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「あー、あのさ」
沈黙に耐え切れずに、オルカーンが声を上げた。
ルベアとヴィオルウスが顔を上げ、こちらを見てくる。
「……えぇと、レインって知ってる?」
特に何の言葉も用意していなかったオルカーンは、ついそう聞いていた。
見た目で言うなら血縁者なんだけど、と思いながら。
「……知ってる。彼は私の弟だから」
ヴィオルウスはあっさりとオルカーンの思いを肯定した。
「彼が何処にいるのか、知ってるの?」
紫の眼で静かに見つめられ、オルカーンはまごつきながらエールにいる、と答えた。
「エールに? そんな、ところに……」
半ば呆然と、呟く。
「……お前……」
ルベアが口を開く。
その声に、ヴィオルウスとオルカーンがそちらを向く。
眉を顰めながら、彼は囁いた。
「お前が、レインの記憶を消したのか?」
思い出されるのはシェンディルの言葉。
似た魔力。
だが、ヴィオルウスは緩くかぶりを振ると、違う、と言った。
「私じゃない。記憶が無いのは、知らなかった。……だから戻ってこなかったのか」
最後の言葉は誰に言うとも無く、ただ流れた。
「何があったんだ?」
ヴィオルウスは答えようと口を開きかけ、間を置いて直ぐに閉じた。
「……本人に言う。彼が良いと言うなら、彼に聞けば良い」
不意にヴィオルウスは顔を上げると、そのまま立ち上がった。
「そろそろ帰らないと」
そう言って荷物を手に取り、促すようにルベア達を見て首を傾げる。
確かにずっとこのまま座っていても仕方が無い。
ルベアは立ち上がり、思い出したように聞いた。
「そういえば、魔界へ渡るにはお前に頼めば良いと聞いた。移動の手段があるのか」
「扉が作れる。私は魔族だから」
あっさりと答え、踵を返す。
「……ってことは、レインも?」
後を追いながら、オルカーンが混乱したような声を出した。
ヴィオルウスは肩越しに振り返ると、少し首を傾げる。
「半分だけだけど」
あまり言いたくない話なのか、ヴィオルウスは視線を前に戻すと歩き出した。
後を追おうとして、オルカーンは足を止める。
「ねぇ、家ってそっちじゃないよ」
ヴィオルウスはきょとんとして振り返ると、オルカーンに首を傾げてみせた。
「そうなの?」
「こっちだよ」
オルカーンが呆れたように言って歩き出す。
ヴィオルウスが行こうとしていた方向より、右寄りだ。
早くも翳り始めた森の中を、三人は黙って歩きつづけた。
沈黙に耐え切れずに、オルカーンが声を上げた。
ルベアとヴィオルウスが顔を上げ、こちらを見てくる。
「……えぇと、レインって知ってる?」
特に何の言葉も用意していなかったオルカーンは、ついそう聞いていた。
見た目で言うなら血縁者なんだけど、と思いながら。
「……知ってる。彼は私の弟だから」
ヴィオルウスはあっさりとオルカーンの思いを肯定した。
「彼が何処にいるのか、知ってるの?」
紫の眼で静かに見つめられ、オルカーンはまごつきながらエールにいる、と答えた。
「エールに? そんな、ところに……」
半ば呆然と、呟く。
「……お前……」
ルベアが口を開く。
その声に、ヴィオルウスとオルカーンがそちらを向く。
眉を顰めながら、彼は囁いた。
「お前が、レインの記憶を消したのか?」
思い出されるのはシェンディルの言葉。
似た魔力。
だが、ヴィオルウスは緩くかぶりを振ると、違う、と言った。
「私じゃない。記憶が無いのは、知らなかった。……だから戻ってこなかったのか」
最後の言葉は誰に言うとも無く、ただ流れた。
「何があったんだ?」
ヴィオルウスは答えようと口を開きかけ、間を置いて直ぐに閉じた。
「……本人に言う。彼が良いと言うなら、彼に聞けば良い」
不意にヴィオルウスは顔を上げると、そのまま立ち上がった。
「そろそろ帰らないと」
そう言って荷物を手に取り、促すようにルベア達を見て首を傾げる。
確かにずっとこのまま座っていても仕方が無い。
ルベアは立ち上がり、思い出したように聞いた。
「そういえば、魔界へ渡るにはお前に頼めば良いと聞いた。移動の手段があるのか」
「扉が作れる。私は魔族だから」
あっさりと答え、踵を返す。
「……ってことは、レインも?」
後を追いながら、オルカーンが混乱したような声を出した。
ヴィオルウスは肩越しに振り返ると、少し首を傾げる。
「半分だけだけど」
あまり言いたくない話なのか、ヴィオルウスは視線を前に戻すと歩き出した。
後を追おうとして、オルカーンは足を止める。
「ねぇ、家ってそっちじゃないよ」
ヴィオルウスはきょとんとして振り返ると、オルカーンに首を傾げてみせた。
「そうなの?」
「こっちだよ」
オルカーンが呆れたように言って歩き出す。
ヴィオルウスが行こうとしていた方向より、右寄りだ。
早くも翳り始めた森の中を、三人は黙って歩きつづけた。
家に戻る頃には周囲は薄暗くなってきていた。
村の中は相変わらず人の気配が少ない。
通りを歩いている人影は一つも見当たらなかった。
家の中に入ると、暖かい良い匂いが漂ってきた。
扉を開けた音を聞き取ったのだろう、アィルが食堂から顔を覗かせる。
「お、ちゃんと迷わず帰って来れたな」
笑いを含んだ声に、ヴィオルウスが眉尻を下げる。
「やっぱり方向音痴だったんだ……」
オルカーンがぼそりと呟く。
「あはは。中に入んな。疲れたろ?」
笑って、アィルが中に引っ込む。
各々、荷物を置いてから、食堂へと入った。
「もう少しで出来るから、ちょっと待っててな」
振り返らずにアィルが言う。
家事の殆どを彼がやっているのだろうか。
「手伝おう」
ルベアが近くへ行くと、アィルは振り返って、ありがたい、と言った。
「じゃあ私も……」
「あぁ、ヴィオルウスは良いよ。お前昨日から森に行ってたろ。しっかり休んどけ」
「そう……?」
ヴィオルウスが首を傾げながらオルカーンの所へ行くのを見て、アィルが耳打ちした。
「あいつ料理下手なんだ。任せるとえらい事になるんだよ」
辟易した様子に、つい口元が緩む。
ふと、アィルの顔色が悪くなっていることに気づく。
「……お前は、大丈夫なのか?」
「ん? あー、もう一日徹夜はつらいけど、あとは時間のかかるものばかりだから平気。明日になれば薬も全部出来るよ」
自信に満ちた笑顔で、調理を続ける。
彼を手伝いながら、ルベアはレインが此処にいたら何て言うだろうと考えていた。
皆で食卓を囲んでいるとき、ヴィオルウスがぽつりと言った。
「レインのところに戻るんだよね?」
ルベアは口の中のものを飲み込んでから頷いた。
「薬が出来次第な」
「あぁ、薬なら明日の昼には出来るぞ」
「ついて行っても良いかな?」
静かに首を傾げて言われたことに、ヴィオルウスを除く全員が彼を見た。
理由を問おうとルベアが口を開くより早く、オルカーンが答えた。
「良いんじゃない?」
抗議の視線をオルカーン向けると、彼はのんびりと食事をしながらルベアを見返した。
暫く沈黙が流れる。
ヴィオルウスもアィルも、ルベアの返事を待っているようだ。
ルベアは暫くの逡巡の後、頷いた。
何故、オルカーンが良いと言ったのかは分かっていた。
ヴィオルウスをレインへと引き合わせるためだ。
レインを此処へ連れてくるか、迷っていたところだった。
「お前確か移動の魔法使えたよな」
不意にアィルが言った。
ヴィオルウスが考え込むような表情になる。
「出来るけど……時間かかるよ」
「1日2日かかるわけじゃねぇだろ」
「まぁそうだけど……」
「それで行けば早いだろ。あぁ俺も行くから」
さらりと言って、アィルは食事に戻る。
ヴィオルウスは驚いたようにアィルを見つめた。
「つまり全員行くってことだな」
溜め息混じりにルベアが呟き、それが合図だったかのようにその話題は終了した。
村の中は相変わらず人の気配が少ない。
通りを歩いている人影は一つも見当たらなかった。
家の中に入ると、暖かい良い匂いが漂ってきた。
扉を開けた音を聞き取ったのだろう、アィルが食堂から顔を覗かせる。
「お、ちゃんと迷わず帰って来れたな」
笑いを含んだ声に、ヴィオルウスが眉尻を下げる。
「やっぱり方向音痴だったんだ……」
オルカーンがぼそりと呟く。
「あはは。中に入んな。疲れたろ?」
笑って、アィルが中に引っ込む。
各々、荷物を置いてから、食堂へと入った。
「もう少しで出来るから、ちょっと待っててな」
振り返らずにアィルが言う。
家事の殆どを彼がやっているのだろうか。
「手伝おう」
ルベアが近くへ行くと、アィルは振り返って、ありがたい、と言った。
「じゃあ私も……」
「あぁ、ヴィオルウスは良いよ。お前昨日から森に行ってたろ。しっかり休んどけ」
「そう……?」
ヴィオルウスが首を傾げながらオルカーンの所へ行くのを見て、アィルが耳打ちした。
「あいつ料理下手なんだ。任せるとえらい事になるんだよ」
辟易した様子に、つい口元が緩む。
ふと、アィルの顔色が悪くなっていることに気づく。
「……お前は、大丈夫なのか?」
「ん? あー、もう一日徹夜はつらいけど、あとは時間のかかるものばかりだから平気。明日になれば薬も全部出来るよ」
自信に満ちた笑顔で、調理を続ける。
彼を手伝いながら、ルベアはレインが此処にいたら何て言うだろうと考えていた。
皆で食卓を囲んでいるとき、ヴィオルウスがぽつりと言った。
「レインのところに戻るんだよね?」
ルベアは口の中のものを飲み込んでから頷いた。
「薬が出来次第な」
「あぁ、薬なら明日の昼には出来るぞ」
「ついて行っても良いかな?」
静かに首を傾げて言われたことに、ヴィオルウスを除く全員が彼を見た。
理由を問おうとルベアが口を開くより早く、オルカーンが答えた。
「良いんじゃない?」
抗議の視線をオルカーン向けると、彼はのんびりと食事をしながらルベアを見返した。
暫く沈黙が流れる。
ヴィオルウスもアィルも、ルベアの返事を待っているようだ。
ルベアは暫くの逡巡の後、頷いた。
何故、オルカーンが良いと言ったのかは分かっていた。
ヴィオルウスをレインへと引き合わせるためだ。
レインを此処へ連れてくるか、迷っていたところだった。
「お前確か移動の魔法使えたよな」
不意にアィルが言った。
ヴィオルウスが考え込むような表情になる。
「出来るけど……時間かかるよ」
「1日2日かかるわけじゃねぇだろ」
「まぁそうだけど……」
「それで行けば早いだろ。あぁ俺も行くから」
さらりと言って、アィルは食事に戻る。
ヴィオルウスは驚いたようにアィルを見つめた。
「つまり全員行くってことだな」
溜め息混じりにルベアが呟き、それが合図だったかのようにその話題は終了した。
翌日、起きた時には日はもう高く上がっていた。
寝過ごした、と思いつつ階下に降りていくと、誰もいなかった。
どうしたものか、と思っていると奥の部屋で物音が聞こえたのでそちらに行ってみる。
物音がしているのは階段奥の部屋だった。
この部屋に入ったことは無い。
こつこつ、と躊躇いがちに扉を叩く。
中から一際大きな音がした。
「ちょ……ッ! 待って開けんな!」
中から慌てたようなアィルの声が響いた。
ルベアは驚いて、扉を叩いていた手をそのままに硬直する。
ややあって、扉が内側に開かれた。
顔を覗かせたアィルは、扉の前に立っていたルベアを見て驚いたようだった。
「すまん、邪魔をしたか」
アィルの背後に見える部屋の中は暗い。
窓はあるようだが、完全に閉ざされていた。
ちらりとアィルは背後に視線を送り、苦笑して答えた。
「いや、光を与えずに置いておかないといけない薬だから慌てただけだよ。それより……っと、もうそんな時間か?」
光の差し込む廊下を見て、アィルが問う。
「朝でないことは確かだ」
「ヴィオルウスは?」
「下にはいなかった」
そう答えたところで、階段を下りる足音が聞こえた。
音からすると話の人物だろう。
予想違わず、ヴィオルウスがこちらへやってくるのが見えた。
「おう。どうした?」
アィルが片手を上げて聞くと、ヴィオルウスはちらりとルベアに視線を送ってから答えた。
「紫電の実、ある?」
「何に使うんだ?」
「媒体にしようかと思って」
「分かった」
アィルは頷くと身を翻した。
暗い室内へと消えていく。
室内は扉から入る光でかろうじて物の判別ができるくらいだ。
だがアィルは迷うことなく棚の一つに近づき、小さな箱を手にして戻った。
「ひとつで良いのか?」
「うん」
ヴィオルウスはアィルから紫色の小さな実を受け取ると、また階段を上がっていった。
「薬の方はもう少しかかりそうなんだけど……ヴィオルウスが用意し終わるまでには終わると思う」
疑問に思って、ルベアが首を傾げる。
「用意?」
「あぁ、移動の用意だよ。今媒体持ってったろ。だからまだかかりそうだな」
そう言って、アィルは伸びをした。
そのまま部屋を出ると、扉に鍵をかける。
疑問に思って見ていると、その視線に気づいたのかアィルは笑って言った。
「閉めとかないと、劇薬もあるし、作りかけの薬を台無しにされたら大変だからな」
歩き出す彼につられて、ルベアも歩き出した。
「あんたが必要としてる薬は、暫くそのままにしておかないと駄目なんだ。だから今はやることないんだよ」
「そうなのか」
相槌を打つと、アィルがくるりと振り返った。
「飯の後で良いんだけど、ちょっと付き合ってくれるか?」
ルベアは一瞬考え、頷いた。
どのみち用意が出来るまでやることは無い。
寝過ごした、と思いつつ階下に降りていくと、誰もいなかった。
どうしたものか、と思っていると奥の部屋で物音が聞こえたのでそちらに行ってみる。
物音がしているのは階段奥の部屋だった。
この部屋に入ったことは無い。
こつこつ、と躊躇いがちに扉を叩く。
中から一際大きな音がした。
「ちょ……ッ! 待って開けんな!」
中から慌てたようなアィルの声が響いた。
ルベアは驚いて、扉を叩いていた手をそのままに硬直する。
ややあって、扉が内側に開かれた。
顔を覗かせたアィルは、扉の前に立っていたルベアを見て驚いたようだった。
「すまん、邪魔をしたか」
アィルの背後に見える部屋の中は暗い。
窓はあるようだが、完全に閉ざされていた。
ちらりとアィルは背後に視線を送り、苦笑して答えた。
「いや、光を与えずに置いておかないといけない薬だから慌てただけだよ。それより……っと、もうそんな時間か?」
光の差し込む廊下を見て、アィルが問う。
「朝でないことは確かだ」
「ヴィオルウスは?」
「下にはいなかった」
そう答えたところで、階段を下りる足音が聞こえた。
音からすると話の人物だろう。
予想違わず、ヴィオルウスがこちらへやってくるのが見えた。
「おう。どうした?」
アィルが片手を上げて聞くと、ヴィオルウスはちらりとルベアに視線を送ってから答えた。
「紫電の実、ある?」
「何に使うんだ?」
「媒体にしようかと思って」
「分かった」
アィルは頷くと身を翻した。
暗い室内へと消えていく。
室内は扉から入る光でかろうじて物の判別ができるくらいだ。
だがアィルは迷うことなく棚の一つに近づき、小さな箱を手にして戻った。
「ひとつで良いのか?」
「うん」
ヴィオルウスはアィルから紫色の小さな実を受け取ると、また階段を上がっていった。
「薬の方はもう少しかかりそうなんだけど……ヴィオルウスが用意し終わるまでには終わると思う」
疑問に思って、ルベアが首を傾げる。
「用意?」
「あぁ、移動の用意だよ。今媒体持ってったろ。だからまだかかりそうだな」
そう言って、アィルは伸びをした。
そのまま部屋を出ると、扉に鍵をかける。
疑問に思って見ていると、その視線に気づいたのかアィルは笑って言った。
「閉めとかないと、劇薬もあるし、作りかけの薬を台無しにされたら大変だからな」
歩き出す彼につられて、ルベアも歩き出した。
「あんたが必要としてる薬は、暫くそのままにしておかないと駄目なんだ。だから今はやることないんだよ」
「そうなのか」
相槌を打つと、アィルがくるりと振り返った。
「飯の後で良いんだけど、ちょっと付き合ってくれるか?」
ルベアは一瞬考え、頷いた。
どのみち用意が出来るまでやることは無い。
「最近やってなかったから」
そう言って、アィルは苦笑しながら剣を構えた。
付き合うとはこれのことか、とルベアも剣を構えた。
場所は家の裏。
少し開けた場所だ。
「あんた強いから、ちゃんと手合わせしてみたかったんだ」
一旦眼を伏せ、開いた時、アィルの表情は真剣なものに変わっていた。
空気が張り詰めたものになる。
心地よい緊張感を感じながら、ルベアは切っ先をアィルへと固定した。
息を吸い、吐く。
短く息を吐いて、アィルが走り出す。
ルベアはむしろ悠然とそれを迎えた。
突き出される刃を受け流す。
甲高い音が、裏庭に響き渡る。
「闇雲に切り掛かったところで当たりはしないぞ」
ルベアが静かに告げると、アィルが剣の軌道を変えた。
突きが横薙ぎの一撃に変化する。
だが軽く上げた刃で、アィルの剣は阻まれた。
刃を滑らせるように回転させ、剣を絡めとる。
「あ……!」
そのままアィルの手から弾き飛ばすと、驚きの声を上げ、剣の落ちた先へと視線を送った。
その喉元に、ルベアが切っ先を突きつけた。
アィルの動きが完全に止まる。
「立会いの最中に余所見をするな。死にたいのか」
低い声で囁く。
アィルの肩が小さく震える。
眼に微かに恐怖の色が宿ったのを見て、ルベアは剣を引いた。
途端、アィルが深く息を吐き出す。
「終わりか?」
静かに問うと、アィルは表情を引き締めて短く叫んだ。
「もう一回!」
「……良いだろう」
にやりと笑ってルベアが頷く。
落ちた剣を拾い、アィルが元の位置に戻る。
仕切りなおしだ。
今度はルベアから打ち込んだ。
何合か細かく打ち込む。
それらを受けながら、アィルが一歩下がった。
その瞬間、ルベアは大きく打ち込む。
予想したのか誘ったのか、振り下ろされた刃を自らの剣で打ち払い、刃に沿わすように跳ね上げる。
ルベアは迫る刃を落ち着いた表情で眺め、回転しながら避ける。
その動きに合わせて剣を抜き、アィルへと振り下ろす。
「……!」
動きの予想はしていなかったのか、アィルが大げさにのけぞった。
更に胴への斬撃を放つと、それをかろうじて受けたアィルが体勢を崩す。
畳み掛けるように斬りかかる。
五合まで受けたところで、アィルがバランスを崩して倒れた。
「……ッ……!」
アィルが肩で息をしながらルベアを見上げる。
ルベアは息を乱してすらいない。
暫く見詰め合った後、アィルが項垂れて息を吐いた。
「……はぁ、強いなぁ」
「俺だって最初から強かったわけじゃない」
片眉をあげて剣を鞘へと戻し、アィルに手を差し伸べる。
それに縋りながら立ち上がり、アィルも鞘に収めた。
「強くならなきゃいけない、理由があったからな」
暗い目で呟いたルベアに、アィルがぎくりと身を竦ませる。
「あの……」
そう言って、アィルは苦笑しながら剣を構えた。
付き合うとはこれのことか、とルベアも剣を構えた。
場所は家の裏。
少し開けた場所だ。
「あんた強いから、ちゃんと手合わせしてみたかったんだ」
一旦眼を伏せ、開いた時、アィルの表情は真剣なものに変わっていた。
空気が張り詰めたものになる。
心地よい緊張感を感じながら、ルベアは切っ先をアィルへと固定した。
息を吸い、吐く。
短く息を吐いて、アィルが走り出す。
ルベアはむしろ悠然とそれを迎えた。
突き出される刃を受け流す。
甲高い音が、裏庭に響き渡る。
「闇雲に切り掛かったところで当たりはしないぞ」
ルベアが静かに告げると、アィルが剣の軌道を変えた。
突きが横薙ぎの一撃に変化する。
だが軽く上げた刃で、アィルの剣は阻まれた。
刃を滑らせるように回転させ、剣を絡めとる。
「あ……!」
そのままアィルの手から弾き飛ばすと、驚きの声を上げ、剣の落ちた先へと視線を送った。
その喉元に、ルベアが切っ先を突きつけた。
アィルの動きが完全に止まる。
「立会いの最中に余所見をするな。死にたいのか」
低い声で囁く。
アィルの肩が小さく震える。
眼に微かに恐怖の色が宿ったのを見て、ルベアは剣を引いた。
途端、アィルが深く息を吐き出す。
「終わりか?」
静かに問うと、アィルは表情を引き締めて短く叫んだ。
「もう一回!」
「……良いだろう」
にやりと笑ってルベアが頷く。
落ちた剣を拾い、アィルが元の位置に戻る。
仕切りなおしだ。
今度はルベアから打ち込んだ。
何合か細かく打ち込む。
それらを受けながら、アィルが一歩下がった。
その瞬間、ルベアは大きく打ち込む。
予想したのか誘ったのか、振り下ろされた刃を自らの剣で打ち払い、刃に沿わすように跳ね上げる。
ルベアは迫る刃を落ち着いた表情で眺め、回転しながら避ける。
その動きに合わせて剣を抜き、アィルへと振り下ろす。
「……!」
動きの予想はしていなかったのか、アィルが大げさにのけぞった。
更に胴への斬撃を放つと、それをかろうじて受けたアィルが体勢を崩す。
畳み掛けるように斬りかかる。
五合まで受けたところで、アィルがバランスを崩して倒れた。
「……ッ……!」
アィルが肩で息をしながらルベアを見上げる。
ルベアは息を乱してすらいない。
暫く見詰め合った後、アィルが項垂れて息を吐いた。
「……はぁ、強いなぁ」
「俺だって最初から強かったわけじゃない」
片眉をあげて剣を鞘へと戻し、アィルに手を差し伸べる。
それに縋りながら立ち上がり、アィルも鞘に収めた。
「強くならなきゃいけない、理由があったからな」
暗い目で呟いたルベアに、アィルがぎくりと身を竦ませる。
「あの……」
「何やってんの二人とも。こんな所で」
言いかけたアィルの言葉にかぶさるように、第三者の声が響いた。
二人でそちらを向くと、オルカーンが建物の影から出てきたところだった。
「何って……見ればわかるだろう」
「剣の相手をしてもらってたんだよ」
答えながら、アィルはちらりとルベアを伺った。
先程の暗い光は見えない。
そのことに少し緊張を緩め、オルカーンの方へ歩み寄る。
ルベアはそんなアィルの様子に気づいてはいたが、特に何かしようとは思わなかった。
仇討ちで、強くなろうとしたのは事実だ。
果たせようと果たせまいと、それは変わらない。
表情にこそあまり出さないが、ルベアは倦怠感を覚えていた。
身体が重い。
疲れているのだろうか。
二人に気づかれないように溜め息を吐く。
疲れたとは言っていられない。
レインが倒れたままだし、何も終わっていないのだから。
オルカーンが怪訝そうにルベアを見て首を傾げた。
「どうかした?」
「……いや?」
首を傾げながら返すと、オルカーンは納得していないような顔で口を噤んだ。
「そろそろかな」
アィルが呟く。
日はかなり高くなってきていた。
様子を見てくる、と言い置いて、アィルが家へと戻っていった。
「俺たちも行くか。……出発の準備は出来ているのか?」
「俺は荷物持ってないよ」
それもそうかと思い、ルベアも家へと向かう。
その後をオルカーンが躊躇いがちについていった。
中へ入ると、丁度ヴィオルウスが降りてきたところだった。
心なしか顔色が悪い。
彼はルベアを見つけると一瞬身体を強張らせ、直ぐに吐息と共に言葉を吐き出した。
「こっちの準備は出来たよ。……アィルは?」
怪訝そうに問われ、首を傾げる。
ルベアたちより先に家に入っているはずだ。
「奥の部屋じゃないか?」
視線を奥へとやりながら言うと、それを見計らったかのように扉が開き、アィルが顔を見せた。
布の塊を大事そうに抱えている。
「あぁ、アィル。準備できたよ」
「俺の方も完成だ」
「じゃあすぐ行く?」
首を傾げながら、ヴィオルウスが皆を見回す。
皆が頷くと、二階に、と言って階段を上がった。
彼が使っていない部屋に入るのを見て、ルベアは自分たちの荷物を取りに行った為に、遅れて部屋に入る。
部屋の中は、床と天井に魔方陣が描かれていた。
「落ちんのかこれ」
「実際に描いてあるわけじゃないから大丈夫だよ。発動すれば消えるから」
「へぇ」
アィルが興味深そうに陣を覗き込む。
言いかけたアィルの言葉にかぶさるように、第三者の声が響いた。
二人でそちらを向くと、オルカーンが建物の影から出てきたところだった。
「何って……見ればわかるだろう」
「剣の相手をしてもらってたんだよ」
答えながら、アィルはちらりとルベアを伺った。
先程の暗い光は見えない。
そのことに少し緊張を緩め、オルカーンの方へ歩み寄る。
ルベアはそんなアィルの様子に気づいてはいたが、特に何かしようとは思わなかった。
仇討ちで、強くなろうとしたのは事実だ。
果たせようと果たせまいと、それは変わらない。
表情にこそあまり出さないが、ルベアは倦怠感を覚えていた。
身体が重い。
疲れているのだろうか。
二人に気づかれないように溜め息を吐く。
疲れたとは言っていられない。
レインが倒れたままだし、何も終わっていないのだから。
オルカーンが怪訝そうにルベアを見て首を傾げた。
「どうかした?」
「……いや?」
首を傾げながら返すと、オルカーンは納得していないような顔で口を噤んだ。
「そろそろかな」
アィルが呟く。
日はかなり高くなってきていた。
様子を見てくる、と言い置いて、アィルが家へと戻っていった。
「俺たちも行くか。……出発の準備は出来ているのか?」
「俺は荷物持ってないよ」
それもそうかと思い、ルベアも家へと向かう。
その後をオルカーンが躊躇いがちについていった。
中へ入ると、丁度ヴィオルウスが降りてきたところだった。
心なしか顔色が悪い。
彼はルベアを見つけると一瞬身体を強張らせ、直ぐに吐息と共に言葉を吐き出した。
「こっちの準備は出来たよ。……アィルは?」
怪訝そうに問われ、首を傾げる。
ルベアたちより先に家に入っているはずだ。
「奥の部屋じゃないか?」
視線を奥へとやりながら言うと、それを見計らったかのように扉が開き、アィルが顔を見せた。
布の塊を大事そうに抱えている。
「あぁ、アィル。準備できたよ」
「俺の方も完成だ」
「じゃあすぐ行く?」
首を傾げながら、ヴィオルウスが皆を見回す。
皆が頷くと、二階に、と言って階段を上がった。
彼が使っていない部屋に入るのを見て、ルベアは自分たちの荷物を取りに行った為に、遅れて部屋に入る。
部屋の中は、床と天井に魔方陣が描かれていた。
「落ちんのかこれ」
「実際に描いてあるわけじゃないから大丈夫だよ。発動すれば消えるから」
「へぇ」
アィルが興味深そうに陣を覗き込む。
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