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2012/02/05 (Sun)
 噛んで含めるような言い方に、けれど樹雨はくってかかる。
「何故……! あなたが……あなた達が連れ去ったのでしょう! マルヴェーリを!!」
「違う。連れ去ったのは2代目。僕は5代目だ。……もう、それだけの年月が経ってしまっているんだ……」

「何の話?」
「お前は黙ってろ」
 むくれる踏青を放っておいて、とりあえず続きを聞く。
 だんだん、わかってきた気がする。
「つまりそのマルヴェーリって奴はもう死んでるって事だろ?」
「そうだ。もう、この世界の年月で3万くらい経つ」
「3万!?」
 踏青が驚いた声をあげる。
 同感だったので今度は殴らずにおいた。

「そんな……では私は何のために……」
「いや、ていうか3万って事に驚こうよ」

「連れ去ったのが2代目で、お前が5代目……? ……お前年いくつだよ」
 指を折って計算する。
「数えてない」
 あっさりとした答えが返ってきた。

「なぁ、樹雨……殺すのか?」

 不安そうに踏青が聞く。
「……邪魔に、なるようなら」
「邪魔って何だよ、邪魔って」
「……私を殺す前に、ひとつ質問に答えてください。……彼は、マルヴェーリは、何故あの時笑っていたのか」
 目を伏せて、絞り出すような声。
「わからないのか」
 ルシェイドは辛そうな樹雨の様子を気にも留めていないように、逆に問い掛ける。

 感情を押し殺した声で。
「彼が何故あの時微笑んでいたのか、わからないのか? お前が!」
「わかりません……」
「お前なら……神聖国最高祭司なら、わかるはずなのに」

 わかって当然といわんばかりの態度でルシェイドが呟く。
 なんだか話しについていけなくなってきたので、手近な椅子を持ってきてそれに座った。

「……何を思って、アルファルについていったのか。お前らを助けることができると思ったから、マルヴェーリは自分を犠牲にしたんじゃないのか」
「助ける……?」
「レイリジオーゼに起こった砂嵐。あれは、本当ならもっと大規模なものになるはずだった。それこそ国ひとつ壊滅に追い込むほどの。お前ら司祭が占ったとおりに、滅びるはずだった国を、彼が救ったんだ……。救えると、思ったから……!」
「ルシェイド……」
 ふいにルシェイドが手の甲で顔を拭った。
 こちらからは後姿しか見えなかったが、大体どうしたのかはわかる。
 樹雨が表情をあらためて、ルシェイドを見つめた。
「……わかったような……気がします。……どうぞ、後はあなたの好きなように」
 ルシェイドは何も言わず、懐から何かを出した。

 ちり、と涼やかな音。
 どうやら鈴のようだ。
 それはルシェイドの手の中で形を変え、細身の剣になった。

 樹雨もルシェイドも何も言わない。

 暗黙の了解のように、彼らは運命を享受しようというのか。

 沈黙が、落ちた。
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