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2024/05/22 (Wed)
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2012/02/05 (Sun)
 アィルの家からレイザの家まで、約4半刻かかる。
 村にしてみたら大きいほうなのかと思って聞いてみると、ただ縦に長いだけだと言われた。
 レイザの家はアィルのそれに比べると小さく見えた。
 平屋で、けれど広そうだ。

「レイザ! いるか?」
 アィルが声をかけると、中から声が聞こえて昨日の青年が出てきた。
「ああ、ありがとうアィル……」
 ふとこちらを見たレイザの表情がこわばる。

 驚愕。
 畏怖。
 何に対して?

 レイザはアィルから薬を受け取ると礼を言ってそそくさと中に入っていってしまった。
 こちらのほうをちらちら見て
(警戒)
 いたので、ヴィオルウスはなんだか居心地が悪かった。
「何なんだ……?」
 アィルは憮然とした表情でもと来た道を帰り始める。
 後ろを振り返りながらも、ヴィオルウスが後に続く。
 その日も村人は少なかった。


「ところでさ、これ、なんだかわかるか?」

 家に着いたとき、アィルは奥の部屋から包みを持ってきて言った。
 先日レイザに渡されていたものだ。
 アィルが中から取り出したのは、ヴィオルウスの髪と同じような色をした石だった。
 薄い、銀とも青ともとれる色合い。
 磨きこまれたような輝きを放つそれは、どこか不自然に見えた。
「……これ……」
「こんなもの貰っても使えないし困っているんだが……」
 困り果てた表情でアィルがぼやく。
「……わたしが貰ってもいいかな」
「良いけど、おまえこれからどうするんだ?」
「エールに戻る」
 手渡された石を見つめながら、ヴィオルウスが答える。
 手のひらに収まるくらいのそれは、日の光を反射して鈍く光っていた。
「向うに置いたままの荷物があるんだ」
「へぇ。……じゃあさ、ついて行ってもいいか?」
 アィルがたずねると、ヴィオルウスは驚いた顔をして彼を見た。
「や、無理ならいいんだけど」
「別に無理じゃ……」
「エールで欲しいものがあるんだよ」
 不思議な顔でアィルが言う。
「それじゃあ、明日にでも……」
「そうだな。じゃあ今日は早く寝よう」

 アィルは石の入っていた袋を丸めると、くずかごに放り込んだ。
2012/02/05 (Sun)
 怪我をしたときの薬や獣が寄ってこない匂い袋などを作りながら、アィルは上を見上げた。
(昨日)
 何の物音もしない。
「大丈夫かなぁ」
 手早く終わらせると、それぞれの場所に戻しておく。
 いつものようにすべての道具を確認すると、アィルは部屋を出て鍵をかけた。
 時には劇薬となるものも含まれているため、中に誰もいないときは鍵をかけるようにしているのだ。

 2階にあがり、気になったのでヴィオルウスの部屋を覗いてみる。
 ヴィオルウスはきちんとベッドで、掛け布をかけて寝ていた。
 平気かなと近くに行くと、いきなり寝返りを打ったので驚いてその場に立ち尽くす。
「……ッ……」
 どうやらうなされているらしい。
 胸元をきつく握り締め、苦痛の表情を浮かべている。
「ヴィオルウス?」
 呼びかけてみるが答えはなく、起きる気配も無い。


「邪魔を、しないでくれるかい?」


 突然聞こえた声に、アィルはまわりを見回す。
 手は自然と佩いた剣の柄に行く。
 声を出したであろう人物は窓枠に腰掛けていた。
 片膝を立てて頬杖をついている。
「……これでも穏便なやり方でやっているんでね。邪魔をされると長引いてしまう」
 ため息とともに出された言葉。
 けれどそれより印象的なのは金の光。
 それがその人物の目だと気づいたのは視線を外されたときだった。

 その人物はアィルからヴィオルウスに視線を移すと目を細めた。
「君、昨日も邪魔したね?」
「……何の話だ。それに、誰だよ」
 何とか声を出すが、それは聞き取りにくいほどかすれてしまっていた。
「この子なら僕の事を知っているはずだ。でも今は無理だろうけどね」
 ほらと言ってヴィオルウスを指差すと、苦しいのか声をあげる。
「……ぅあ……ッ!」
「……ヴィオルウス……!」

 起こそうと近寄る。
 しかし手を伸ばしたところで、動けなくなった。
 指一本動かせない。
「だから邪魔をするなと、言ってるんだよ」
 心持ち険しい眼差しでこちらを見てくる彼と、苦しそうなヴィオルウスを見比べて、アィルは窓の方を向いて睨んだ。
「おまえがやってんのか。苦しがっているじゃないか!」
「見せているのは僕だけど、それは自業自得なんだよ。この子が、弱いからこうなっているだけのことさ」
「何を……!」
「ああ、もう起こしてもいいよ。このくらいにしておかないとまだ駄目みたいだから。……じゃあね。アィル」
 そう言って止める間もなく窓から飛び降りてしまう。
 慌ててアィルは窓から下を見るが、誰の姿も無い。
 そこでまた体を動かすことができることに気づく。
 狐につままれたような顔をしてヴィオルウスを見ると、もう苦しそうではなく、穏やかな寝息を立てている。

「なんだってんだよ……」

 アィルは髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜ、ヴィオルウスを一瞥してから部屋を出た。
2012/02/05 (Sun)
 翌朝。
 まんじりともせずにベッドから身を起こしたアィルは、ため息とともに窓の外を見た。
 泣きたくなるほど天気のよい日だった。
 そういえば最近はずっと天気がよい。
 昨日のうちにある程度済ませておいた荷物を確認して、部屋から出る。

 ヴィオルウスの部屋の前に来たが、何の物音もしないので首を傾げながら開けてみた。
「……ヴィオルウス?」
 覗いてみると、まだ寝ていたらしい。
 もそりとベッドからヴィオルウスが顔を出した。
「……朝?」
「早すぎたか?」
「……起きるよ……」
 半分寝ぼけた表情でベッドから這い出ると、ヴィオルウスは両手を上にあげて伸びをした。
「エールまでならここから急いで2日ってところだろ」
「……そうなの?」
 心持ち目を見開いてヴィオルウスが問い掛ける。
 アィルは苦笑して窓を開け放った。

 外の風が入り込んでくる。
「何か飲み物でも用意するか? そのほうが目が覚めるだろ」
「……うーん……」
「じゃあ起きたら下に来いよ」
 床に置いてあった荷物を手にとって、アィルは部屋の外に出た。

 結局家を出たのは日が高く昇ったあとだった。
「遅くなっちまったな」
「……ごめん」
 荷物を背負って、ヴィオルウスがうつむく。
 前を歩くアィルは、肩越しに振り返った。
「まぁいいさ。お前が速く歩けばいいんだからな」
 にやりと笑われて、ヴィオルウスは思わず情けない顔をした。
「ほら、行くぞ」


「行きましたか?」
「行ったようです」

 家のドアが薄く開く。
 ふたりの背中が完全に見えなくなるまで、それは細く開いたままだった。

「予定より少し遅れたようだけれど、何とかなりそうですよ」
「そう……願いたいものですね」

 扉は音も無く閉ざされた。
2012/02/05 (Sun)
 行程はアィルが思ったとおりはかどらなかった。
 エールに着いたのはシオンの村を出てから3日目の夜。

 ヴィオルウスは疲れたのかほとんど足を引きずるようだった。
「やっと着いたな。適当な宿を探して、今日はこのまま休もう」
 宿屋の方に足を向けるが、ヴィオルウスは立ち止まったままついてこない。
 何かと思って振り返ってみると、空を見ていた。

 ただ気になったのはその表情。
 それは夜空が綺麗だからとかそういうものではなく、むしろ睨みつけるようにして見ていた。
「ヴィオルウス?」
 呼びかけると我に返ったのか慌てた様子でこちらを見た。
「ごめん、何?」
「いや、疲れたろ? 宿に行こう」
 ふたりはエールにあるたったひとつの宿屋に向かった。
 その宿は「銀星亭」という名前で、値段も手ごろなので利用客は多い。

 ヴィオルウスは部屋にたどり着くなり荷物を床に落してベッドに横になった。
「そんなに疲れたのか?」
「……うん。しんどかった」
 さらに何か言おうとアィルは口を開いたが、軽い寝息が聞こえてきたので苦笑する。
 今夜は悪夢にうなされないといい。


「……ル。……アィル?」
「…………ン?」
 朝日に顔をしかめているアィルを揺さぶると、ごろりと寝返りを打って目を開けた。
「……どうした、こんな朝早く」
「早くないよ。朝食だって。宿屋の主人が」
 アィルは上半身を起こすと、腕を上げて伸びをした。
 一息ついて窓の外を見る。
 日差しが彼の髪を茶色っぽく見せている。
「あーほんとだ。……じゃあ行くか……」
「今日は、少し行くところがあるから朝食食べたら行ってくる」
「わかった。……俺のほうも用事済ませに行ってくるかな」

 ふたりが下に下りると、主人が食器を出しているところだった。
2012/02/05 (Sun)
 アィルと別れたヴィオルウスは、宿屋を出てから町のはずれの方に向かっていた。

 路地裏の。
 暗い道を。
 怖れと、決意を秘めた顔で進んでいく。
 町の通りの方はあんなに人がいたのに、ここは人影すら見えない。
 無人かと思えるほど。

 たどり着いたのは、ともすれば見落としがちな、古ぼけた扉の前だ。
 ヴィオルウスが扉を叩こうと手を上げ、振り下ろそうとしたところで扉が開く。
 音も無く。
 開いた扉の付近を見回すが誰も見えず、部屋の中も暗い。
 少しためらったあと、おそるおそる中に足を踏み入れる。
 来たのは二度目だったが、そのときとはまた違ってきているようだ。

 二歩目を踏み出した時、大きな音を立てて扉が閉まった。
 慌てて扉に手をかけるが、閉まった扉はびくともしない。
 混乱した頭で扉を叩く。
 と、不意に何かの気配を感じて動きを止める。

 何か。
 それとも、誰かか。

 振り向くが、そこは完全な闇と化していて何も見えない。
 まるで無限の空間のようなそれ。

 不意に体が震え、鳥肌が立つ。
 何もいない。
 見えない。
 何も。
(こわい)
 こわいなんて事は無いはずなのに。
 ただの部屋の中のはずなのに。
 何故。
 こんなにも。

 怯える、なんてことが。


「……何をしに来た」

 聞こえてきた低い声に息を呑む。

「答えろ」
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