小説用倉庫。
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少し急ぎ足で、といっても常人の足より幾分遅いくらいのスピードだが、エディウスはフォリィアの馬の近くを歩いていた。
そんなに急いで街を巡るわけではなく、ゆっくりと一行は進んでいく。
毅然としたフォリィアに金色の光を見て、思わず視線を固定してしまう。
しかしそうすると歩調がさらに落ちるので、後ろにせっつかれるようにして進んでいく。
半分くらい進んだころか。
エディウスは何かに気づいてわずかに首をかしげた。
何か、おかしい。
具体的に何か、というのはわからないが、昨日と同じような。
漠然とした不安感。
薄い何かの気配がする。
空気が変わる。
ふとその視界の隅に金色の光が掠めた。
フォリィアのように明るくない、その色。
それは前に傾いだかと思うと、フォリィアに向けて走った。
「……!」
鈍く光るものをその手に認めて、とっさにその間に割って入る。
突然の動きに驚いたフォリィアが馬を止めてこちらを見た。
けれどそのときには。
フォリィアを狙った銀のナイフはエディウスの胸に突き刺さっていた。
一瞬の空白。
ナイフの柄を掴んでいる人影。
それは。
「……ルーク!? どういうことだ!」
叫んで馬を下りると、前かがみに倒れたエディウスの傍に寄ろうとする。
周りからは事を知った民たちが騒ぎ始めている。
悲鳴をあげて倒れる人も出ていた。
そんなに急いで街を巡るわけではなく、ゆっくりと一行は進んでいく。
毅然としたフォリィアに金色の光を見て、思わず視線を固定してしまう。
しかしそうすると歩調がさらに落ちるので、後ろにせっつかれるようにして進んでいく。
半分くらい進んだころか。
エディウスは何かに気づいてわずかに首をかしげた。
何か、おかしい。
具体的に何か、というのはわからないが、昨日と同じような。
漠然とした不安感。
薄い何かの気配がする。
空気が変わる。
ふとその視界の隅に金色の光が掠めた。
フォリィアのように明るくない、その色。
それは前に傾いだかと思うと、フォリィアに向けて走った。
「……!」
鈍く光るものをその手に認めて、とっさにその間に割って入る。
突然の動きに驚いたフォリィアが馬を止めてこちらを見た。
けれどそのときには。
フォリィアを狙った銀のナイフはエディウスの胸に突き刺さっていた。
一瞬の空白。
ナイフの柄を掴んでいる人影。
それは。
「……ルーク!? どういうことだ!」
叫んで馬を下りると、前かがみに倒れたエディウスの傍に寄ろうとする。
周りからは事を知った民たちが騒ぎ始めている。
悲鳴をあげて倒れる人も出ていた。
「エディウス!!」
ルークが離れた拍子にナイフが抜けて、乾いた音を立てて地面に落ちる。
とたん、かなりの量の血がエディウスの胸から流れ出た。
同時に咳き込み、口からも吐き出す。
地面には大量の血が流れ出した。
こんなにも鮮やかな。
赤い色。
石畳の隙間に、赤い液体が流れていく。
がく、と膝が崩れ、地面に落ちる。
湿った音がして、膝の部分が赤く染まっていった。
血溜りが広がっていく。
胸と口を抑えて、エディウスは半ば呆然とそれを見ていると、隣に来て体を支えたフォリィアの声が聞こえた。
「しっかりしろ!」
耳鳴りがひどくなってきて、だんだん目の前が暗くなる。
刺された胸が熱い。
呼吸ができない。
フォリィアを呼びたいのに。
声が。
口から出るのはただ鮮やかな赤い血だけで。
隣のフォリィアを見ようと見えない目をそちらに向ける。
見えたのは金色の光。
ただそれだけ。
エディウスは彼の声を聞きながら意識を手放した。
ルークが離れた拍子にナイフが抜けて、乾いた音を立てて地面に落ちる。
とたん、かなりの量の血がエディウスの胸から流れ出た。
同時に咳き込み、口からも吐き出す。
地面には大量の血が流れ出した。
こんなにも鮮やかな。
赤い色。
石畳の隙間に、赤い液体が流れていく。
がく、と膝が崩れ、地面に落ちる。
湿った音がして、膝の部分が赤く染まっていった。
血溜りが広がっていく。
胸と口を抑えて、エディウスは半ば呆然とそれを見ていると、隣に来て体を支えたフォリィアの声が聞こえた。
「しっかりしろ!」
耳鳴りがひどくなってきて、だんだん目の前が暗くなる。
刺された胸が熱い。
呼吸ができない。
フォリィアを呼びたいのに。
声が。
口から出るのはただ鮮やかな赤い血だけで。
隣のフォリィアを見ようと見えない目をそちらに向ける。
見えたのは金色の光。
ただそれだけ。
エディウスは彼の声を聞きながら意識を手放した。
目を閉じて倒れこんでしまったエディウスをみて、フォリィアは顔色を変えた。
医者を、と思い視線をあげた彼の前に、ルシェイドが音もなく姿を現した。
心なしかその表情は青い。
エディウスを一瞥し、視線を虚空に据える。
「ディリク!」
ルシェイドが呼ぶとすぐにディリクが現れ、ルークを捕らえた。
「僕はこのまま彼を連れて行くから、君は式を進行させてくれ。僕がここにきたという記憶は民から消しておく」
彼は一気にまくし立てるとエディウスをフォリィアから受け取り、ふわりと浮かんだ。
「おい!」
「……彼なら大丈夫だよ。必ず助けてみせる」
ぐったりとしてしまったエディウスを抱えて、ルシェイドは宙に消えた。
「……ッ! 衛兵! ルークを……この者を捕らえよ! 式を滞らせ、あまつさえ我が命を狙った曲者だ。……式が終わるまでは地下に閉じ込めておけッ!」
慌てて駆け寄った衛兵に命じると、フォリィアは馬に乗った。
ディリクはすでに見えない。
エディウスが流した血の痕跡すら残されていないので、夢だったように思えるが、ルークは虚ろな目をして衛兵にされるがままになっている。
内心で舌打ちしつつも、フォリィアはおとなしく式の進行に従い進んでいった。
何があったのか。
何故こんなことになったのか。
ままならない現状に苛立ちを覚えつつ、表情だけは平静を保ったまま長く感じる行進続ける。
この後は現王から冠をもらう。
あの不甲斐ない父と顔を突き合せなければならないのだ。
感情を押し殺しながら、極力思考を抑える。
早く終われば良いと思いながら。
医者を、と思い視線をあげた彼の前に、ルシェイドが音もなく姿を現した。
心なしかその表情は青い。
エディウスを一瞥し、視線を虚空に据える。
「ディリク!」
ルシェイドが呼ぶとすぐにディリクが現れ、ルークを捕らえた。
「僕はこのまま彼を連れて行くから、君は式を進行させてくれ。僕がここにきたという記憶は民から消しておく」
彼は一気にまくし立てるとエディウスをフォリィアから受け取り、ふわりと浮かんだ。
「おい!」
「……彼なら大丈夫だよ。必ず助けてみせる」
ぐったりとしてしまったエディウスを抱えて、ルシェイドは宙に消えた。
「……ッ! 衛兵! ルークを……この者を捕らえよ! 式を滞らせ、あまつさえ我が命を狙った曲者だ。……式が終わるまでは地下に閉じ込めておけッ!」
慌てて駆け寄った衛兵に命じると、フォリィアは馬に乗った。
ディリクはすでに見えない。
エディウスが流した血の痕跡すら残されていないので、夢だったように思えるが、ルークは虚ろな目をして衛兵にされるがままになっている。
内心で舌打ちしつつも、フォリィアはおとなしく式の進行に従い進んでいった。
何があったのか。
何故こんなことになったのか。
ままならない現状に苛立ちを覚えつつ、表情だけは平静を保ったまま長く感じる行進続ける。
この後は現王から冠をもらう。
あの不甲斐ない父と顔を突き合せなければならないのだ。
感情を押し殺しながら、極力思考を抑える。
早く終われば良いと思いながら。
「ルシェイド! ディリク! いるのか!?」
式が終わって自室に帰ったとたん、フォリィアは声をはりあげた。
人払いは済ませてある。
父王の話が一向に進まず、的を得ない言葉ばかりを言うので時間を食ってしまった。すでに日は落ちてしまっている。
ゆらりと、何もない空間から現れたのはディリクだった。
「……何だ」
「ルシェイドは? エディウスは、どうしたんだ」
彼しか現れなかったために、困惑しながらも問いただす。
ディリクはため息をついて目を伏せる。
「エディウスはルシェイドが助ける。心配しなくていい」
「どういうことなんだ。何故、ルークが……明らかにいつもの彼ではなかった」
「本来ありえなかった。……あってはならなかった。ルークが乱心し、エディウスを、……おまえを刺そうとするなど」
言いにくそうにしているディリクに、フォリィアがため息をつく。
「ありえなくても、起きたことは事実だろう。……どうなんだ」
「そんなに彼を責めてくれるなよ」
ためらうディリクに代わって答えた声は、ルシェイドのものだった。
「ルシェイド!?」
ディリクが驚きの声をあげる。
あまり感情を覗かせない彼にしてみれば珍しいだろう。
「エディウスなら心配は要らない。今は神界の居城にいる」
「神界って……」
「彼は王だ。そんなに不安がるなって」
軽く笑って言うが、フォリィアには普段とは違うように感じられた。
表情をうまく隠しているが、それは。
「……そんなに疲れるほどの傷なのか?」
声を少し低くして問うと、ルシェイドは驚いたように目を見開いてこちらを見てきた。
ディリクも同様に驚いてルシェイドを見ている。
「すごいな。何でわかったの。……まぁ、疲れはしたけど、……僕もまだまだ甘いって事かなぁ」
「どういうことだ」
フォリィアは厳しい顔でつぶやいた。
式が終わって自室に帰ったとたん、フォリィアは声をはりあげた。
人払いは済ませてある。
父王の話が一向に進まず、的を得ない言葉ばかりを言うので時間を食ってしまった。すでに日は落ちてしまっている。
ゆらりと、何もない空間から現れたのはディリクだった。
「……何だ」
「ルシェイドは? エディウスは、どうしたんだ」
彼しか現れなかったために、困惑しながらも問いただす。
ディリクはため息をついて目を伏せる。
「エディウスはルシェイドが助ける。心配しなくていい」
「どういうことなんだ。何故、ルークが……明らかにいつもの彼ではなかった」
「本来ありえなかった。……あってはならなかった。ルークが乱心し、エディウスを、……おまえを刺そうとするなど」
言いにくそうにしているディリクに、フォリィアがため息をつく。
「ありえなくても、起きたことは事実だろう。……どうなんだ」
「そんなに彼を責めてくれるなよ」
ためらうディリクに代わって答えた声は、ルシェイドのものだった。
「ルシェイド!?」
ディリクが驚きの声をあげる。
あまり感情を覗かせない彼にしてみれば珍しいだろう。
「エディウスなら心配は要らない。今は神界の居城にいる」
「神界って……」
「彼は王だ。そんなに不安がるなって」
軽く笑って言うが、フォリィアには普段とは違うように感じられた。
表情をうまく隠しているが、それは。
「……そんなに疲れるほどの傷なのか?」
声を少し低くして問うと、ルシェイドは驚いたように目を見開いてこちらを見てきた。
ディリクも同様に驚いてルシェイドを見ている。
「すごいな。何でわかったの。……まぁ、疲れはしたけど、……僕もまだまだ甘いって事かなぁ」
「どういうことだ」
フォリィアは厳しい顔でつぶやいた。
一瞬何とも言えない顔でルシェイドはディリクと顔を見合わせると、フォリィアに向き直る。
常には見せない、真剣な表情。
「気づかなかったんだ。その事は詫びる。……ルークを狂わせたのはまがい物だよ……魔法の力だ」
通常魔法を使える者は少ない。
素質の無いものでも使えるような魔法のようなものは、まがい物として裏で密やかに流れていた。
だがまがい物だとしても、使えないものからすればその効果は絶大だ。
「何故……」
「まがい物を使う者に心当たりは?」
「あるにはあるが……理由がわからない」
すべて把握しているわけではないが、そういった物を好む者は、この城に一握りしかいない。
それらはほとんどすべてが、ルークを即位させようとしていた連中だった。
だから理由がわからない。
何故ルークを使ったのか。
兄を殺して王位を得る為であれば成る程、と思うが、まがい物はそれ故にリスクが高い。
下手をすれば使い物にはならなくなるだろう。
重い沈黙が支配する。
フォリィアはため息をつくと、ルシェイドを見た。
「ルークを、治せるか?」
つっかかってばかりの弟だが、嫌いでも憎いわけでもない。
ただ、馬鹿だな、と思うだけだ。
「……それも難しいだろうね。やってやれないことはないだろうけど……」
「どうしてそう曖昧な答えしか返せないんだ!」
難しい顔をするルシェイドに、フォリィアが怒鳴る。
「フォリィア……」
狂ったようなルーク。
倒れてしまったエディウス。
そして魔法の力。
フォリィアは純粋な魔力は使えない。
まがい物の知識も、あるとは言い難い。
だからわからない。
どうすればすべてもとに戻るのか。
それとも。
戻らないのかさえ。
「出来るか出来ないかを聞いているんだ! それとも答えられないことなのか!?」
「……フォリィア!」
たしなめるようにディリクが声を出す。
「……いいよ、ディリク」
ため息混じりにルシェイドが手を振る。
常には見せない、真剣な表情。
「気づかなかったんだ。その事は詫びる。……ルークを狂わせたのはまがい物だよ……魔法の力だ」
通常魔法を使える者は少ない。
素質の無いものでも使えるような魔法のようなものは、まがい物として裏で密やかに流れていた。
だがまがい物だとしても、使えないものからすればその効果は絶大だ。
「何故……」
「まがい物を使う者に心当たりは?」
「あるにはあるが……理由がわからない」
すべて把握しているわけではないが、そういった物を好む者は、この城に一握りしかいない。
それらはほとんどすべてが、ルークを即位させようとしていた連中だった。
だから理由がわからない。
何故ルークを使ったのか。
兄を殺して王位を得る為であれば成る程、と思うが、まがい物はそれ故にリスクが高い。
下手をすれば使い物にはならなくなるだろう。
重い沈黙が支配する。
フォリィアはため息をつくと、ルシェイドを見た。
「ルークを、治せるか?」
つっかかってばかりの弟だが、嫌いでも憎いわけでもない。
ただ、馬鹿だな、と思うだけだ。
「……それも難しいだろうね。やってやれないことはないだろうけど……」
「どうしてそう曖昧な答えしか返せないんだ!」
難しい顔をするルシェイドに、フォリィアが怒鳴る。
「フォリィア……」
狂ったようなルーク。
倒れてしまったエディウス。
そして魔法の力。
フォリィアは純粋な魔力は使えない。
まがい物の知識も、あるとは言い難い。
だからわからない。
どうすればすべてもとに戻るのか。
それとも。
戻らないのかさえ。
「出来るか出来ないかを聞いているんだ! それとも答えられないことなのか!?」
「……フォリィア!」
たしなめるようにディリクが声を出す。
「……いいよ、ディリク」
ため息混じりにルシェイドが手を振る。
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