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2012/02/05 (Sun)
「……うーん…………あれ?」
 間の抜けた声をあげて、目を開ける。
 真っ先に目に入ったのは空の青さ。
 明るい。

「!」

 アィルは勢いよく起き上がった。
「何で……朝?」
 ふと見ると、火がまだ燃えている。
 何で消えないのだろうと思っていると、どうやら本物の火ではないらしい。
 その証拠に手を近づけても大した熱さは感じない。
 視線を火の向こうにやると、ヴィオルウスがいた。
 寝ているらしく、うつむいたまま先ほどからほとんど動かない。
 起こそうかどうしようか迷っていると、手の先に何かが触れた。

 カチリとした、かすかな音。
 馴染みのある、それはアィルの剣だった。
 無くしたものなのに。
 驚いてヴィオルウスのほうを見ると、ちょうど起きたところのようだ。
 あらわになる紫の瞳。
 大陸ではほとんど見かけない色だ。
「……起きてたの?」
「あ、ああ。……これ、お前が持ってきてくれたのか。ありがとう」
「いや……礼はいいよ……」
 まだ寝ぼけているのか、片手で目をこすりながら答える。
「……それじゃ、これ食べたら出発しようか?」
 そう言って、アィルは袋の中から携帯食を取り出した。
「……あ、ありがと……」
 差し出された携帯食を受け取って、ヴィオルウスはそれを口に入れる。

 硬い。
 当たり前だが起きぬけなので食べにくい。
「……大丈夫か?」
 思わずアィルが口に出す。

「……平気」
「お前あんまりしゃべんないな」
「そうかな……」
 実際はまだ寝ぼけているだけなのだが、アィルはひとり納得したようだった。
2012/02/05 (Sun)
 歩き出して二刻が過ぎた。

 結構な速さで歩くアィルに、ヴィオルウスはついていくのがやっとだ。
「大丈夫か?」
「……何とか」
 息を切らしながらそれでも答える。
 アィルは少し遅く歩き、前にある草を払っていく。
「体力無いんだなぁ」
「あんまり……動かないし……」
「ふぅん」
 言って、ヴィオルウスが持っている荷物を受け取る。
 結構軽い荷物だった。
 そのまましばらくは無言で歩いていく。

 村に着いたとき、あれから2日が経っていた。
「やっとついたな」
「……そうだね」
 どこかやつれたようなヴィオルウスの様子に、アィルは呆れたように声をかける。
「ほら、しっかりしろよ」
 虚ろな眼差しでヴィオルウスが頷く。

 村に入るが、見回してみても人の姿がほとんど無い。
「……この村って、いつも、こんなに人が少ないのかな……?」
「いや? いつもは多いけどな……どうしたんだろ」
 村の中心を通って奥に進んでいく。

 やはり人通りは少なかった。
2012/02/05 (Sun)
 たどり着いたのは大きな家の前だった。
 町から見れば普通の大きさだが、この村では大きいほうだろう。

「……ここは?」
「ん? 俺の家」

 普通に言われたことに、ヴィオルウスは驚いてアィルを見る。
「別にだからって金持ちってわけじゃねェぞ」
 苦笑して、玄関を開ける。

 広い家。
 入って正面に階段がある。右側はどうやら台所関係か。
 左にも扉があって、そちらはドアが閉まっているため中は見えない。
 アィルは階段を上がっていく。半ばまで行ったところでヴィオルウスがついてこないことに気づき足を止めた。
「何やってんだ。早く来いよ」
 ぼうっと突っ立っていたヴィオルウスは慌てて後をついて階段を上がる。

 階段の途中で追いつくと、最初に家に入ったときから疑問に思っていたことを聞いてみた。
「あのさ、普通知らない人って家に入れないんじゃないの?」
「何で?」
「え……だって……。わたしが危険な人だったらどうする気?」
 よくわかっていないようなアィルに、多少困惑しながらも問いただした。
 それに対してアィルはやはりきょとんとして答える。
「危険じゃなさそうだけど? 体力無いし」
 けろりとして、階段を上がっていく。

 階段を上がりきって一番近い部屋の扉を空け、そこに持っていたヴィオルウスの荷物を置く。
「とりあえず今日はもう遅いし、泊まっていけばいいだろ。ああ、部屋はここな。掃除はできてるから、一応」
「……ありがとう」
 信じられないような表情でそれでも礼は言う。
「荷物置いたら下に来い。階段下りて右の部屋」
 どうやら行動派らしく、言い終えると同時にすでに階段を下りていっていた。

 ヴィオルウスはとりあえずため息をついて、扉が開いた部屋の中に入った。
2012/02/05 (Sun)
 荷物を置いて下に下りると、玄関先に誰か来ていた。

 逆光でよく見えない。
 黒い服。
 冷たい気配。
 覚えのあるようなそれ。

 見るからに男の体格を持つその人物は微動だにせず、ただ背後から吹く風に髪が揺れている。
 背中の中ほどまでの、さらりとした細い髪。

 眼が合った気がして、そのまま動けなくなる。

 長い時間のような。
 けれど唯一瞬の。

 ふとその人物が
(振り下ろされるのは)
 一歩踏み出した。
(死)

 とたん弾かれたようにヴィオルウスは半歩下がり、神経を集中させる。
 視線は固定したまま。
 魔法を使うために。
 風が集まる。
 純粋な。
 魔法の力で。


「あれ? 何やってるんだ?」
 集中は横から出てきたアィルによって破られた。
 きょとんとヴィオルウスを見て、扉に視線をやる。
「ア……!」
 とっさに
(その男は)

 止めようと。
 した。
2012/02/05 (Sun)
「何だ、レイザじゃねぇか」

 親しげな声に、ヴィオルウスは瞬きをくりかえす。
 戸口にいる人物に視線を移すと、そこに立っているのは気弱そうな顔をした青年だった。
 黒いマントをまとっているが、殺気立ったような気配も無い。
 髪も短い。

(それじゃあ)
 知らず握り締めていた手から力を抜く。
(今のは)
 呼吸が荒い。

「どうしたんだ? ……ふたりとも」
「何でもないよ。……あ、これ、届に来ただけだから……ッ!」
 レイザはそれだけ言うと逃げるように去っていった。
 渡された包みと外を交互に見て、アィルは首を傾げる。
「なんだったんだ?」
「今の人……」
「ああ、村の入り口あたりに住んでるやつだよ。どうかしたのか?」
 ヴィオルウスは力なく首を横に振り、ため息をついた。
「まァいいや。入れよ」
 たいして気にも止めずにアィルが促す。

 ドアを開けると、古びた書物の匂いがした。
 そこは書斎のようだった。
 壁には、天井に届きそうなほど本がある。
 部屋のほぼ中央にあるソファに座るように言うと、アィルは部屋から出た。
 ヴィオルウスはソファには座らず、まわりの本棚を眺めた。
 えらく古い本があったり、一度も開いたことの無いような綺麗な本もある。

「本を読むのか?」
 ふいに背後から声をかけられて、慌てて振り向く。
「え……ッ」
「や、そんなに驚かれるとは」
 心持ち目を見開いてアィルがカップを差し出す。
「お茶。入れてきたんだ」
「ありがとう……」
 ぼんやりと受け取って礼を言う。

「……それで?」
 ソファに座って、アィルが問い掛ける。
 ヴィオルウスにも座るように促すので、とりあえず向かいに腰をおろした。
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