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2012/02/03 (Fri)
「目を開けてみろよ」
 笑いを含んだ声に、自分が目を閉じていたことに気づく。
 目を開けると、そこは天界の広場だった。
 色とりどりの花も、輝く光も。
 記憶と大差ないほどの。
「何……」
 あっけにとられて景色に見入っていると、アルジェンテウスはさっさと中に入ってしまう。
「ま、上出来、かな」
 顎に手を当ててぐるりと見回している。
「何が……ここは……?」
 混乱する頭で問いかけると、彼は笑って歩いてきた。

「ここなら誰も来ない」

「そうではなくて、……ここはどこなんですか?」
「ここは『深遠の間』。まぁ簡単に言うとお前の頭ん中だな」
 実にあっさりと言い放ってくる。
「そんなことより話があるんだ」
 彼はそう言うと扉を閉めた。

「単刀直入に聞く。お前、死にたいか?」
「……え?」

 問われた言葉の意味を図りかねて、思わず聞き返す。
 天使に厳密な、『死』というものは存在しない。
 あるのは消滅だけ。
 それも特殊な場合以外は適用されない。
 その天使である自分に、何を聞くのだろうこの男は。

「死にたいのか、死にたくねぇのか、どっちだ」
「何を……言っているんです。私は法を犯すつもりはありませんよ」

 特殊な場合。
 それは天界で定められた法を犯すことだった。
「そうじゃねぇ。お前……法を犯すことだけが死に繋がる訳じゃねぇんだぜ?」
 一瞬よぎった、悲しみの表情に息を呑む。
「何……」
「……まだ、そういう目にはあってねぇんだな……。まぁいい。それじゃ、俺の力を半分与えよう」
 呟くように言うと、強い力で手首を掴む。
「痛……ッ!」

「俺の名前はアルジェンテウス。すべてにおいて最初の契約者。人ならざりし彼の者が作り上げた世界の器。世界の運営を司るこの力を、今は半分だけ、こいつに譲る。この者の名はアルファル。2代目の……ルシェイドだ」

 吐き捨てるように言われた言葉のほとんどは聞こえていなかった。
 掴まれた手首から、何か暖かな力が流れ込んできて。
 頭がふらふらする。
「……おい、しっかりしろ」
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