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2012/04/11 (Wed)
 ルベアとレインの体力が完全に戻り、片腕での生活にもそこそこ慣れた頃、そろそろ出発しようということになった。
 旅装になり、荷物を整理しているのをディリクは店のカウンターに座って見ていた。
 いつもは暗い店内には灯りがつけられ、手元がきちんと見分けられるほどの光量が保たれている。

「シェンディルまだ山に居るかなぁ」
 レインが紐を結びながら呟いた。
「暫くは居るようなことを言っていたから、まだ居るだろう」
 表情の読めない顔で、ディリクが言う。
 視線は棚の一つに向いている。
 何かを探しているようだ。
「まぁ居なくても、イーアリーサに行けば良いんだし」
 用意の必要ないオルカーンがのんびりと言った。
 僅かな衣擦れの音をさせてディリクが立ち上がると、奥の棚へ歩いていった。
 荷を詰め終わったルベアはそれを見るともなしに見て、視線をレインへと戻した。
 まだ詰め終わらないのか、時折手を止めては首を傾げている。
「いらないなら持って行くなよ」
 注意するが、レインは困ったように首を傾げるだけだ。
「いると思うんだけど……」
「何でそんなに荷物が大きくなるんだ。あんまり持ってなかっただろう?」
「そうだよね……」
 心此処にあらずな返答をして、手に取った何かの瓶を詰める。
 中身は何かの葉だ。
 薄暗い中でも鮮やかな緑色をしているのが見えた。
「何だそれ」
「月寄草の葉だよ。真っ暗な時とか良い灯りになるんだ」
「レイン何処に行く気なの」
 呆れたようにオルカーンが口を挟む。
「灯りなら灯籠があるだろう」
 重ねて言うと、レインは渋々と瓶を戻した。
「お前まさかその中そんなのばっかりか」
 視線を険しくして問うと、レインは俯いてからえへと笑った。
「えへじゃない。見せてみろ」
 ルベアは問答無用で奪い取ると、中身を選定し始めた。
 中身を全て出すと、ほぼ6割は必要なさそうなものだった。
「……」
「……一応商品なんだが」
 いつ戻ってきたのか、ディリクが同じように鞄の中身を覗き込んでため息を吐いていた。
「堂々と盗むな」
 レインに軽く拳を入れてから、店のものであろう品を戻していく。

「オルカーン」
 ディリクに呼ばれ、オルカーンが頭を擡げた。
「何?」
 彼はオルカーンの傍らに膝を突くと、柔らかな耳に触れた。
 くすぐったさに身を捩るのを、ディリクが視線で止める。
「――……そのうち、必要になるかも知れない」
 ぽつりとディリクが呟く。
 囁きのように小さい声だったので、その声はオルカーンにしか聞き取れなかった。
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