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2024/11/22 (Fri)
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2012/02/05 (Sun)
 その日、彼はいつものように窓辺に椅子を持って来て座っていた。
 何をするでもなく、ただ座って窓の外を見る。
 光に溢れたここは、闇に覆われることはない。

 誰が最初に呼んだのか知らない。
 ここは神界と呼ばれる、神族達の集う場所。

 彼がいるところは、神族達の大半が住む城の最上階。


 ふと、彼は部屋に目をやる。
 机と椅子と、ベッドなどが置かれた、広い部屋。
 一瞥して彼は立ち上った。
 赤い髪が揺れる。
 彼はそのまま部屋を出ていった。





「エディウス様! お出かけですか?」
 長い廊下で、彼を見つけた青い髪の青年が話しかける。
 エディウスは青年の顔を見つめてから口を開く。

「……散歩に、いってくるよ」
 青年に笑顔で見送られ、彼はそのまま進んで行った。
2012/02/05 (Sun)
 廊下を端まで歩き、屋上へ続く階段をあがる。
 眩しい陽射しと、柔らかな風が、エディウスを迎えた。
 穏やかな春のような神界を見渡して、屋上の中心にいく。

 界を渡るための門を開く。
 門は何処からでも開けるが、緊急以外は屋上を使うようにしていた。

 目の前に、光の壁が現れる。
 それを通り抜けると、あたりは暗くなった。
 光は通り抜けたときに消えている。

「……夜かな……」

 人界に来ようと思ったのは大した理由ではなかった。
 暇だったから、とか。
 なんとなく、とか。
 ただの気まぐれだ。
 神界ではこない夜を見に来たのかもしれない。

 空で星が瞬く。
 それを見るのが好きだったし、それは彼の城では見られないものだった。
 さくさくと、草を踏みながら歩く。
 当てがあるわけではなかったが、とりあえず歩いた。
 湖の側の広場みたいなところを見つけて、そこの草むらに寝転ぶ。

 見上げた先には星がある。
 今日は満月なのか、丸い月も見えた。
 静かな夜の空気を吸い込み、目を閉じる。
2012/02/05 (Sun)
 そのまま眠ってしまったのか、目を開けたら太陽があった。
 ふと横を見ると、金色の光が目に入った。

 綺麗な、金の髪。

 エディウスの横に座って、湖のほうを見ている。
 緑の瞳で。
 毅然と。
 それは何かの絵のようで。
 言葉を発するのは躊躇われたけれど。

「……君は……」
 声をかけると、彼は驚いたようにこちらを見た。
 彼はこちらが驚くほど幼い顔をしていた。
「起きたか。こんなところに寝ているから死体かと思ったぞ」
 年齢に合わない口調で、眉をひそめる。

 身体を起こし、周りを見ると、近くの木に馬が繋いであった。
 少年は立ち上がると、その馬のほうに歩いていく。
「……君は、誰だね……」
 馬を引いて、彼は近くに戻ってきた。
「私はフォリィア=アルファル=レイ=シェスタ。君はこんなところで何をやっているんだ?」
 淡々と聞いてくる彼に、エディウスは首をかしげる。
 そんなエディウスの様子にフォリィアは溜息を吐く。

 しばらく沈黙が下りる。
「……散歩を、しようと思って……」
 ぽつりと、フォリィアの顔を見ながら言う。
 それを聞いた彼は眉間に皺を寄せた。
「散歩で、君はこんなところにくるのか?」
 険を含んだ彼の言葉を遮るように、周囲の木々がざわめいた。
2012/02/05 (Sun)
 馬が嘶く。
 フォリィアは舌打ちをして剣を抜く。
 こんな幼い少年が剣を使うのかということにエディウスは僅かに目を見開く。
 その剣は飾りではなく、実用的なものだった。

 思考を遮るように木々の暗がりからゆっくりと出てきたのは、少年よりはるかに大きなものだった。
「……魔獣か」
 黒々とした毛並みと大きな体躯は熊を思わせたが、背中から突き出たモノや尻尾などのおかげでまったく違うものだと認識させられる。
「……キメラ……? こんなところに……」
 驚いたようにエディウスが呟く。
「……少年。……それは、剣じゃ……」
 言い終える前に、フォリィアは斬りかかっていた。

 しかし、魔獣の身体は剣を通さなかった。
 毛並みに剣を弾かれ、たたらを踏む。
「……剣じゃ倒せないから……」
 フォリィアはエディウスをちらりと見て、剣を収める。

 そして、右手を前に突き出した。
 風が集まっていく。
 それは風の、魔法。
2012/02/05 (Sun)
「…………!」
 エディウスはとっさにそれを防ぐ魔法を紡ぐ。
 魔獣を守るように。

 魔法が相殺されたことに気づいたフォリィアはエディウスのほうを見て怒鳴った。
「何をする!」
 エディウスはそれに応えず、立ち上って魔獣のほうに向かった。
 魔獣は唸り声を発して警戒している。
 触れれば届きそうなほど近くに行き、じっとみつめあう。

 不意に手を伸ばして、エディウスは魔獣の体に触れた。
「……いい子だ……」
 そっと呟いて、右手を横に振る。
 振った後にできたのは、門だった。
 界を渡るための。
 けれど光の壁ではない、暗い、門だ。
「……帰りなさい。……君のいる場所は、向こうだ……」
 魔獣はエディウスを見て、静かに門を潜った。
 通り過ぎたのを確認すると、エディウスはまた手を振って闇を消す。

 振り返ると驚愕の目でフォリィアが見ていた。
「何だ……?」
「……彼は、元々この人界に住むものじゃないから、帰しただけだよ……」
「魔獣のことを知っているのか?」
 エディウスは少し遠くを見るような目で答えた。
「あれは、……ぼくたちは魔獣とは呼んでいない……」
 訝しげにフォリィアは目を細める。
「……キメラと、……」
「……何だ、それは?」
 目を伏せて、彼は答えない。
 フォリィアは近寄ると、袖を引っ張った。
 身長がエディウスの腰のあたりまでしかないので見上げる形になる。

「答えろ」
 視線を合わせ、それでも躊躇うふうに眉を寄せるだけだ。
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