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2025/04/03 (Thu)
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2012/03/14 (Wed)
 不意に、オルカーンがその少年を見て声を上げた。
「アレン?」
「違う。あいつはもっと髪が長い。……あんたたち、誰?」
 驚愕の声を一蹴して、少年は怪訝そうにこちらを交互に見た。
「ディリクから、此処に来るよう言われた。アィルという人物はいるか?」
「アィルは俺だ。……用件は?」
 どうやら目の前の少年が、目的の人物らしい。
 彼は不信そうな目でこちらを伺っている。
 ルベアはディリクから貰った紙片を取り出すと、アィルに手渡した。
 彼はそれにざっと目を通すと、一瞬険しい顔をした後、扉を大きく開けて脇にずれた。
「入って。お客さんみたいだ」
 ルベアとオルカーンは少し躊躇いつつ、中に足を踏み入れた。
「俺たちはその品が手に入れば良いんだが……」
「これちょっと手間かかるし、材料足らないのあるから直ぐには渡せないんだ。今日はもう遅いし、泊まっていきなよ」
 そう言って扉を閉め、廊下を少し進んだところで振り返った。
「夕飯は、食べたか?」
「いや……」
 馬車の上で軽く食べただけだ。
 質問の意図がよくわからず曖昧に返事をすると、じゃあそれからか、と呟いて、右の部屋に消えた。
 どうしたら良いのか分からずに立ち竦む。
 泊まると返事をしたわけでもない。
 軽く溜め息をつきながら周りを見回す。
 正面、廊下の先には二階へと続く階段。
 階段の脇にも道があって、奥へ行くことが出来るようだ。
 階段の陰になって見難いが、奥に扉が見える。
 廊下の左右にはそれぞれ扉がある。
 それだけ見ても広い内装だ。
 家の中に、気配は感じられない。
 アィルしか住んでいないとしたら広すぎる気がした。
 その時、アィルがひょいと頭を覗かせた。
「何やってんの。こっち入って」
 言われるままに入ると、良い匂いがした。
 其処は食堂のようだった。
 中央辺りに仕切りがあり、右側に机と椅子が、左側に調理器具などが並べてある。
 アィルは左側から、椅子に座るよう促す。
 程なく、幾つかの簡単な料理が運ばれてきた。
「これ食ったら片付けはしなくていいから。風呂は階段の横、部屋は2階の、鍵のかかってないとこ勝手に使っていいよ」
 言い置いて出て行こうとするアィルに、ルベアが声をかける。
「……まだ泊まるとは行っていないんだが」
 アィルは扉の前で肩越しに振り返りながら、ほんの僅かに苛立たしげな口調で言った。
「泊まれる所は此処以外ない。この辺、夜は危ないんだ。野宿なんて以ての外だぞ」
 家から出るなよ、と言い捨て、アィルは足早に部屋を出て行った。
「……食べようよ」
 足音を追っていたルベアは、オルカーンの声に振り返り、有り難く頂く事にした。
「……初対面の人間を家に上げて自由にさせとくっていうのも随分無用心だと思うんだが……」
 料理を口に運びながらルベアが言う。
 料理は美味しかった。
 暫く手の込んだ温かい料理を食べていなかった所為もあるだろうが、身体に染み込むような気がした。
 飢えた獣のように料理を平らげていたオルカーンは、ルベアの言葉に一瞬考え込んでから答えた。
「特に問題ないんじゃないかな」
「……そうか?」
「うん。ご飯美味しいし、変な気配はしなかったし」
 こういうのを餌付けって言うんだろうな。
 などと考えながら、ルベアは大人しく食事を再開した。
2012/03/14 (Wed)
 翌朝、窓から差し込む日の光と、階下での僅かな物音に目を覚ましたルベアは、一瞬自分が何処にいるのか分からなかった。
 使われていなさそうな割には柔らかいベッドに身体を起こし、周囲を見回して昨夜を思い出す。
 家の主は何をしているのか階段奥の部屋に閉じこもってしまったので、言われたように風呂に入り、部屋を借りた。
 疲れていたのか眠りは直ぐに訪れた。

 軽く身支度を整え、部屋を出る。
 オルカーンはベッドの上の日の当たる場所で丸くなっていた。
 階下に降りると、奥の部屋から出てくるアィルに会った。
「早いなぁ。まだ寝てても良かったのに」
 屈託なく笑う彼は、外套を纏い、腰に剣を佩いている。
「出かけるのか」
「昨日足りないものがあるって言ったろ。取りに行くんだよ」
 言って肩を竦める。
 アィルの顔色が少し悪いことに気づき、ルベアは眉をひそめた。
「顔色が悪いぞ」
「あぁ。あんまり寝てないから。本当はもう少し時間をかけて作りたいんだけど……急いでるんだろ?」
 寝不足の原因はルベア達の求める薬の所為らしい。
「さて。じゃあ行って来るわ」
「……ついて行っても?」
 問うと、アィルは驚いた顔をしてから虚空を見つめ、うーんと唸った。
「まぁ問題はないだろうけど……ついて来ても面白いもんないよ?」
「此処にいてもやることがない」
「それはそうか」
 あははと笑ってアィルは頷いた。
 荷物を取りに二階へ上がると、オルカーンはまだ眠っていた。
 起こすのもどうかと思い、扉の脇にメモを置いておくことにした。
 階下に戻ると、アィルは食堂から出てくるところだった。
「食事用意しといたんだ。起きたら食べられるように。俺たちのはこっちに入ってるから」
 アィルが荷物を示し、それから行こう、と促した。
「遠いのか?」
 食事の用意があるということは、昼には確実に戻ってこれないということか。
 そう思いつつ聞くと、アィルは首を傾げて言った。
「近くで済むかもしれないし、少し足を伸ばさなきゃならないかもしれない。まぁその時次第だな」

 外に出ると日差しが眼に刺さった。
 日は高くない為か、まだ周囲は暖まっていない。
 慣れた足取りで歩き始めるアィルについて、ルベアも歩き出した。
 暫く無言で歩きつづけた。
 振り返ると、家はもう遠く、うっすらとしか見えなかった。
「……あの家には、一人で住んでいるのか?」
 あの広い家に。
 アィルは前方の草を掻き分けながら、そうだなぁと答えた。
「最近はもう一人、一緒に住んでるんだけど」
「あの家に、二人で?」
「あー、まぁ広いからなー。そいつが来る前は殆ど一人で住んでたよ」
 何でもないことのように笑う。
 だがもとよりあまり踏み込むつもりはない。
 ルベアは、そうか、と答え、口を噤んだ。
「しかしまためんどくさいもの頼むよなぁ。この時期だから良かったけど、もう少し遅かったら無かったぜ」
「……すまん」
「良いって。代価はディリクに吹っかけるから。それにこの調合……魔獣だろ。しかもドロドロしたやつ」
 ルベアは驚いたようにアィルの背を見る。
「分かるのか」
「当然。これで飯食ってんだから」
 問うと、自信に溢れた声が返った。
 わざわざシオンに来なくてもエールで十分間に合うのではないかと思っていたが、この答えになるほど、と思ってしまった。
「まぁ、苦手なものもあるんだけど」
 苦笑して呟く。
 苦手なものがある、という割には口調は明るい。
2012/03/15 (Thu)
「あ」
 森のような所をどんどん進んでいき、視界が悪くなってきた頃、アィルが声を上げた。
「あいつあんなところに」
 呆れた口調に、ルベアは顔を上げた。
 前方、丈の高い草の向こうに、人影が見えた。

 その横顔が見えた途端、ルベアは全身から血の気が引くのが分かった。
 薄い青銀の髪は腰よりも長い。
 そしてレインに似た、その顔が。
 忘れもしないその姿。
 指先が冷えていく。
 心臓は早鐘のように鳴り響き、煩いくらいだ。
 ざわりと殺気だったルベアの気配に気づいたのか、アィルが驚愕の面持ちで振り返る。
 だがその瞬間、ルベアは彼の脇をすり抜けて前方の人影へと踊りかかっていた。
 走りながら抜き放った剣を、人影へと振り下ろす。

「ヴィオルウスッ!」

 背後からアィルの悲鳴じみた声。
 彼はその声と迫り来るルベアを見て、間一髪で刃をかわした。
「何……誰!?」
 声には驚愕と恐怖があった。
 距離を取ったヴィオルウスに剣の先を向けて、ルベアは声を押出した。
「忘れたとは言わさない。お前が滅ぼした町のことを!」
 怒りを押し殺したその声を聞いた瞬間、ヴィオルウスの顔が青ざめた。

 覚えているのか。
 当たり前だ。
 忘れたなどと言おうものなら八つ裂きにしても飽き足らない。

「お前が奪ったんだ。俺の家族を、友人を、町を! ……お前がッ!」
 ヴィオルウスは青ざめたままルベアを見返している。
 苦痛を堪えるかのような、その表情。
「お前が殺したんだッ!」
 叫びながら、剣を振り上げる。
 ヴィオルウスは悲しげな視線をルベアに向けた後、静かに目を閉じた。
 振り下ろされる刃を止めようとしない。
 ルベアも、止める気は無い。

 勢いのまま振り下ろされた刃は、当たる寸前に甲高い音を立てて防がれた。
「アィル……」
 間に割り込んだ人物の名を、驚愕に震える声でヴィオルウスが呼ぶ。
「……ッ、この……!」
 アィルはルベアの剣を弾き、ヴィオルウスを庇うように剣を構える。
「ったく、冗談じゃないぜ! お前少しは抵抗しろよ!」
「だって……」
 怒鳴られたヴィオルウスは情けない声で呟いた。
「私が殺したのは、事実だから……」
「だから大人しく殺されてやるってか? 何度目だお前。そういうやつ片っ端から相手にしてたらお前何回死ねば済むんだよ」
 半ば呆れた口調で言われ、ヴィオルウスが言葉に詰まる。
「それとあんた。……名前聞いてなかったなぁまぁいいや。後で聞く。敵討ちの為だってんなら殺させるわけにはいかない。そんな理由で、人を殺したって誰も喜ばないし、お前だって、救われねぇよ。……それでも殺したいってんなら」
 油断無くルベアに視線を送り、一度大きく息を吸うと、言葉と共に吐き出した。
「俺がまず相手になる」
「アィル!」
 止めようとする、ヴィオルウスの声を視線で黙らせ、アィルは一歩踏み出した。
 表情は真剣そのものだ。
2012/03/15 (Thu)
 怒りを押さえ込みながらも黙って聞いていたルベアは、アィルの宣言に目を細めた。
「……上等だ。まず貴様から血祭りに上げてやる」
 低い声で告げ、構えを変える。
 アィルは気圧されたかのように腕を震わせたが、顎を引いてそれを止めた。
 どうしたら良いか分からずに、ヴィオルウスはその場で二人を交互に見ている。

 空気が張り詰めていた。
 視線と気配で人が殺せるのなら、アィルは間違いなくこの場で命を落としているだろう。
 それ程の殺気を、アィルは唇を噛み締めて耐えた。

 汗が流れる。
 今日はそんなに暑くない。
 なのに。
 ほんの僅か、ルベアへと向けた切っ先がぶれた。
 その瞬間、それを合図にしたかのようにルベアが打ち込んできた。
 横から薙ぎ払われる剣を立てた刃で防ぐ。
 重い。
 直ぐに刃が返され、間髪いれずにアィルを切り伏せようとする。
 研ぎ澄まされた、殺意。
 ルベアは既に怒りを押さえ込んでいた。
 姿を見た瞬間に膨れ上がったその感情は、アィルとヴィオルウスのやり取りの間に僅かながら治まっていたからだ。
 けれどヴィオルウスへと、そしてアィルへと向けた殺意は本物だ。
 本気で、ルベアはこの二人を殺そうとしていた。

 何合と打ち合い、弾きあう。
 ルベアから見ればまだ少年なのに、剣の腕は確かだった。
 一介の薬師にしては奇妙なほどに。
 オルカーンよりは強そうだが、実戦経験には乏しいようだ。
 フェイントを混ぜると面白いように引っかかる。
 だが、速さはあるので幾つかは防がれた。
 打ち合ううちに、アィルの身体は細かい傷が多くなった。
 致命傷は一つも無い。
 さすがだと思う反面、動きが鈍くなってきたのにも気づいた。
 アィルは肩で息をしている。
 其処へ、思い切り振り下ろした。
 一際高い音を立てて、防がれる。
 が、その衝撃でアィルの膝が崩れた。
 振りぬくように弾くと、小さく悲鳴を上げて後ろに倒れる。
 倒れたまま起き上がれないアィルを見下ろすルベアの眼は、冷たく光っていた。

「これで、止めだ」

 その声は冷酷に響いた。
 アィルの眼が驚愕に見開かれる。
 明確な意思を持って、ルベアは剣を振り下ろした。
2012/03/16 (Fri)
「……アィル!」
「ルベアッ!」
 制止する声を振り切って、剣は突き刺さった。
 アィルの顔の真横、髪一筋ほどの距離に。

「なん……で……」
 アィルが息を乱しながら、呆然と見上げてくる。

 突き立てた剣を抜くと、汚れを払って鞘に収めた。
「別に。殺したいのはお前じゃないし、お前に今死なれる訳にはいかないからな」
 振り向いた視線の先には、ヴィオルウスがいる。
 そしてその向うにオルカーンが。
「何やってんだよ、ルベア!」
 走り寄るオルカーンを一瞥すると、ルベアは意地悪く言った。
「お前は知ってるはずだぞ。俺が何をしているのかは」
「え、アィルが敵?」
「違う。そっちだ」
 言って指を指すと、オルカーンはそちらを見て視線を戻し、またそちらを見た。
「……え、この気の弱そうな人が、町を滅ぼしたの?」
 その言葉に吹き出す声が聞こえ、そちらに視線をやるとアィルが地面に上半身を起こして肩を震わせていた。
 ヴィオルウスは困ったように立ち竦んだままだ。
「敵討ちは、止めたの?」
 オルカーンに静かに言われ、ルベアは視線をヴィオルウスに向けた。
「正直今でも殺したいが」
 その言葉にアィルが慌てて立ち上がる。

 ルベアは静かに視線をアィルに向け、小声で呟いた。
「あの家に、一人は寂しいだろう」

 それは本当に小さな声で、耳の良いオルカーンと近くに来ていたアィルにしか聞こえなかった。
 一瞬泣きそうな顔になったアィルは、直ぐに表情を改めてルベアに向き直った。
「じゃあ、殺さないでくれるんだな?」
 ルベアは少しの間を置いて、にやりと笑った。
「今の所はな」
「そういう意地悪いこと言うなよ」
 オルカーンがぼそりと口を挟む。
「生涯かけて殺そうとしてたのを諦めるんだ。そのくらい良いだろうが」

「なぁ、えぇと、ルベアってのか?」
 アィルが躊躇いがちに声をかける。
「あぁ」
「さっきの……皆死んだってことはナーダの出身か」
「……あぁ」
「……そっか。俺も似たような境遇だけど、あんたが止めてくれて嬉しいよ」
 そう言って顔をほころばせた。
 ふとルベアが眉を寄せる。
「似たような?」
「あー、シオンの村、こいつ半分滅ぼしたんだよ」
 アィルはヴィオルウスを指差し、あっさりと言い切った。
「だから村に人って少なかったろ?」
「あーそう言われれば確かに」
 納得したようにオルカーンが頷く。
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