小説用倉庫。
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「レイラ、ちょっと待ってくれ」
街に行くと、市のおかげで人ごみがすごかった。
ともすれば見失ってしまうであろうレイラを追いながら、サキは少し浮かれていた。
こんなににぎやかなのは久しぶりだ。
レイラは時々立ち止まりながら、人に飲み込まれることなく進んでいく。
どうやったらああいう風に進めるのか、サキにはわからない。
「レイラ?」
人にぶつかってそちらに気をとられた隙に、サキはレイラを見失ってしまった。
どこに行ったのか周りを見回すが、どこにもレイラの影は見当たらない。
「……」
「……え?」
不意に聞きなれない声が耳に飛び込んできた。
たくさんの人ごみの中で、なぜかその声だけが耳につく。
「……誰だ……?」
目を凝らして声の主を見つけようとするが、なかなかうまくいかない。
「この世界は滅びる」
「何だって?」
すぐ後ろから聞こえた声と、その内容に、思わず聞き返す。
呆然と立ち尽くす彼はたぶん人ごみの中では邪魔だろうに、誰も注意を払わない。
そのことに気を取られる前に、サキは振り向いて声の主を見つけた。
そこにいたのは、黒いマントを頭までかぶった人影だった。
身長が、サキの胸のあたりまでしかない。
わずかに覗く顔の、瞳が金に輝いている。
「愚かな人間たち。彼らの所為で今、この世界は確実に滅びへと進む」
淡々と、子供特有の少し高い声で、その人物は言葉をつむぐ。
「宝玉は柱と共に。それを動かすことはならなかったはず。……何故、動かした?」
「ちょっと待て……。何の話だ?」
困惑と共に聞き返すと、彼はわずかに首を傾げた。
「本意ではないと、そう言いたいのか? ……国主だなどと愚かなことだな。この世界の本当の意味も知らないくせに」
「どういうことだ、おまえは……何者だ?」
「知らないのはおまえも愚か者だからだ」
吐き捨てるように言い放ち、彼は背を向けた。
人の波を縫うようにして、その姿はあっという間に消えてしまう。
呆然として、サキは彼が消えた後を見ていた。
「サキ様!」
「レイ、ラ?」
息を切らせてレイラが駆け寄る。
「突然いなくなってしまわれるので、どうしたのかと……サキ様?」
視線を遠くにやるサキを見て、レイラは首を傾げた。
「いや、なんでもない」
サキは、にぎやかな市の喧騒がどこか遠くに行ってしまったように感じた。
すぐそこに、
あるものなのに。
街に行くと、市のおかげで人ごみがすごかった。
ともすれば見失ってしまうであろうレイラを追いながら、サキは少し浮かれていた。
こんなににぎやかなのは久しぶりだ。
レイラは時々立ち止まりながら、人に飲み込まれることなく進んでいく。
どうやったらああいう風に進めるのか、サキにはわからない。
「レイラ?」
人にぶつかってそちらに気をとられた隙に、サキはレイラを見失ってしまった。
どこに行ったのか周りを見回すが、どこにもレイラの影は見当たらない。
「……」
「……え?」
不意に聞きなれない声が耳に飛び込んできた。
たくさんの人ごみの中で、なぜかその声だけが耳につく。
「……誰だ……?」
目を凝らして声の主を見つけようとするが、なかなかうまくいかない。
「この世界は滅びる」
「何だって?」
すぐ後ろから聞こえた声と、その内容に、思わず聞き返す。
呆然と立ち尽くす彼はたぶん人ごみの中では邪魔だろうに、誰も注意を払わない。
そのことに気を取られる前に、サキは振り向いて声の主を見つけた。
そこにいたのは、黒いマントを頭までかぶった人影だった。
身長が、サキの胸のあたりまでしかない。
わずかに覗く顔の、瞳が金に輝いている。
「愚かな人間たち。彼らの所為で今、この世界は確実に滅びへと進む」
淡々と、子供特有の少し高い声で、その人物は言葉をつむぐ。
「宝玉は柱と共に。それを動かすことはならなかったはず。……何故、動かした?」
「ちょっと待て……。何の話だ?」
困惑と共に聞き返すと、彼はわずかに首を傾げた。
「本意ではないと、そう言いたいのか? ……国主だなどと愚かなことだな。この世界の本当の意味も知らないくせに」
「どういうことだ、おまえは……何者だ?」
「知らないのはおまえも愚か者だからだ」
吐き捨てるように言い放ち、彼は背を向けた。
人の波を縫うようにして、その姿はあっという間に消えてしまう。
呆然として、サキは彼が消えた後を見ていた。
「サキ様!」
「レイ、ラ?」
息を切らせてレイラが駆け寄る。
「突然いなくなってしまわれるので、どうしたのかと……サキ様?」
視線を遠くにやるサキを見て、レイラは首を傾げた。
「いや、なんでもない」
サキは、にぎやかな市の喧騒がどこか遠くに行ってしまったように感じた。
すぐそこに、
あるものなのに。
市を一通り回ってから、サキ達は残りの書類を片付けるためもと来た道を戻った。
のんびり景色を見つつ、物思いにふける。
強い風がレイラの金色の髪を背後に泳がせている。
きらきらと目に映るそれは、じっと見ていると意識が途切れそうなほどだ。
光の色。
まぶしい。
「どうか、しましたか? サキ様……」
心配そうに聞くレイラに、思わずサキは笑みをこぼす。
「今日、何回目だ? その言葉は……。なんでもないよ。考え事を、していただけさ」
「そう、ですか?」
まだ釈然としないものを感じているようなレイラに、ふと思いついて聞いてみる。
「レイラ、君、金色の瞳をしている少年を知っているか?」
「……金色の、瞳の、ですか? ……いえ、存じませんが……」
「そうか」
サキはそれ以上言わず、ただ黙々と歩を進めた。
のんびり景色を見つつ、物思いにふける。
強い風がレイラの金色の髪を背後に泳がせている。
きらきらと目に映るそれは、じっと見ていると意識が途切れそうなほどだ。
光の色。
まぶしい。
「どうか、しましたか? サキ様……」
心配そうに聞くレイラに、思わずサキは笑みをこぼす。
「今日、何回目だ? その言葉は……。なんでもないよ。考え事を、していただけさ」
「そう、ですか?」
まだ釈然としないものを感じているようなレイラに、ふと思いついて聞いてみる。
「レイラ、君、金色の瞳をしている少年を知っているか?」
「……金色の、瞳の、ですか? ……いえ、存じませんが……」
「そうか」
サキはそれ以上言わず、ただ黙々と歩を進めた。
建物の前に立つと、なぜか少しほっとする。
いつもここにいたからか、それとも喧騒になれていなかったからなのか。
それはわからないけれど。
「レイラ、中に入ったら、お茶を入れてくれるかい?」
「はい」
扉に手をかけて言うと、レイラはほころぶように笑った。
サキは開けるために手に力をこめるが、それは内側に引っ張られた。
つられて前につんのめるサキを、内側に立っていた人物が受け止める。
訳もわからずその人物の手を借りて何とか立ち上がると、後ろからレイラの声が耳に飛び込んだ。
「ミカゲ様!?」
「え、ミカゲ?」
ぱっと顔をあげてみると、たしかにそこには良く見知った顔がいた。
ミカゲはオリエーンスの国主である。中央の大地を挟んで向かいにあるが、そんな距離はたいした意味もないほどミカゲはよく来る。
彼は温和な顔をして、少しずれたメガネを押し上げて口を開く。
「こんにちは。お久しぶりです。……元気そうで何よりですね」
ミカゲは誰に対しても丁寧な口調だ。
「いや、そちらこそ……どうかしたのか?」
サキはミカゲがここに来たことを疑問に思って聞いてみる。
今オリエーンスはかなり酷い状態になってきているはずだ。こんなところに国主がいてもいいのだろうか。
「えぇ、少し……」
ふと、国主の付き人がいないことに気づく。
「シルウァは?」
「彼には少しお使いを。……この館は誰もいないのでしょうか。どうしたらいいか迷っていたのですけれど」
「ああ、……人手不足で、市がたっているから、街には人がいるんだけど」
「お茶、入れてきますね」
レイラがそう言って小走りに去っていく。
「じゃあ、こちらに」
玄関に立ったままだったので、サキはミカゲを伴って歩き出す。
いつもここにいたからか、それとも喧騒になれていなかったからなのか。
それはわからないけれど。
「レイラ、中に入ったら、お茶を入れてくれるかい?」
「はい」
扉に手をかけて言うと、レイラはほころぶように笑った。
サキは開けるために手に力をこめるが、それは内側に引っ張られた。
つられて前につんのめるサキを、内側に立っていた人物が受け止める。
訳もわからずその人物の手を借りて何とか立ち上がると、後ろからレイラの声が耳に飛び込んだ。
「ミカゲ様!?」
「え、ミカゲ?」
ぱっと顔をあげてみると、たしかにそこには良く見知った顔がいた。
ミカゲはオリエーンスの国主である。中央の大地を挟んで向かいにあるが、そんな距離はたいした意味もないほどミカゲはよく来る。
彼は温和な顔をして、少しずれたメガネを押し上げて口を開く。
「こんにちは。お久しぶりです。……元気そうで何よりですね」
ミカゲは誰に対しても丁寧な口調だ。
「いや、そちらこそ……どうかしたのか?」
サキはミカゲがここに来たことを疑問に思って聞いてみる。
今オリエーンスはかなり酷い状態になってきているはずだ。こんなところに国主がいてもいいのだろうか。
「えぇ、少し……」
ふと、国主の付き人がいないことに気づく。
「シルウァは?」
「彼には少しお使いを。……この館は誰もいないのでしょうか。どうしたらいいか迷っていたのですけれど」
「ああ、……人手不足で、市がたっているから、街には人がいるんだけど」
「お茶、入れてきますね」
レイラがそう言って小走りに去っていく。
「じゃあ、こちらに」
玄関に立ったままだったので、サキはミカゲを伴って歩き出す。
日の多く入る回廊を歩くとき、ミカゲはいつも外を見て足を止める。
サキにとっては日常の、何の変哲もない外を。
「ここは、いつ来ても風が気持ちよいですね」
その言葉に、オリエーンスがもうここ何ヶ月も風が吹かないことに思い至った。
そのため、木が枯れはじめているとのことだ。
つい言葉を失ってしまったサキに気づいて、ミカゲがふり返る。
「どうしたんですか、そんな顔をして」
ミカゲが淡く微笑む。
消え入りそうな笑顔。
「まぁ、このごろ災難続きなんです。今日来たのもそのことなんですよ」
苦笑するミカゲは、どこか陰を含んでいて、日の光によってできる影のように感じた。
背筋を冷たいものが伝う。
「それで、どこに行けば良いんですか?」
立ち止まっていたことに気づき、サキが慌てて歩き出す。
しばらく歩いて、視線を足元に落としたまま、サキはポツリと呟く。
「世界が滅びるって、どういうことだろうね」
「……何ですって?」
呟きを聞きとがめて、眉間にしわを寄せる。
「宝玉って言ったら、何を思いつく?」
先に言った質問と違ったことを、不意にサキが問う。
「それは、あれでしょう」
大地にそれぞれある、5つの宝石を。
思い浮かべてミカゲが言う。
サキは額にかかる髪をかきあげて、視線を上げる。
「じゃあ、柱は?」
「柱? ……どうしたんです、さっきから」
怪訝な顔でミカゲが問いただす。
曖昧な返事をして、サキは目を閉じた。
サキにとっては日常の、何の変哲もない外を。
「ここは、いつ来ても風が気持ちよいですね」
その言葉に、オリエーンスがもうここ何ヶ月も風が吹かないことに思い至った。
そのため、木が枯れはじめているとのことだ。
つい言葉を失ってしまったサキに気づいて、ミカゲがふり返る。
「どうしたんですか、そんな顔をして」
ミカゲが淡く微笑む。
消え入りそうな笑顔。
「まぁ、このごろ災難続きなんです。今日来たのもそのことなんですよ」
苦笑するミカゲは、どこか陰を含んでいて、日の光によってできる影のように感じた。
背筋を冷たいものが伝う。
「それで、どこに行けば良いんですか?」
立ち止まっていたことに気づき、サキが慌てて歩き出す。
しばらく歩いて、視線を足元に落としたまま、サキはポツリと呟く。
「世界が滅びるって、どういうことだろうね」
「……何ですって?」
呟きを聞きとがめて、眉間にしわを寄せる。
「宝玉って言ったら、何を思いつく?」
先に言った質問と違ったことを、不意にサキが問う。
「それは、あれでしょう」
大地にそれぞれある、5つの宝石を。
思い浮かべてミカゲが言う。
サキは額にかかる髪をかきあげて、視線を上げる。
「じゃあ、柱は?」
「柱? ……どうしたんです、さっきから」
怪訝な顔でミカゲが問いただす。
曖昧な返事をして、サキは目を閉じた。
サキの私室である部屋にミカゲを通してしばらく。
廊下を足音が近づいてくるのに気づいて、ふたりは扉を見やった。
急いでいるような、そんな足音。
「ミカゲ様!」
「シルウァ」
扉を開けて入ってきた少年に、ミカゲが微笑む。
シルウァはミカゲの付き人だ。
まだ少年だが、よく働くとの評判の。
少し気弱そうな瞳をミカゲに向け、それからサキに向ける。
「こんにちは、サキ様」
礼儀正しく言うシルウァに、サキも挨拶を返す。
「あの……」
「ああ、かまいません。今渡してくださいますか?」
シルウァの態度に微笑み、ミカゲが促す。
彼がすっと差し出したのは、苗だった。
オッカースゥスでよく育つ、木の苗。
「ミカゲ、それは?」
「これですか? ……いい木があれば買ってくるように、頼んだんです。国で育つかどうかは疑問なんですが」
苦笑して、苗を受取る。
ゆっくりとそれを見てから、シルウァを見上げ、微笑む。
「ああ、いいですね。ご苦労様です。シルウァ」
その言葉に、シルウァが相好を崩す。
花がほころぶような、笑顔。
「皆さん、お茶、いかがですか?」
その時ちょうどレイラが戻ってきた。
どうやら苗を買いに来ただけのようで、ミカゲ達はしばらくして帰ってしまった。
帰り際に、不吉なことを言い残して。
彼は神妙な顔で、まっすぐサキを見て言った。
「……占者が言っていました。近いうちに、赤い石が割れると」
サキはその言葉を聞いて、半ば呆然とミカゲの顔を見た。
「よくは、わからなかったんですが」
そう言って笑った彼に、サキは何か腑に落ちないものを感じた。
何かがあるような。
違和感が。
廊下を足音が近づいてくるのに気づいて、ふたりは扉を見やった。
急いでいるような、そんな足音。
「ミカゲ様!」
「シルウァ」
扉を開けて入ってきた少年に、ミカゲが微笑む。
シルウァはミカゲの付き人だ。
まだ少年だが、よく働くとの評判の。
少し気弱そうな瞳をミカゲに向け、それからサキに向ける。
「こんにちは、サキ様」
礼儀正しく言うシルウァに、サキも挨拶を返す。
「あの……」
「ああ、かまいません。今渡してくださいますか?」
シルウァの態度に微笑み、ミカゲが促す。
彼がすっと差し出したのは、苗だった。
オッカースゥスでよく育つ、木の苗。
「ミカゲ、それは?」
「これですか? ……いい木があれば買ってくるように、頼んだんです。国で育つかどうかは疑問なんですが」
苦笑して、苗を受取る。
ゆっくりとそれを見てから、シルウァを見上げ、微笑む。
「ああ、いいですね。ご苦労様です。シルウァ」
その言葉に、シルウァが相好を崩す。
花がほころぶような、笑顔。
「皆さん、お茶、いかがですか?」
その時ちょうどレイラが戻ってきた。
どうやら苗を買いに来ただけのようで、ミカゲ達はしばらくして帰ってしまった。
帰り際に、不吉なことを言い残して。
彼は神妙な顔で、まっすぐサキを見て言った。
「……占者が言っていました。近いうちに、赤い石が割れると」
サキはその言葉を聞いて、半ば呆然とミカゲの顔を見た。
「よくは、わからなかったんですが」
そう言って笑った彼に、サキは何か腑に落ちないものを感じた。
何かがあるような。
違和感が。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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