忍者ブログ
小説用倉庫。
54  55  56  57  58  59  60  61  62  63  64 
2024/11/23 (Sat)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2012/03/21 (Wed)
「何やってんの二人とも。こんな所で」
 言いかけたアィルの言葉にかぶさるように、第三者の声が響いた。
 二人でそちらを向くと、オルカーンが建物の影から出てきたところだった。
「何って……見ればわかるだろう」
「剣の相手をしてもらってたんだよ」
 答えながら、アィルはちらりとルベアを伺った。
 先程の暗い光は見えない。
 そのことに少し緊張を緩め、オルカーンの方へ歩み寄る。

 ルベアはそんなアィルの様子に気づいてはいたが、特に何かしようとは思わなかった。
 仇討ちで、強くなろうとしたのは事実だ。
 果たせようと果たせまいと、それは変わらない。
 表情にこそあまり出さないが、ルベアは倦怠感を覚えていた。
 身体が重い。
 疲れているのだろうか。
 二人に気づかれないように溜め息を吐く。
 疲れたとは言っていられない。
 レインが倒れたままだし、何も終わっていないのだから。

 オルカーンが怪訝そうにルベアを見て首を傾げた。
「どうかした?」
「……いや?」
 首を傾げながら返すと、オルカーンは納得していないような顔で口を噤んだ。
「そろそろかな」
 アィルが呟く。
 日はかなり高くなってきていた。
 様子を見てくる、と言い置いて、アィルが家へと戻っていった。
「俺たちも行くか。……出発の準備は出来ているのか?」
「俺は荷物持ってないよ」
 それもそうかと思い、ルベアも家へと向かう。
 その後をオルカーンが躊躇いがちについていった。

 中へ入ると、丁度ヴィオルウスが降りてきたところだった。
 心なしか顔色が悪い。
 彼はルベアを見つけると一瞬身体を強張らせ、直ぐに吐息と共に言葉を吐き出した。
「こっちの準備は出来たよ。……アィルは?」
 怪訝そうに問われ、首を傾げる。
 ルベアたちより先に家に入っているはずだ。
「奥の部屋じゃないか?」
 視線を奥へとやりながら言うと、それを見計らったかのように扉が開き、アィルが顔を見せた。
 布の塊を大事そうに抱えている。
「あぁ、アィル。準備できたよ」
「俺の方も完成だ」
「じゃあすぐ行く?」
 首を傾げながら、ヴィオルウスが皆を見回す。
 皆が頷くと、二階に、と言って階段を上がった。
 彼が使っていない部屋に入るのを見て、ルベアは自分たちの荷物を取りに行った為に、遅れて部屋に入る。
 部屋の中は、床と天井に魔方陣が描かれていた。
「落ちんのかこれ」
「実際に描いてあるわけじゃないから大丈夫だよ。発動すれば消えるから」
「へぇ」
 アィルが興味深そうに陣を覗き込む。
2012/03/21 (Wed)
「設定はエールの裏路地。ディリクの店の近くにしたんだけど……」
 良いかな? と伺うように見られ、ルベアは頷いた。
「もとより其処に行く予定だ。問題はない」
「じゃあ行こう。用意は良い?」
 皆が一様に頷く。
 全員側の中に入ったのを確認して、ヴィオルウスは両手を翳した。

 淡く光が灯る。
 それは陣の内側に溢れ、視界を白く覆い尽くした。
 視界が利かなくなったとき、落ちるような浮遊感に包まれた。
 ぐらりと傾ぐ。
 ルベアは眩暈がして目を閉じ、荷物を握り締めた。

 不意に、空気が変わった。
 家の中の、木の匂いではない。
 乾いた砂と、土の匂い。
 目を開けると薄暗い路地だった。
 移動したのだ、と分かったのは、そこが見覚えのある場所だったからだ。
 ディリクの店と、表通りの丁度中間あたりの場所だ。
 空気の抜けるような音が聞こえたのでそちらを見ると、ぽかんとした表情でオルカーンが周りを見ていた。
 その左右にアィルとヴィオルウスが立っている。
 全員無事のようだ。

「行こう」
 促して、歩き出す。
 狭い路地に足音が響いた。
 程なく、古びた扉の前に来た。
 前に来た時と変わらない、店とは思えない扉だ。
 押し開けると、中の闇が押出されるかのようだった。
 相変わらず暗い。
 躊躇することなく扉からの明かりを頼りに進むと、カウンターに明かりが灯った。
 赤い火がちらつく。
「……来たか」
 ディリクが、カンテラを手に立っていた。
 扉が完全に閉まると、明かりは目の前の火だけになった。
「相変わらず商売できなさそうな店だよな」
 呆れたようにアィルが呟く。
 ディリクは片目を眇めてアィルを見ると、口を開いた。
「託さず持ってきたのか」
「あぁ。丁度町にも用事があったから、ついでにと思って」
 そう言ってアィルは手に持った包みをディリクへと渡した。
 にやりと笑って付け足す。
「あとヴィオルウスの弟ってやつも見てみたかった」
「……」
 ディリクは特に何も言わずに踵を返すと、奥へと向かった。
 少し進んで振り返る。
「少し待て」
 低く囁き、ディリクは奥の部屋へと消えた。
 カウンターの上にはカンテラが乗っている。
 その明かりを頼りに店内を見回すが、相変わらず用途はよくわからなかった。

「レインとは、何時会ったの?」
 唐突に、ヴィオルウスが問うた。
 一瞬考え、オルカーンへと視線を移す。
「いつだ?」
「……えっ」
 突然振られたオルカーンは驚いたように尻尾を立てた。
「何で俺に聞くの」
「拾ってきたのはお前だろ」
「……拾った?」
 アィルが怪訝そうに問う。
「こいつが拾ってきたんだ」
「あー……何か気になって行ったら倒れてたんだよ。……いつだったかなぁ。そんなに前じゃないよ」
「そう……」
 ヴィオルウスは考え込むように視線を落とした。

 何故聞くのかと問おうと口を開いた時、奥の扉が開いた。
2012/03/28 (Wed)
「来い」
 出てきたディリクは短く一言告げると、左の部屋へ消えた。
 呆れたような表情をしながら、アィルがディリクの後を追う。
 それに習って、皆移動した。
 明かりは必要ないかと思いつつ、持っていく。
 部屋の中に入ると、一瞬光が走った。
 強い光に目が眩むが、それは直ぐに消え、室内はやはり薄暗い状態にあった。
 部屋の中央にはレインがいた。
 ぼんやりと上体を起こしている。
 その向うにディリクが立っていた。

「……レイン?」
 オルカーンが不安そうに問う。
 声にぴくりと反応して、レインがのろのろとこちらを振り返った。
 何処か夢見がちな表情だ。
 焦点が定まっていない。

「起こせ」
 ディリクが一言、囁いた。

 起きていない、ということなのだろうか。
「レイン」
 呼びかけ、肩に手をかけようと手を伸ばす。
 途端、ばちりと火花が散って手が弾かれた。
 驚いてレインを見、次いでディリクへと視線を投げる。
 彼は一つ頷くと、懐から何かを取り出し、レインの上に振りかけた。
 一見砂のようだったが、僅かな明かりに反射してきらきらと光っている。
 それは真っ直ぐには落ちず、レインの周囲を漂うかのように舞い、弾けた。
 レインがゆっくりと瞬く。
「レイン」
 もう一度呼びかける。
 口が開く。
 言葉を出そうとして、戸惑っているかのようにまた閉ざされた。
 思わずディリクを振り仰ぐと、彼は小声で何かを唱えていた。
 苦痛を感じたかのようにレインが顔をゆがめる。
 オルカーンがそろりと近寄り、レインの手を舐めた。
 労わるように。
 レインが手元に視線を落とす。
「……オルカーン?」
 まだ覚醒しきらないかのようなぼんやりとした声だったが、レインはちゃんとこちらが分かるようだった。
 ふ、とディリクが軽く息を吐く。
 レインは視線を上げるとルベアを見て、首を傾げた。
「ルベア? ……何処此処」
 答えようと口を開いた時、レインは目を閉じて後ろに倒れた。
 床に触れる寸前で、ディリクが支える。
 半ば呆然としながら、ディリクに視線を向けた。
「解毒できたんじゃないのか」
 ディリクはレインの首筋の脈を取ってから、ルベアへと顔を向けた。
「呼びかけには応えられた。解毒は成功している」
「じゃあ何で倒れたの」
 オルカーンが僅かに苛立った声で言う。
 尻尾が不安定にぱさりと揺れた。
「疲労だ。体力が回復していない」
 ディリクの返答はにべも無い。
2012/03/28 (Wed)
 意識を失ってぐったりとしているレインを抱え上げると、ディリクは扉へと歩き出した。
 途中で足を止める。
「すまんな。話をするにはもう少し時間がかかりそうだ」
 視線はヴィオルウスとアィルの方へ。
 アィルが気遣わしげにヴィオルウスを見ると、彼は目を伏せて首を左右に振った。
「生きていれば良い」
 囁く声は小さかったが、静寂に包まれた部屋の中でははっきりと響いた。
 ディリクはそれには特に何も言わず、部屋を出て行った。
 後を追うようにヴィオルウスが外に出ると、他の者も全員外へ出た。
 ルベアが出ると、丁度向かいの部屋からディリクが出てきたところだった。
 彼は微かに眉を顰めると、更に奥の部屋への扉を開けた。
「外に出ないのならばこっちにいろ。邪魔だ」
 確かに廊下は狭く、全員がいるには窮屈だった。
 ぞろぞろとそちらに向かう。

 開かれた扉の向うは、眩しいほどの日が差していた。
「わぁ」
 アィルが溜め息に似た声を出した。
「……中庭?」
 其処は暖かな日の当たる、庭のようだった。
 四方を壁に囲まれているが、緑は鮮やかにあちこちに生えていた。
 中央には机と椅子が置いてある。
 ゆっくり過ごすには快適そうな場所だ。
 だが、この綺麗な場所と薄暗い店を構える店主とが結びつかず、ルベアは思わずディリクへと視線を送った。
 彼はルベアの眼差しの意味を悟ったのか、淡々と言った。
「私が手がけたものではない。昔、戯れでルシェイドが作ったものだ」
 戯れで、こんな綺麗な場所を作ったのかと、ルベアは半分呆れて考える。
 他の三人はそれぞれ中庭へと歩を進めており、ルベアも向かおうとしたところで視線を感じて振り返った。
 じっと、感情のあまり伺えない表情でディリクが見ていた。
「何だ?」
「……お前は、大丈夫か」
 静かに言われた言葉に、意味が分からずに首を傾げる。
「分からないのならば、良い」
 ふいと視線を逸らされ、ルベアは眉をひそめた。
 聞いても語ってくれそうな気配は無い。
 ルベアは踵を返し、庭へと足を踏み入れた。
「……これも、予定の内か。ルシェイド……」
 本当に微かな囁きが聞こえて、ルベアは振り返った。
 扉が、ゆっくりと閉まっていくところだった。
「どうかしたのか?」
 扉を振り返っているルベアに気づいたのか、アィルが声をかけてきた。
「……いや」
 なんでもない、と言ってルベアは扉から離れた。










 閉ざされた扉の向う、薄暗い廊下で、ディリクはひとり佇んでいた。
 じっと床を見詰める彼の表情から、感情は読み取れない。
 暫くそのままの姿勢でいた彼は、不意に顔を上げると左の部屋へと入っていった。
 魔方陣はまだ描かれたままだ。
 小声で何かを呟くと、僅かにその陣が変化した。

 中央に立ち、呼吸を整える。
「『ルシェイド』、聞こえるか」
 捜索の魔法に、言葉を載せる。

 名前で呼びかければ、仮令どんな所にいたとしても聞こえるのだと、ルシェイドから聞いたことがあった。
 だが今、彼は呼びかけに応じない。
 いつもなら忙しくても姿を見せるはずなのに。

「……『ルシェイド』」
 もう一度、今度は捜索の範囲を広げて呼ぶ。
 本当ならこんな魔法など使わなくても届くのだ。
 嫌な、予感がしていた。
 ディリクはそっと片目へと手を伸ばした。
 目の色は、金だ。
 この世界では「ルシェイド」にのみ表れる色。
 本来存在しないはずのその色を宿しているということは、彼に次ぐ力を持つということだ。
 それでも、自分はきっとルシェイドの力の足元にも及ばない。
 彼が完全に隠れようと思えば、声など通じるはずは無いのは分かっていた。
 現界に居ない事は分かっていた。
 魔界や神界へも探しに行きたかったが、レインをこのままにしておくわけにもいかない。
 僅かに眉をよせ、溜め息を吐く。
 異界へは、ディリクは移動できない。
 そちらに行っているのだとしたらどうすれば良いのだろう。
 焦燥感は募るものの、ディリクは成す術が無かった。
 ルシェイドのように先読みが出来るわけではない。
 何故こうも嫌な予感がするのか、ディリクには分からなかった。
 もう一度溜め息を吐き、彼はレインの眠る部屋へと向かった。
2012/04/02 (Mon)
「丁度広いんだしまたやらねぇ?」
 アィルが目を輝かせてルベアに言った。
 返事をするにはためらいがあった。
 身体の不調は治っていない。
 むしろ少しずつ、酷くなってきている気がしていた。
 ふとオルカーンへと視線を滑らせ、にやりと笑う。
「オルカーンと戦って、勝てたら相手してやろう」
 アィルが驚いたようにオルカーンへ視線を向けると、オルカーンも硬直して視線を返した。
「何で俺!」
「暇だろ?」
 言って、椅子の一つに腰を下ろす。
「うー……そうだけど……慣れないと加減が難しいんだよ」
 加減、という言葉にむっとしたのか、アィルが憤然と声を上げた。
「良いぜ! オルカーン、加減なんていらねぇよ!」
 呆れた溜め息を吐いてヴィオルウスが椅子に座る。
 アィルの性格はよくわかっているようだ。
「結構速いぞ。負けるなよ」
 仕方なさそうに、広い場所へ移動するオルカーンの背に声をかける。
「そうなの?」
 意外、という顔でオルカーンが振り返った。
 薄く笑んだままルベアは頷き、追い払うように手を振った。
 アィルは既に臨戦態勢だ。

 オルカーンが向かい側に立つと、アィルは切っ先をオルカーンへと向けた。
「本当にやるの?」
「あぁ」
 静かに答えるアィルからは、闘志が伺えた。
 覚悟を決めたのか、オルカーンは溜め息を吐くと姿勢を低くした。
 殺気が膨れ上がる。
 視線に力を込めて、両者がにらみ合う。

 オルカーンが低く喉を鳴らした。
 牙を剥き出し、相手を睨みつけているところを見るとやはり魔獣なんだなと思う。
 普段はどこかのんびりしているくせに、戦闘となると容赦が無い。
 加減が難しいと言っていた、あの言葉に嘘は無いだろう。
 いつでも飛び出せるように準備しながら、ルベアは二人を見守った。

 中庭に、雰囲気にそぐわない殺気が満ちた。
 先に動いたのは、アィルだった。
 短く呼気を吐いてオルカーンへと剣を振るう。
 それを待っていたかのように、オルカーンがアィルの懐へ飛び込んだ。
「……!」
 爪の一撃を、アィルが身を捻ってかわす。
 先程と立ち位置は逆になっていた。
 双方がじり、と距離を狭める。
 オルカーンが飛び出す。
 牙を剥いて飛び掛ってくるオルカーンへアィルが剣を立てて防ぐ。
 だが重さを考慮していなかったらしい。
 飛び掛られた衝撃のまま、アィルは短い悲鳴を上げて地面へと引き倒された。
 爪がアィルの肩へと食い込み、顔が苦痛にゆがめられる。
 オルカーンは頓着せずに牙を剥いた。

 瞬間、ルベアが飛び出す。
 喉笛に噛み付こうとしていた牙の、間へと刃を滑らせた。
 重い音がして、ルベアの剣にオルカーンの牙がぶつかる。
「其処までだ」
 低く声をかける。
54  55  56  57  58  59  60  61  62  63  64 
HOME
Copyright(C)2001-2012 Nishi.All right reserved.
倉庫
管理者:西(逆凪)、または沖縞

文章の無断転載及び複製は禁止。
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (03/12)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (10/19)
[長編] Reparationem damni  (09/07)
忍者ブログ [PR]
PR