小説用倉庫。
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「分不相応ってものさ」
突然聞えた声に、フォリィアは剣の柄を握って身構える。
「……ルシェイド……?」
「大当たりッ!」
声とともに、空間が揺らいで人が出てきた。
青緑の髪を揺らせてフォリィアに手を振る。
「僕は丸腰だから、剣は抜かないでほしいな」
「知り合いか?」
胡散臭そうにフォリィアが聞く。
答える前にルシェイドは近くに寄ってきた。
「僕はルシェイド。よろしくね。シェスタの王様」
その言葉に、息を呑んだのはフォリィアだ。
驚きに目を見張る彼を見て、爽やかに笑う。
金の瞳が光りを放つ。
「そんなに驚かなくても。ねぇ」
エディウスを振り返って言った彼に、首をかしげて問う。
「……どうかしたの? ルシェイド……」
「何が?」
「……何か、元気がないようだから……」
心配そうな顔で言われたことに、ルシェイドは苦笑した。
「さすがに鋭いね」
「おい、なぜ君は私のことを王と呼んだのだ。私は王ではないぞ」
「でも王位継承者でしょ?」
「ひとりめのな」
苦虫を噛み潰したような表情を見て、エディウスとルシェイドは顔を見合わせる。
突然聞えた声に、フォリィアは剣の柄を握って身構える。
「……ルシェイド……?」
「大当たりッ!」
声とともに、空間が揺らいで人が出てきた。
青緑の髪を揺らせてフォリィアに手を振る。
「僕は丸腰だから、剣は抜かないでほしいな」
「知り合いか?」
胡散臭そうにフォリィアが聞く。
答える前にルシェイドは近くに寄ってきた。
「僕はルシェイド。よろしくね。シェスタの王様」
その言葉に、息を呑んだのはフォリィアだ。
驚きに目を見張る彼を見て、爽やかに笑う。
金の瞳が光りを放つ。
「そんなに驚かなくても。ねぇ」
エディウスを振り返って言った彼に、首をかしげて問う。
「……どうかしたの? ルシェイド……」
「何が?」
「……何か、元気がないようだから……」
心配そうな顔で言われたことに、ルシェイドは苦笑した。
「さすがに鋭いね」
「おい、なぜ君は私のことを王と呼んだのだ。私は王ではないぞ」
「でも王位継承者でしょ?」
「ひとりめのな」
苦虫を噛み潰したような表情を見て、エディウスとルシェイドは顔を見合わせる。
ふいに、ルシェイドはああ、と言って手を叩いた。
「それより、エディウスに言うことがあって来たんだよ」
「……何?」
「リーヴァセウスが死んだよ。……ついさっきね。今度はグラディウスが、王になった。これを知らせようと思って」
にっこりと笑って。
「そう……」
「それじゃ。ああ、そうそう。人間は、人界から出ることはできないよ。……そういう、決まりなのさ」
「おい、それはどういう……」
皆まで言い終わらないうちに、ルシェイドの姿は霞となって消え失せた。
困惑した表情でフォリィアはエディウスを振り返る。
「あいつは何なんだ?」
「……ルシェイド、と。……確か……ミッシュローア……に、記述があったと、思う……」
顎に手を当てて考えこむ。
「……ルシェイドねぇ。あいつのおかげで分からないことが増えたぞ」
憤慨したようにソファに座る。
それから数時間、フォリィアはさまざまな質問を繰り出した。
外が暗くなりはじめたことにも気づかない。
「で、そいつが死んだから、そのグラディウスっていうやつが、魔界の王になった、と。そういうことか」
視線を落としてエディウスは答えない。
「……そいつと知りあいだったのか」
「……ぼくの、母が死んだ時に、……」
そしてまた黙り込む。
フォリィアはソファに深く腰掛けて、エディウスを見ていた。
表情の乏しい彼からは、その悲しみの深さも、ほとんど分からない。
溜息を吐いてフォリィアはお茶を注ぎ足した。
「まぁ、大体のところは分かった。……魔界の王は分かったが、神界の王は誰なんだ?」
ふと思いついたように問いかける。
エディウスはきょとんとした顔で、自分を指差す。
「……まさか、君なのか?」
こくんとうなずく。
「……母から、受け継いだんだ……。一応神界で一番力が、強かったから……」
「そうか」
俄かには信じられないというような表情で下を向く。
「それより、エディウスに言うことがあって来たんだよ」
「……何?」
「リーヴァセウスが死んだよ。……ついさっきね。今度はグラディウスが、王になった。これを知らせようと思って」
にっこりと笑って。
「そう……」
「それじゃ。ああ、そうそう。人間は、人界から出ることはできないよ。……そういう、決まりなのさ」
「おい、それはどういう……」
皆まで言い終わらないうちに、ルシェイドの姿は霞となって消え失せた。
困惑した表情でフォリィアはエディウスを振り返る。
「あいつは何なんだ?」
「……ルシェイド、と。……確か……ミッシュローア……に、記述があったと、思う……」
顎に手を当てて考えこむ。
「……ルシェイドねぇ。あいつのおかげで分からないことが増えたぞ」
憤慨したようにソファに座る。
それから数時間、フォリィアはさまざまな質問を繰り出した。
外が暗くなりはじめたことにも気づかない。
「で、そいつが死んだから、そのグラディウスっていうやつが、魔界の王になった、と。そういうことか」
視線を落としてエディウスは答えない。
「……そいつと知りあいだったのか」
「……ぼくの、母が死んだ時に、……」
そしてまた黙り込む。
フォリィアはソファに深く腰掛けて、エディウスを見ていた。
表情の乏しい彼からは、その悲しみの深さも、ほとんど分からない。
溜息を吐いてフォリィアはお茶を注ぎ足した。
「まぁ、大体のところは分かった。……魔界の王は分かったが、神界の王は誰なんだ?」
ふと思いついたように問いかける。
エディウスはきょとんとした顔で、自分を指差す。
「……まさか、君なのか?」
こくんとうなずく。
「……母から、受け継いだんだ……。一応神界で一番力が、強かったから……」
「そうか」
俄かには信じられないというような表情で下を向く。
「そういえば、彼はなぜ私を王と呼んだのだろう」
話題を変えようと、フォリィアが話を振る。
「……王ではないの?」
不思議そうな顔をして、首をかしげる。
「……言っただろう。私は王位継承者であって、王ではないのだ」
「……ひとりめって……」
「城に入る前に会ったあいつが、第2王位継承者だ」
嫌そうに吐き捨てる。
城に、入る前。
首をかしげて、そういえば人に会ったと思い出す。
「……ルーク、って、いう人……?」
「そうだ。私の、弟だ」
苦虫を噛み潰したように言われた言葉に、エディウスは驚く。
どう見ても、ルークのほうが背が大きかった。
兄弟だとは思わなかったけれど。
「不思議に思うだろう。あれでも50歳の差がある」
なのに、ルークは普通に成長して。
自分は成長が止まってしまっている。
「……ちょっと、いいかな……」
ふと、エディウスはフォリィアの頬に手を当てた。
思ったより冷たい手に、フォリィアは驚く。
エディウスは小さく魔法を唱えた。
当てた手が淡く輝く。
「……うわッ!」
突然その手が熱くなり、弾けるような音がした。
フォリィアは驚いて声をあげ、身を引く。
「なんだ、今のは!」
当てていた手をじっと見たまま、エディウスは答えない。
「フォリィア様! どうしました!?」
扉の外から何人かの足音と、声がした。
フォリィアはそちらを見て声をあげる。
「なんでもない。大丈夫だ」
その声で、扉の外から人の気配が遠ざかって行った。
「おい、今のは何なんだ。火傷するかと思ったぞ」
頬に手を当て、けれど何ともなっていないことに驚く。
「……魔法……。なんだろ……」
ぽつりと呟き、フォリィアを見る。
じっと、フォリィアがたじろぐほどに真っ直ぐ見つめた。
そのまま時間がすぎる。
話題を変えようと、フォリィアが話を振る。
「……王ではないの?」
不思議そうな顔をして、首をかしげる。
「……言っただろう。私は王位継承者であって、王ではないのだ」
「……ひとりめって……」
「城に入る前に会ったあいつが、第2王位継承者だ」
嫌そうに吐き捨てる。
城に、入る前。
首をかしげて、そういえば人に会ったと思い出す。
「……ルーク、って、いう人……?」
「そうだ。私の、弟だ」
苦虫を噛み潰したように言われた言葉に、エディウスは驚く。
どう見ても、ルークのほうが背が大きかった。
兄弟だとは思わなかったけれど。
「不思議に思うだろう。あれでも50歳の差がある」
なのに、ルークは普通に成長して。
自分は成長が止まってしまっている。
「……ちょっと、いいかな……」
ふと、エディウスはフォリィアの頬に手を当てた。
思ったより冷たい手に、フォリィアは驚く。
エディウスは小さく魔法を唱えた。
当てた手が淡く輝く。
「……うわッ!」
突然その手が熱くなり、弾けるような音がした。
フォリィアは驚いて声をあげ、身を引く。
「なんだ、今のは!」
当てていた手をじっと見たまま、エディウスは答えない。
「フォリィア様! どうしました!?」
扉の外から何人かの足音と、声がした。
フォリィアはそちらを見て声をあげる。
「なんでもない。大丈夫だ」
その声で、扉の外から人の気配が遠ざかって行った。
「おい、今のは何なんだ。火傷するかと思ったぞ」
頬に手を当て、けれど何ともなっていないことに驚く。
「……魔法……。なんだろ……」
ぽつりと呟き、フォリィアを見る。
じっと、フォリィアがたじろぐほどに真っ直ぐ見つめた。
そのまま時間がすぎる。
沈黙に耐えられなくなったフォリィアが何か話そうと口を開くのと、扉が叩かれるのはほぼ同時だった。
「誰だ」
「フォリィア様、食事どうします?」
開けて入ってきたのは、何回か会ったあの衛兵だった。
「……そうだな、運んでくれるか? ツェリーシュ」
「えっと、こちらの方のも、ですか?」
ちらりとエディウスのほうを見て問う。
「ああ、頼む」
「はい。分かりました。後半刻ほど待ってくださいね」
穏やかに笑って、静かに戸を閉める。
視線を落とした姿勢でかたまっているエディウスを見て、フォリィアは声をかけた。
「食事を頼んでしまったが、……泊まって行くか? ええと……」
そこで初めて、フォリィアは名前を聞いていないことに気づいた。
「……エディウス。……エディウス=ライア=セス=アルトゥーラス、だよ……」
長い名前を半ば虚ろに言って、けれど彼は顔を上げない。
「……ずいぶん長い名前だな」
「……え……」
驚いたようにエディウスが声をあげる。
「? だから、名前が長いと……」
それは微かな変化だったけど、フォリィアは怪訝そうな顔をした。
エディウスの顔色が変わったのだ。
「……もしかして、ぼく、名前を言ったの……?」
「ああ、何かまずいことでもあるのか?」
「……真名を……?」
フォリィアが頷くと、エディウスは片手で顔を覆った。
「何なんだ」
「……フォリィアは、王だから……。でも、……ぼくの名前は他の人に、言わないでくれる……?」
「名前?」
「エディウスは、いいけど……他の名前……」
顔を覆っているためにくぐもった声になっている。
「なぜ名前を言ったらいけないんだ?」
「……ぼくは魔法を使う。……神界の王という立場もある……不用意に名前を明かすことはできないんだ……」
「だから、どうして名前を言っては駄目なんだ」
分からないというように怪訝な顔をする。
言い淀んで、エディウスは口を開く。
「……名前はその人を縛る……。真名によって束縛されたら、……抗えないから……」
魔法を使う者はなおの事気をつけなくてはならない。
そういうことだ。
「そうか。私は知っていてもいいんだな」
フォリィアの言葉に頷く。
「誰だ」
「フォリィア様、食事どうします?」
開けて入ってきたのは、何回か会ったあの衛兵だった。
「……そうだな、運んでくれるか? ツェリーシュ」
「えっと、こちらの方のも、ですか?」
ちらりとエディウスのほうを見て問う。
「ああ、頼む」
「はい。分かりました。後半刻ほど待ってくださいね」
穏やかに笑って、静かに戸を閉める。
視線を落とした姿勢でかたまっているエディウスを見て、フォリィアは声をかけた。
「食事を頼んでしまったが、……泊まって行くか? ええと……」
そこで初めて、フォリィアは名前を聞いていないことに気づいた。
「……エディウス。……エディウス=ライア=セス=アルトゥーラス、だよ……」
長い名前を半ば虚ろに言って、けれど彼は顔を上げない。
「……ずいぶん長い名前だな」
「……え……」
驚いたようにエディウスが声をあげる。
「? だから、名前が長いと……」
それは微かな変化だったけど、フォリィアは怪訝そうな顔をした。
エディウスの顔色が変わったのだ。
「……もしかして、ぼく、名前を言ったの……?」
「ああ、何かまずいことでもあるのか?」
「……真名を……?」
フォリィアが頷くと、エディウスは片手で顔を覆った。
「何なんだ」
「……フォリィアは、王だから……。でも、……ぼくの名前は他の人に、言わないでくれる……?」
「名前?」
「エディウスは、いいけど……他の名前……」
顔を覆っているためにくぐもった声になっている。
「なぜ名前を言ったらいけないんだ?」
「……ぼくは魔法を使う。……神界の王という立場もある……不用意に名前を明かすことはできないんだ……」
「だから、どうして名前を言っては駄目なんだ」
分からないというように怪訝な顔をする。
言い淀んで、エディウスは口を開く。
「……名前はその人を縛る……。真名によって束縛されたら、……抗えないから……」
魔法を使う者はなおの事気をつけなくてはならない。
そういうことだ。
「そうか。私は知っていてもいいんだな」
フォリィアの言葉に頷く。
「それより、さっきのは……」
「フォリィア様! 開けますよー!」
げんなりとした表情で扉を振り返る。
扉を開けて入ってきたのは、ツェリーシュだった。
「お前はほんとにタイミングが悪いな」
「何の話ですか?」
「いや、なんでもない……」
「そういえば、ルーク様があちらの方のこと気にしてらしたんですけど、……男の方ですよね?」
料理を運びながら首をかしげて言う。
「お前は女に見えるのか?」
「いえ。全然」
「ならいいだろ」
呆れたような顔をしているフォリィアを見てツェリーシュが薄く笑う。
「あ、そちらの方名前なんて言うんですか?」
「エディウスだ。……それが?」
「だって、フォリィア様が友達だって連れてくるなんて初めてじゃないですか。それに綺麗だし」
にっこりと笑って答える。
「フォリィア様の従者をしてます、ツェリーシュです。よろしく」
エディウスに向かって笑いかける。
答えていいものかフォリィアを見ると、苦笑してうなずいていた。
「……こちらこそ」
ゆっくり微笑む。
ツェリーシュは見とれてぼうっとなる。
「いつまで突っ立ってる」
「だって、あんまり綺麗だからつい。いつこんな方とお知りあいになったんですか?」
「昨日」
「え?」
「いや。……もういいだろ」
「はーい。それじゃ、食事終わったら呼んでください」
一礼して彼は部屋を出ていった。
「フォリィア様! 開けますよー!」
げんなりとした表情で扉を振り返る。
扉を開けて入ってきたのは、ツェリーシュだった。
「お前はほんとにタイミングが悪いな」
「何の話ですか?」
「いや、なんでもない……」
「そういえば、ルーク様があちらの方のこと気にしてらしたんですけど、……男の方ですよね?」
料理を運びながら首をかしげて言う。
「お前は女に見えるのか?」
「いえ。全然」
「ならいいだろ」
呆れたような顔をしているフォリィアを見てツェリーシュが薄く笑う。
「あ、そちらの方名前なんて言うんですか?」
「エディウスだ。……それが?」
「だって、フォリィア様が友達だって連れてくるなんて初めてじゃないですか。それに綺麗だし」
にっこりと笑って答える。
「フォリィア様の従者をしてます、ツェリーシュです。よろしく」
エディウスに向かって笑いかける。
答えていいものかフォリィアを見ると、苦笑してうなずいていた。
「……こちらこそ」
ゆっくり微笑む。
ツェリーシュは見とれてぼうっとなる。
「いつまで突っ立ってる」
「だって、あんまり綺麗だからつい。いつこんな方とお知りあいになったんですか?」
「昨日」
「え?」
「いや。……もういいだろ」
「はーい。それじゃ、食事終わったら呼んでください」
一礼して彼は部屋を出ていった。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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