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2024/05/21 (Tue)
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2012/02/05 (Sun)
 空き室に放り込み、いくつかの魔法を部屋にかけてから二人のところに戻る。

「もう……良いよ」

 リーヴァセウスの声だ。
 疲れたような、諦めたような、声だ。
 滅多に見せない、響き。

「何が良いんだよ。僕は嫌だ」
「子どもみたいな駄々をこねるなよ」
「この世界で過ごした年月を計算すれば、僕は君よりずっと年下だよ」

 どういう意味だろう。
 なんとなくその場で立ち止まってしまう。
 盗み聞きなんてあんまりしたくはなかったが、入っていけない深刻さがある気がした。

「まぁそうかもしれないけど……でも、やっぱり無茶はして欲しくないよ」
 溜息交じりの声。
 そこへ。


「何が無茶なんだよッ!」


 突然の怒鳴り声に身が竦む。
 俺が怒鳴られてるわけじゃねぇのに。
 しかし、ルシェイドの大声なんて初めて聞いた。
 こんな、苦痛に満ちた声なんて。

「何か……何かあるはずだよ! このままなんてあるはずない……ッ」
「……これは、もう仕方ないよ。私が、選んだ事だから」
「どうして其処で諦められるんだよ! 結果なんて知りもしなかったくせに!」
「でも、私は、その所為で君が倒れるところは見たくないよ」

「……知らなかったの? リィズのおかげで僕は死なないって」
 ルシェイドの声に自嘲の響きが混ざる。

 これ以上は限界だ。
 俺はわざと足音を殺さずに歩いた。
 といっても大きい音を立てて歩いたわけじゃない。
 そんな事をすれば聞いてたってのが分かり易すぎるからな。
 角を曲がり、二人の姿が視界に入るようになってから速度を緩める。

「テメェ倒れるくらいなら魔法なんざ使わずにさっさと休めよ」
 毒づくのはルシェイドに向かって。
 彼は、あー、とか言いながら視線を泳がせた。
「……ごめんね? 大丈夫だと思ったんだよ」
「けど全然大丈夫じゃなかったと」
 じと目で言うと、図星だという顔で黙り込んだ。
 実に分かり易い。
 実年齢は知らんがこの辺は見た目相応だな。
2012/02/05 (Sun)
「……まぁ、その辺で良いんじゃないかな。大事無かったんだし……」
 リーヴァセウスが割って入るが、俺としては二人ともに言いたい事があるわけで。

「それで、お前は何でこんな所に居るんだ?」
「え?」
「部屋で安静にしてろって言っておいたよなぁ?」
「でもずっと寝てるのって退屈なんだよ」
「昨日まで起き上がれないほど衰弱してたのは何処のどいつだ」

 言った途端、リーヴァセウスではなくルシェイドが身を強張らせた。
 さっきの会話に関わることだろうとは思ったが知らない振りをする。

「……リーヴァセウス」
 どこか咎めるようなルシェイドの口調に、リーヴァセウスが苦笑する。
「大丈夫……」
「……じゃねぇだろ」
 言いかけた言葉を否定させる。
 顔色はいまだ青白い。
 初めて会った頃より、確実に、彼は衰弱していた。
「お前ら、いいからもう部屋で大人しく寝てろ」
「えー」
 二人の声がハモる。
「ざけんなよ。倒れられたらこっちがいい迷惑だ。分かったらとっとと部屋に戻れ!」

「彼はどうするの?」
「俺が話を聞いておく。対処はそれからだろ」
 二人はしぶしぶ立ち上がり、部屋へと向かった。
 脱走を謀らないようにあとで誰か送り込んでおこう。
 見送りながら誰を送ろうかと迷う。


 その時、聞こえない音が響いた。
 空気を震わす無音の声。
 侵入者が起きた時に分かるようにと、仕掛けておいたものだった。
 もう起きたのか。
 先ほど行って来たばかりの客室に急ぎながら、舌打ちしたい気分だった。
 もう少し人がいれば楽なのに。

 ふと。
 昔はまだ人が居たはずだ。
 いつからだ。
 いつからこんなに人が居なくなった。
 記憶に靄がかかったようで思い出せない。
2012/02/05 (Sun)
 客室の前で足を止める。
「……」

 数瞬の間を置いて、一気に扉を開け放つ。
 風を切る音に反射的に上体を反らせると、目の前を鉄の刃が通り過ぎていった。
 まぁ予想通りではあるんだが。
 相手が体勢を立て直す前に一歩踏み込み、振り下ろされた鎌の刃を蹴り飛ばす。
「……ッ!?」
 鎌が部屋の隅まで飛ばされる。
 侵入者の男はそれを驚きに目を見張って視線で追う。
 相手の驚きなんざ知ったことじゃないが、こういう立会いで視線をそらすなんて余程の馬鹿だ。
 視線の反対側から側頭部を殴りつけ、床へと引き倒す。
 足で身体を固定し、片手で目元を覆うように頭を押さえつけた。
 一応手加減はしているが、予想よりぐったりしている気がする。
 強く殴りすぎたか?
 まぁ心配したってしかたねぇだろうけどさ。
 というより自業自得だろうがな。

「何が目的だ?」
 低く囁く。
 抵抗があったがあまりに弱々しいので放置。
 さらに押さえつける必要も無い。

「……は、なせッ……!」
 第一声がそれかい。
 半ば呆れつつ、威嚇の為に頭を押さえる手に力を込める。
「質問に答えろ。返答如何によってはこのまま握りつぶすぞ」
 手の中で、頭蓋がみしりと音を立てた。
 やってやれないこともないが、脳髄の感触はあまり好きではない。

 さてどう出るかな。

「……痛ッ……! 言、う、からッ! ……離せよ!」
「……」
 ゆっくりと片手を離す。
 案外簡単に従うのか。
 身体はまだ押さえたままだから、容易には動けないだろう。
2012/02/05 (Sun)
 彼は不機嫌そうに青い目を眇めて、俺を見返してきた。
「……重いんだけど」
「俺が軽そうに見えるのか?」
「そうじゃなくて! どけって言ってんの!」

 憤慨されようが聞く義理は無い。
「嫌なこった。後ろから攻撃されるのはごめんだからな」
 わざとらしく転がったままの鎌に視線をやると、抵抗が止んだ。

「もうやらない。あんた強いから」
「……名は?」
「ウォルファー」
 短く溜め息をついて、解放してやる。
 驚いたようにウォルファーは俺を見上げた。
 こいつこんな顔ばっかりだな。
 ぽかんとして。
 阿呆のようだ。
 まぁこれが俺だったとしても驚くだろうが。

「……何で……」
「テメェが離せって言ったんだろが」
「そ、それはそうだけど……」

「名前を聞いたからな」
 いつまでも床に座り込んでるのもあれなので手近な椅子を引き寄せて座る。
 ウォルファーとやらはまだ床に座ったままだ。
 引きつったような笑みを浮かべて彼が言う。
「……偽名だったらどうすんだよ」
 自嘲気味な、歪んだ笑み。

 何だろう。
 似合わねぇな。
 その顔。

「偽名だろうが関係ねぇよ。俺がテメェを認識する為の名前さえあれば、強制の魔法が使えるからな」
 にやりと笑うと、ウォルファーは呆気にとられた顔をしてから、酷く情けない表情になった。
「何だよ、それ……。それじゃ俺が馬鹿みたいじゃないか」
「……何だ、自覚があるわけじゃないのか」
 食って掛かるかと思いきや、不貞腐れたようにそっぽを向いてしまった。
 子供か。
 噴出しそうになるが、今は尋問の最中だ。

 まぁこれでも一応。
 笑うわけにもいかない。
2012/02/05 (Sun)
「……で?」
 呆れの滲む声で尋ねる。
 何度目かは数えてなかったが、段々繰り返すのも飽きてきた。

「……あ、えーと、俺……!」

 今聞くまで完全に忘れてたな、こいつ。
 軽い頭痛を感じつつ次の言葉を待つ。
「ここで人を集めてるって聞いたから」
「……それで何で攻撃してきやがるんだテメェは」
「先手必勝かと思って」
「はぁ?」

 言ってる意味が分からない。
 何が先手なのやら。
「俺は、捕らわれた人を助けに来たんだ! ……なのにこうも簡単に捕まるなんて……」
 何か今おかしなこと言わなかったかこいつ。
「……何しに来たって?」
「だから、捕らわれた人を助けに」

 どうしよう。
 少なくとも嘘をついているようには見えない。
 しかし此処には捕らわれた人なんて居ない。
 捕らえるくらいなら城で雇いたいくらいだ。
「大人しく捕らえた人を解放しろよ!」
「……誰からその話聞いた?」
 びしりと突きつけられた指を無視して静かに問いかける。
 ウォルファーが怯えたように口をつぐんだ。
 脅しているつもりは無いが、まぁそれで答えるなら良いか。
「み……南の、町の奴から……」
「……なるほどね」

 町には俺の存在を快く思っていない者が多く居た。
 いらない面倒まで背負う気は無かったので近寄らなかったが、城に入った事も気に入らなかったってか。
 管理者になったことにも輪をかけて、だろうな。

 自然、笑みが浮かぶ。
 こんな、程度の低い事しか出来ないのか、あの町の連中は。
 単身乗り込んできたウォルファーの方が余程ましってもんだろう。
 まぁ馬鹿ではあるが。

「……お、おい……?」
 怯えた顔でウォルファーが呼びかける。
 さっきより怯えてねぇか?
 そんなに怖い顔をしていただろうかと考えつつ、ため息とともに吐き出した。
「結論から言おう。此処には捕らわれた人なんて存在しない」
「……嘘だ!」
「根拠は」
 切り返すと泣きそうな顔になった。
 素直というか感情的というか。
「根拠もねぇのに断定すんな」
 吐き捨てるように言ってから、言い過ぎたかと臍を噛む。
 年下だろう相手に対して大人気ない。
 がりがりと頭をかきながら呻く。

 俺にどうしろってんだよ。

「あー、その、何だ。そんなに信用できないなら、見て回るか?」
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