を落した。
「……そう、そうか……」
何が、と思って顔を上げると、そこには見慣れた顔があった。
その向こうにも見たことのある青年がいる。
どうやら結界を張ってくれているらしい。
「……ルシェイド……?」
彼は半分泣きそうな顔でこちらを睨みつけると、その場に膝をついた。
「この、馬鹿! おまえは、子供に親を殺させる気なのか!?」
「いや、そんなつもりはなかったけど……でも、こっちが攻撃するわけにはいかないし……」
安堵と怒りの混ざったルシェイドの顔を見て、あぁなんだか嬉しいなと、こんなときなのに笑ってしまう。
「だから、君は馬鹿だっていうんだよ! グラディウス……!」
「……悪かった」
「……あんた、ヴィオルウスの親なのか?」
第三者の声が聞こえて、初めてグラディウスはまわりに視線を送った。
「きみ、誰?」
「俺はアィル」
「……ヴィオルウスが選んだ子だよ」
ルシェイドが静かに口を挟む。
その言葉に、グラディウスが驚いたようにアィルを見た。
けれどそれも一瞬で、すぐに納得したように視線を落した。
「……そう、そうか……」
「いつまで喋ってる!」
突然ディリクが怒鳴る。
見ると、魔法戦では埒があかないと思ったらしいヴィオルウスと肉弾戦で戦っていた。
こちらに気を取られた隙にディリクに対し強烈な蹴りを放つ。
とっさにガードしたものの、こらえきれずに飛ばされる。
近くに転がってきたディリクを見て、ルシェイドがぼそりと呟いた。
「……ディリク、鍛錬怠けてるね?」
「……きちんとやっている。あいつがあんなに武術の腕が良いとは聞いていないぞ」
どこか憮然とした口調でディリクが答える。
「あいつ……あんなに強かったのか……」
「本来ヴィオルウスは攻撃力の方が高いからね」
話をしている間に、ヴィオルウスは今度は何かを呟き始めた。
「何て言ってるんだ?」
「詠唱の、……魔法だよ。ディリク、防御結界!」
叫ぶ。
と、皆の前に薄い膜のようなものが瞬時にできた。
「返すよ。グラディウス、反射を」
とっさに、グラディウスが両手を前に突き出す。
ヴィオルウスの声がひときわ高く響いたかと思うと、床が振動するほどの衝撃が声を中心に広がっていった。
大半がディリクの張った結界で相殺されたが、残りがグラディウスを直撃する。
「……く……ッ!」
ルシェイドが、苦しげにうめく彼の両手に向けて低く何かを呟いた。
閃光。
思わず目を覆う。
「もう良いよ」
目を開けるとヴィオルウスが倒れていた。
「ヴィオルウス……!」
駆け寄ろうとすると、腕を掴まれた。
疲れたような顔で、グラディウスが言う。
「頼みが、あるんだ……」
突然ディリクが怒鳴る。
見ると、魔法戦では埒があかないと思ったらしいヴィオルウスと肉弾戦で戦っていた。
こちらに気を取られた隙にディリクに対し強烈な蹴りを放つ。
とっさにガードしたものの、こらえきれずに飛ばされる。
近くに転がってきたディリクを見て、ルシェイドがぼそりと呟いた。
「……ディリク、鍛錬怠けてるね?」
「……きちんとやっている。あいつがあんなに武術の腕が良いとは聞いていないぞ」
どこか憮然とした口調でディリクが答える。
「あいつ……あんなに強かったのか……」
「本来ヴィオルウスは攻撃力の方が高いからね」
話をしている間に、ヴィオルウスは今度は何かを呟き始めた。
「何て言ってるんだ?」
「詠唱の、……魔法だよ。ディリク、防御結界!」
叫ぶ。
と、皆の前に薄い膜のようなものが瞬時にできた。
「返すよ。グラディウス、反射を」
とっさに、グラディウスが両手を前に突き出す。
ヴィオルウスの声がひときわ高く響いたかと思うと、床が振動するほどの衝撃が声を中心に広がっていった。
大半がディリクの張った結界で相殺されたが、残りがグラディウスを直撃する。
「……く……ッ!」
ルシェイドが、苦しげにうめく彼の両手に向けて低く何かを呟いた。
閃光。
思わず目を覆う。
「もう良いよ」
目を開けるとヴィオルウスが倒れていた。
「ヴィオルウス……!」
駆け寄ろうとすると、腕を掴まれた。
疲れたような顔で、グラディウスが言う。
「頼みが、あるんだ……」
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