小説用倉庫。
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市を一通り回ってから、サキ達は残りの書類を片付けるためもと来た道を戻った。
のんびり景色を見つつ、物思いにふける。
強い風がレイラの金色の髪を背後に泳がせている。
きらきらと目に映るそれは、じっと見ていると意識が途切れそうなほどだ。
光の色。
まぶしい。
「どうか、しましたか? サキ様……」
心配そうに聞くレイラに、思わずサキは笑みをこぼす。
「今日、何回目だ? その言葉は……。なんでもないよ。考え事を、していただけさ」
「そう、ですか?」
まだ釈然としないものを感じているようなレイラに、ふと思いついて聞いてみる。
「レイラ、君、金色の瞳をしている少年を知っているか?」
「……金色の、瞳の、ですか? ……いえ、存じませんが……」
「そうか」
サキはそれ以上言わず、ただ黙々と歩を進めた。
のんびり景色を見つつ、物思いにふける。
強い風がレイラの金色の髪を背後に泳がせている。
きらきらと目に映るそれは、じっと見ていると意識が途切れそうなほどだ。
光の色。
まぶしい。
「どうか、しましたか? サキ様……」
心配そうに聞くレイラに、思わずサキは笑みをこぼす。
「今日、何回目だ? その言葉は……。なんでもないよ。考え事を、していただけさ」
「そう、ですか?」
まだ釈然としないものを感じているようなレイラに、ふと思いついて聞いてみる。
「レイラ、君、金色の瞳をしている少年を知っているか?」
「……金色の、瞳の、ですか? ……いえ、存じませんが……」
「そうか」
サキはそれ以上言わず、ただ黙々と歩を進めた。
建物の前に立つと、なぜか少しほっとする。
いつもここにいたからか、それとも喧騒になれていなかったからなのか。
それはわからないけれど。
「レイラ、中に入ったら、お茶を入れてくれるかい?」
「はい」
扉に手をかけて言うと、レイラはほころぶように笑った。
サキは開けるために手に力をこめるが、それは内側に引っ張られた。
つられて前につんのめるサキを、内側に立っていた人物が受け止める。
訳もわからずその人物の手を借りて何とか立ち上がると、後ろからレイラの声が耳に飛び込んだ。
「ミカゲ様!?」
「え、ミカゲ?」
ぱっと顔をあげてみると、たしかにそこには良く見知った顔がいた。
ミカゲはオリエーンスの国主である。中央の大地を挟んで向かいにあるが、そんな距離はたいした意味もないほどミカゲはよく来る。
彼は温和な顔をして、少しずれたメガネを押し上げて口を開く。
「こんにちは。お久しぶりです。……元気そうで何よりですね」
ミカゲは誰に対しても丁寧な口調だ。
「いや、そちらこそ……どうかしたのか?」
サキはミカゲがここに来たことを疑問に思って聞いてみる。
今オリエーンスはかなり酷い状態になってきているはずだ。こんなところに国主がいてもいいのだろうか。
「えぇ、少し……」
ふと、国主の付き人がいないことに気づく。
「シルウァは?」
「彼には少しお使いを。……この館は誰もいないのでしょうか。どうしたらいいか迷っていたのですけれど」
「ああ、……人手不足で、市がたっているから、街には人がいるんだけど」
「お茶、入れてきますね」
レイラがそう言って小走りに去っていく。
「じゃあ、こちらに」
玄関に立ったままだったので、サキはミカゲを伴って歩き出す。
いつもここにいたからか、それとも喧騒になれていなかったからなのか。
それはわからないけれど。
「レイラ、中に入ったら、お茶を入れてくれるかい?」
「はい」
扉に手をかけて言うと、レイラはほころぶように笑った。
サキは開けるために手に力をこめるが、それは内側に引っ張られた。
つられて前につんのめるサキを、内側に立っていた人物が受け止める。
訳もわからずその人物の手を借りて何とか立ち上がると、後ろからレイラの声が耳に飛び込んだ。
「ミカゲ様!?」
「え、ミカゲ?」
ぱっと顔をあげてみると、たしかにそこには良く見知った顔がいた。
ミカゲはオリエーンスの国主である。中央の大地を挟んで向かいにあるが、そんな距離はたいした意味もないほどミカゲはよく来る。
彼は温和な顔をして、少しずれたメガネを押し上げて口を開く。
「こんにちは。お久しぶりです。……元気そうで何よりですね」
ミカゲは誰に対しても丁寧な口調だ。
「いや、そちらこそ……どうかしたのか?」
サキはミカゲがここに来たことを疑問に思って聞いてみる。
今オリエーンスはかなり酷い状態になってきているはずだ。こんなところに国主がいてもいいのだろうか。
「えぇ、少し……」
ふと、国主の付き人がいないことに気づく。
「シルウァは?」
「彼には少しお使いを。……この館は誰もいないのでしょうか。どうしたらいいか迷っていたのですけれど」
「ああ、……人手不足で、市がたっているから、街には人がいるんだけど」
「お茶、入れてきますね」
レイラがそう言って小走りに去っていく。
「じゃあ、こちらに」
玄関に立ったままだったので、サキはミカゲを伴って歩き出す。
日の多く入る回廊を歩くとき、ミカゲはいつも外を見て足を止める。
サキにとっては日常の、何の変哲もない外を。
「ここは、いつ来ても風が気持ちよいですね」
その言葉に、オリエーンスがもうここ何ヶ月も風が吹かないことに思い至った。
そのため、木が枯れはじめているとのことだ。
つい言葉を失ってしまったサキに気づいて、ミカゲがふり返る。
「どうしたんですか、そんな顔をして」
ミカゲが淡く微笑む。
消え入りそうな笑顔。
「まぁ、このごろ災難続きなんです。今日来たのもそのことなんですよ」
苦笑するミカゲは、どこか陰を含んでいて、日の光によってできる影のように感じた。
背筋を冷たいものが伝う。
「それで、どこに行けば良いんですか?」
立ち止まっていたことに気づき、サキが慌てて歩き出す。
しばらく歩いて、視線を足元に落としたまま、サキはポツリと呟く。
「世界が滅びるって、どういうことだろうね」
「……何ですって?」
呟きを聞きとがめて、眉間にしわを寄せる。
「宝玉って言ったら、何を思いつく?」
先に言った質問と違ったことを、不意にサキが問う。
「それは、あれでしょう」
大地にそれぞれある、5つの宝石を。
思い浮かべてミカゲが言う。
サキは額にかかる髪をかきあげて、視線を上げる。
「じゃあ、柱は?」
「柱? ……どうしたんです、さっきから」
怪訝な顔でミカゲが問いただす。
曖昧な返事をして、サキは目を閉じた。
サキにとっては日常の、何の変哲もない外を。
「ここは、いつ来ても風が気持ちよいですね」
その言葉に、オリエーンスがもうここ何ヶ月も風が吹かないことに思い至った。
そのため、木が枯れはじめているとのことだ。
つい言葉を失ってしまったサキに気づいて、ミカゲがふり返る。
「どうしたんですか、そんな顔をして」
ミカゲが淡く微笑む。
消え入りそうな笑顔。
「まぁ、このごろ災難続きなんです。今日来たのもそのことなんですよ」
苦笑するミカゲは、どこか陰を含んでいて、日の光によってできる影のように感じた。
背筋を冷たいものが伝う。
「それで、どこに行けば良いんですか?」
立ち止まっていたことに気づき、サキが慌てて歩き出す。
しばらく歩いて、視線を足元に落としたまま、サキはポツリと呟く。
「世界が滅びるって、どういうことだろうね」
「……何ですって?」
呟きを聞きとがめて、眉間にしわを寄せる。
「宝玉って言ったら、何を思いつく?」
先に言った質問と違ったことを、不意にサキが問う。
「それは、あれでしょう」
大地にそれぞれある、5つの宝石を。
思い浮かべてミカゲが言う。
サキは額にかかる髪をかきあげて、視線を上げる。
「じゃあ、柱は?」
「柱? ……どうしたんです、さっきから」
怪訝な顔でミカゲが問いただす。
曖昧な返事をして、サキは目を閉じた。
サキの私室である部屋にミカゲを通してしばらく。
廊下を足音が近づいてくるのに気づいて、ふたりは扉を見やった。
急いでいるような、そんな足音。
「ミカゲ様!」
「シルウァ」
扉を開けて入ってきた少年に、ミカゲが微笑む。
シルウァはミカゲの付き人だ。
まだ少年だが、よく働くとの評判の。
少し気弱そうな瞳をミカゲに向け、それからサキに向ける。
「こんにちは、サキ様」
礼儀正しく言うシルウァに、サキも挨拶を返す。
「あの……」
「ああ、かまいません。今渡してくださいますか?」
シルウァの態度に微笑み、ミカゲが促す。
彼がすっと差し出したのは、苗だった。
オッカースゥスでよく育つ、木の苗。
「ミカゲ、それは?」
「これですか? ……いい木があれば買ってくるように、頼んだんです。国で育つかどうかは疑問なんですが」
苦笑して、苗を受取る。
ゆっくりとそれを見てから、シルウァを見上げ、微笑む。
「ああ、いいですね。ご苦労様です。シルウァ」
その言葉に、シルウァが相好を崩す。
花がほころぶような、笑顔。
「皆さん、お茶、いかがですか?」
その時ちょうどレイラが戻ってきた。
どうやら苗を買いに来ただけのようで、ミカゲ達はしばらくして帰ってしまった。
帰り際に、不吉なことを言い残して。
彼は神妙な顔で、まっすぐサキを見て言った。
「……占者が言っていました。近いうちに、赤い石が割れると」
サキはその言葉を聞いて、半ば呆然とミカゲの顔を見た。
「よくは、わからなかったんですが」
そう言って笑った彼に、サキは何か腑に落ちないものを感じた。
何かがあるような。
違和感が。
廊下を足音が近づいてくるのに気づいて、ふたりは扉を見やった。
急いでいるような、そんな足音。
「ミカゲ様!」
「シルウァ」
扉を開けて入ってきた少年に、ミカゲが微笑む。
シルウァはミカゲの付き人だ。
まだ少年だが、よく働くとの評判の。
少し気弱そうな瞳をミカゲに向け、それからサキに向ける。
「こんにちは、サキ様」
礼儀正しく言うシルウァに、サキも挨拶を返す。
「あの……」
「ああ、かまいません。今渡してくださいますか?」
シルウァの態度に微笑み、ミカゲが促す。
彼がすっと差し出したのは、苗だった。
オッカースゥスでよく育つ、木の苗。
「ミカゲ、それは?」
「これですか? ……いい木があれば買ってくるように、頼んだんです。国で育つかどうかは疑問なんですが」
苦笑して、苗を受取る。
ゆっくりとそれを見てから、シルウァを見上げ、微笑む。
「ああ、いいですね。ご苦労様です。シルウァ」
その言葉に、シルウァが相好を崩す。
花がほころぶような、笑顔。
「皆さん、お茶、いかがですか?」
その時ちょうどレイラが戻ってきた。
どうやら苗を買いに来ただけのようで、ミカゲ達はしばらくして帰ってしまった。
帰り際に、不吉なことを言い残して。
彼は神妙な顔で、まっすぐサキを見て言った。
「……占者が言っていました。近いうちに、赤い石が割れると」
サキはその言葉を聞いて、半ば呆然とミカゲの顔を見た。
「よくは、わからなかったんですが」
そう言って笑った彼に、サキは何か腑に落ちないものを感じた。
何かがあるような。
違和感が。
石が割れる。
それがどういう意味を持つのか。
この時点ですべてわかっている人物はほとんどいなかった。
カタン、と音がして、薄暗い建物の影からひとつの人影が現われた。
ウェーブの髪を背に流し、ふらりと歩いている。
そこは中央の大地。
国主アンスリウムが治める国、メディウム・トゥッリスの塔の中。
幾枚もの薄布が天井から垂れ下がる場所を、彼女は迷うことなく歩く。
国主の付き人である彼女にとって、この塔の中は庭のようなものだ。
ほんのかすかな衣擦れの音しかしない空間の中で、つと、彼女は足を止めた。
目の前には大きな扉。
身長の4倍はあろうかというそれは、彼女が軽く触れるだけで開いた。
「……アザミか」
奥から聞こえる深い声に、彼女、アザミは部屋の中に入った。
背後で扉が閉まる。
「思うように運びませんわ。……アンスリウム様」
「良いよ。期待はしていなかった」
アンスリウムは大して面白くもなさそうに笑った。
暗く、低い、笑い声。
「どのみち、落ちるのは時間の問題だ……」
その時突然地震があった。
家具が倒れ、お茶の入ったカップが床に落ちる。
サキはレイラを庇い机の下に隠れ、その地震をやり過ごした。
時間的には10分もなかっただろう。けれどその地震のせいで、かなりの被害が出たことはたしかだった。
そのことを思い、ため息をついて机から出る。
「怪我は、ないか?」
「大丈夫です……。大きかったですね」
「ああ、何か、いやな予感がする」
それがどういう意味を持つのか。
この時点ですべてわかっている人物はほとんどいなかった。
カタン、と音がして、薄暗い建物の影からひとつの人影が現われた。
ウェーブの髪を背に流し、ふらりと歩いている。
そこは中央の大地。
国主アンスリウムが治める国、メディウム・トゥッリスの塔の中。
幾枚もの薄布が天井から垂れ下がる場所を、彼女は迷うことなく歩く。
国主の付き人である彼女にとって、この塔の中は庭のようなものだ。
ほんのかすかな衣擦れの音しかしない空間の中で、つと、彼女は足を止めた。
目の前には大きな扉。
身長の4倍はあろうかというそれは、彼女が軽く触れるだけで開いた。
「……アザミか」
奥から聞こえる深い声に、彼女、アザミは部屋の中に入った。
背後で扉が閉まる。
「思うように運びませんわ。……アンスリウム様」
「良いよ。期待はしていなかった」
アンスリウムは大して面白くもなさそうに笑った。
暗く、低い、笑い声。
「どのみち、落ちるのは時間の問題だ……」
その時突然地震があった。
家具が倒れ、お茶の入ったカップが床に落ちる。
サキはレイラを庇い机の下に隠れ、その地震をやり過ごした。
時間的には10分もなかっただろう。けれどその地震のせいで、かなりの被害が出たことはたしかだった。
そのことを思い、ため息をついて机から出る。
「怪我は、ないか?」
「大丈夫です……。大きかったですね」
「ああ、何か、いやな予感がする」
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