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2024/05/22 (Wed)
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2012/02/05 (Sun)
 誰かに呼ばれた気がして振り返った。

 突き刺すような痛み。
 胸から短剣が生えていた。
 呼んでいたのはそれだった。

 鮮やかな、金の柄。
 迸る血とともに、身体から力が抜けていく。


 死にたくない



「死んでるのかな?」

「どうかな」
「動いてないよね」
「ないね」

 子供の笑い声と、明るい光に目を開けると、間近に顔があった。
 3人の子供。
 ほとんど差異はないように見えるほどに似通っていた。

「あ」
「目を開けたよ」
「生きてたね」
 口々に言い合う子供たちを順に見て、身体を起こす。
 どうやら生きているようだ。
 身体のあちこちを触ったり曲げてみたりして異常が無いか確認する。

 刺された。
 あれは
(夢)
 傷はどこにも無い。
 異常もなさそうだ。
「ねぇどこから来たの?」
「どうして倒れてたの?」
「海で何か、あったの?」

 ほとんど同時に口を開いた子供たちに、とりあえず聞いてみる。
「えぇと、すいませんココはどこでしょう?」
「知らないの?」
「ここは北だよ」
「北の果てだ」

 順々に言ってくれているのだが、少しわかりにくい。
 ふと気になった言葉を聞き返す。
「北の果て?」
「そう」
「大陸の北」
「北の果て」

「……この、近くの町の名前は……」
「イーアリーサ」
 3人が口をそろえて言う。

 その町はヴァイサーシアー最北にあるという町の名前だった。
2012/02/05 (Sun)
 並んで案内される道すがら名前を聞かれた。
「名前何ていうの?」
「どこから来たの?」
「酒星って言います。皆さんは?」
 右端にいた子が先に答えた。
「ウェル」
 深い青の目をしている。
「リィ」
 真ん中の子はそれより少し薄い色。
「ラナ」
 この子はリィよりも緑に近い色の目だ。
 3人を区別するための見分け方を覚えておく。
 ラナは女の子、他のふたりは男の子のようだ。

「おじいちゃんがつけてくれたんだ」
「いい名前ですね」
「ありがとう」
 3人そろって同じ笑顔で笑う。
 微笑ましく思ってそれを見ながら歩いていると、遠くに町が見えた。

「あれだ」
「イーアリーサ」
「僕たちの町だよ」

 町に入ると、年配の女性が近づいてきた。
「こら、おまえたち、また海へ行っていたね?」
「ごめんなさい、お母さん」

 どうやら母親らしい。
 ウェルが目を輝かせながら彼女に言う。
「でも人を拾ったんだ」
「犬猫じゃぁないんだから、拾ってきたなんて言うもんじゃないよ」
「はぁい」
 腰に手を当ててしかりつけるように言うと、3人の子供はおとなしく返事をした。
「それじゃ、長のところに行ってきな。さっきから呼んでるからね」
「はい」
「それじゃ、またね」

 手を振って駆け去る子供たちに手を振り返す。
2012/02/05 (Sun)
 ほとんど子供たちの姿が見えなくなってから、母親の方に顔を向ける。
「ところで、アタシの他に誰か来ませんでしたか?」
「海にかい? いいや。あんたの他にはいないはずだよ」

 にやりと笑うと、背後の家を指差して言った。
「外じゃ寒いからね。お入り」
「はぁ。お邪魔します」
 おとなしく後について家に入る。

 暖かい空間だった。
 暖炉に火が入っていて、それが部屋を暖めているようだ。
「……で、何であんた海にいたんだい? へたすりゃ死んでたよ」
 温かいお茶を差し出しながら彼女が聞いてくる。
「いえ、ホントはヴェリィサに行きたかったんですヨ。けど嵐に会っちまって、気がついたらさっきの子達がいたってわけで」
「ヴェリィサに? 何しに」
 彼女はきょとんとして聞いてくる。
「いえ、目的地はロスウェルなんですが」
 そういうと、納得したという表情を浮かべて肩を叩いてきた。
「そうか、あんた祭りを見にきたのかい」

 ロスウェルでは風華月に祭りが開かれる。
 暖かくなってくるこの時期に。
 風花祭と呼ばれるそれでは、スティリールから大量の花を持ってきて開催される。
 大陸のほとんどの人が集まる大きな祭りだ。
 ここでそれを聞くのも変に思われるだろうと思い、素直に頷く。

「じゃあ、明日にはここを出ないと間に合わなくなっちまうねぇ」
「そうなンですよ……ここからだとスティリールを通った方が早いですか?」
 頬に手を当てて首を傾げる彼女に同意するかのように頷き、とりあえず道のりを聞いてみる。
「そうだね。でも今の時期は馬車も込んでいるだろうし」
「まァ何とかなりますヨ」
「そうかい? ……今日はここに泊まっていくといいよ。外は寒いからね」
「ありがとうございます」
 目を細めて笑い、礼を言う。

 外を見ると、どうやら雪が降ってきたらしい。
「ここら辺は寒そうですネ」
「そうだね。だけど、ここはイーアリーサだよ。聞いたこと無いかい?」
 にやりと笑って言う彼女に、首を傾げることで聞き返す。

「ここは魔法使いが集まるのさ」
2012/02/05 (Sun)
「魔法使いが集まる町」

 その答えはすぐにわかった。

 暖炉の火は薪をくべなくとも消えず、部屋の中はともかく、暖炉から遠く離れた場所さえ暖かい。家全体が暖かくなっているらしい。
 町にも結界が張ってあり、外よりもまだ暖かいらしい。
 まだ外に出ていないのでなんともいえないのだが。
 イーアリーサの町は長の家を囲む形で、円形に広がる家並みで構成される。
 それも結界の一種だとウェルたちの母親は笑って言った。
 この地は寒さに耐えるには厳しすぎるから、と。
 少し寂しそうな顔で。

 長とはこの村で一番の魔力の持ち主であり、一部には人間ではないとさえ言われる(もちろん悪意は無い)。
 小耳に挟んだところによると、今度の長はウェルたちになるらしい。
 あんな子供が一番の魔力を、と思うが、3人そろって、というところが引っかかる。
(まァ明日にはここから離れるんですが)
 その日はウェルたちの家にお世話になった。
 家の中は暖炉の火が落されても暖かいままだった。

「おはよう!」
「今日もいい天気だよ!」

 朝、目が覚めるとそんな声が聞こえてきた。
 ウェルたちが母親に挨拶しているらしい。
 いつもなら朝早くには目が覚めるのに今日は寝過ごしたようだ。
 割り当てられた部屋の、ベッドから見を起こすと、小さな足音が近づいてくるのに気づいた。
 かたりとドアが開けられる。
 慎重に、音を立てないように開けようとしていたのか、細く開けられたドアはしばらくそのままだった。
 ゆっくりと扉が開くと、目を輝かせた子供が顔を見せた。

「起きてる?」
 その様子がなんだか微笑ましくてつい頬が緩む。
「えェ、起きてますよ。おはよう、リィ」
 名前を呼ぶと、リィは顔を輝かせた。
「すごい! ぼくの名前覚えてたんだ!」

 子供特有の素直な反応。
 無邪気に。
 リィは部屋に入ってくると、手に持っていたものを差し出した。

「あのね、これあげる」
 差し出されたものは暖かそうな手袋だった。
「村の外は寒いから……」
「……良いんですか?」
 聞くと、リィは小さな頭を縦に振った。
「ありがとうございます」
 礼を言って微笑む。
「それじゃね!」

 リィはすごく嬉しそうな顔をしてくるりときびすを返し、軽い足音を立てて部屋から出ていく。
 ドアを閉めようとしたところで何かを思い出したのかこちらを振り返った。
「あのね、お母さんが、ご飯あるからって!」
 それだけ言うと、あとは脱兎のごとく部屋から遠ざかっていった。

「……」
 手に渡された手袋はどう見てもあの子供たちのものではなさそうだった。
 ためしにと思って手を入れてみると、驚くほどにぴったりだ。
「『お父さん』のものかな……」
 呟いてから手袋を外し、『ご飯』を食べるために部屋から出た。
2012/02/05 (Sun)
「やぁ起きたね。さ、そこに座って。これでも飲んで」

 暖炉のある部屋に入ると、母親は笑顔を見せて机に導くと湯気のたったカップを手渡した。
 すぐに料理が運ばれてくる。
 温かいスープと麦のパン。

「足りるかい?」
「はい。十分ですヨ」
 ありがたくそれらを食べ、馬車の時間までのんびり過ごす。

 お弁当に、といって包んでくれた食べ物を持って、馬車が来るという場所にいく。
 丁度今からスティリールに行くという馬車を見つけた。
 訳を言って乗せてもらう。

 村から離れるととたんに寒くなる。
 結界から離れたからだと、御者が教えてくれた。
 遠ざかっていく村を見て、シャイレア島を出たときを思い出す。
 あの時は東旭がいた。
 そして手を振ってくれていた。


 スティリールは花の街だ。
 文字通り植物の花を売っているところも多いが、花街も多い。
 街中いたるところが花だらけだった。

 ウェルたちの母親が言っていたとおり、ここからロスウェルに行く馬車はほぼ満員だった。
 何とかもぐりこむことに成功する。
 にぎやかな街を見て、東旭たちもたまにはこういうところにくればいいのにと思った。
 すでに予定より1週間ほど遅れているので、スティリールは唯通過しただけだった。
 祭りもあることだし、できれば花のひとつでも買っていけばいいのだが、時間が無いためただ見送る。

 この仕事が終われば、島に帰れる。

 そう考えて、薄く笑う。
 いつの間にあの島が自分の帰るところになったのだろう。
 昔にいたところよりはまだましだけれども。

 それでも。
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