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2012/02/04 (Sat)
「セルファ……セルファ?」
「うーん。あれ?」
 間の抜けた声を出して目を開けるセルファに、カウェラルは微笑む。
「あ、カウェラル様の眼、緑色だったんですねぇ」
 珍しいと、こんなときでもぼんやりと言う。

「ラインシェーグと一緒だ」

 ふと身を起こすと、周りを見回した。
「ラインシェーグは? どうしたんです? あれ、……カウェラル様、目、見えるんですか?」
 立て続けの質問に、カウェラルは苦笑して応える。
「目はルシェイドに治してもらいました。……ラインシェーグは、もう、いません」
「……そっか。やっぱり、駄目でしたねぇ」
「? 何がです?」
 不思議そうに聞くと、セルファがいつものように笑った。
「あんまり、ラインシェーグが独りだったから、やっとできた"片割れ"を失って、平気なのかなと思って」
「……そうですね」
 平気ではなかった。
 世界を道連れにしようとするほどに、彼は彼女が大事だったのだ。
 ため息をついて、セルファは空を見上げた。

 つられて見上げ、不意にまた泣きたい気分になった。


 願ったのは。
 欲しかったものは。

 彼女の微笑み。
 そして。
 あの手の暖かさ。

 ただ、それだけだったのに。
2012/02/05 (Sun)
 大地を支える支柱は全部で5本。

 それは世界が成り立ってから倒れることなく大地を支える。
 青く光る海の、どこからともなくそれらは立ち上がり、海が荒れても決して波が地上に届かないほどの、高さで。


 大地は支柱にあわせてか、5つに分かれる。

 ひときわ高く、壮麗な建物のある国、メディウム・トゥッリスを中心に、4つの方向にあった。
 北に水の国、セプテントゥリオー。
 東に森の国、オリエーンス。
 西に風の国、オッカースゥス。
 南に炎の国、メリーディエース。
 それらは有史以前から変わることなく存在しつづけた。


 これからもあるはずだった。
 そこに。

 その、場所に。
2012/02/05 (Sun)
 異変があったのは突然だった。
 それぞれの国が、被害にあった。

 水の国では水害が。
 森の国では木々が絶ち枯れたように。
 強い風が家を、地上に生きるほとんどすべてのものを吹き飛ばし、火山は噴火した。

 人々は怖れた。
 かつての栄華など影も残さず、人々の数は4分の1にまで落ちた。

 その中で唯一たいした被害を受けなかったのが、中央の大地だった。

 そこは人々にとっての聖地だった。
 中央の高い塔には神がいると信じられていた。
 神がいたから。
 無事だったのだと。

 やがてそこを中心に人が集まり、町ができた。
 少なくなっていた人々も、少しずつ増えた。
 町はやがて国となる。

 被害が酷かった4つの大地にも人が増えた。
 そうして世界はもとに戻ったかのように思えた。






 それから幾ばくもしないうちに。

 5つの大地それぞれで、綺麗な石が取れた。
 透き通るような。
 5色の宝石。

 人々はそれを国のシンボルとした。
 石はそれぞれ国の国主に預けられた。
 国は安定していた。

 だから誰もわからなかった。


 それが。

 悲劇の始まりだったことに。
2012/02/05 (Sun)
 風の国、オッカースゥス。

 その国主であるサキは、提出された書類を手に、政務室に向かっているところだった。
 大して大きくもないその建物は、それでもこの国で一番大きな建物だった。

 一度滅びてから、この国では建物を大きく作らないようになった。
 未だ風が強く、建物が大きければそれだけ危険になるからだ。


 サキは足を止め、目を細めて外を見た。
 建物が少し高いところにあるため、屋根がいたるところに見える。

 そこから先は草原だ。
 ぽつんと木がいくつか生えているだけの。
 そんな土地。


「サキ様」

 不意に近くの扉が開けられ、声がかけられた。
「……今行く」
 振り向いて短く答えたサキは、もう一度外を見た。

 変わらない天気。
 暖かくもなく、寒くもなく。
 風すらも穏やかな。
 いつから、こんなに季節を感じなくなったのか。

 窓から差し込む光に背を向け、サキは部屋に入った。
2012/02/05 (Sun)
 国にはそれぞれ国主と呼ばれる人々がいた。
 ひとつの国にひとりの国主。
 そして中央の大地にも。

 彼らが、自国が滅びないよう采配を振るう。

 民が。
 平穏に、暮らしていけるように。



「レイラ、今日は街に下りてみようか」

 サキは、国主の付き人である彼女に声をかけた。
 書類を片付けていた彼女は、サキの言葉に微笑む。
「そうですね。気分転換にはちょうどいいかと……。それに、今日は市が立っているそうですよ」
 サキは、机の引出しに書きかけの書類をしまってから、立ち上がった。
「私はこれを届けてから行きます」
「じゃあ、外にいるよ」
 サキとレイラは部屋を出て、反対方向に歩き出した。

 ゆっくりゆっくりとサキは廊下を歩く。そんなに長い廊下でもないのに、なぜかかなり時間をかけて歩いているような気になってくる。
 実際は、すぐに廊下は終わっているのに。
 そういえば、この建物の名前はなんと言ったか。
 昔は覚えていたはずなのに、誰も呼ばないため、忘れてしまったらしい。
 ただ、そこにあるだけだったから。
 少し自嘲気味に微笑みながら、背後をふり返る。

 しんと静まり返った廊下。
 日の光だけが支配する。
 まるでそこだけ時間が止まってしまったかのような。


「サキ様?」
 不意に近くから声が聞こえて、サキは瞬きを繰り返す。
「どうかなされましたか?」
「いや……なんでもないよ」
 気がつけば近くにいたレイラに、微笑んで答えながら。

 いつから。
 自分は素直に笑えなくなったのだろうと。

 考えていた。
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