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2012/02/05 (Sun)
 建物の前に立つと、なぜか少しほっとする。

 いつもここにいたからか、それとも喧騒になれていなかったからなのか。
 それはわからないけれど。

「レイラ、中に入ったら、お茶を入れてくれるかい?」
「はい」
 扉に手をかけて言うと、レイラはほころぶように笑った。

 サキは開けるために手に力をこめるが、それは内側に引っ張られた。
 つられて前につんのめるサキを、内側に立っていた人物が受け止める。
 訳もわからずその人物の手を借りて何とか立ち上がると、後ろからレイラの声が耳に飛び込んだ。

「ミカゲ様!?」
「え、ミカゲ?」

 ぱっと顔をあげてみると、たしかにそこには良く見知った顔がいた。
 ミカゲはオリエーンスの国主である。中央の大地を挟んで向かいにあるが、そんな距離はたいした意味もないほどミカゲはよく来る。
 彼は温和な顔をして、少しずれたメガネを押し上げて口を開く。
「こんにちは。お久しぶりです。……元気そうで何よりですね」
 ミカゲは誰に対しても丁寧な口調だ。
「いや、そちらこそ……どうかしたのか?」
 サキはミカゲがここに来たことを疑問に思って聞いてみる。

 今オリエーンスはかなり酷い状態になってきているはずだ。こんなところに国主がいてもいいのだろうか。
「えぇ、少し……」
 ふと、国主の付き人がいないことに気づく。
「シルウァは?」
「彼には少しお使いを。……この館は誰もいないのでしょうか。どうしたらいいか迷っていたのですけれど」
「ああ、……人手不足で、市がたっているから、街には人がいるんだけど」

「お茶、入れてきますね」
 レイラがそう言って小走りに去っていく。
「じゃあ、こちらに」
 玄関に立ったままだったので、サキはミカゲを伴って歩き出す。
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