小説用倉庫。
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ルベアとレインの体力が完全に戻り、片腕での生活にもそこそこ慣れた頃、そろそろ出発しようということになった。
旅装になり、荷物を整理しているのをディリクは店のカウンターに座って見ていた。
いつもは暗い店内には灯りがつけられ、手元がきちんと見分けられるほどの光量が保たれている。
「シェンディルまだ山に居るかなぁ」
レインが紐を結びながら呟いた。
「暫くは居るようなことを言っていたから、まだ居るだろう」
表情の読めない顔で、ディリクが言う。
視線は棚の一つに向いている。
何かを探しているようだ。
「まぁ居なくても、イーアリーサに行けば良いんだし」
用意の必要ないオルカーンがのんびりと言った。
僅かな衣擦れの音をさせてディリクが立ち上がると、奥の棚へ歩いていった。
荷を詰め終わったルベアはそれを見るともなしに見て、視線をレインへと戻した。
まだ詰め終わらないのか、時折手を止めては首を傾げている。
「いらないなら持って行くなよ」
注意するが、レインは困ったように首を傾げるだけだ。
「いると思うんだけど……」
「何でそんなに荷物が大きくなるんだ。あんまり持ってなかっただろう?」
「そうだよね……」
心此処にあらずな返答をして、手に取った何かの瓶を詰める。
中身は何かの葉だ。
薄暗い中でも鮮やかな緑色をしているのが見えた。
「何だそれ」
「月寄草の葉だよ。真っ暗な時とか良い灯りになるんだ」
「レイン何処に行く気なの」
呆れたようにオルカーンが口を挟む。
「灯りなら灯籠があるだろう」
重ねて言うと、レインは渋々と瓶を戻した。
「お前まさかその中そんなのばっかりか」
視線を険しくして問うと、レインは俯いてからえへと笑った。
「えへじゃない。見せてみろ」
ルベアは問答無用で奪い取ると、中身を選定し始めた。
中身を全て出すと、ほぼ6割は必要なさそうなものだった。
「……」
「……一応商品なんだが」
いつ戻ってきたのか、ディリクが同じように鞄の中身を覗き込んでため息を吐いていた。
「堂々と盗むな」
レインに軽く拳を入れてから、店のものであろう品を戻していく。
「オルカーン」
ディリクに呼ばれ、オルカーンが頭を擡げた。
「何?」
彼はオルカーンの傍らに膝を突くと、柔らかな耳に触れた。
くすぐったさに身を捩るのを、ディリクが視線で止める。
「――……そのうち、必要になるかも知れない」
ぽつりとディリクが呟く。
囁きのように小さい声だったので、その声はオルカーンにしか聞き取れなかった。
旅装になり、荷物を整理しているのをディリクは店のカウンターに座って見ていた。
いつもは暗い店内には灯りがつけられ、手元がきちんと見分けられるほどの光量が保たれている。
「シェンディルまだ山に居るかなぁ」
レインが紐を結びながら呟いた。
「暫くは居るようなことを言っていたから、まだ居るだろう」
表情の読めない顔で、ディリクが言う。
視線は棚の一つに向いている。
何かを探しているようだ。
「まぁ居なくても、イーアリーサに行けば良いんだし」
用意の必要ないオルカーンがのんびりと言った。
僅かな衣擦れの音をさせてディリクが立ち上がると、奥の棚へ歩いていった。
荷を詰め終わったルベアはそれを見るともなしに見て、視線をレインへと戻した。
まだ詰め終わらないのか、時折手を止めては首を傾げている。
「いらないなら持って行くなよ」
注意するが、レインは困ったように首を傾げるだけだ。
「いると思うんだけど……」
「何でそんなに荷物が大きくなるんだ。あんまり持ってなかっただろう?」
「そうだよね……」
心此処にあらずな返答をして、手に取った何かの瓶を詰める。
中身は何かの葉だ。
薄暗い中でも鮮やかな緑色をしているのが見えた。
「何だそれ」
「月寄草の葉だよ。真っ暗な時とか良い灯りになるんだ」
「レイン何処に行く気なの」
呆れたようにオルカーンが口を挟む。
「灯りなら灯籠があるだろう」
重ねて言うと、レインは渋々と瓶を戻した。
「お前まさかその中そんなのばっかりか」
視線を険しくして問うと、レインは俯いてからえへと笑った。
「えへじゃない。見せてみろ」
ルベアは問答無用で奪い取ると、中身を選定し始めた。
中身を全て出すと、ほぼ6割は必要なさそうなものだった。
「……」
「……一応商品なんだが」
いつ戻ってきたのか、ディリクが同じように鞄の中身を覗き込んでため息を吐いていた。
「堂々と盗むな」
レインに軽く拳を入れてから、店のものであろう品を戻していく。
「オルカーン」
ディリクに呼ばれ、オルカーンが頭を擡げた。
「何?」
彼はオルカーンの傍らに膝を突くと、柔らかな耳に触れた。
くすぐったさに身を捩るのを、ディリクが視線で止める。
「――……そのうち、必要になるかも知れない」
ぽつりとディリクが呟く。
囁きのように小さい声だったので、その声はオルカーンにしか聞き取れなかった。
「使わずに済めば良いが」
手を離すと、耳には緑の石のついた小さな飾りがあった。
「何?」
自分では見れないのでオルカーンが首を傾げる。
レインが、はい、と言って鏡で示した。
飾りはきらきらと僅かな光を反射して、ちり、と小さく鳴った。
「へぇ。綺麗だね」
オルカーンがぽつりと言った。
「用意はできたのか」
ディリクの問いに、ルベアが肩をすくめる。
「まだもう少しだ」
「そうか」
そう言ってディリクは立ち上がると、奥へと向かった。
ルベアは荷造りを再開し、レインは弾き出された荷物を恨めしそうに見ていた。
暫く後、ようやく荷が完成した。
「よし、これで良いな」
まだレインが不満そうな顔をしていたが、ルベアは取り合わずに家の奥へ視線を向けた。
ちょうど部屋から出てきたディリクと目が合う。
「行くのか」
「あぁ。世話になった」
短い挨拶を交わす。
「……用が済んだら」
言いかけ、一息置く。
「アィル達の所に行ってみると良い。歓迎してくれるだろう」
淡々と言われた言葉を反芻して、頷く。
「それじゃ、またね」
レインが手を上げ、すでに背を向けていたルベアを追って店の外へと向かった。
「オルカーン」
後に続こうとしていたオルカーンが、ディリクの声に止まって振り返る。
「二人を、頼む」
じっと見つめて言われ、戸惑いながらもオルカーンが頷いた。
すぐに背を向け、外へと飛び出していく。
眩しいほど明るい外への扉が閉じられ、店の中がランプの灯りだけになった。
暫く扉へと視線を留め、それから不意に視線を落として俯く。
自分にも先見の力があれば良いのに、と思った。
ルシェイドとは連絡を取れない。
だから、気休めだ。
あんな耳飾など。
囁くように、昔覚えた祈りの言葉を呟く。
せめて無事に、彼らが戻れば良い。
「……ルシェイド……」
何処へ行った。
この不安を笑い飛ばして欲しい。
そんなものを感じる必要は無いのだと。
ただの取り越し苦労だと。
ディリクは細く息を吐いた。
目が閉じられた時、それに呼応して店内の明かりは全て消えた。
まるで最初から灯っていなかったかのように。
手を離すと、耳には緑の石のついた小さな飾りがあった。
「何?」
自分では見れないのでオルカーンが首を傾げる。
レインが、はい、と言って鏡で示した。
飾りはきらきらと僅かな光を反射して、ちり、と小さく鳴った。
「へぇ。綺麗だね」
オルカーンがぽつりと言った。
「用意はできたのか」
ディリクの問いに、ルベアが肩をすくめる。
「まだもう少しだ」
「そうか」
そう言ってディリクは立ち上がると、奥へと向かった。
ルベアは荷造りを再開し、レインは弾き出された荷物を恨めしそうに見ていた。
暫く後、ようやく荷が完成した。
「よし、これで良いな」
まだレインが不満そうな顔をしていたが、ルベアは取り合わずに家の奥へ視線を向けた。
ちょうど部屋から出てきたディリクと目が合う。
「行くのか」
「あぁ。世話になった」
短い挨拶を交わす。
「……用が済んだら」
言いかけ、一息置く。
「アィル達の所に行ってみると良い。歓迎してくれるだろう」
淡々と言われた言葉を反芻して、頷く。
「それじゃ、またね」
レインが手を上げ、すでに背を向けていたルベアを追って店の外へと向かった。
「オルカーン」
後に続こうとしていたオルカーンが、ディリクの声に止まって振り返る。
「二人を、頼む」
じっと見つめて言われ、戸惑いながらもオルカーンが頷いた。
すぐに背を向け、外へと飛び出していく。
眩しいほど明るい外への扉が閉じられ、店の中がランプの灯りだけになった。
暫く扉へと視線を留め、それから不意に視線を落として俯く。
自分にも先見の力があれば良いのに、と思った。
ルシェイドとは連絡を取れない。
だから、気休めだ。
あんな耳飾など。
囁くように、昔覚えた祈りの言葉を呟く。
せめて無事に、彼らが戻れば良い。
「……ルシェイド……」
何処へ行った。
この不安を笑い飛ばして欲しい。
そんなものを感じる必要は無いのだと。
ただの取り越し苦労だと。
ディリクは細く息を吐いた。
目が閉じられた時、それに呼応して店内の明かりは全て消えた。
まるで最初から灯っていなかったかのように。
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