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2012/02/05 (Sun)
 城門までの道を歩きながら、ツェリーシュに聞いてみる。

「ところで、何故私に頼みなんだ?」
「さぁ……。とにかく名指しでしたから、知り合いかなぁと」
「街にそんな知り合いはいないぞ。それにあまり外に出歩けないではないか」
「そう言われれば、変ですねぇ」
「言われる前に気づけ」
 げんなりとしながら、フォリィアは拭えない胸騒ぎがしていた。

 何かがありそうな。
 そんな。

「つきましたよ。どうしたんです?」
 ツェリーシュの声にはっとして顔を上げると、城門のところにいた女性が小走りに走ってくるところだった。

「フォリィア様!」
 聞いたことのない声。
 見たことのない顔。
「それじゃ、失礼しますね」
 城の中から呼ぶ声に返事をして、ツェリーシュはそちらに駆けて行ってしまう。
 注意を女性に向けておいて、彼が城の中に入ったことを確かめる。

「頼みが、あるんです」
「その前に、君の名は?」
 少し顔を伏せて、女性が言葉をつむぐ。
 暗く、微笑み。
 力をこめた声で。

「カーシュ・ラナーリン、と申します……!」

 その女性が名を言ったとたん、周りを暴風が襲った。
 思わず顔をかばう。
 けれど。
 その風は、フォリィアに微風程度の力しか与えなかった。
 周りは木の葉や石などが飛び交っているのに。
 疑問に思ったが、女性の体に変化が起きはじめているのに気づいて息を呑む。
 バチバチと、電気を流したような。
 火花が散る。

 瞬間、ある人の顔が浮かぶ。
(何かあれば……)

 無意識に、彼は叫んでいた。
「ディリク!」
 彼が現れるのと、女性の体から光が放たれたのは、ほとんど同時だった。

 腕で顔を庇い目を瞑ったフォリィアは、それ以上何も起こらないのを感じると目を開けた。
 目の前には倒れた女性と、その傍らに片膝をつくディリクの姿がある。
「……何が……」
「魔法がかけられていたようだ。名前を言うと同時に風の魔法を。それで効かない場合は……」
 そこで言いよどむ。

「何……」
「体が四散する、そういう、魔法だ」

 苦々しげにディリクが吐き捨てる。
 ディリクを呼ばなかったことを想像して、フォリィアは少し顔色を悪くする。
「すまない……」
「いや、そういう契約だ。約定を違えることはできん」
 彼は女性の額に手を当てると、何かつぶやいた。
 フォリィアが聞き返すが、彼はこちらを見ただけで何も言わずに立ち上がった。
「記憶を消しておいた。……もとより自身の意思ではないようだ」
「そうか……ありがとう」
 言った瞬間にはもう彼は消えていた。
 目を丸くしてから、苦笑して周りを見回す。
 風が吹き荒れたため、周りはかなり汚くなっていた。

「誰か! 衛兵!」
 叫ぶと、城の中から2、3人走ってきた。
「彼女を城の外へ。それから清掃員に仕事を」
「わかりました」
 口々にそう言うと、彼らは与えられた仕事をこなすために走って行った。
 それを見届けてから城の中に入る。
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