小説用倉庫。
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「……!」
思わず袖で口元を覆う。
中は酷い悪臭がした。
同時に、がちゃりという鎖の音。
薄暗がりに目が慣れてくると、部屋の両側に鉄格子があるのが見えた。
それは大きな檻だった。
「……ライナート?」
自分の名を呼ぶ声に目を見開く。
聞き覚えのある声。
右の格子からだ。
駆け寄ると、骨ばった手が格子を掴んだ。
城の者だ。
正門の、警備を主にしていた男。
ざっと見回し、大きな外傷が無い事にほっとする。
「無事か」
「……動きにくいけどな」
彼はにやりと笑って鎖を引っ張った。
両手両足、そして首に、太い鎖が巻き付いている。
格子の奥に視線を送る。
同じように鎖に繋がれた人が何人か見えた。
ぐったりとしているが死んではいないようだ。
城に居た者が大半だが、それにしては数が少ない。
反対側の格子に目をやると、そちらにも何人か居たがそれは町の者だった。
ウォルファーが格子を開けようと悪戦苦闘していた。
城の者は他にいない。
「……おい、他の者はどうした」
嫌な予感がする。
「他の者は、皆連れて行かれた」
「何処に」
焦りの滲む声で問うと、彼は視線を奥にやった。
つられて目をやる。
奥は、更に濃い闇に覆われていて見通せなかった。
と、視界の端を誰かが横切った。
「……ルシェイド?」
思わず袖で口元を覆う。
中は酷い悪臭がした。
同時に、がちゃりという鎖の音。
薄暗がりに目が慣れてくると、部屋の両側に鉄格子があるのが見えた。
それは大きな檻だった。
「……ライナート?」
自分の名を呼ぶ声に目を見開く。
聞き覚えのある声。
右の格子からだ。
駆け寄ると、骨ばった手が格子を掴んだ。
城の者だ。
正門の、警備を主にしていた男。
ざっと見回し、大きな外傷が無い事にほっとする。
「無事か」
「……動きにくいけどな」
彼はにやりと笑って鎖を引っ張った。
両手両足、そして首に、太い鎖が巻き付いている。
格子の奥に視線を送る。
同じように鎖に繋がれた人が何人か見えた。
ぐったりとしているが死んではいないようだ。
城に居た者が大半だが、それにしては数が少ない。
反対側の格子に目をやると、そちらにも何人か居たがそれは町の者だった。
ウォルファーが格子を開けようと悪戦苦闘していた。
城の者は他にいない。
「……おい、他の者はどうした」
嫌な予感がする。
「他の者は、皆連れて行かれた」
「何処に」
焦りの滲む声で問うと、彼は視線を奥にやった。
つられて目をやる。
奥は、更に濃い闇に覆われていて見通せなかった。
と、視界の端を誰かが横切った。
「……ルシェイド?」
彼はゆっくりと、何の感情も窺えない顔で闇の奥へと歩いていく。
確かめもせずに、危険だと分かっているのだろうか。
「……『戻れ』! ルシェイド!」
言った途端、ばちりと目の前に火花が散った。
弾かれた。
ぎり、と歯を食いしばる。
油断している時でも無ければ強制の魔法は効かないと分かってはいたが、こうも完璧に弾かれるとは思っていなかった。
舌打ちをして振り返る。
まずは他の皆だ。
「ウォルファー! 素手で開けようとするな!」
それまで必死に手で開けようとしていた彼は慌てて扉まで戻った。
信じられない事に武器をそこに放り出していたらしい。
優雅とさえ言える動作で鎌を一閃させる。
金属のぶつかる音を立てて、格子は断ち切られた。
「ウォルファー、こっちも頼む」
格子さえ崩せば、あとは自力で何とか出られるだろう。
ウォルファーに声をかけて、ルシェイドの後を追う。
既に姿は見えない。
思ったより広いのかと考え、直ぐに一蹴する。
振り返れば格子も既に見えない。
そんなに離れていないはずだ。
纏わりつくような闇。
手足が重い。
物音一つしない静寂の中、自分の心音だけが響いている気がする。
「ルシェイド!」
呼びかける声もどこか遠い。
おかしい。
部屋の大きさより歩いているはずなのに端につかない。
ふわふわした感触。
「……邪魔だな」
闇を見据え、叫ぶ。
「『晴れろ』!」
ゆらりと、闇がゆれた。
だが、それだけだ。
周囲に、それ以上の変化は無い。
対象を指定しない言葉は効果が薄い。
周りにあるのは闇だ。
けれど、事実闇なのかが判別できない。
何かの影である可能性もある。
「あぁ、面倒くさいな」
闇を晴らすのではなく何か別の方法を考えなければならない。
纏わりつく闇。
布のような。
布?
はた、と一瞬止まる。
「……『燃えろ』!」
炎が上がった。
周囲の闇を払拭していく。
黒く薄い何かを燃やしながら、視界が晴れていく。
何、なのかはあまり考えたくない。
確かめもせずに、危険だと分かっているのだろうか。
「……『戻れ』! ルシェイド!」
言った途端、ばちりと目の前に火花が散った。
弾かれた。
ぎり、と歯を食いしばる。
油断している時でも無ければ強制の魔法は効かないと分かってはいたが、こうも完璧に弾かれるとは思っていなかった。
舌打ちをして振り返る。
まずは他の皆だ。
「ウォルファー! 素手で開けようとするな!」
それまで必死に手で開けようとしていた彼は慌てて扉まで戻った。
信じられない事に武器をそこに放り出していたらしい。
優雅とさえ言える動作で鎌を一閃させる。
金属のぶつかる音を立てて、格子は断ち切られた。
「ウォルファー、こっちも頼む」
格子さえ崩せば、あとは自力で何とか出られるだろう。
ウォルファーに声をかけて、ルシェイドの後を追う。
既に姿は見えない。
思ったより広いのかと考え、直ぐに一蹴する。
振り返れば格子も既に見えない。
そんなに離れていないはずだ。
纏わりつくような闇。
手足が重い。
物音一つしない静寂の中、自分の心音だけが響いている気がする。
「ルシェイド!」
呼びかける声もどこか遠い。
おかしい。
部屋の大きさより歩いているはずなのに端につかない。
ふわふわした感触。
「……邪魔だな」
闇を見据え、叫ぶ。
「『晴れろ』!」
ゆらりと、闇がゆれた。
だが、それだけだ。
周囲に、それ以上の変化は無い。
対象を指定しない言葉は効果が薄い。
周りにあるのは闇だ。
けれど、事実闇なのかが判別できない。
何かの影である可能性もある。
「あぁ、面倒くさいな」
闇を晴らすのではなく何か別の方法を考えなければならない。
纏わりつく闇。
布のような。
布?
はた、と一瞬止まる。
「……『燃えろ』!」
炎が上がった。
周囲の闇を払拭していく。
黒く薄い何かを燃やしながら、視界が晴れていく。
何、なのかはあまり考えたくない。
後ろを振り返れば格子と、そこから逃げ出している人々が見えた。
本当にあまり進んでいなかったらしい。
前にはルシェイドの後姿がぼんやりと見えた。
こちらに背を向けて、立ち止まっている。
先程の俺のように囚われているとは考えにくい。
何を見ているのか。
何に、気を取られているのか。
近寄ろうとして、ぎくりと足を止めた。
止めた、というより意思に反して止まった。
あれは、何だ?
ルシェイドの前に立つモノ。
否。
在るモノ。
それは、人とも獣ともつかないモノだった。
醜悪な。
白い、肉塊。
所々突き出しているものは、細い、人の手足に似ていた。
複数の生き物を無理やり合成させたようなそれは、けれど全体でみればまるで赤子のような形態をしていた。
どくり、と規則的に脈打つ身体。
太い、血管であろうものが浮き上がっている。
吐き気がした。
今まで見た獣以上に、この生き物を見るのは耐え難い。
生き物と、言って良いモノかすら分からないけれど。
それは強そうには見えない。
けれど肌が粟立つ。
逃げろと、本能が警鐘を鳴らす。
居てはならない。
それの前に居れば、まず間違いなくこちらの命が失われる。
なのに。
あいつは、何をやっているんだ。
ルシェイドは無防備に立ったままだ。
ともすれば怯みそうになる身体を叱咤して、ルシェイドの傍に走り寄る。
空気が重い。
先程の闇とは違う、精神的な重圧。
歯を食いしばって耐える。
ルシェイドはほんの少し、悲しみを含んだ目で目の前のそれを見つめている。
重圧など感じないかのように。
「ルシェイド……!」
ぐ、と肩を掴む。
びくりと身体を震わせて、彼は振り返った。
目は純粋な驚きに満ちている。
「……ライナート?」
「何やってんだ……ッ!」
言って、それの前から下がらせようと力を込めた時、ルシェイドは俺の腕を振り払って庇うように前に立った。
瞬間、『それ』が鳴いた。
本当にあまり進んでいなかったらしい。
前にはルシェイドの後姿がぼんやりと見えた。
こちらに背を向けて、立ち止まっている。
先程の俺のように囚われているとは考えにくい。
何を見ているのか。
何に、気を取られているのか。
近寄ろうとして、ぎくりと足を止めた。
止めた、というより意思に反して止まった。
あれは、何だ?
ルシェイドの前に立つモノ。
否。
在るモノ。
それは、人とも獣ともつかないモノだった。
醜悪な。
白い、肉塊。
所々突き出しているものは、細い、人の手足に似ていた。
複数の生き物を無理やり合成させたようなそれは、けれど全体でみればまるで赤子のような形態をしていた。
どくり、と規則的に脈打つ身体。
太い、血管であろうものが浮き上がっている。
吐き気がした。
今まで見た獣以上に、この生き物を見るのは耐え難い。
生き物と、言って良いモノかすら分からないけれど。
それは強そうには見えない。
けれど肌が粟立つ。
逃げろと、本能が警鐘を鳴らす。
居てはならない。
それの前に居れば、まず間違いなくこちらの命が失われる。
なのに。
あいつは、何をやっているんだ。
ルシェイドは無防備に立ったままだ。
ともすれば怯みそうになる身体を叱咤して、ルシェイドの傍に走り寄る。
空気が重い。
先程の闇とは違う、精神的な重圧。
歯を食いしばって耐える。
ルシェイドはほんの少し、悲しみを含んだ目で目の前のそれを見つめている。
重圧など感じないかのように。
「ルシェイド……!」
ぐ、と肩を掴む。
びくりと身体を震わせて、彼は振り返った。
目は純粋な驚きに満ちている。
「……ライナート?」
「何やってんだ……ッ!」
言って、それの前から下がらせようと力を込めた時、ルシェイドは俺の腕を振り払って庇うように前に立った。
瞬間、『それ』が鳴いた。
頭の中が白く弾けた。
思考が停止する。
身体の感覚は既に無く、俺はただの一声で無力化してしまった。
目の前に居るはずのルシェイドの姿が見えない。
目に映る景色は白く。
左頬には堅く、冷たい感触。
倒れているのだと理解するのに数瞬を要した。
何だ、今のは。
「大丈夫?」
いつもと大差ないルシェイドの声に、意識がはっきりする。
「あぁ」
上半身を起こす。
身体はまだ少し重い。
頭がふらふらする。
「もろに食らってたらやばかったよ」
見ると、ルシェイドはこちらに背を向けてそれと対峙していた。
遮るように突き出した左手から、柔らかな薄い光が見える。
あれで声を遮ったようだ。
「他の、連中は」
「離れてたから平気。少し鳥肌立つだろうけど」
何でもないことのように言っているが、身体の脇に下げられた右手がきつく拳を握っている事に気がついた。
「……ルシェイド」
「彼らは平気。でも……」
俺たちが大丈夫じゃないらしい。
見れば徐々に、薄い光はさらに薄くなっていく。
「あれは何だ?」
問うと、彼は唇をかみ締め、目を細めた。
「『何』という定義は無いよ。……ただ、見たままだ」
淡々とした声音からは感情は窺えない。
けれど。
「……あれも知り合いか」
ルシェイドは答えない。
しかし答えない、ということが何よりの答えになっていた。
「……ここは実験施設なんだよ。ライナート」
思考が停止する。
身体の感覚は既に無く、俺はただの一声で無力化してしまった。
目の前に居るはずのルシェイドの姿が見えない。
目に映る景色は白く。
左頬には堅く、冷たい感触。
倒れているのだと理解するのに数瞬を要した。
何だ、今のは。
「大丈夫?」
いつもと大差ないルシェイドの声に、意識がはっきりする。
「あぁ」
上半身を起こす。
身体はまだ少し重い。
頭がふらふらする。
「もろに食らってたらやばかったよ」
見ると、ルシェイドはこちらに背を向けてそれと対峙していた。
遮るように突き出した左手から、柔らかな薄い光が見える。
あれで声を遮ったようだ。
「他の、連中は」
「離れてたから平気。少し鳥肌立つだろうけど」
何でもないことのように言っているが、身体の脇に下げられた右手がきつく拳を握っている事に気がついた。
「……ルシェイド」
「彼らは平気。でも……」
俺たちが大丈夫じゃないらしい。
見れば徐々に、薄い光はさらに薄くなっていく。
「あれは何だ?」
問うと、彼は唇をかみ締め、目を細めた。
「『何』という定義は無いよ。……ただ、見たままだ」
淡々とした声音からは感情は窺えない。
けれど。
「……あれも知り合いか」
ルシェイドは答えない。
しかし答えない、ということが何よりの答えになっていた。
「……ここは実験施設なんだよ。ライナート」
遮断されているにも関わらず聞こえてくる鳴き声に紛れるように、ルシェイドがぽつりと呟く。
「この近くに住んでいた君なら分かると思うんだけど、見たこと無い生き物が多いと、思わなかった?」
言われてみれば、昔リーヴァセウスと会った時にいた獣も、見慣れないものだった。
何処から流れてくるのだろうと不思議に思っていたことも確かだった。
「……まさか、此処で作られているのか? 魔族を材料に?」
愕然と呟く。
見慣れない獣。
それも知り合いだったと彼は言った。
町の子だと。
「魔族だけじゃない。人族も、数は少ないけど神族もだよ」
「何で……そんなものが存在するんだ……!」
呻くように言って、地に付いた手を握り締める。
怒りで目が眩む。
どうかしそうだ。
「お前……それを知ってて、何故何もしない! お前なら、こんな施設跡形も無く壊すくらい出来るだろうがッ!」
思わず、叫んでいた。
犠牲になっているのは、何も知らない人々だ。
誰かの都合で、摘み取られて良い命ではないはずだ。
ルシェイドは相変わらず背を向けたまま、予想通りの答えを言う。
「出来ない」
ぎり、と歯を食いしばる。
いつもと変わらない口調が、今は癇に障る。
「知っているはずだよ。ライナート。僕は、そういうことが、出来ないんだと……」
誰よりも強大な力を持ちながら。
その力故に制約がある。
それは。
世界を調整する為の力だから。
バランスを欠くことを、出来る筈がない。
「……ライナート。ごめん……もう、保ちそうに……ない――」
ぐらりと、ルシェイドの身体が傾ぐ。
慌てて抱きとめた途端に、耳を聾せんばかりの鳴き声が響き渡った。
「くっ……!」
最初に比べればまだ覚悟が出来てた分耐えられるが、それでもともすれば意識が刈り取られそうになる。
腕の中のルシェイドは意識を失っている。
顔色が酷く悪い。
そういえば今日はかなり無理をしているようだった。
しかしこの状態では休ませる事など到底出来ない。
「この近くに住んでいた君なら分かると思うんだけど、見たこと無い生き物が多いと、思わなかった?」
言われてみれば、昔リーヴァセウスと会った時にいた獣も、見慣れないものだった。
何処から流れてくるのだろうと不思議に思っていたことも確かだった。
「……まさか、此処で作られているのか? 魔族を材料に?」
愕然と呟く。
見慣れない獣。
それも知り合いだったと彼は言った。
町の子だと。
「魔族だけじゃない。人族も、数は少ないけど神族もだよ」
「何で……そんなものが存在するんだ……!」
呻くように言って、地に付いた手を握り締める。
怒りで目が眩む。
どうかしそうだ。
「お前……それを知ってて、何故何もしない! お前なら、こんな施設跡形も無く壊すくらい出来るだろうがッ!」
思わず、叫んでいた。
犠牲になっているのは、何も知らない人々だ。
誰かの都合で、摘み取られて良い命ではないはずだ。
ルシェイドは相変わらず背を向けたまま、予想通りの答えを言う。
「出来ない」
ぎり、と歯を食いしばる。
いつもと変わらない口調が、今は癇に障る。
「知っているはずだよ。ライナート。僕は、そういうことが、出来ないんだと……」
誰よりも強大な力を持ちながら。
その力故に制約がある。
それは。
世界を調整する為の力だから。
バランスを欠くことを、出来る筈がない。
「……ライナート。ごめん……もう、保ちそうに……ない――」
ぐらりと、ルシェイドの身体が傾ぐ。
慌てて抱きとめた途端に、耳を聾せんばかりの鳴き声が響き渡った。
「くっ……!」
最初に比べればまだ覚悟が出来てた分耐えられるが、それでもともすれば意識が刈り取られそうになる。
腕の中のルシェイドは意識を失っている。
顔色が酷く悪い。
そういえば今日はかなり無理をしているようだった。
しかしこの状態では休ませる事など到底出来ない。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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