小説用倉庫。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
むしろどうでもいい事とか。
そういう事だけはやけにはっきり覚えているものだと思う。
蔑むような目でこちらを見下ろしてくるあの可笑しな顔が。
赤く染まったことでさえ昨日のよう。
もうすでにそのことで何を思うわけではないのだけれど。
それでも。
ほんの。
少しでも。
この心に何かが残っていたとしたら。
後悔などしなかったかもしれないと思いながら。
そういう事だけはやけにはっきり覚えているものだと思う。
蔑むような目でこちらを見下ろしてくるあの可笑しな顔が。
赤く染まったことでさえ昨日のよう。
もうすでにそのことで何を思うわけではないのだけれど。
それでも。
ほんの。
少しでも。
この心に何かが残っていたとしたら。
後悔などしなかったかもしれないと思いながら。
依頼があった。
大陸中央の王都ロスウェルにいる現王の継承者を。
『消去』
すること。
――暗殺。
それが、自分の仕事だ。
この仕事に誇りを持ったことも無い。
ただ、気がつけばそうなっていただけのことだった。
大陸中央の王都ロスウェルにいる現王の継承者を。
『消去』
すること。
――暗殺。
それが、自分の仕事だ。
この仕事に誇りを持ったことも無い。
ただ、気がつけばそうなっていただけのことだった。
「酒星!」
声に呼ばれて振り返る。
今の自分はこの名前で呼ばれていた。
称号のようなそれは本名ではない。
「これから仕事?」
目の前に歩いてきたのは、この島にある唯一の町、シンズィスに居着いた薬師の薄氷。
腰まで届く黒髪と、深海のような深い青の目をもつ。
ユーディリス大陸の方で標準的な色合いだが、本人に確かめたことは無く、また本人も何も言わないので本当のところどうなのかは知らない。
まぁここではどうでもいいことだろう。
細い身体に、寒さのためか薄い青の上着を何枚かかけていた。
薄氷は手に持っていた袋を目の前に掲げると、それを左右に振ってみた。
「これ、新しく調合できたんだけど、試してみる?」
「いえ、怖いんでよしときますヨ。アタシはまだ死にたくないですからね」
軽く笑って流す。薄氷は残念そうに呟いて、袋を見た。
「死にはしないと思うんだけどな……」
か弱そうな外見だが、彼が作るのはほとんど毒薬だ。
反対に治療薬は作れないらしい。
「……おまえ、また新しいの作ったのかよ」
げんなりとした声を発して、またひとり近づいてきた。
日に明るい茶色の髪と、赤に近い茶の目をしている。
踏青という名で通っているが、やはり本名ではないそうだ。
以前はトゥーディス大陸にいたと聞く。
彼もこの街に居着いた薬師だ。
薄氷と違って治療薬専門だが。
「平気だろ。どうせ何か作っても踏青が解毒できるし」
「その俺の苦労を考えろッ!」
「何で考えなくちゃならないんだ」
びしりと指を突きつけて叫ぶが、薄氷は冷笑でもって答えただけだった。
「まぁまぁ。お二方、その辺でよいじゃありませんか」
苦笑して間に入るが、このふたり、決して仲が悪いわけではない。
「それじゃァ、アタシはもう行きますんで」
「おう、気をつけてな!」
「土産、よろしく」
元気に片手を挙げる踏青と、にやりと含み笑いをする薄氷に見送られて、船着場に向かう。
定時に出る船に乗って、ヴァイサーシアーの大陸に渡るのだ。
島国であるこの島では、船が無いとどこにも行けない。
声に呼ばれて振り返る。
今の自分はこの名前で呼ばれていた。
称号のようなそれは本名ではない。
「これから仕事?」
目の前に歩いてきたのは、この島にある唯一の町、シンズィスに居着いた薬師の薄氷。
腰まで届く黒髪と、深海のような深い青の目をもつ。
ユーディリス大陸の方で標準的な色合いだが、本人に確かめたことは無く、また本人も何も言わないので本当のところどうなのかは知らない。
まぁここではどうでもいいことだろう。
細い身体に、寒さのためか薄い青の上着を何枚かかけていた。
薄氷は手に持っていた袋を目の前に掲げると、それを左右に振ってみた。
「これ、新しく調合できたんだけど、試してみる?」
「いえ、怖いんでよしときますヨ。アタシはまだ死にたくないですからね」
軽く笑って流す。薄氷は残念そうに呟いて、袋を見た。
「死にはしないと思うんだけどな……」
か弱そうな外見だが、彼が作るのはほとんど毒薬だ。
反対に治療薬は作れないらしい。
「……おまえ、また新しいの作ったのかよ」
げんなりとした声を発して、またひとり近づいてきた。
日に明るい茶色の髪と、赤に近い茶の目をしている。
踏青という名で通っているが、やはり本名ではないそうだ。
以前はトゥーディス大陸にいたと聞く。
彼もこの街に居着いた薬師だ。
薄氷と違って治療薬専門だが。
「平気だろ。どうせ何か作っても踏青が解毒できるし」
「その俺の苦労を考えろッ!」
「何で考えなくちゃならないんだ」
びしりと指を突きつけて叫ぶが、薄氷は冷笑でもって答えただけだった。
「まぁまぁ。お二方、その辺でよいじゃありませんか」
苦笑して間に入るが、このふたり、決して仲が悪いわけではない。
「それじゃァ、アタシはもう行きますんで」
「おう、気をつけてな!」
「土産、よろしく」
元気に片手を挙げる踏青と、にやりと含み笑いをする薄氷に見送られて、船着場に向かう。
定時に出る船に乗って、ヴァイサーシアーの大陸に渡るのだ。
島国であるこの島では、船が無いとどこにも行けない。
「あれ、酒星、仕事?」
船着場で忙しく指示していた少女が振り向いて片手を挙げる。
「そうですヨ。この船、ヴァイサーシアー行きですよね。ちょっと乗せてもらおうと思って」
「そう。……しかし不便だよね。船使わなきゃでらんないんだもん」
「東旭サン、そんな事言うもんじゃありませんヨ。その船のおかげで生活できるやつだっているんですから」
そう言って船着場を見回す。
現在そこにいる船は3艘だけだった。
ここには確かあと5艘くらいはあったはずだ。
「皆は仕事ですかい?」
「うん。何か大きな船が通るからってさッ!」
伸びをして笑う。
出て行った船はほとんどが大きなやつでどうやら「仕事」らしい。
この島は他の船の荷を奪うという海賊行為をよくしている。
それは島の収入源のひとつでもあった。
この少女は東旭といって、その海賊たちを束ねる統領のような者だ。
小さいながらなかなか要領がよく、またムードメーカーとしてもがんばっている。
「そういえば姐さんの姿が見えませんね」
「船についてったよ。今回はあたしには合わないだろって」
「そうですか」
うんと言って、東旭は海を眺める。
潮風が吹いて髪を、額に巻いたバンダナをなびかせる。
「あと少しで出航だよ」
「この船ですか?」
「あたしはついていけないけど、気をつけて」
「ありがとうございます」
細い目をさらに細めて東旭に笑いかけ、船に乗り込む。
乗り込んでしばらくしてから、船が動き始めた。
波の揺れがダイレクトに伝わるほどの小さな船だが、5人乗っても結構スペースはある。
遠ざかっていく東旭の小さな白い手が見え、それもやがて見えなくなった。
船着場で忙しく指示していた少女が振り向いて片手を挙げる。
「そうですヨ。この船、ヴァイサーシアー行きですよね。ちょっと乗せてもらおうと思って」
「そう。……しかし不便だよね。船使わなきゃでらんないんだもん」
「東旭サン、そんな事言うもんじゃありませんヨ。その船のおかげで生活できるやつだっているんですから」
そう言って船着場を見回す。
現在そこにいる船は3艘だけだった。
ここには確かあと5艘くらいはあったはずだ。
「皆は仕事ですかい?」
「うん。何か大きな船が通るからってさッ!」
伸びをして笑う。
出て行った船はほとんどが大きなやつでどうやら「仕事」らしい。
この島は他の船の荷を奪うという海賊行為をよくしている。
それは島の収入源のひとつでもあった。
この少女は東旭といって、その海賊たちを束ねる統領のような者だ。
小さいながらなかなか要領がよく、またムードメーカーとしてもがんばっている。
「そういえば姐さんの姿が見えませんね」
「船についてったよ。今回はあたしには合わないだろって」
「そうですか」
うんと言って、東旭は海を眺める。
潮風が吹いて髪を、額に巻いたバンダナをなびかせる。
「あと少しで出航だよ」
「この船ですか?」
「あたしはついていけないけど、気をつけて」
「ありがとうございます」
細い目をさらに細めて東旭に笑いかけ、船に乗り込む。
乗り込んでしばらくしてから、船が動き始めた。
波の揺れがダイレクトに伝わるほどの小さな船だが、5人乗っても結構スペースはある。
遠ざかっていく東旭の小さな白い手が見え、それもやがて見えなくなった。
この船はこのままヴァイサーシアー大陸の、ヴェリィサという港町に行く。
そこから馬か何か使えば、2週間ほどでロスウェルにつくはずだ。
物思いに沈んでいると、船が大きく揺れた。
どうやら波が高くなってきたようだ。
「酒星、もしかしたらヴェリィサに着かないかも知れねぇぞ」
「どうしてです?」
「あれ、見てみろよ」
話し掛けてきたのは船に乗っている他の4人のうちのひとりで、額に大きな傷のある親父だ。
シンズィスでは酒場を切り盛りしている。
指差したのは大陸の方。
薄暗くなっている。
「嵐、起こりますかねェ?」
「いやな予感がするな」
顔をしかめて彼は他の仲間のところに行く。
「嵐……ね……」
呟いて、黒い雲の方を見る。
瞬間、雷が落ちた。
突然の落雷に船が大胆に揺れる。
同時に雨が降り出した。
先が見えない程の豪雨。
船員たちはみな振り落とされまいと船の縁にしがみついている。
何かを言い合っているが、風と雨の音が大きいためよく聞き取れない。
唐突に始まった嵐に、船員のほとんどがうろたえてしまっている。
そのとき誰かが叫んで、ひとつの方向を指差した。
皆がそちらを見る。
一瞬、壁かと思った。
それほどの大きな波だった。
小さな船は何の抵抗も無く飲み込まれた。
そこから馬か何か使えば、2週間ほどでロスウェルにつくはずだ。
物思いに沈んでいると、船が大きく揺れた。
どうやら波が高くなってきたようだ。
「酒星、もしかしたらヴェリィサに着かないかも知れねぇぞ」
「どうしてです?」
「あれ、見てみろよ」
話し掛けてきたのは船に乗っている他の4人のうちのひとりで、額に大きな傷のある親父だ。
シンズィスでは酒場を切り盛りしている。
指差したのは大陸の方。
薄暗くなっている。
「嵐、起こりますかねェ?」
「いやな予感がするな」
顔をしかめて彼は他の仲間のところに行く。
「嵐……ね……」
呟いて、黒い雲の方を見る。
瞬間、雷が落ちた。
突然の落雷に船が大胆に揺れる。
同時に雨が降り出した。
先が見えない程の豪雨。
船員たちはみな振り落とされまいと船の縁にしがみついている。
何かを言い合っているが、風と雨の音が大きいためよく聞き取れない。
唐突に始まった嵐に、船員のほとんどがうろたえてしまっている。
そのとき誰かが叫んで、ひとつの方向を指差した。
皆がそちらを見る。
一瞬、壁かと思った。
それほどの大きな波だった。
小さな船は何の抵抗も無く飲み込まれた。
倉庫
管理者:西(逆凪)、または沖縞
文章の無断転載及び複製は禁止。
文章の無断転載及び複製は禁止。
カレンダー
03 | 2025/04 | 05 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 |
カテゴリー
- ご挨拶。(3)
- [長編] Reparationem damni(12)
- [長編] Nocte repono rubei(72)
- [長編] Sinister ocularis vulnus (30)
- [長編] Lux regnum(61)
- [長編] Pirata insula(47)
- [長編] Purpura discipulus(43)
- [長編] Quinque lapidem(29)
- [短編] Canticum Dei(3)
- [短編] Candidus Penna(9)
- [短編] Dignitate viveret,Mori dignitas (11)
- [短編] Praefiscine(3)