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2012/02/05 (Sun)
「……いいかげん、認めてしまえば楽になると、思わないか?」
 ため息とともに言われた静かな声に、サキは顔をあげた。
 視線の先にはアンスリウムがいる。
 部屋に入ったときから動いていない。

 静かだった。
 ほとんど何の音もしない。
 そこには確かに生者がいるはずなのに。
 それは不自然なほどの。
 静寂。

「……なんで……」
「そういう運命だった。違うか……?」
 淡々と言うアンスリウムを睨む。
「運命だと……!?」
「そうだ」
 頷いた彼の口の端から、血が流れた。
「どうしたんだ……?」
 アンスリウムは口元に手をやると、はげしく咳き込んだ。
 とたんに大量の血が流れ出す。
「どうもこうもない。……そういう、ものなんだ」
「まさか、それでアザミも……」
 青ざめた顔で聞いてくるサキに、アンスリウムは頷いた。
 心持ち先ほどよりも顔色が悪くなってきている。

「中央の国を通ってきたか?」
 問いに首を横に振ることで答える。
 反対方向から来たため、サキ達は街の様子をうかがうことはできなかったのだ。

「国の住民は皆死んだ」

「死んだ? 何故」
 その問いに、アンスリウムはアザミを見た。

 動かない彼女を。

「原因は知らない。ただ、突然に身体の各部が落ちるのだ」

 それは冷酷なほど簡単に。
 手が、脚が、首が落ちる。

「調べてみたらほとんどの組織が腐っていた。……治す術を見つけれられず、皆が……」

 組織が腐るから落ちるのだという。
 中身だけが腐る場合も。
 その症状は様々だ。

 アンスリウムは何かに耐えるかのように目をきつく閉じた。
 国を襲った出来事は塔の内部にまで及び、すでに残っているのはアンスリウムただひとりとなっている。
 けれどそれも、もう。
「何で……、ここには、神がいるんじゃないのか……?」
 だから何があっても平気なのではないかと。
 呟きにアンスリウムが嘲笑う。
「神などいない。少なくとも、ここには」
 でなければ滅びることなど。
 あっていいはずがない。
「……できれば苦しませたくはなかった。この病は……辛いから」

 伝えられた言葉。
 伝承。
 それをもとに、大地を落せるのかと。
 自身がそれをやるには、この場所から離れなくてはならなかった。

 病の広がりが早くなるかもしれない。
 そんな危険は冒せない。

「どうして……!」

 声を震わせてサキが言うと、アンスリウムは目を閉じた。

「もう時間がない」
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