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2012/07/09 (Mon)
 瞼に光が踊る。
 眩しい。
 先程と違って廻りは酷く明るかった。
 ぼんやりと天井を見ていると、段々頭が冴えてくる。

 ふと、先程の人は誰だろうと思った。
 低い声と、ぼんやりと見えた手から男性であることは判ったが、それ以上は判然としなかった。
 視線を巡らせると、扉の横に置いた椅子に座っている人がいた。
 硬く目を閉じて腕組みをしている。
 寝ているのかもしれない。
 そのままじっと見ていたら唐突に目を開いた。
 切れ長の、紫闇の瞳。
 彼はこちらに視線を向けると、重さを感じさせない動作で立ち上がった。
 猫のようなしなやかさ。
 伸ばされた手。
 それを見て、ああ、さっきの人だ、とぼんやりと思った。
 腰に剣を刷いていることから、剣士だと思う。
 問いを発しようとして、身体の傷みに声を失う。
「無理はするな。……あれだけの傷。今生きているのが不思議なくらいだ」
 彼は表情の読めない顔で首筋に手を当てた。
 乾いた、暖かい手だった。
 手を離し、こちらの顔を一瞥して部屋を出て行く。

 部屋にひとり残され、じっとしているのも居心地が悪かったので起き上がろうとするが、手足は鉛のように重い。
 身体のあちこちでは鈍い痛みが感じられた。
 起き上がろうとして、止めた。
 今起き上がっても立ち上がれるかどうかわからない。
 そんな危険を冒す意味はあまり無いだろう。
 ひとつ息を吐いて天井を見つめているとまた眠気が襲ってきた。
 随分眠っていたように思うのに、まだ寝たりないのかととりとめも無く考えていると、外で足音が聞こえた気がした。
 程なくして扉が開く。
 入ってきたのは女性だった。
 身に纏うのは薄い色合いの服。
 ドレスに似ている。
 腰よりさらに長い黒髪を靡かせて、彼女はこちらに歩いてきた。
 後ろには先程出て行った青年が居る。
「目が覚めたのね。気分はどう?」
 鈴の音のような。
 きれいな声だ、とぼんやり思う。
「まだ眠いのかしら。……そうね、まだ眠っていた方が良いわ。安心して、ゆっくりお休みなさい」
 彼女は優しく笑いかけると、青年を促して部屋を出て行った。
 誰も居なくなった部屋で、意味もなくまた部屋を見回しながら、意識を手放していく。
 闇の中は、誰の声も聞こえなかった。
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