小説用倉庫。
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意識を失ってぐったりとしているレインを抱え上げると、ディリクは扉へと歩き出した。
途中で足を止める。
「すまんな。話をするにはもう少し時間がかかりそうだ」
視線はヴィオルウスとアィルの方へ。
アィルが気遣わしげにヴィオルウスを見ると、彼は目を伏せて首を左右に振った。
「生きていれば良い」
囁く声は小さかったが、静寂に包まれた部屋の中でははっきりと響いた。
ディリクはそれには特に何も言わず、部屋を出て行った。
後を追うようにヴィオルウスが外に出ると、他の者も全員外へ出た。
ルベアが出ると、丁度向かいの部屋からディリクが出てきたところだった。
彼は微かに眉を顰めると、更に奥の部屋への扉を開けた。
「外に出ないのならばこっちにいろ。邪魔だ」
確かに廊下は狭く、全員がいるには窮屈だった。
ぞろぞろとそちらに向かう。
開かれた扉の向うは、眩しいほどの日が差していた。
「わぁ」
アィルが溜め息に似た声を出した。
「……中庭?」
其処は暖かな日の当たる、庭のようだった。
四方を壁に囲まれているが、緑は鮮やかにあちこちに生えていた。
中央には机と椅子が置いてある。
ゆっくり過ごすには快適そうな場所だ。
だが、この綺麗な場所と薄暗い店を構える店主とが結びつかず、ルベアは思わずディリクへと視線を送った。
彼はルベアの眼差しの意味を悟ったのか、淡々と言った。
「私が手がけたものではない。昔、戯れでルシェイドが作ったものだ」
戯れで、こんな綺麗な場所を作ったのかと、ルベアは半分呆れて考える。
他の三人はそれぞれ中庭へと歩を進めており、ルベアも向かおうとしたところで視線を感じて振り返った。
じっと、感情のあまり伺えない表情でディリクが見ていた。
「何だ?」
「……お前は、大丈夫か」
静かに言われた言葉に、意味が分からずに首を傾げる。
「分からないのならば、良い」
ふいと視線を逸らされ、ルベアは眉をひそめた。
聞いても語ってくれそうな気配は無い。
ルベアは踵を返し、庭へと足を踏み入れた。
「……これも、予定の内か。ルシェイド……」
本当に微かな囁きが聞こえて、ルベアは振り返った。
扉が、ゆっくりと閉まっていくところだった。
「どうかしたのか?」
扉を振り返っているルベアに気づいたのか、アィルが声をかけてきた。
「……いや」
なんでもない、と言ってルベアは扉から離れた。
閉ざされた扉の向う、薄暗い廊下で、ディリクはひとり佇んでいた。
じっと床を見詰める彼の表情から、感情は読み取れない。
暫くそのままの姿勢でいた彼は、不意に顔を上げると左の部屋へと入っていった。
魔方陣はまだ描かれたままだ。
小声で何かを呟くと、僅かにその陣が変化した。
中央に立ち、呼吸を整える。
「『ルシェイド』、聞こえるか」
捜索の魔法に、言葉を載せる。
名前で呼びかければ、仮令どんな所にいたとしても聞こえるのだと、ルシェイドから聞いたことがあった。
だが今、彼は呼びかけに応じない。
いつもなら忙しくても姿を見せるはずなのに。
「……『ルシェイド』」
もう一度、今度は捜索の範囲を広げて呼ぶ。
本当ならこんな魔法など使わなくても届くのだ。
嫌な、予感がしていた。
ディリクはそっと片目へと手を伸ばした。
目の色は、金だ。
この世界では「ルシェイド」にのみ表れる色。
本来存在しないはずのその色を宿しているということは、彼に次ぐ力を持つということだ。
それでも、自分はきっとルシェイドの力の足元にも及ばない。
彼が完全に隠れようと思えば、声など通じるはずは無いのは分かっていた。
現界に居ない事は分かっていた。
魔界や神界へも探しに行きたかったが、レインをこのままにしておくわけにもいかない。
僅かに眉をよせ、溜め息を吐く。
異界へは、ディリクは移動できない。
そちらに行っているのだとしたらどうすれば良いのだろう。
焦燥感は募るものの、ディリクは成す術が無かった。
ルシェイドのように先読みが出来るわけではない。
何故こうも嫌な予感がするのか、ディリクには分からなかった。
もう一度溜め息を吐き、彼はレインの眠る部屋へと向かった。
途中で足を止める。
「すまんな。話をするにはもう少し時間がかかりそうだ」
視線はヴィオルウスとアィルの方へ。
アィルが気遣わしげにヴィオルウスを見ると、彼は目を伏せて首を左右に振った。
「生きていれば良い」
囁く声は小さかったが、静寂に包まれた部屋の中でははっきりと響いた。
ディリクはそれには特に何も言わず、部屋を出て行った。
後を追うようにヴィオルウスが外に出ると、他の者も全員外へ出た。
ルベアが出ると、丁度向かいの部屋からディリクが出てきたところだった。
彼は微かに眉を顰めると、更に奥の部屋への扉を開けた。
「外に出ないのならばこっちにいろ。邪魔だ」
確かに廊下は狭く、全員がいるには窮屈だった。
ぞろぞろとそちらに向かう。
開かれた扉の向うは、眩しいほどの日が差していた。
「わぁ」
アィルが溜め息に似た声を出した。
「……中庭?」
其処は暖かな日の当たる、庭のようだった。
四方を壁に囲まれているが、緑は鮮やかにあちこちに生えていた。
中央には机と椅子が置いてある。
ゆっくり過ごすには快適そうな場所だ。
だが、この綺麗な場所と薄暗い店を構える店主とが結びつかず、ルベアは思わずディリクへと視線を送った。
彼はルベアの眼差しの意味を悟ったのか、淡々と言った。
「私が手がけたものではない。昔、戯れでルシェイドが作ったものだ」
戯れで、こんな綺麗な場所を作ったのかと、ルベアは半分呆れて考える。
他の三人はそれぞれ中庭へと歩を進めており、ルベアも向かおうとしたところで視線を感じて振り返った。
じっと、感情のあまり伺えない表情でディリクが見ていた。
「何だ?」
「……お前は、大丈夫か」
静かに言われた言葉に、意味が分からずに首を傾げる。
「分からないのならば、良い」
ふいと視線を逸らされ、ルベアは眉をひそめた。
聞いても語ってくれそうな気配は無い。
ルベアは踵を返し、庭へと足を踏み入れた。
「……これも、予定の内か。ルシェイド……」
本当に微かな囁きが聞こえて、ルベアは振り返った。
扉が、ゆっくりと閉まっていくところだった。
「どうかしたのか?」
扉を振り返っているルベアに気づいたのか、アィルが声をかけてきた。
「……いや」
なんでもない、と言ってルベアは扉から離れた。
閉ざされた扉の向う、薄暗い廊下で、ディリクはひとり佇んでいた。
じっと床を見詰める彼の表情から、感情は読み取れない。
暫くそのままの姿勢でいた彼は、不意に顔を上げると左の部屋へと入っていった。
魔方陣はまだ描かれたままだ。
小声で何かを呟くと、僅かにその陣が変化した。
中央に立ち、呼吸を整える。
「『ルシェイド』、聞こえるか」
捜索の魔法に、言葉を載せる。
名前で呼びかければ、仮令どんな所にいたとしても聞こえるのだと、ルシェイドから聞いたことがあった。
だが今、彼は呼びかけに応じない。
いつもなら忙しくても姿を見せるはずなのに。
「……『ルシェイド』」
もう一度、今度は捜索の範囲を広げて呼ぶ。
本当ならこんな魔法など使わなくても届くのだ。
嫌な、予感がしていた。
ディリクはそっと片目へと手を伸ばした。
目の色は、金だ。
この世界では「ルシェイド」にのみ表れる色。
本来存在しないはずのその色を宿しているということは、彼に次ぐ力を持つということだ。
それでも、自分はきっとルシェイドの力の足元にも及ばない。
彼が完全に隠れようと思えば、声など通じるはずは無いのは分かっていた。
現界に居ない事は分かっていた。
魔界や神界へも探しに行きたかったが、レインをこのままにしておくわけにもいかない。
僅かに眉をよせ、溜め息を吐く。
異界へは、ディリクは移動できない。
そちらに行っているのだとしたらどうすれば良いのだろう。
焦燥感は募るものの、ディリクは成す術が無かった。
ルシェイドのように先読みが出来るわけではない。
何故こうも嫌な予感がするのか、ディリクには分からなかった。
もう一度溜め息を吐き、彼はレインの眠る部屋へと向かった。
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