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2024/11/22 (Fri)
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2012/04/11 (Wed)
 ルベアとレインの体力が完全に戻り、片腕での生活にもそこそこ慣れた頃、そろそろ出発しようということになった。
 旅装になり、荷物を整理しているのをディリクは店のカウンターに座って見ていた。
 いつもは暗い店内には灯りがつけられ、手元がきちんと見分けられるほどの光量が保たれている。

「シェンディルまだ山に居るかなぁ」
 レインが紐を結びながら呟いた。
「暫くは居るようなことを言っていたから、まだ居るだろう」
 表情の読めない顔で、ディリクが言う。
 視線は棚の一つに向いている。
 何かを探しているようだ。
「まぁ居なくても、イーアリーサに行けば良いんだし」
 用意の必要ないオルカーンがのんびりと言った。
 僅かな衣擦れの音をさせてディリクが立ち上がると、奥の棚へ歩いていった。
 荷を詰め終わったルベアはそれを見るともなしに見て、視線をレインへと戻した。
 まだ詰め終わらないのか、時折手を止めては首を傾げている。
「いらないなら持って行くなよ」
 注意するが、レインは困ったように首を傾げるだけだ。
「いると思うんだけど……」
「何でそんなに荷物が大きくなるんだ。あんまり持ってなかっただろう?」
「そうだよね……」
 心此処にあらずな返答をして、手に取った何かの瓶を詰める。
 中身は何かの葉だ。
 薄暗い中でも鮮やかな緑色をしているのが見えた。
「何だそれ」
「月寄草の葉だよ。真っ暗な時とか良い灯りになるんだ」
「レイン何処に行く気なの」
 呆れたようにオルカーンが口を挟む。
「灯りなら灯籠があるだろう」
 重ねて言うと、レインは渋々と瓶を戻した。
「お前まさかその中そんなのばっかりか」
 視線を険しくして問うと、レインは俯いてからえへと笑った。
「えへじゃない。見せてみろ」
 ルベアは問答無用で奪い取ると、中身を選定し始めた。
 中身を全て出すと、ほぼ6割は必要なさそうなものだった。
「……」
「……一応商品なんだが」
 いつ戻ってきたのか、ディリクが同じように鞄の中身を覗き込んでため息を吐いていた。
「堂々と盗むな」
 レインに軽く拳を入れてから、店のものであろう品を戻していく。

「オルカーン」
 ディリクに呼ばれ、オルカーンが頭を擡げた。
「何?」
 彼はオルカーンの傍らに膝を突くと、柔らかな耳に触れた。
 くすぐったさに身を捩るのを、ディリクが視線で止める。
「――……そのうち、必要になるかも知れない」
 ぽつりとディリクが呟く。
 囁きのように小さい声だったので、その声はオルカーンにしか聞き取れなかった。
2012/04/11 (Wed)
「使わずに済めば良いが」
 手を離すと、耳には緑の石のついた小さな飾りがあった。
「何?」
 自分では見れないのでオルカーンが首を傾げる。
 レインが、はい、と言って鏡で示した。
 飾りはきらきらと僅かな光を反射して、ちり、と小さく鳴った。
「へぇ。綺麗だね」
 オルカーンがぽつりと言った。

「用意はできたのか」
 ディリクの問いに、ルベアが肩をすくめる。
「まだもう少しだ」
「そうか」
 そう言ってディリクは立ち上がると、奥へと向かった。
 ルベアは荷造りを再開し、レインは弾き出された荷物を恨めしそうに見ていた。


 暫く後、ようやく荷が完成した。
「よし、これで良いな」
 まだレインが不満そうな顔をしていたが、ルベアは取り合わずに家の奥へ視線を向けた。
 ちょうど部屋から出てきたディリクと目が合う。
「行くのか」
「あぁ。世話になった」
 短い挨拶を交わす。

「……用が済んだら」
 言いかけ、一息置く。
「アィル達の所に行ってみると良い。歓迎してくれるだろう」
 淡々と言われた言葉を反芻して、頷く。
「それじゃ、またね」
 レインが手を上げ、すでに背を向けていたルベアを追って店の外へと向かった。
「オルカーン」
 後に続こうとしていたオルカーンが、ディリクの声に止まって振り返る。
「二人を、頼む」
 じっと見つめて言われ、戸惑いながらもオルカーンが頷いた。
 すぐに背を向け、外へと飛び出していく。

 眩しいほど明るい外への扉が閉じられ、店の中がランプの灯りだけになった。
 暫く扉へと視線を留め、それから不意に視線を落として俯く。
 自分にも先見の力があれば良いのに、と思った。
 ルシェイドとは連絡を取れない。
 だから、気休めだ。
 あんな耳飾など。
 囁くように、昔覚えた祈りの言葉を呟く。
 せめて無事に、彼らが戻れば良い。
「……ルシェイド……」
 何処へ行った。
 この不安を笑い飛ばして欲しい。
 そんなものを感じる必要は無いのだと。
 ただの取り越し苦労だと。
 ディリクは細く息を吐いた。
 目が閉じられた時、それに呼応して店内の明かりは全て消えた。

 まるで最初から灯っていなかったかのように。
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