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2012/04/11 (Wed)
「使わずに済めば良いが」
 手を離すと、耳には緑の石のついた小さな飾りがあった。
「何?」
 自分では見れないのでオルカーンが首を傾げる。
 レインが、はい、と言って鏡で示した。
 飾りはきらきらと僅かな光を反射して、ちり、と小さく鳴った。
「へぇ。綺麗だね」
 オルカーンがぽつりと言った。

「用意はできたのか」
 ディリクの問いに、ルベアが肩をすくめる。
「まだもう少しだ」
「そうか」
 そう言ってディリクは立ち上がると、奥へと向かった。
 ルベアは荷造りを再開し、レインは弾き出された荷物を恨めしそうに見ていた。


 暫く後、ようやく荷が完成した。
「よし、これで良いな」
 まだレインが不満そうな顔をしていたが、ルベアは取り合わずに家の奥へ視線を向けた。
 ちょうど部屋から出てきたディリクと目が合う。
「行くのか」
「あぁ。世話になった」
 短い挨拶を交わす。

「……用が済んだら」
 言いかけ、一息置く。
「アィル達の所に行ってみると良い。歓迎してくれるだろう」
 淡々と言われた言葉を反芻して、頷く。
「それじゃ、またね」
 レインが手を上げ、すでに背を向けていたルベアを追って店の外へと向かった。
「オルカーン」
 後に続こうとしていたオルカーンが、ディリクの声に止まって振り返る。
「二人を、頼む」
 じっと見つめて言われ、戸惑いながらもオルカーンが頷いた。
 すぐに背を向け、外へと飛び出していく。

 眩しいほど明るい外への扉が閉じられ、店の中がランプの灯りだけになった。
 暫く扉へと視線を留め、それから不意に視線を落として俯く。
 自分にも先見の力があれば良いのに、と思った。
 ルシェイドとは連絡を取れない。
 だから、気休めだ。
 あんな耳飾など。
 囁くように、昔覚えた祈りの言葉を呟く。
 せめて無事に、彼らが戻れば良い。
「……ルシェイド……」
 何処へ行った。
 この不安を笑い飛ばして欲しい。
 そんなものを感じる必要は無いのだと。
 ただの取り越し苦労だと。
 ディリクは細く息を吐いた。
 目が閉じられた時、それに呼応して店内の明かりは全て消えた。

 まるで最初から灯っていなかったかのように。
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