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2024/05/21 (Tue)
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2012/02/05 (Sun)
「え……?」
 きょとんとした顔。
 それから戸惑うような、疑うような。
 見てて分かり易い。
 性質がそれだけ素直ってことだろうな。

「俺が此処で居ないって言い張るより、自分で見た方が納得できるだろ?」
 極力人好きのしそうな笑みを浮かべて説得すると、ウォルファーは少し迷った末に頷いた。
 それを確認し、転がったままだった鎌を拾う。
「これは俺が持つ。良いな?」
 声に脅しを込めて聞くと、少し情けない顔をしながらも反対はしなかった。
 自分の立場はわかっているらしい。
 彼の行動に注意を払いつつ、扉を引き開ける。

「わ……!」

 聞きなれた声が下から聞こえた。
 視線を落とすと、白に近い青色の髪をした子供が立っていた。
「何やってんだ」
 それはグラディウスという、リーヴァセウスの子供だった。
 見た目は似ているが、雰囲気はかけ離れている。

「お客さん?」
 きょとんと首を傾げて聞いてくる。
 だが、さすが親子。
 反応が一緒だ。
「あー、まぁ似たようなもんだ。それよりリーヴァセウスとルシェイドの所に行って、二人がどっか行かねぇように見張っててくれないか?」
「後で遊んでくれる?」
「あぁ。ちゃんと部屋に居たら、こいつも連れてってやるよ」
 ウォルファーを顎で指しながら言うと、グラディウスは笑顔で頷いた。
「わかった。じゃぁ早く来てね」
「あぁ」
 笑顔で手を振りながら走っていくグラディウスに手を振り返していると、後ろでウォルファーが聞いてきた。

「あの子、あんたの子供?」

 待て。
 似てる要素がどの辺にあった。

「違う。あれはリーヴァセウスの子供だ」
「……魔王の?」
 驚いたように聞き返してくる彼に頷いて答え、頭の中でルートを考えながらグラディウスが去った方向と逆に足を踏み出す。
「こっちだ。はぐれるなよ」

 案内ついでに見回りもしよう。
 いつものルートなら城内を全て見れるだろう。
 見せて困るような所も無いしな。
 しかしこの鎌も結構重量があるなぁ。

 捨てていきたい衝動と戦いながら、とりあえず最初の扉を開けた。
2012/02/05 (Sun)
 一通り案内し終える頃にはウォルファーの表情は浮かないものになっていた。
 まぁ無理も無いだろう。

 最後の部屋であるリーヴァセウスの部屋の前で彼を振り返る。
「此処が最後だ」
「か、隠し扉とか……」
「無ぇよ」
 断言すると目に見えて肩が落ちた。
 何だか段々気の毒になってきたな。
 だけど憐れんだところで居ないものは居ない。

 扉に手をかけようとした時、中から何か倒れる音が聞こえた。
 続いて火がついたような泣き声。
 これはグラディウスか。
 直ぐに扉を押し開ける。

 入って直ぐは執務室になっていて、右に執務机、左にソファが置いてある。
 正面は大きな窓だ。
 曇った空と木しか見えないけど。
 素早く室内に視線を滑らせると、ソファにリーヴァセウスが座っているのが見えた。
 ぐったりとしていて意識が無いようだ。
 その傍らに、ルシェイドが倒れている。
 グラディウスは少し離れたところで泣いていた。

「ウォルファー、グラディウスを頼む!」
「え……あ、うん!」
 返事を待たずに走る。
 近づくと、二人とも意識を失っているだけだという事が分かった。
 外傷は無い。
 魔族の死体は残らないので、実際死んでいたとしたら一目でわかるんだが、この時は本当に動揺していたようだ。
 床に倒れたままのルシェイドをソファに横たえる。
 向き直ってリーヴァセウスに小声で呼びかけるが、返事は無く、起きる気配も無い。

 ただ呼吸が深い。
 昏睡状態に近いのかもしれない。
 さらに呼びかけると、誰かに肩を掴まれた。
 振り返ってみると、ルシェイドだった。
 気がついたらしい。
 だが顔色が酷く悪い。
 元々色は白めだが今は紙のような白さだ。
 肩を掴む手も弱々しい。

「起こさないで」
 意外としっかりとした声だ。
 俺は困惑してリーヴァセウスから手を離す。
 少し離れたところではウォルファーがグラディウスを抱きしめ、頭を撫でてやっていた。
 目に涙を溜めたまま、グラディウスはこちらを凝視していた。
2012/02/05 (Sun)
 ルシェイドが深く息をついてソファにもたれる。
 動作は酷く遅く、動きにくそうだ。
「……休ませて、あげて」

「何があった」
「何も」

 問い詰めるような口調にも、彼はかぶりを振って答えない。
「何も無くて、何でテメェらが倒れてて、グラディウスが泣いてんだよ」
「僕が倒れたのはただの疲労。グラディウスは倒れた事に驚いて泣いたんだ。……リーヴァセウスのことは、本人に聞いてくれるかな。話して良いのか僕には分からないから」
 ルシェイドはそこまで一気にまくし立てると片手で目元を覆った。
 話をすることもしんどそうだ。

「……別に、話しても構わないよ」
 この、声は。
「リーヴァセウス……」
「もう……気がついたのかい?」
「うん。……あんまり、深く眠れなくなったからね」
 そう言って、リーヴァセウスは俺たちに視線を向けた。
「……それより、彼は目が覚めたんだね」
 やわらかく微笑む。
 視線の先は。

「あぁ、ウォルファーという。興味深い話を、聞いたからな」
「興味深い話?」
 怪訝そうな顔をするルシェイドに、俺は少し肩を竦めてみせた。

「この城は人を攫ってくるらしい」
 二人はきょとんとした表情でウォルファーに視線を送った。
「や、でも今は中を見せてもらったし、間違いだって分かってるから!」
 慌てたようにウォルファーが手を振る。
「疑ってはいないよ」
 笑って、リーヴァセウスが言う。
「詳しくは、町の奴らを何人か締め上げりゃ、何かわかるだろ」
 拳で手のひらを叩く。

 だが、ルシェイドは静かに口を開いた。
「その必要は無いよ」
「……何?」
「噂の出所と、攫われた人がいる場所はわかってる」
 きっぱりと。
 ルシェイドは何でもないことのように断言した。
2012/02/05 (Sun)
「何だって!? 皆は何処にいるんだ!」
「……何故そんな事を知っている」
 勢い込んで尋ねるウォルファーの声に被せるように、俺はルシェイドに険しい視線を投げながら尋ねた。

「何でって……調べていたからに決まってるでしょう。この城の人たちが居なくなっていってるのに、僕が気づかないと思ったの?」
 心外だ、とでも言うようにルシェイドが首を傾げる。
 だから最近頻繁に来ていたのだろうか。
「なぁ、あんた場所知ってんのに、何で助けに行かないんだよ!」
 ウォルファーがグラディウスを抱きしめたまま叫ぶ。
 怒鳴り声に、グラディウスが涙ぐむ。
 頼むからまた泣かすなよ。

「あのね。魔法に関しては誰にも負けない自信はあるけど、僕だって万能じゃないんだよ。それに、あそこは魔法に対する防御に特化してるから、下手に手を出せないんだよね。僕攻撃力低いし。……まぁ、攫われた人の生死を気にしなければどうってこと無いんだけど」
 それだと城が立ち行かない。
 頭が痛くなってきたな。
 まぁ早まった事をしないでくれた事には感謝か。

「でも、じゃあどうしたら!」
 泣きそうな声で言うのはウォルファー。
 何故こいつはこうも必死なんだろう。
 ただ一人で、敵地に乗り込むほどに。

「……ルシェイド。そこは、魔法に特化しているんだよな」
「そうだね。何十人かでやってるんだと思うよ」
「なら、物理防御は?」
「そっちは普通。攻撃力の強い何人かで行けば突破できると思う」
 はぁ、と溜め息をつく。

「分かった。場所を教えてくれ」
 言いながら、立ち上がる。
 ルシェイドを持ち上げるときに床に置いた鎌を取ろうかと思ったが、必要はないかと止めた。
「ライナート?」
 不思議そうに声をあげるリーヴァセウスに、きっぱりと言い放つ。

「俺が行く」
「そんな……! 危険だよ!」
「他に誰が行くってんだ」
「私が……」

「却下だ」
「駄目だよ」

 リーヴァセウスの言葉を遮って、俺とルシェイドはその提案を一蹴した。
 ふらりと、ルシェイドが頭を振る。
「……僕も行く」
「そんな真っ青な顔でか? 駄目だ。大人しくしてろ」
「まだ平気。普通の人よりは役に立つよ」
 言ってルシェイドが立ち上がる。
 少しふらついたがしっかり立てるようだ。
2012/02/05 (Sun)
 だが。

「この城を空にするわけにはいかないだろ」
 まだ残っている何人かは、城の守りを任せられるほど力が強くない。
「あの……私も居るんだけど……」
「お前は大人しくしてろ」
 控えめに挙手するリーヴァセウス黙らせると、ルシェイドが声をあげた。
「グラディウスが居るじゃない」
「……大丈夫なのか?」
 確か力は強いがコントロールに欠けるところがあった気がするんだが。
「平気平気。グラディウス、ちょっとおいで」
 ルシェイドが呼ぶと、グラディウスはウォルファーの腕から離れ、近寄ってきた。
 今はもう泣いていない。

「良いかい? 結界の維持の仕方は教えたね? これから僕達は出かけるから、帰ってくるまで誰も中に入れてはいけないよ。……お父さんを守らなくちゃね」
 不安げな表情をしていたが、最後の一言で俄然やる気が出たらしい。
「うん。俺がお父さんを守るから、安心して行って来てよ」
 誇らしげに言うグラディウスの頭を撫でて、ルシェイドが微笑う。
 ちらりと、悪戯をする子供のような表情で俺を見た。
 俺は不安を感じつつも、リーヴァセウスを振り返る。
「それじゃ、行ってくる」
「……気をつけて」
 不安そうな声に頷いて応え、ルシェイドに視線を戻す。
「ほら、さっさと場所を教えろ」
「うわ、何この扱いの差」

「あの!」
 扉へと歩き始めたところで、後ろから呼び止められた。
「何だ」
 まだ居たのか。
 怪訝そうな声音に怯みながらも、ウォルファーは声を張った。
「俺も行く!」
 予想はしていたのだろう、ルシェイドはあっさりと首を縦に振った。
「僕は構わないよ」
「……戦力になるのか?」
「此処に置いといても意味ないでしょ」
 ばっさりと切り捨てた後、彼は、それに、と続けた。

「置いていって、安心できる?」
 言われて言葉に詰まる。
 連れて行ったところで戦力になるかというより、置いていく危険性を考えると、連れて行ったほうがまだましということか。
 声を押さえなかったので会話は相手に丸聞こえだ。
 少し情けない顔をしながらも、こちらの返事を待っている。
 俺は溜め息をついて、唇の端を持ち上げた。
「……わかったよ。ついて来い」
 許可すると、表情が明るくなった。
 急いで鎌を持ってくる。
 やれやれ、と思いつつ、二人を残して部屋を出た。

「ところで君、名前は?」
 部屋を出たところでルシェイドが聞く。
 そういや紹介してなかったっけか。
「ウォルファー」
「そう。よろしく」
 笑顔でルシェイドが手を差し出し、戸惑いながらウォルファーも返す。
 ぐ、と手を握ったところで、ルシェイドは空いたほうの手で俺の服の裾を掴んだ。
「ちょっと遠いから、このまま跳ぶよ」

「は? ちょっと待……ッ」
 思わずあげた抗議の声は、突如歪んだ空間に飲み込まれた。
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