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2012/02/05 (Sun)
「フェイネスは別にどうでもいいんだけど。彼がいないと駄目なんだよ」
 怪訝そうに方眉を寄せると、彼は苦笑した。

 フェイネスは、今回の暗殺目標だった。
 ロスウェルの、次の王位継承者。
 それを、どうでもいいと。
 言い切るこの子供は。

「おまえは、一体何なんだ?」
 落ち着くように自分に言い聞かせて、問い掛ける。
 けれど彼は笑みを深くしただけで答えない。

 右手を上げ、前を指差す。
 自分の、背後。
 来た方向を。

「去れ。ここはまだおまえの来るところじゃないよ」

 そうして右手を一振り。
 視界が白く染まるのがわかったが、どうしたらいいかもわからなかった。


「……おんしが、侵入者かえ?」
 目眩のする頭を振ると、目の前に自分の胸のあたりほどもない背の小さな女性がいた。
 さっきの廊下ではない、ここはどこかの部屋のようだった。

「答えよ」
 なおも黙っていると、彼女はきつい口調で言い放った。
 毅然とした。
 声。
 よく注意してみると、どうやら目が見えないようだ。
 こちらの方を向いているが場所がわかっているわけではないらしい。

「侵入者はここに連れてこられるようになっておる。……もしやと思うが、口が聞けぬのかえ?」
「……ここはどこだ」
 絞り出すような小さな声で応えると、彼女はぴたりとこちらに顔を向けてきた。
「先に聞いたのは私のほうじゃが……?」
 徐々にいらいらしてきて、唐突にこの目の前の女性を殴りたい衝動に駆られた。
 けれどそれは何とか押さえ込む。
「ああ、そうだよ。侵入したさ!」
 自棄のように肯定すると、彼女はひとつ頷き、背後に向かって呼びかけた。
「ラクス! そこにおるか?」
「……なんだよ。どうした?」
 すぐに背後の扉が開き、男がひとり出てきた。
2012/02/05 (Sun)
 男はこちらの姿を認めると驚いた顔になる。
「侵入者だそうじゃ。城の外まで送ってやれ」
「侵入者なら捕まえるとかしないのか?」
 呆れたようにラクスという男が言う。
 このふたりくらい殺してここから出ることができたが、なんとなく釈然としないのでそのまま成り行きを見ていると、女性の方がこちらを見た。
「普通ならそうじゃが、ルシェイドがここに送ってきたのでな。殺さずにおけと、いうことじゃろう」
「……だからって何で俺が」
「他に誰かおるかぇ?」
「いねぇよ! わかったよやるよ! やればいいんだろ!」
「わかれば良い」

 漫才のようなふたりに、つい口元が緩む。
「くそ! 笑われてんじゃねぇかよ!」
 ラクスは顔を手で覆って天を仰ぐ。

「……じゃあ、ついて来いよ」
 気を取り直したのか、こちらを見て促す。

「しっかりせいよ」
「……覚えてろよ! ヒウリ!!」
 捨て台詞を残して部屋から出ていく。
「ほれ、おんしも早う行かんか。ぐずぐずしておると衛兵を呼ぶぞ」

「……ひとつ聞きたい。あの、少年は誰だ?」

「ふむ? ルシェイドのことかぇ?」
「金の目の……」
 言いかけると、ヒウリは微笑んだ。
「彼はおんしを殺さなんだ。そのうち会えるじゃろうて」

「早くしろよ! おいてくぞ!」
 少し遠くから声が聞こえてくる。

「これをやろう。記念じゃ」
 近くの机に近づき、その上においてある袋を手に取る。
 それをこちらの方角にあやまたずに投げたので、感心してヒウリを見た。
「友人の目が覚めた祝いでな。少し残っておったからの」
「……ありがとう」
 礼を言うと、柔らかな笑みを見せた。
「ではな」
 片手を挙げるヒウリを残して部屋から出る。

 通路の奥の方でラクスが待っていた。
「何やってんだよ。早くしないと祭りが終わるぞ」
 小走りに近くまで行くと、なぜか驚いたように目を丸くしている彼と眼があった。

「……何か」
「いや、おまえって足音全然しねぇのな。すげぇ」
 変なところで感心されてしまった。
「ところで何しにこんなところまで来たんだ?」
「フェイネスを殺しに」
 普通に答えると、ふぅんと言ってラクスは数秒黙った。

 そして首を傾げると、歩調を緩めた。
「それって、暗殺ってことか?」
「まぁ、有体に言えばそういうことだが」

「でも運が悪かったよな。ルシェイド相手じゃ誰もかなわねぇよ」
2012/02/05 (Sun)
 笑って言う彼には、今ここで殺されるかもしれないという不安はないのだろうか。
 暗殺に来た自分とすぐ隣を歩いて平然としている。

「お、あそこが出口だ。後はわかるか?」
「ああ……」
「……何戸惑ってんだよ。俺がこんな風に接するのが不思議なのか?」
 疑問に思っていたことを見抜かれたと思って、つい首を傾げてしまう。
 けれどかすかにだったので普通の人にはわからない程度だったが。
「ルシェイドの守りがあるから平気なんだよ。この城の中は。……今だけだけどな」
「そう……ですか」
「おう。じゃあな!」
 元気に手を振るラクスを残して、祭りの騒ぎでにぎやかな外に出る。

 彼はどこか踏青に似ている。
 不意に笑いがこみ上げた。
 手にはヒウリに貰った袋。
 どうやら中に入っているのは菓子の類らしい。

 東旭に良い土産ができた。
 仕事は失敗だったが、なんとなく気落ちしていない自分に驚く。

 祭りを少し眺めて、ヴェリィサに続く道へと進む。
 皆がロスウェルに集まってくれているおかげで帰りの馬車はほとんど誰もいなかった。

 やっと、帰れるのだ。
 あの場所に。
2012/02/05 (Sun)
 波間に漂う影。
 幻影。
 それは過去の。


 何とかしたかった。
 それは結局。

 どうにもならなかったけど。


 それでも、あの時。
 掴んだこの手があの人を救えたかもしれないのにと。


 遅すぎる後悔を。

 胸に秘めて。
2012/02/05 (Sun)
 夢を見た。
 大きな波が、小さな小さな船を飲み込むのだ。



 酒星の乗っていた船が転覆したと聞いたのは、その夢を見た翌朝のことだった。
 その船に乗っていたのは酒星を含めて5人。
 そして酒星を除いた4人が、その日シンズィスの浜に打ち上げられたのだ。
 船が出たのは1週間前。それで4人が無傷で、水もたいして呑まずに浜にいたことのほうが驚く。


「どういうことだよ。何であいつがいないんだ?」
 皆無傷で今は大事を取って診療所にいる。
 話を聞きに行って呆然とした。

「落ち着けよ、まだ死んだって決まってないだろ」
「俺はまだ何も言ってねぇ!」
 すごく馬鹿にした口調で薄氷が言ってくるので、つい怒鳴ってしまう。
「違うのか?」
「……煩いッ!」

「落ち着きな、ふたりとも」
「そうだよッ!今捜索隊出そうって話でてんだから、大丈夫だって!」
 声をかけてきたのは東旭と、その姉である冬杣だ。
 血が繋がっていると聞いたことがあるが、性格はほとんど似ていない。
 東旭が元気に肩を叩いてくるので、少しよろけてしまう。
「おまえ……もう少し体力つけたほうがいいんじゃないか?」
「余計なお世話だよ!」
 薄氷はいつも一言多いと思う。
 何度腹が立ったことか。

「そういやさ、昼ご飯まだ? 時間があるならちょっと出かけたいんだけど」
 薄氷が冬杣に話し掛けている。
 冬杣は切れ長の目を薄氷に向け、静かに口を開いた。
「もうそろそろできるはずだよ。……行ってみたらいい」
「そうする。お馬鹿な踏青はもう少しここにいるかい?」
「行くよッ! ていうか誰が馬鹿だ!」
「おまえ以外に誰がいるってんだよ」

 ふたりの声が遠ざかっていくのを、その場にいるほぼすべての人が微笑みながら見守っていた。
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