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2012/02/05 (Sun)
 必死に手を伸ばす。

 届かない。

 力すら、呪わしきこの邪眼ですら跳ね返されて。
 見たことのない青年の、鎌が踏青に向かって振り下ろされる。






 キィン……!



 甲高い音がして青年の鎌が止まった。
 酒星が両手に短剣を構えて、鎌を押し留めている。

「踏青……!」
「……ッ……どいつもこいつも……僕の邪魔をするな!」

 青年が苛立たしげに唇をかみ締める。
 酒星は短剣で鎌を弾く。
「一体何の騒ぎなんです。その物騒なものを収めてください」
 溜息とともに酒星が言う。
「そいつが邪魔をするんだ」
「邪魔して何が悪いんだよ! 酒星を殺されたくないからだろ!」

「それでお前が殺されそうになっててどうするんだよ」
 冷静に、踏青に言ってみると、赤い顔をして黙り込んだ。

「……アタシを殺しに来たんですか?」
「……? 酒星?」
 眉をひそめて青年が問う。
「アタシの名前ですよ」
「……あぁ、何だ。レイヴァルか」
 ひとつ納得した、というふうに青年は溜息をつくと、鎌を消した。

「何でその名前を知ってるんです」
「……なんでって……結構前に会っただろう。王都で」
 警戒を緩めていない酒星の言葉に、けれど青年は首を傾げている。
「知り合いか?」

「…………もしかして、ルシェイドですか?」
「そうだよ。気づいてなかった?」
 今度は酒星が肩の力を抜く。
 酒星はふと顔をあげて青年を見る。
「……会ったのは、2週間前……ですよね?」
「……え?」

「会話がたぶんかみ合ってないんじゃないか?」
 溜息とともに言うと、納得したようにルシェイドが手を打った。
「ああ! そういえばそうだっけ」
「アタシが会ったルシェイドは子供でしたよ」

「今は子供じゃ不便なんだ」
2012/02/05 (Sun)
「……な、なぁ……酒星殺しに来たわけじゃないのか?」
「違う。彼が生きてても僕は別に困らないから」
 恐る恐る踏青が聞くと、ルシェイドはあっさりと答えた。
「え、だって金髪って……!」
「そういやアタシも金髪でしたねぇ」

「僕が探しているのはサゼンディオスのほうだ」

「……誰?」
 三人が同じ表情だったからだろう。
 ルシェイドは明らか内困惑したようだ。
「ここにいるはずなんだ」

「あぁ、あいつじゃないのか」
「え、薄氷知ってんのか?」
 たぶん本気で言っているであろう踏青に、精一杯嫌そうな顔をしてみた。
「お前ほんっとに馬鹿だな……」
「何だよッ!」

「知ってるのか? あいつが今どこにいるのか」
 ルシェイドが勢い込んで聞く。
「たぶんな。……樹雨のことだろう」
「ヘ? ……あぁ! 浜に倒れてた奴か!」
「ようやくわかったのか……」
 げんなりしながら踏青を見やる。
 たまに本当の馬鹿なのかと疑いたくなるが
(いや馬鹿なんだろうけど)
 それでもそれなりに頭がいい事を知っているのでなんともいえない。

「……樹雨?」
「見れば違うかそうなのかもわかるだろ」

 さらりとかわして、とりあえず診療所に向かう。
 酒星は用があるらしく、先ほどの家のほうに帰っていった。
 診療所までの道では誰にも会わなかった。
 そういえばもう昼かと思い、踏青のおかげで昼飯を食べていないことに気づく。

 おまけに使いたくもない力を使ってしまった。
 呪わしい。
 力。

 能天気に歩いている踏青が何とはなしに頭にきたので、後ろから殴る。
「いってぇな! 何するんだよ、いきなり!」
「叩きやすい位置にあったお前の頭が悪い」
 しれっと言うと踏青がさらに何かわめきたてた。
 こういう打てば響く反応が面白い。

 踏青の反応を見ていたので、その時後ろでルシェイドが複雑な表情を浮かべていたことには気づかなかった。
2012/02/05 (Sun)
 音を立ててドアを開ける。
 だんだん立て付けが悪くなってきている気もするが、とりあえず支障はない。
 中には樹雨以外姿が見えなかった。
 やはり昼飯かと思いつつ中に入る。

「よぅ、樹雨。調子はどうだ?」
「たまにお前のその能天気さが羨ましいよ」
 半眼で言うが、聞こえなかったのか踏青は樹雨の方を向いている。

「……樹雨? お前が?」
 聞こえた声は背後から。
 振り返ると、きつく睨みつけているルシェイドがいた。

「やっぱ大当たりか?」
 それには答えず、ルシェイドは大股に部屋に入ってくる。
 樹雨が目を見開く。

「あなたは……!」
「……何故、こんなところにいるんだ」

 押し殺したような声。
 どんな感情で今喋っているのか。
 それもよくわからないほど、たくさんの思いがある気がする。

 樹雨は驚いていた表情を引き締めて、震える声で言った。
「彼に……会わせて下さい」
「……彼? 探し人の?」
 呑気に踏青が口を挟む。
 とりあえずそれを殴って黙らせて、二人の会話に耳をそばだてる。

「彼はいない」
「ではどこに……! どこにいるというのです!」
「探してどうするんだ」
「聞きたいことが……私は彼に聞かなければならないことがあるのです」
 決意を秘めた声。
 痛ましげな包帯がなんともいえない。
 片目の代償をはらって、樹雨はたぶん、何も得ることはできないだろうに。

「無理だよ……彼は、もういない」
2012/02/05 (Sun)
 噛んで含めるような言い方に、けれど樹雨はくってかかる。
「何故……! あなたが……あなた達が連れ去ったのでしょう! マルヴェーリを!!」
「違う。連れ去ったのは2代目。僕は5代目だ。……もう、それだけの年月が経ってしまっているんだ……」

「何の話?」
「お前は黙ってろ」
 むくれる踏青を放っておいて、とりあえず続きを聞く。
 だんだん、わかってきた気がする。
「つまりそのマルヴェーリって奴はもう死んでるって事だろ?」
「そうだ。もう、この世界の年月で3万くらい経つ」
「3万!?」
 踏青が驚いた声をあげる。
 同感だったので今度は殴らずにおいた。

「そんな……では私は何のために……」
「いや、ていうか3万って事に驚こうよ」

「連れ去ったのが2代目で、お前が5代目……? ……お前年いくつだよ」
 指を折って計算する。
「数えてない」
 あっさりとした答えが返ってきた。

「なぁ、樹雨……殺すのか?」

 不安そうに踏青が聞く。
「……邪魔に、なるようなら」
「邪魔って何だよ、邪魔って」
「……私を殺す前に、ひとつ質問に答えてください。……彼は、マルヴェーリは、何故あの時笑っていたのか」
 目を伏せて、絞り出すような声。
「わからないのか」
 ルシェイドは辛そうな樹雨の様子を気にも留めていないように、逆に問い掛ける。

 感情を押し殺した声で。
「彼が何故あの時微笑んでいたのか、わからないのか? お前が!」
「わかりません……」
「お前なら……神聖国最高祭司なら、わかるはずなのに」

 わかって当然といわんばかりの態度でルシェイドが呟く。
 なんだか話しについていけなくなってきたので、手近な椅子を持ってきてそれに座った。

「……何を思って、アルファルについていったのか。お前らを助けることができると思ったから、マルヴェーリは自分を犠牲にしたんじゃないのか」
「助ける……?」
「レイリジオーゼに起こった砂嵐。あれは、本当ならもっと大規模なものになるはずだった。それこそ国ひとつ壊滅に追い込むほどの。お前ら司祭が占ったとおりに、滅びるはずだった国を、彼が救ったんだ……。救えると、思ったから……!」
「ルシェイド……」
 ふいにルシェイドが手の甲で顔を拭った。
 こちらからは後姿しか見えなかったが、大体どうしたのかはわかる。
 樹雨が表情をあらためて、ルシェイドを見つめた。
「……わかったような……気がします。……どうぞ、後はあなたの好きなように」
 ルシェイドは何も言わず、懐から何かを出した。

 ちり、と涼やかな音。
 どうやら鈴のようだ。
 それはルシェイドの手の中で形を変え、細身の剣になった。

 樹雨もルシェイドも何も言わない。

 暗黙の了解のように、彼らは運命を享受しようというのか。

 沈黙が、落ちた。
2012/02/05 (Sun)
 沈黙を破って声をあげたのは踏青だった。

「ちょ、ちょっと待てよ。本当に殺すのか? 本当に、もうそれしかないのか?」
「安全であるという保証はないからね」
 さらりと言ったルシェイドは一歩、樹雨の方に歩を進める。

「やめろよ! 何も殺すことは……!」
「良いんです。踏青さん。……この町の皆さんには、お礼を……」
「私はお前の遺言なんか聞かないからな」
 そう言ってみると、樹雨は少し困ったように微笑んだ。

「駄目だ! 樹雨を殺すな!」

 踏青は走ってルシェイドと樹雨の間に割り込んだ。
 両手を広げて、それでも守っているつもりなのかきつくルシェイドを睨みつけている。
「何故、邪魔をする」
「……俺の知ってる人が、俺の目の前で殺されようとしてるのに、黙って受け入れるなんてできるもんか!」
 いつもの能天気さからは少しも考えられないほど真剣に、踏青は怒鳴る。

「もう、目の前で誰かが死ぬのに何も出来ないのは、嫌なんだよ!」

 叫び声に、ルシェイドがどんな顔をしたのかは後ろからだったのでわからなかったけれど、ひとつ溜息をつくと剣を元の鈴に戻した。
「……わかった。今回は、君の顔を立てよう」
「じゃあ……」
 嬉しそうな笑顔になった踏青に、ルシェイドはただし、と指を突きつけた。
「ひとつ、誓約をしてもらう。それが守れなければ、今度こそ、殺すよ」
「誓約?」
「……君も気がついていると思うけど、この世界にレイリジオーゼ神聖国なんてないんだ。だから、そこの出身だっていうのを吹聴されたら困る。この、島から出ないという誓約だ。守れるか」
 ややあって、樹雨は静かに頷いた。
「……わかりました。確かに」
 踏青は笑顔で
(本当に表情がくるくる変わる奴だ。東旭と同レベルか)
 手を叩いた。
 それを見てルシェイドが背を向ける。

 一瞬、目が合った。

 何かを。

 伝えられた気がした。

 ふいと視線を外すと、ルシェイドはそのまま診療所から出て行った。
 手放しで喜んでいる踏青を、困ったように樹雨が見つめている。

 溜息をついて、彼らに気づかれないうちに診療所を出た。
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