小説用倉庫。
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レイラが何か言おうと口を開く。
けれどそこから漏れたのは声ではなかった。
赤い雫。
鮮やかな、あまりにも鮮やかな血。
青い瞳を、信じられないものを見るように見下ろす。
胸から生えていたのは銀色の刃。
レイラは肩越しに、自分の後ろにいる人物に視線を向けた。
「……ミカ、ゲ……さ、ま……」
苦しげにうめくと、彼女は目を閉じてくず折れた。
ミカゲは赤く染まった銀色のナイフを持ったまま、倒れたレイラを見つめている。
「……ミカゲ……! なんてことを!」
非難の声をあげるサキをさえぎるようにミカゲが声を荒げる。
「わかってます! ……意味のないことくらい……わかっているんです……!」
「ならどうして……」
その時アンスリウムが口を挟んだ。
「気は、済んだか?」
ミカゲは彼のほうに視線を向けると、微笑んだ。
「いいえ」
思わず見とれてしまうほどに鮮やかな笑みを向ける。
「……もう、どうしようもないんでしょうか……」
目の高さにまで上げられたナイフの意味に気づいたサキが手を伸ばすより早く、それは持ち主を切り裂いていた。
噴水のような血しぶきが上がる。
それはサキの伸ばした手に、顔に、飛び散った。
「……ミカゲ……」
倒れた彼に呼びかけるが、即死だったらしくぴくりとも動かない。
呆然と、サキは目を見開く。
何が起こったのかわからなかった。
わかりたくなかった。
けれどそこから漏れたのは声ではなかった。
赤い雫。
鮮やかな、あまりにも鮮やかな血。
青い瞳を、信じられないものを見るように見下ろす。
胸から生えていたのは銀色の刃。
レイラは肩越しに、自分の後ろにいる人物に視線を向けた。
「……ミカ、ゲ……さ、ま……」
苦しげにうめくと、彼女は目を閉じてくず折れた。
ミカゲは赤く染まった銀色のナイフを持ったまま、倒れたレイラを見つめている。
「……ミカゲ……! なんてことを!」
非難の声をあげるサキをさえぎるようにミカゲが声を荒げる。
「わかってます! ……意味のないことくらい……わかっているんです……!」
「ならどうして……」
その時アンスリウムが口を挟んだ。
「気は、済んだか?」
ミカゲは彼のほうに視線を向けると、微笑んだ。
「いいえ」
思わず見とれてしまうほどに鮮やかな笑みを向ける。
「……もう、どうしようもないんでしょうか……」
目の高さにまで上げられたナイフの意味に気づいたサキが手を伸ばすより早く、それは持ち主を切り裂いていた。
噴水のような血しぶきが上がる。
それはサキの伸ばした手に、顔に、飛び散った。
「……ミカゲ……」
倒れた彼に呼びかけるが、即死だったらしくぴくりとも動かない。
呆然と、サキは目を見開く。
何が起こったのかわからなかった。
わかりたくなかった。
「……いいかげん、認めてしまえば楽になると、思わないか?」
ため息とともに言われた静かな声に、サキは顔をあげた。
視線の先にはアンスリウムがいる。
部屋に入ったときから動いていない。
静かだった。
ほとんど何の音もしない。
そこには確かに生者がいるはずなのに。
それは不自然なほどの。
静寂。
「……なんで……」
「そういう運命だった。違うか……?」
淡々と言うアンスリウムを睨む。
「運命だと……!?」
「そうだ」
頷いた彼の口の端から、血が流れた。
「どうしたんだ……?」
アンスリウムは口元に手をやると、はげしく咳き込んだ。
とたんに大量の血が流れ出す。
「どうもこうもない。……そういう、ものなんだ」
「まさか、それでアザミも……」
青ざめた顔で聞いてくるサキに、アンスリウムは頷いた。
心持ち先ほどよりも顔色が悪くなってきている。
「中央の国を通ってきたか?」
問いに首を横に振ることで答える。
反対方向から来たため、サキ達は街の様子をうかがうことはできなかったのだ。
「国の住民は皆死んだ」
「死んだ? 何故」
その問いに、アンスリウムはアザミを見た。
動かない彼女を。
「原因は知らない。ただ、突然に身体の各部が落ちるのだ」
それは冷酷なほど簡単に。
手が、脚が、首が落ちる。
「調べてみたらほとんどの組織が腐っていた。……治す術を見つけれられず、皆が……」
組織が腐るから落ちるのだという。
中身だけが腐る場合も。
その症状は様々だ。
アンスリウムは何かに耐えるかのように目をきつく閉じた。
国を襲った出来事は塔の内部にまで及び、すでに残っているのはアンスリウムただひとりとなっている。
けれどそれも、もう。
「何で……、ここには、神がいるんじゃないのか……?」
だから何があっても平気なのではないかと。
呟きにアンスリウムが嘲笑う。
「神などいない。少なくとも、ここには」
でなければ滅びることなど。
あっていいはずがない。
「……できれば苦しませたくはなかった。この病は……辛いから」
伝えられた言葉。
伝承。
それをもとに、大地を落せるのかと。
自身がそれをやるには、この場所から離れなくてはならなかった。
病の広がりが早くなるかもしれない。
そんな危険は冒せない。
「どうして……!」
声を震わせてサキが言うと、アンスリウムは目を閉じた。
「もう時間がない」
ため息とともに言われた静かな声に、サキは顔をあげた。
視線の先にはアンスリウムがいる。
部屋に入ったときから動いていない。
静かだった。
ほとんど何の音もしない。
そこには確かに生者がいるはずなのに。
それは不自然なほどの。
静寂。
「……なんで……」
「そういう運命だった。違うか……?」
淡々と言うアンスリウムを睨む。
「運命だと……!?」
「そうだ」
頷いた彼の口の端から、血が流れた。
「どうしたんだ……?」
アンスリウムは口元に手をやると、はげしく咳き込んだ。
とたんに大量の血が流れ出す。
「どうもこうもない。……そういう、ものなんだ」
「まさか、それでアザミも……」
青ざめた顔で聞いてくるサキに、アンスリウムは頷いた。
心持ち先ほどよりも顔色が悪くなってきている。
「中央の国を通ってきたか?」
問いに首を横に振ることで答える。
反対方向から来たため、サキ達は街の様子をうかがうことはできなかったのだ。
「国の住民は皆死んだ」
「死んだ? 何故」
その問いに、アンスリウムはアザミを見た。
動かない彼女を。
「原因は知らない。ただ、突然に身体の各部が落ちるのだ」
それは冷酷なほど簡単に。
手が、脚が、首が落ちる。
「調べてみたらほとんどの組織が腐っていた。……治す術を見つけれられず、皆が……」
組織が腐るから落ちるのだという。
中身だけが腐る場合も。
その症状は様々だ。
アンスリウムは何かに耐えるかのように目をきつく閉じた。
国を襲った出来事は塔の内部にまで及び、すでに残っているのはアンスリウムただひとりとなっている。
けれどそれも、もう。
「何で……、ここには、神がいるんじゃないのか……?」
だから何があっても平気なのではないかと。
呟きにアンスリウムが嘲笑う。
「神などいない。少なくとも、ここには」
でなければ滅びることなど。
あっていいはずがない。
「……できれば苦しませたくはなかった。この病は……辛いから」
伝えられた言葉。
伝承。
それをもとに、大地を落せるのかと。
自身がそれをやるには、この場所から離れなくてはならなかった。
病の広がりが早くなるかもしれない。
そんな危険は冒せない。
「どうして……!」
声を震わせてサキが言うと、アンスリウムは目を閉じた。
「もう時間がない」
その言葉に、サキが動きを止める。
「それは……」
「限界だということだ」
アンスリウムは上を向いた。
遠くを見るような眼差し。
目を閉じてため息をつく。
長く深いそれが。
彼の最期だった。
「アンスリウム?」
サキが呆然と呟く。
「……アンスリウム!」
叫んで駆け寄る。
事切れた彼の身体はまだ暖かかった。
「そんな……」
サキはよろめき、その場に膝をついた。
静かな部屋。
大きすぎるそこで生きているのはサキだけだった。
しばらく沈黙が落ちた。
動くものが何もない空間で、ほんのかすかな息遣いだけが、その場にあった。
やがてサキが顔を上げた。
視線の先にあるものはかすかな光を放っているようだった。
酷くゆっくりとした動作でそれを掴む。
何か神聖なもののように、目の前に掲げる。
それは、ミカゲのもっていた銀のナイフだった。
「それが、望みか」
音のない空間でいきなり声が響いた。
同時にナイフが乾いた音をたてて床に落ちる。
サキの傍に立っていたのは影だった。
黒マント。
変わらない金の瞳。
冷たい光を宿したそれで、サキを見据える。
「……何故……」
ここにいるのか聞きたかった。
けれどそれは言葉にならなかった。
「死が、お前の望みか」
威圧的な言葉。
けれど何の感情もこもっていないような。
サキは答えようとしたが、何を言って良いのかわからずただ見つめる。
困惑した瞳で。
「その望みを叶えるわけにはいかない」
冷徹なほどの声音。
同時に地震が起きる。
激しい揺れは天井に、床に亀裂を起こし、崩していった。
「何故お前がこの世界で最後に生き残ったのか」
崩れつづける大地の音にかき消されることなく、その言葉はサキの耳に届いた。
近い距離にいるはずなのにやけに遠く感じる。
「……その意味を考えてみろ。その、理由を……」
サキのいるところが大きな音を立てて崩れた。
下に落ちていく浮遊感と、身体に感じる風がサキの意識を奪っていく。
「認識できなければ、お前は死んだままだ……」
その言葉を最後に、サキの意識は暗闇に閉ざされた。
それから大した時間もかけずに、中央の大地は海に落ちていった。
長くバランスを保っていた世界は崩れ、そこにはもう海しかない。
それもやがて無くなるだろう。
「それは……」
「限界だということだ」
アンスリウムは上を向いた。
遠くを見るような眼差し。
目を閉じてため息をつく。
長く深いそれが。
彼の最期だった。
「アンスリウム?」
サキが呆然と呟く。
「……アンスリウム!」
叫んで駆け寄る。
事切れた彼の身体はまだ暖かかった。
「そんな……」
サキはよろめき、その場に膝をついた。
静かな部屋。
大きすぎるそこで生きているのはサキだけだった。
しばらく沈黙が落ちた。
動くものが何もない空間で、ほんのかすかな息遣いだけが、その場にあった。
やがてサキが顔を上げた。
視線の先にあるものはかすかな光を放っているようだった。
酷くゆっくりとした動作でそれを掴む。
何か神聖なもののように、目の前に掲げる。
それは、ミカゲのもっていた銀のナイフだった。
「それが、望みか」
音のない空間でいきなり声が響いた。
同時にナイフが乾いた音をたてて床に落ちる。
サキの傍に立っていたのは影だった。
黒マント。
変わらない金の瞳。
冷たい光を宿したそれで、サキを見据える。
「……何故……」
ここにいるのか聞きたかった。
けれどそれは言葉にならなかった。
「死が、お前の望みか」
威圧的な言葉。
けれど何の感情もこもっていないような。
サキは答えようとしたが、何を言って良いのかわからずただ見つめる。
困惑した瞳で。
「その望みを叶えるわけにはいかない」
冷徹なほどの声音。
同時に地震が起きる。
激しい揺れは天井に、床に亀裂を起こし、崩していった。
「何故お前がこの世界で最後に生き残ったのか」
崩れつづける大地の音にかき消されることなく、その言葉はサキの耳に届いた。
近い距離にいるはずなのにやけに遠く感じる。
「……その意味を考えてみろ。その、理由を……」
サキのいるところが大きな音を立てて崩れた。
下に落ちていく浮遊感と、身体に感じる風がサキの意識を奪っていく。
「認識できなければ、お前は死んだままだ……」
その言葉を最後に、サキの意識は暗闇に閉ざされた。
それから大した時間もかけずに、中央の大地は海に落ちていった。
長くバランスを保っていた世界は崩れ、そこにはもう海しかない。
それもやがて無くなるだろう。
瞼の裏で光が踊る。
眩しい。
かすかに目を開けると、そこは見慣れない部屋だった。
壁や天井、その他の小物など全てが白い。
それが日の光に反射して目が眩む。
不思議に思って、起き上がってみる。
そこではじめて自分がベッドに寝ていたのだと気づく。
清潔な服。
それさえも白い。
ベッドから降りて、窓の側に行く。
さわやかな風が通り過ぎていく。
身体がなにやら重く感じるが、それよりも何故自分がここにいるのかがわからない。
ふと、ドアの向こうで足音が聞こえた。
こちらに近づいてくる。
ドアの前でそれは止まり、次にノブが回された。
現われたのは、赤毛の髪を短く切ってある女性。
彼女は自分を見ると、ぽかんと口を開けて、花瓶を落した。
綺麗な花瓶がこなごなになる。いけてあった花も地面に散らばった。
「……」
彼女は信じられないものでも見ているようにこちらを凝視している。
「どうした、煩いではないか」
彼女の背後から、もうひとり顔を出した。
長い、水色の髪。
閉じられた瞼。
その顔。
「ヒウリ……?」
「ふむ。その声。なんじゃ、おんし、やっと起きたのか」
「ね、あたしはわかる?」
勢い良く聞かれた。
「……ユゥア?」
名前を呼ぶと、ユゥアは嬉しそうに顔を輝かせた。
「なんだ、しっかりしてんじゃん! 良かったー! ぜんぜん起きないから、どうにかなっちゃってるんだと思ってたよ」
「……何の話?」
いまいち話がわからず首を傾げる。
「覚えておらんのかえ?」
答えずにいると、ヒウリはこちらに近寄って来た。
「……サキ・レイディル。思い出すが良いよ。……何が起きていたのか」
ヒウリの手がサキに触れる。
同時に頭の中で何かが弾けたような感覚がした。
一気に今までのことが甦る。
「……他の、皆は……」
「あたしとヒウリ、アールドルと……シルウァ」
「つい先日、ラクスも起きた」
膝が震えそうになる。
けれど唇をかみ締めて、サキは訪ねた。
「他の皆は……死んだんだな」
ユゥアが救いを求めるようにヒウリを見る。
「そうじゃの」
なんでもないことのようにヒウリが答える。
「おんしは彼らに守られて、今ここにおる。そのことを肝に命じよ。忘れてはならんぞ」
「……わかってる」
思わず目を閉じて、それでもサキは頷いた。
「ユゥア、ここを片付けたらサキを少し休ませてやらんとな。……起きたばかりじゃからの」
「……そうだね……ってあたしが片付けんの?」
「あたりまえじゃ。誰が汚したと思うておる」
言いあいながら部屋から出て行く。
その姿を見送ってからサキは窓の外を見た。
緑が広がる景色。
「……そうか……」
サキは呟いた。
日が落ち、景色がすべて闇に消えても。
しばらくそこに立ち尽くしたまま。
サキはいつまでも外を見ていた。
眩しい。
かすかに目を開けると、そこは見慣れない部屋だった。
壁や天井、その他の小物など全てが白い。
それが日の光に反射して目が眩む。
不思議に思って、起き上がってみる。
そこではじめて自分がベッドに寝ていたのだと気づく。
清潔な服。
それさえも白い。
ベッドから降りて、窓の側に行く。
さわやかな風が通り過ぎていく。
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彼女は自分を見ると、ぽかんと口を開けて、花瓶を落した。
綺麗な花瓶がこなごなになる。いけてあった花も地面に散らばった。
「……」
彼女は信じられないものでも見ているようにこちらを凝視している。
「どうした、煩いではないか」
彼女の背後から、もうひとり顔を出した。
長い、水色の髪。
閉じられた瞼。
その顔。
「ヒウリ……?」
「ふむ。その声。なんじゃ、おんし、やっと起きたのか」
「ね、あたしはわかる?」
勢い良く聞かれた。
「……ユゥア?」
名前を呼ぶと、ユゥアは嬉しそうに顔を輝かせた。
「なんだ、しっかりしてんじゃん! 良かったー! ぜんぜん起きないから、どうにかなっちゃってるんだと思ってたよ」
「……何の話?」
いまいち話がわからず首を傾げる。
「覚えておらんのかえ?」
答えずにいると、ヒウリはこちらに近寄って来た。
「……サキ・レイディル。思い出すが良いよ。……何が起きていたのか」
ヒウリの手がサキに触れる。
同時に頭の中で何かが弾けたような感覚がした。
一気に今までのことが甦る。
「……他の、皆は……」
「あたしとヒウリ、アールドルと……シルウァ」
「つい先日、ラクスも起きた」
膝が震えそうになる。
けれど唇をかみ締めて、サキは訪ねた。
「他の皆は……死んだんだな」
ユゥアが救いを求めるようにヒウリを見る。
「そうじゃの」
なんでもないことのようにヒウリが答える。
「おんしは彼らに守られて、今ここにおる。そのことを肝に命じよ。忘れてはならんぞ」
「……わかってる」
思わず目を閉じて、それでもサキは頷いた。
「ユゥア、ここを片付けたらサキを少し休ませてやらんとな。……起きたばかりじゃからの」
「……そうだね……ってあたしが片付けんの?」
「あたりまえじゃ。誰が汚したと思うておる」
言いあいながら部屋から出て行く。
その姿を見送ってからサキは窓の外を見た。
緑が広がる景色。
「……そうか……」
サキは呟いた。
日が落ち、景色がすべて闇に消えても。
しばらくそこに立ち尽くしたまま。
サキはいつまでも外を見ていた。
「あーあ。壊れちゃったか……」
青く光る宝石をもてあそびながら、呟く。
目の前には海がある。
くすんだ太陽の下で、それは暗い青色をしていた。
柔らかな草の生えているところに寝そべると、頭の上から声が掛けられた。
金の瞳を一度瞬かせて、覗き込むようにこちらを見下ろす彼を見る。
「何をやっているんだい? そんなところで」
「うーん……契約?」
「……いや、聞かれても答えられないなぁ」
その困った様子に思わず笑って半身を起こし、手に持っていた宝石を差し出す。
受取った彼はそれを日にすかしたりして眺めた。
「ルシェイド、これは何?」
「宝石」
「見ればわかるよ」
「だから契約だって。一応成功」
どこか憮然とした態度に苦笑してしまう。
「一応なんだ?」
「思ったとおりにいかなかったからね」
ルシェイドは立ち上がってくるりと背を向けた。
海が目に入る。
「ところで、そういう君は何してんの、こんなところで」
「……散歩?」
「……同じような答え方するなよ。リーヴァセウス」
「はは。良いじゃないか」
笑って、リーヴァセウスは歩き出す。
「散歩はもう終り?」
隣に並んでルシェイドが聞く。
「疲れたからね」
「年寄りくさいよ、それ」
ふたりは笑いながら海を背にして歩き去った。
青く光る宝石をもてあそびながら、呟く。
目の前には海がある。
くすんだ太陽の下で、それは暗い青色をしていた。
柔らかな草の生えているところに寝そべると、頭の上から声が掛けられた。
金の瞳を一度瞬かせて、覗き込むようにこちらを見下ろす彼を見る。
「何をやっているんだい? そんなところで」
「うーん……契約?」
「……いや、聞かれても答えられないなぁ」
その困った様子に思わず笑って半身を起こし、手に持っていた宝石を差し出す。
受取った彼はそれを日にすかしたりして眺めた。
「ルシェイド、これは何?」
「宝石」
「見ればわかるよ」
「だから契約だって。一応成功」
どこか憮然とした態度に苦笑してしまう。
「一応なんだ?」
「思ったとおりにいかなかったからね」
ルシェイドは立ち上がってくるりと背を向けた。
海が目に入る。
「ところで、そういう君は何してんの、こんなところで」
「……散歩?」
「……同じような答え方するなよ。リーヴァセウス」
「はは。良いじゃないか」
笑って、リーヴァセウスは歩き出す。
「散歩はもう終り?」
隣に並んでルシェイドが聞く。
「疲れたからね」
「年寄りくさいよ、それ」
ふたりは笑いながら海を背にして歩き去った。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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