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2012/02/03 (Fri)
「だから?」
 関係ないといわんばかりの声に、思わずそちらを睨む。
「元はといえばお前が俺の制止を聞かずに飛び出したからだろうが」
 冷徹な声音。
 何の感情も含まずに。

「でも……私は……ッ!」
 続きが言葉にならない。
 この男を罵ってやりたいのに。
「残念だが、お前の罵声を聞いてるほど俺は暇じゃねぇんだ」
 言うが早いか、彼はアルファルの背後に回ると右の羽根を片手で掴んだ。
「何……ッ!」
 慌てて振り返ろうとするが、肩を抑えられていてそれも適わない。
 ぐい、と地面に押し付けられる。
 そして彼は羽根を思い切り引っ張った。

「――――ッ!」
 激痛が走る。
 けれど彼は手を緩めることなく、そのまま羽根を引きちぎった。
「ぅわあぁぁぁ――――――――――ッ!!!!」
 みしみし、と神経が引き裂かれる音が聞こえたような気がした。
 羽根の付け根は最も神経の集まる場所。
 急所。
 目のくらむような激痛。
 回廊に絶叫が響く。

「もう片方」
 右肩を抑えて蹲るアルファルにはお構いなしに、アルジェンテウスは左の羽根を掴んだ。
 ためらいも見せず右と同じように引き抜く。
「あぁぁ――――――ッ!! ……ぅ……ぐ……! あ……ァ……ッ!」
 荒い息の中でうめき声が上がる。
「これでお前は天界にいる必要はなくなったわけだな」
 地に落ちた羽根を濡らす血に手を赤く染めながら、アルジェンテウスが嘲笑う。
「な……ぜ……!」
「羽根がなきゃ、ここにいる意味もねぇし……。両方の羽根がなくなっても、お前は死なねぇだろ?」
 淡々と呟かれる言葉。
 天使は羽根によって命をも支える。
 だから、羽根を失うということは死ぬことに等しい。
 それに、天使は両の羽根をもって天使たりうる。

 だから。
「お前はもう純粋な天使じゃねぇ」
 額に手が触れる。
 ひんやりとした感触。
 振り払うこともできずにただ見上げた。
「ここと別の場所に、お前を飛ばす。どうせこの世界はもうすぐ崩れる。……そうだな、突然なくなったんじゃ不便だろ。俺が……羽根を与えてやるよ」

 手のひらから風が吹いたと思った。
 とたん痛みが半減する。
 驚いて肩越しに背中を見ると、以前と変わりない羽根が生えていた。

「じゃあな。もう、会うことはないだろうけど」
 にやりと笑って、彼はアルファルの肩を押した。

 軽く。
 世界が傾ぐ。
 堕ちていく。
 暗い闇の中に。
 喧騒も遠くなる。
 そして、笑う彼の顔がだんだんと小さくなっていった。
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