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2012/02/05 (Sun)
 ザザッ――!!

 藪の方から大きな音がして、人が転がり出てきた。
 嫌でも慣れた色。
「ルシェイド?」
 彼はこちらを見て一瞬安堵に顔を歪ませた。
(安堵?)
「何を……」
「何をしているんだ!」

 聞こうとしていたことをそっくりそのまま返され、アィルは困惑する。
「こんな、ところで……!」
 理不尽な怒りだと思ったけれど、それが心から自分を心配してのことだとわかったので、何も言わずただルシェイドを見つめた。
「……何見てるんだよ。平和そうな顔をして! 僕たちがどれだけ……ッ!」

「ルシェイド、見つかったのか?」
 漆黒の夜のような声が、ルシェイドの声をさえぎった。
「ディリク……」
「あぁ、こんなところにいたのか」
 ため息とともに言われた言葉。

「話が見えないんだけど、俺、今までおまえと一緒にいたよな?」
 眉間にしわを寄せてルシェイドを指差すと、彼らは互いに顔を見合わせた。
「何を言っているんだ? ルシェイドはずっと私と一緒におまえを探していたが」
 困惑したようにディリクが言う。

 ルシェイドを見ると、なぜか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……あいつはおまえじゃないのか?」
 憮然とした声で、それでもルシェイドは答える。
「……僕だよ。たぶんね」
「はぁ? 多分って何だ多分て」
「同じ存在がひとつ所に一緒にいることはできないって事さ」
 この話は終わりだとばかりに半ば投げやりに右手を振る。

「そんなことより、どうしてアィルはここにいるんだい?」
「どうしてって、歩いていたら着いたんだ」

「それはありえない」
 ありのままを答えたつもりだったのに、ディリクに一蹴されてしまった。
「ここは人間がいるところではない。普通に歩いて辿り着くことはまず無理なんだ」
「でも、ヴィオルウスが……」
 言いかけて、視線を向ける。

 城の、ある方角に。

「あそこに、いるのか?」
「……わからない。だけど……」
 沈黙が下りる。

 城に行かなければならない気がする。

 けれど行ってはいけないと心のどこかで誰かが叫ぶ。
 どうしようか迷っていると、ルシェイドがぽつりと言った。

「どうして、あの子は君を選んだんだろうね」

 本当に聞き取りにくいほどかすかに呟かれた言葉。

(どうして)
(君を)

「選んだって、どういうことだよ」
 ルシェイドはアィルを見て告げる。

「行こう。多分、あそこに答えがある」
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