小説用倉庫。
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「セルファ……セルファ?」
「うーん。あれ?」
間の抜けた声を出して目を開けるセルファに、カウェラルは微笑む。
「あ、カウェラル様の眼、緑色だったんですねぇ」
珍しいと、こんなときでもぼんやりと言う。
「ラインシェーグと一緒だ」
ふと身を起こすと、周りを見回した。
「ラインシェーグは? どうしたんです? あれ、……カウェラル様、目、見えるんですか?」
立て続けの質問に、カウェラルは苦笑して応える。
「目はルシェイドに治してもらいました。……ラインシェーグは、もう、いません」
「……そっか。やっぱり、駄目でしたねぇ」
「? 何がです?」
不思議そうに聞くと、セルファがいつものように笑った。
「あんまり、ラインシェーグが独りだったから、やっとできた"片割れ"を失って、平気なのかなと思って」
「……そうですね」
平気ではなかった。
世界を道連れにしようとするほどに、彼は彼女が大事だったのだ。
ため息をついて、セルファは空を見上げた。
つられて見上げ、不意にまた泣きたい気分になった。
願ったのは。
欲しかったものは。
彼女の微笑み。
そして。
あの手の暖かさ。
ただ、それだけだったのに。
「うーん。あれ?」
間の抜けた声を出して目を開けるセルファに、カウェラルは微笑む。
「あ、カウェラル様の眼、緑色だったんですねぇ」
珍しいと、こんなときでもぼんやりと言う。
「ラインシェーグと一緒だ」
ふと身を起こすと、周りを見回した。
「ラインシェーグは? どうしたんです? あれ、……カウェラル様、目、見えるんですか?」
立て続けの質問に、カウェラルは苦笑して応える。
「目はルシェイドに治してもらいました。……ラインシェーグは、もう、いません」
「……そっか。やっぱり、駄目でしたねぇ」
「? 何がです?」
不思議そうに聞くと、セルファがいつものように笑った。
「あんまり、ラインシェーグが独りだったから、やっとできた"片割れ"を失って、平気なのかなと思って」
「……そうですね」
平気ではなかった。
世界を道連れにしようとするほどに、彼は彼女が大事だったのだ。
ため息をついて、セルファは空を見上げた。
つられて見上げ、不意にまた泣きたい気分になった。
願ったのは。
欲しかったものは。
彼女の微笑み。
そして。
あの手の暖かさ。
ただ、それだけだったのに。
大地を支える支柱は全部で5本。
それは世界が成り立ってから倒れることなく大地を支える。
青く光る海の、どこからともなくそれらは立ち上がり、海が荒れても決して波が地上に届かないほどの、高さで。
大地は支柱にあわせてか、5つに分かれる。
ひときわ高く、壮麗な建物のある国、メディウム・トゥッリスを中心に、4つの方向にあった。
北に水の国、セプテントゥリオー。
東に森の国、オリエーンス。
西に風の国、オッカースゥス。
南に炎の国、メリーディエース。
それらは有史以前から変わることなく存在しつづけた。
これからもあるはずだった。
そこに。
その、場所に。
それは世界が成り立ってから倒れることなく大地を支える。
青く光る海の、どこからともなくそれらは立ち上がり、海が荒れても決して波が地上に届かないほどの、高さで。
大地は支柱にあわせてか、5つに分かれる。
ひときわ高く、壮麗な建物のある国、メディウム・トゥッリスを中心に、4つの方向にあった。
北に水の国、セプテントゥリオー。
東に森の国、オリエーンス。
西に風の国、オッカースゥス。
南に炎の国、メリーディエース。
それらは有史以前から変わることなく存在しつづけた。
これからもあるはずだった。
そこに。
その、場所に。
異変があったのは突然だった。
それぞれの国が、被害にあった。
水の国では水害が。
森の国では木々が絶ち枯れたように。
強い風が家を、地上に生きるほとんどすべてのものを吹き飛ばし、火山は噴火した。
人々は怖れた。
かつての栄華など影も残さず、人々の数は4分の1にまで落ちた。
その中で唯一たいした被害を受けなかったのが、中央の大地だった。
そこは人々にとっての聖地だった。
中央の高い塔には神がいると信じられていた。
神がいたから。
無事だったのだと。
やがてそこを中心に人が集まり、町ができた。
少なくなっていた人々も、少しずつ増えた。
町はやがて国となる。
被害が酷かった4つの大地にも人が増えた。
そうして世界はもとに戻ったかのように思えた。
それから幾ばくもしないうちに。
5つの大地それぞれで、綺麗な石が取れた。
透き通るような。
5色の宝石。
人々はそれを国のシンボルとした。
石はそれぞれ国の国主に預けられた。
国は安定していた。
だから誰もわからなかった。
それが。
悲劇の始まりだったことに。
それぞれの国が、被害にあった。
水の国では水害が。
森の国では木々が絶ち枯れたように。
強い風が家を、地上に生きるほとんどすべてのものを吹き飛ばし、火山は噴火した。
人々は怖れた。
かつての栄華など影も残さず、人々の数は4分の1にまで落ちた。
その中で唯一たいした被害を受けなかったのが、中央の大地だった。
そこは人々にとっての聖地だった。
中央の高い塔には神がいると信じられていた。
神がいたから。
無事だったのだと。
やがてそこを中心に人が集まり、町ができた。
少なくなっていた人々も、少しずつ増えた。
町はやがて国となる。
被害が酷かった4つの大地にも人が増えた。
そうして世界はもとに戻ったかのように思えた。
それから幾ばくもしないうちに。
5つの大地それぞれで、綺麗な石が取れた。
透き通るような。
5色の宝石。
人々はそれを国のシンボルとした。
石はそれぞれ国の国主に預けられた。
国は安定していた。
だから誰もわからなかった。
それが。
悲劇の始まりだったことに。
風の国、オッカースゥス。
その国主であるサキは、提出された書類を手に、政務室に向かっているところだった。
大して大きくもないその建物は、それでもこの国で一番大きな建物だった。
一度滅びてから、この国では建物を大きく作らないようになった。
未だ風が強く、建物が大きければそれだけ危険になるからだ。
サキは足を止め、目を細めて外を見た。
建物が少し高いところにあるため、屋根がいたるところに見える。
そこから先は草原だ。
ぽつんと木がいくつか生えているだけの。
そんな土地。
「サキ様」
不意に近くの扉が開けられ、声がかけられた。
「……今行く」
振り向いて短く答えたサキは、もう一度外を見た。
変わらない天気。
暖かくもなく、寒くもなく。
風すらも穏やかな。
いつから、こんなに季節を感じなくなったのか。
窓から差し込む光に背を向け、サキは部屋に入った。
その国主であるサキは、提出された書類を手に、政務室に向かっているところだった。
大して大きくもないその建物は、それでもこの国で一番大きな建物だった。
一度滅びてから、この国では建物を大きく作らないようになった。
未だ風が強く、建物が大きければそれだけ危険になるからだ。
サキは足を止め、目を細めて外を見た。
建物が少し高いところにあるため、屋根がいたるところに見える。
そこから先は草原だ。
ぽつんと木がいくつか生えているだけの。
そんな土地。
「サキ様」
不意に近くの扉が開けられ、声がかけられた。
「……今行く」
振り向いて短く答えたサキは、もう一度外を見た。
変わらない天気。
暖かくもなく、寒くもなく。
風すらも穏やかな。
いつから、こんなに季節を感じなくなったのか。
窓から差し込む光に背を向け、サキは部屋に入った。
国にはそれぞれ国主と呼ばれる人々がいた。
ひとつの国にひとりの国主。
そして中央の大地にも。
彼らが、自国が滅びないよう采配を振るう。
民が。
平穏に、暮らしていけるように。
「レイラ、今日は街に下りてみようか」
サキは、国主の付き人である彼女に声をかけた。
書類を片付けていた彼女は、サキの言葉に微笑む。
「そうですね。気分転換にはちょうどいいかと……。それに、今日は市が立っているそうですよ」
サキは、机の引出しに書きかけの書類をしまってから、立ち上がった。
「私はこれを届けてから行きます」
「じゃあ、外にいるよ」
サキとレイラは部屋を出て、反対方向に歩き出した。
ゆっくりゆっくりとサキは廊下を歩く。そんなに長い廊下でもないのに、なぜかかなり時間をかけて歩いているような気になってくる。
実際は、すぐに廊下は終わっているのに。
そういえば、この建物の名前はなんと言ったか。
昔は覚えていたはずなのに、誰も呼ばないため、忘れてしまったらしい。
ただ、そこにあるだけだったから。
少し自嘲気味に微笑みながら、背後をふり返る。
しんと静まり返った廊下。
日の光だけが支配する。
まるでそこだけ時間が止まってしまったかのような。
「サキ様?」
不意に近くから声が聞こえて、サキは瞬きを繰り返す。
「どうかなされましたか?」
「いや……なんでもないよ」
気がつけば近くにいたレイラに、微笑んで答えながら。
いつから。
自分は素直に笑えなくなったのだろうと。
考えていた。
ひとつの国にひとりの国主。
そして中央の大地にも。
彼らが、自国が滅びないよう采配を振るう。
民が。
平穏に、暮らしていけるように。
「レイラ、今日は街に下りてみようか」
サキは、国主の付き人である彼女に声をかけた。
書類を片付けていた彼女は、サキの言葉に微笑む。
「そうですね。気分転換にはちょうどいいかと……。それに、今日は市が立っているそうですよ」
サキは、机の引出しに書きかけの書類をしまってから、立ち上がった。
「私はこれを届けてから行きます」
「じゃあ、外にいるよ」
サキとレイラは部屋を出て、反対方向に歩き出した。
ゆっくりゆっくりとサキは廊下を歩く。そんなに長い廊下でもないのに、なぜかかなり時間をかけて歩いているような気になってくる。
実際は、すぐに廊下は終わっているのに。
そういえば、この建物の名前はなんと言ったか。
昔は覚えていたはずなのに、誰も呼ばないため、忘れてしまったらしい。
ただ、そこにあるだけだったから。
少し自嘲気味に微笑みながら、背後をふり返る。
しんと静まり返った廊下。
日の光だけが支配する。
まるでそこだけ時間が止まってしまったかのような。
「サキ様?」
不意に近くから声が聞こえて、サキは瞬きを繰り返す。
「どうかなされましたか?」
「いや……なんでもないよ」
気がつけば近くにいたレイラに、微笑んで答えながら。
いつから。
自分は素直に笑えなくなったのだろうと。
考えていた。
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