小説用倉庫。
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薄氷が帰ってきたのはもう日付が変わろうとする時間だった。
たまたま寝付けず外に出ていたら、うつむき加減に歩いていた。
昼間見たときと違って服が少し汚れている。
山に登ったのかと思い、声をかけようと近くに行くと、薄氷はこちらを見た。
「……おまえ、こんな時間に何やってるんだ?」
「な、何って……おまえこそ何やってんだよ」
薄氷は表情を変えずにじっと見つめる。
深い青の目が、微かな月の光で仄かに輝く。
不意にその目が逸らされた。
「……おまえには関係ない」
「え、おい、薄氷?」
てっきり冷笑とともに言われると思っていたので拍子抜けしてしまう。
どうやらそれが習慣になっていたようだ。
いつもと違う薄氷の様子に首を傾げていると、薄氷はきびすを返してその場を去ろうとした。
「ちょっと待てよ!」
思わず制止の声をあげる。
胡散臭そうにこちらを見る薄氷を見て、しどろもどろになりながら言う。
「や、えっと……いつもと違うからさ……どうかしたのか?」
「生憎だが、おまえと違っていろいろ考えているんだよ」
「何だそりゃ、それじゃ俺が何にも考えていないみたいじゃないか」
「違うのか?」
フンと鼻で笑う薄氷に、心配することもなかったかとため息をつく。
その時、一瞬、本当に一瞬だけ、薄氷は表情をまったく消した。
それは仮面が剥がれ落ちるかのように。
唐突に。
驚いて瞬きを繰り返すが、そのときにはもういつもと大して変わりない様子に戻っていた。
「……薄氷」
「何だよ」
機嫌の悪そうな声。
「おまえ、大丈夫か?」
つい、そう聞いていた。
いつもと違ったから。
けれど、薄氷にはそれが酷く気に障ったらしかった。
「煩いよ! おまえには関係ないだろ!」
「……ッ……!」
思わず息を呑む。
「……私はおまえほど、人生気楽に生きてきたわけじゃないんだよ!!」
叩きつけるように言うと、ほんの少しばつの悪そうな顔をして、足早にその場から去っていった。
反射的に伸ばした手は彼の背中を見て、下におろされた。
どうしたらいいものか。
馬鹿みたいに突っ立っていたら、後ろから声が聞こえた。
「……喧嘩でもしたのかね? ずいぶん機嫌が悪そうだったが」
「冬杣……」
少し遠くから歩いてきたのは冬杣だった。
寒いのか薄い上着を羽織っている。
薄氷が去ったほうを見ながらこちらに近づいてくると、不審そうな視線に気づいたのかこちらを見て首を傾げる。
「何だ。私がここにいるのがおかしいか?」
「いや、そういうわけじゃねぇけど……聞いてたのか?」
薄氷の声は決して大きい方ではないはずなのに。
遠くにいたはずの冬杣には聞こえていたのか。
「私は耳が良いんだよ」
冬杣はそういうとその問題は終わりだとばかりに口を開いた。
「あんたたちはいつも仲がいいんだから、変なことでこじれないようにな」
「こじれるっつーか……。なぁ、俺と薄氷って仲良いのか?」
疑わしげに聞くと、苦笑で返された。
たまたま寝付けず外に出ていたら、うつむき加減に歩いていた。
昼間見たときと違って服が少し汚れている。
山に登ったのかと思い、声をかけようと近くに行くと、薄氷はこちらを見た。
「……おまえ、こんな時間に何やってるんだ?」
「な、何って……おまえこそ何やってんだよ」
薄氷は表情を変えずにじっと見つめる。
深い青の目が、微かな月の光で仄かに輝く。
不意にその目が逸らされた。
「……おまえには関係ない」
「え、おい、薄氷?」
てっきり冷笑とともに言われると思っていたので拍子抜けしてしまう。
どうやらそれが習慣になっていたようだ。
いつもと違う薄氷の様子に首を傾げていると、薄氷はきびすを返してその場を去ろうとした。
「ちょっと待てよ!」
思わず制止の声をあげる。
胡散臭そうにこちらを見る薄氷を見て、しどろもどろになりながら言う。
「や、えっと……いつもと違うからさ……どうかしたのか?」
「生憎だが、おまえと違っていろいろ考えているんだよ」
「何だそりゃ、それじゃ俺が何にも考えていないみたいじゃないか」
「違うのか?」
フンと鼻で笑う薄氷に、心配することもなかったかとため息をつく。
その時、一瞬、本当に一瞬だけ、薄氷は表情をまったく消した。
それは仮面が剥がれ落ちるかのように。
唐突に。
驚いて瞬きを繰り返すが、そのときにはもういつもと大して変わりない様子に戻っていた。
「……薄氷」
「何だよ」
機嫌の悪そうな声。
「おまえ、大丈夫か?」
つい、そう聞いていた。
いつもと違ったから。
けれど、薄氷にはそれが酷く気に障ったらしかった。
「煩いよ! おまえには関係ないだろ!」
「……ッ……!」
思わず息を呑む。
「……私はおまえほど、人生気楽に生きてきたわけじゃないんだよ!!」
叩きつけるように言うと、ほんの少しばつの悪そうな顔をして、足早にその場から去っていった。
反射的に伸ばした手は彼の背中を見て、下におろされた。
どうしたらいいものか。
馬鹿みたいに突っ立っていたら、後ろから声が聞こえた。
「……喧嘩でもしたのかね? ずいぶん機嫌が悪そうだったが」
「冬杣……」
少し遠くから歩いてきたのは冬杣だった。
寒いのか薄い上着を羽織っている。
薄氷が去ったほうを見ながらこちらに近づいてくると、不審そうな視線に気づいたのかこちらを見て首を傾げる。
「何だ。私がここにいるのがおかしいか?」
「いや、そういうわけじゃねぇけど……聞いてたのか?」
薄氷の声は決して大きい方ではないはずなのに。
遠くにいたはずの冬杣には聞こえていたのか。
「私は耳が良いんだよ」
冬杣はそういうとその問題は終わりだとばかりに口を開いた。
「あんたたちはいつも仲がいいんだから、変なことでこじれないようにな」
「こじれるっつーか……。なぁ、俺と薄氷って仲良いのか?」
疑わしげに聞くと、苦笑で返された。
「何馬鹿面さげてやがるんだ」
薄氷は次の日も薄氷だった。
当たり前のことだが、昨日の夜のことが何もなかったように思える。
「いや……何でもないんだ……」
しゃがみこみたくなる気持ちを抑えて、昨日人が漂着したという話を伝える。
朝食がてらその人物を見に、診療所へ向かう。
「まだ起きてないんだな」
「あぁ、踏青と薄氷か、呼吸も穏やかだ。もうすぐ目覚めるだろう」
頭に巻いてあった包帯を取り替えながら、冬杣が言う。
と、薄氷がその人物に近づく。
何をするのかと見ていると、すっと右手を伸ばして、人差し指で額を弾いた。
「薄氷!? お前、何やってんだよッ!」
「いや起きるかなと」
しれっと告げる薄氷を見て冬杣が呆れたように肩をすくめる。
「一応病人扱いなんだが」
「怪我人の間違いだろ」
「……ぅ……」
寝ていた彼はうめき声を上げて目を開けた。
でこぴんが聞いたのかと思ってなんだか複雑な気持ちになる。
開いた目は鮮やかな青緑色だった。
自分の周りにいて顔を覗き込んでいる3人を順に見て、彼は口を開いた。
「……ここは……」
「ここはシャイレア島。君は昨日この島に漂着したんだ。覚えてない?」
「いや普通漂着したのは覚えてねぇだろ」
眉間にしわを寄せて薄氷に言うが、どうやら無視する方針らしい。
彼は起き上がろうとして、苦痛に顔を歪めた。
手を右目の傷のあたりに持っていくのを見て、冬杣があっさり告げる。
「あんたの右目はもう見えないよ。傷が深かったからね」
「可能性じゃなかったっけ?」
「楽観視しても駄目な場合は駄目だろう」
疑問に思って問い掛けると、あっさりと切り捨てられた。
「で、君誰?」
彼女は淡々と聞く。
「……私、は……」
薄氷は次の日も薄氷だった。
当たり前のことだが、昨日の夜のことが何もなかったように思える。
「いや……何でもないんだ……」
しゃがみこみたくなる気持ちを抑えて、昨日人が漂着したという話を伝える。
朝食がてらその人物を見に、診療所へ向かう。
「まだ起きてないんだな」
「あぁ、踏青と薄氷か、呼吸も穏やかだ。もうすぐ目覚めるだろう」
頭に巻いてあった包帯を取り替えながら、冬杣が言う。
と、薄氷がその人物に近づく。
何をするのかと見ていると、すっと右手を伸ばして、人差し指で額を弾いた。
「薄氷!? お前、何やってんだよッ!」
「いや起きるかなと」
しれっと告げる薄氷を見て冬杣が呆れたように肩をすくめる。
「一応病人扱いなんだが」
「怪我人の間違いだろ」
「……ぅ……」
寝ていた彼はうめき声を上げて目を開けた。
でこぴんが聞いたのかと思ってなんだか複雑な気持ちになる。
開いた目は鮮やかな青緑色だった。
自分の周りにいて顔を覗き込んでいる3人を順に見て、彼は口を開いた。
「……ここは……」
「ここはシャイレア島。君は昨日この島に漂着したんだ。覚えてない?」
「いや普通漂着したのは覚えてねぇだろ」
眉間にしわを寄せて薄氷に言うが、どうやら無視する方針らしい。
彼は起き上がろうとして、苦痛に顔を歪めた。
手を右目の傷のあたりに持っていくのを見て、冬杣があっさり告げる。
「あんたの右目はもう見えないよ。傷が深かったからね」
「可能性じゃなかったっけ?」
「楽観視しても駄目な場合は駄目だろう」
疑問に思って問い掛けると、あっさりと切り捨てられた。
「で、君誰?」
彼女は淡々と聞く。
「……私、は……」
「ねぇねぇ聞いてー!」
ばたんと勢いよく診療所の扉が開かれる。
そのうち壊れるんじゃなかろうかと要らぬ心配をするが、当人たちにとってはどうでもいいことらしい。
転がるように入ってきた東旭の後ろから、苦笑しながら酒星が入ってくる。
「どうした、東旭」
「名前考えたんだ! 樹雨っていうの! どう?」
凄くにこやかに返答を求めてくる。
半ば呆然と見ていると、東旭がベッドの上に半身を起き上がらせた彼に気づいた。
「あ、起きたんだね! ねぇ名前、樹雨ってどう?」
「……え……」
困ったように呟く彼に、酒星が気づいて東旭をたしなめる。
「東旭……突然にどうって言われても彼が困るだけでしょう」
「そう? うーんでもいい名前だと思うんだけどなー」
腕組みをして天井を仰ぐ。
それを見て冬杣が苦笑し、彼の方に視線を向けた。
「つまりな、呼び名を樹雨にしたらどうか、ということなんだよ」
説明すると、よくわからないのか目をしばたたかせている。
「名を変えろと、いうことですか……?」
「うん? いや、違うよ。この島でのそれぞれの呼称になるのさ。この島にいるみんな、ふたつ名を持ってる」
薄氷がにやりと笑って説明する。
「……そう、ですか……」
「樹雨って、駄目かな……?」
東旭が上目遣いに彼を見る。
彼は一瞬きょとんとして、それからふわりと微笑んだ。
柔らかな笑み。
「……良いですよ」
肯定すると、東旭はぱぁっと花が咲くように笑った。
「ありがとう! あたし東旭っていうの!」
「私は冬杣という」
「俺、踏青な!」
「薄氷だ。よろしくな、樹雨」
「よろしく……酒星ッて言います」
順に名を名乗ると、樹雨は微笑を持ってそれに応える。
名前だけの自己紹介はこれで終わりだ。
ばたんと勢いよく診療所の扉が開かれる。
そのうち壊れるんじゃなかろうかと要らぬ心配をするが、当人たちにとってはどうでもいいことらしい。
転がるように入ってきた東旭の後ろから、苦笑しながら酒星が入ってくる。
「どうした、東旭」
「名前考えたんだ! 樹雨っていうの! どう?」
凄くにこやかに返答を求めてくる。
半ば呆然と見ていると、東旭がベッドの上に半身を起き上がらせた彼に気づいた。
「あ、起きたんだね! ねぇ名前、樹雨ってどう?」
「……え……」
困ったように呟く彼に、酒星が気づいて東旭をたしなめる。
「東旭……突然にどうって言われても彼が困るだけでしょう」
「そう? うーんでもいい名前だと思うんだけどなー」
腕組みをして天井を仰ぐ。
それを見て冬杣が苦笑し、彼の方に視線を向けた。
「つまりな、呼び名を樹雨にしたらどうか、ということなんだよ」
説明すると、よくわからないのか目をしばたたかせている。
「名を変えろと、いうことですか……?」
「うん? いや、違うよ。この島でのそれぞれの呼称になるのさ。この島にいるみんな、ふたつ名を持ってる」
薄氷がにやりと笑って説明する。
「……そう、ですか……」
「樹雨って、駄目かな……?」
東旭が上目遣いに彼を見る。
彼は一瞬きょとんとして、それからふわりと微笑んだ。
柔らかな笑み。
「……良いですよ」
肯定すると、東旭はぱぁっと花が咲くように笑った。
「ありがとう! あたし東旭っていうの!」
「私は冬杣という」
「俺、踏青な!」
「薄氷だ。よろしくな、樹雨」
「よろしく……酒星ッて言います」
順に名を名乗ると、樹雨は微笑を持ってそれに応える。
名前だけの自己紹介はこれで終わりだ。
「ところであんたなんで海流れてたんだ?」
聞くと、樹雨は一瞬目を伏せた。
「……人を、探しているんです」
「どんなひと?」
「名は?」
「……名前はマルヴェーリ=レイジヴァルグ。私と同じような金の髪をしています」
拳を握り締めて言う。
なんだかつらそうだ。
「私はレイリジオーゼ神聖国からきました。彼に、会うために……」
少し疑問に思って首を傾げると、皆も良くわからないという顔をしていた。
「レイリジ、オーゼ……? どこそれ?」
難しい顔をして東旭が聞く。
「レイリジオーゼ神聖国です。東の……」
「東にあるのはトゥーディス大陸だが……国はないぞ」
「え、そんなはずは……」
困惑したように樹雨が呟く。
「3大大陸を統括する王としてシェスタ王家がいるが……国はないはずだ」
冬杣が断言する。
大陸はすべて町や村からなっており、それぞれ統治する者はいるがシェスタ王家が一番上の位置にいる。俗にいう王制制度だ。
「それに神聖国、っていうのもあんまり聞かないしなぁ」
呟くと、冬杣も無言で頷く。
と、酒星がごそごそと棚から何か取り出した。
「これ、世界地図なンですけど」
そう言って樹雨の膝の上に広げたそれは、航海の時に良く使う地図だった。
「ここがヴァイサーシアー大陸。ここに王都があります」
つと、真ん中の一番大きな大陸を指差す。
「こっちがユーディリス大陸だな。魔法使いが多いことで有名だけど」
左にある細長い大陸。
「そしてこれが東の大陸……トゥーディス大陸だ」
「ここ、今いるとこ」
冬杣が右側の大陸を示し、東旭がヴァイサーシアーよりも左斜め上に位置する島を指差す。
「シャイレア島って言うんですがね……」
「聞いたことないの?」
真剣に地図を見つめて黙っている樹雨に、東旭が不安そうに聞く。
数秒のち、樹雨は溜息をついて首を左右に振った。
「……わかりません。今まで聞いたこともない」
静かに告げる。
「どういうことだ?」
沈黙が落ちた。
その重苦しい静けさを破ったのは冬杣だ。
「今日はここまでにしよう。目が覚めたばかりでいろいろな話をすると身体に良くない。……顔色もだいぶ悪くなってきたようだし」
よく見ると青ざめているのがわかる。
皆が顔を合わせた。
「……」
「……それじゃ、行くかー」
「ちゃんと、寝るように、いいね。食事は後で持ってきてあげるよ」
釘を刺し、診療所を後にする。
聞くと、樹雨は一瞬目を伏せた。
「……人を、探しているんです」
「どんなひと?」
「名は?」
「……名前はマルヴェーリ=レイジヴァルグ。私と同じような金の髪をしています」
拳を握り締めて言う。
なんだかつらそうだ。
「私はレイリジオーゼ神聖国からきました。彼に、会うために……」
少し疑問に思って首を傾げると、皆も良くわからないという顔をしていた。
「レイリジ、オーゼ……? どこそれ?」
難しい顔をして東旭が聞く。
「レイリジオーゼ神聖国です。東の……」
「東にあるのはトゥーディス大陸だが……国はないぞ」
「え、そんなはずは……」
困惑したように樹雨が呟く。
「3大大陸を統括する王としてシェスタ王家がいるが……国はないはずだ」
冬杣が断言する。
大陸はすべて町や村からなっており、それぞれ統治する者はいるがシェスタ王家が一番上の位置にいる。俗にいう王制制度だ。
「それに神聖国、っていうのもあんまり聞かないしなぁ」
呟くと、冬杣も無言で頷く。
と、酒星がごそごそと棚から何か取り出した。
「これ、世界地図なンですけど」
そう言って樹雨の膝の上に広げたそれは、航海の時に良く使う地図だった。
「ここがヴァイサーシアー大陸。ここに王都があります」
つと、真ん中の一番大きな大陸を指差す。
「こっちがユーディリス大陸だな。魔法使いが多いことで有名だけど」
左にある細長い大陸。
「そしてこれが東の大陸……トゥーディス大陸だ」
「ここ、今いるとこ」
冬杣が右側の大陸を示し、東旭がヴァイサーシアーよりも左斜め上に位置する島を指差す。
「シャイレア島って言うんですがね……」
「聞いたことないの?」
真剣に地図を見つめて黙っている樹雨に、東旭が不安そうに聞く。
数秒のち、樹雨は溜息をついて首を左右に振った。
「……わかりません。今まで聞いたこともない」
静かに告げる。
「どういうことだ?」
沈黙が落ちた。
その重苦しい静けさを破ったのは冬杣だ。
「今日はここまでにしよう。目が覚めたばかりでいろいろな話をすると身体に良くない。……顔色もだいぶ悪くなってきたようだし」
よく見ると青ざめているのがわかる。
皆が顔を合わせた。
「……」
「……それじゃ、行くかー」
「ちゃんと、寝るように、いいね。食事は後で持ってきてあげるよ」
釘を刺し、診療所を後にする。
かなり遠くまで来て、診療所を振り返る。
「あいつ、一体どこからきたんだろうな」
「……お前、一体何聞いてたんだ?」
例によって嫌そうな顔で薄氷が口を開く。
「聞いてたけど! あんな名前知らねぇよ!」
「世の中お前の知らないことなんて腐るほどあるだろ」
「まぁいいじゃないか。そんなことどうだっていいことだろう」
ここでは。
そう言って冬杣が微笑む。
「そういや高西風は?」
樹雨を拾ってきた元凶ともいうべき高西風の姿が見えない。
「あぁ、あいつなら仕事だって」
「そっかー大変そうだな」
「お前は暇そうでいいな」
溜息とともに言われて、カチンとくる。
薄氷はいつも一言多い。
「俺だってそれなりに忙しいぞ」
「何にだよ」
冷笑で答え、薄氷は皆と違う方向に足を進める。
「あれ? どこ行くの?」
素朴な東旭の疑問に、彼は片手を上げて答えた。
「野暮用」
そのまますたすたと去ってしまう。
最近の薄氷はおかしい。
けれど自分ではどうもできないこともわかっていた。
「私を、殺すのか」
「どうして……?」
「……島から出てない?」
次の朝早く。
散歩がてら船着場に来て、高西風がどこに行ったのか聞いてみた。
「仕事っていう連絡は受けたけど、どこに行ったのか知らないなー」
「船は使ってないぜ。乗ってんとこ見てねぇし、あいつひとりで船動かせねぇだろ」
これから漁に出る人たちが教えてくれる。
何か嫌な予感がした。
「ありがとう。じゃな!」
その場から身を翻すと、足の向くままにある場所に向かった。
それは高い山の頂。
ディストーラと呼ばれる山だ。
「あいつ、一体どこからきたんだろうな」
「……お前、一体何聞いてたんだ?」
例によって嫌そうな顔で薄氷が口を開く。
「聞いてたけど! あんな名前知らねぇよ!」
「世の中お前の知らないことなんて腐るほどあるだろ」
「まぁいいじゃないか。そんなことどうだっていいことだろう」
ここでは。
そう言って冬杣が微笑む。
「そういや高西風は?」
樹雨を拾ってきた元凶ともいうべき高西風の姿が見えない。
「あぁ、あいつなら仕事だって」
「そっかー大変そうだな」
「お前は暇そうでいいな」
溜息とともに言われて、カチンとくる。
薄氷はいつも一言多い。
「俺だってそれなりに忙しいぞ」
「何にだよ」
冷笑で答え、薄氷は皆と違う方向に足を進める。
「あれ? どこ行くの?」
素朴な東旭の疑問に、彼は片手を上げて答えた。
「野暮用」
そのまますたすたと去ってしまう。
最近の薄氷はおかしい。
けれど自分ではどうもできないこともわかっていた。
「私を、殺すのか」
「どうして……?」
「……島から出てない?」
次の朝早く。
散歩がてら船着場に来て、高西風がどこに行ったのか聞いてみた。
「仕事っていう連絡は受けたけど、どこに行ったのか知らないなー」
「船は使ってないぜ。乗ってんとこ見てねぇし、あいつひとりで船動かせねぇだろ」
これから漁に出る人たちが教えてくれる。
何か嫌な予感がした。
「ありがとう。じゃな!」
その場から身を翻すと、足の向くままにある場所に向かった。
それは高い山の頂。
ディストーラと呼ばれる山だ。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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