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2024/11/24 (Sun)
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2012/02/05 (Sun)
 その言葉に、サキが動きを止める。

「それは……」

「限界だということだ」
 アンスリウムは上を向いた。
 遠くを見るような眼差し。
 目を閉じてため息をつく。

 長く深いそれが。
 彼の最期だった。

「アンスリウム?」
 サキが呆然と呟く。
「……アンスリウム!」

 叫んで駆け寄る。
 事切れた彼の身体はまだ暖かかった。

「そんな……」

 サキはよろめき、その場に膝をついた。

 静かな部屋。
 大きすぎるそこで生きているのはサキだけだった。
 しばらく沈黙が落ちた。
 動くものが何もない空間で、ほんのかすかな息遣いだけが、その場にあった。

 やがてサキが顔を上げた。
 視線の先にあるものはかすかな光を放っているようだった。

 酷くゆっくりとした動作でそれを掴む。

 何か神聖なもののように、目の前に掲げる。
 それは、ミカゲのもっていた銀のナイフだった。



「それが、望みか」

 音のない空間でいきなり声が響いた。
 同時にナイフが乾いた音をたてて床に落ちる。
 サキの傍に立っていたのは影だった。
 黒マント。
 変わらない金の瞳。

 冷たい光を宿したそれで、サキを見据える。
「……何故……」
 ここにいるのか聞きたかった。
 けれどそれは言葉にならなかった。

「死が、お前の望みか」

 威圧的な言葉。
 けれど何の感情もこもっていないような。
 サキは答えようとしたが、何を言って良いのかわからずただ見つめる。
 困惑した瞳で。
「その望みを叶えるわけにはいかない」
 冷徹なほどの声音。
 同時に地震が起きる。
 激しい揺れは天井に、床に亀裂を起こし、崩していった。

「何故お前がこの世界で最後に生き残ったのか」
 崩れつづける大地の音にかき消されることなく、その言葉はサキの耳に届いた。
 近い距離にいるはずなのにやけに遠く感じる。
「……その意味を考えてみろ。その、理由を……」
 サキのいるところが大きな音を立てて崩れた。
 下に落ちていく浮遊感と、身体に感じる風がサキの意識を奪っていく。

「認識できなければ、お前は死んだままだ……」

 その言葉を最後に、サキの意識は暗闇に閉ざされた。


 それから大した時間もかけずに、中央の大地は海に落ちていった。
 長くバランスを保っていた世界は崩れ、そこにはもう海しかない。

 それもやがて無くなるだろう。
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