小説用倉庫。
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がくり、と膝から力が抜ける。
視界がゆっくりと上に堕ちていく。
否。
堕ちているのは自分の身体か。
意識が遠ざかっていく。
手足は冷たく、感覚は無い。
動かせない。
動かない。
倒れる行為を止められない。
痛みは無い。
何も感じない。
どうして。
オレは、倒れようとしているんだろう。
視界が揺れる。
衝撃。
倒れたと判ったのは、視界に緑が入ったからだ。
あぁ、でも。
起き上がる力も、ないみたいで。
意識を手放す時に、聞きなれた、声を聞いたような。
気がした。
視界がゆっくりと上に堕ちていく。
否。
堕ちているのは自分の身体か。
意識が遠ざかっていく。
手足は冷たく、感覚は無い。
動かせない。
動かない。
倒れる行為を止められない。
痛みは無い。
何も感じない。
どうして。
オレは、倒れようとしているんだろう。
視界が揺れる。
衝撃。
倒れたと判ったのは、視界に緑が入ったからだ。
あぁ、でも。
起き上がる力も、ないみたいで。
意識を手放す時に、聞きなれた、声を聞いたような。
気がした。
一歩、前へと進み出る。
踏みしめた靴の下は、爪先を覆うほどの長さの草が生い茂っていた。
街道を少し外れた森の中、そこだけが開けた草原になっている。
一陣の風が吹いた。
項で一つに纏めた髪が、後へとなびく。
ぐ、と僅かに左手に力を込める。
構えた剣の切っ先は、正確に相手を捉えたまま、揺るがない。
対峙するのは薄茶色の大きな獣。
見た目は大型の犬、といったところか。
だが長く伸びた尾は二つに分かれ、爛と輝く瞳は三つあった。
じり、と双方が円を描くように動く。
張り詰められた空気。
その場には息をするのも憚られるような気迫が満ちていたが、双方の表情は平静を保っていた。
風が足元の草をなぎ倒していく。
風が凪ぐ、一瞬の後、双方は同時に動いた。
弧を描き迫る刃を爪で弾き、獣が踊りかかる。
身を捻って牙を躱し、鞘で打ち払う。
獣は喉の奥で低く唸ると、僅かに距離を開けた。
距離をとって飛び掛るのだろうか。
それ以上は深く考えずに踏み込んでいた。
剣を振るう。
だが獣は敏捷な身のこなしで避けた。
それを追うように、もう一歩、強く踏み込む。
振りぬいた勢いのまま身体を半回転させ、逆手に持っていた鞘で獣の胴を打った。
手加減はしていない。
すれば自分が怪我をするだけだ。
呻き、よろめいた獣の鼻先へ切っ先を突きつける。
獣は虚を突かれたような顔をし、視線を上げて唸った。
「――勝負あったな」
冷静に告げる。
その声音は突きつけた刃のように、揺ぎ無く響いた。
踏みしめた靴の下は、爪先を覆うほどの長さの草が生い茂っていた。
街道を少し外れた森の中、そこだけが開けた草原になっている。
一陣の風が吹いた。
項で一つに纏めた髪が、後へとなびく。
ぐ、と僅かに左手に力を込める。
構えた剣の切っ先は、正確に相手を捉えたまま、揺るがない。
対峙するのは薄茶色の大きな獣。
見た目は大型の犬、といったところか。
だが長く伸びた尾は二つに分かれ、爛と輝く瞳は三つあった。
じり、と双方が円を描くように動く。
張り詰められた空気。
その場には息をするのも憚られるような気迫が満ちていたが、双方の表情は平静を保っていた。
風が足元の草をなぎ倒していく。
風が凪ぐ、一瞬の後、双方は同時に動いた。
弧を描き迫る刃を爪で弾き、獣が踊りかかる。
身を捻って牙を躱し、鞘で打ち払う。
獣は喉の奥で低く唸ると、僅かに距離を開けた。
距離をとって飛び掛るのだろうか。
それ以上は深く考えずに踏み込んでいた。
剣を振るう。
だが獣は敏捷な身のこなしで避けた。
それを追うように、もう一歩、強く踏み込む。
振りぬいた勢いのまま身体を半回転させ、逆手に持っていた鞘で獣の胴を打った。
手加減はしていない。
すれば自分が怪我をするだけだ。
呻き、よろめいた獣の鼻先へ切っ先を突きつける。
獣は虚を突かれたような顔をし、視線を上げて唸った。
「――勝負あったな」
冷静に告げる。
その声音は突きつけた刃のように、揺ぎ無く響いた。
獣は再度視線を切っ先へと戻し、ゆっくりと目を伏せた。
体中に漲っていた覇気が、薄れていく。
それを感じ、彼は剣を退いた。
「……段々勝てなくなってきたなぁ」
しゃがれた声は獣から。
剣を鞘に収め、鋭い眼差しを獣に向ける。
「当たり前だ。その為に訓練してるんだからな」
「理由は……教えちゃくれねぇんだろ?」
眼差しが鋭さを益す。
赤い瞳に射竦められて、獣が少し怯えたように首を傾げた。
「そんなに睨まなくったって無理に聞きゃしねぇよ。それより、もうそろそろレインが帰ってくるぞ」
少しして、草を踏む騒々しい音を立てて人影が現れた。
その人影はこちらに気づくと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「ルベア、オルカーン、ただいまー」
近くまで来たところで、彼はきょとんとした顔をした。
「どうかしたの?」
オルカーンは喉の奥で低く唸ると、ちらりとルベアを一瞥して言った。
「何も無かったよ。なぁ? ルベア」
ルベアは返事をしようと口を開き、獣の目に面白そうな色が浮かんでいるのに気づいて口を閉ざした。
憮然として視線を逸らす。
「ま、それより何かあったか?」
笑いを堪えるような口調でオルカーンが聞く。
「うん。いくつかあったよ」
苦虫を噛み潰したような表情で黙り込むルベアに、レインが座るように指示する。
彼は背に負った荷物から紙を取り出し、草の上に広げた。
それは。
「地図……? 何処で手に入れたんだ?」
上から覗き込み、怪訝そうに問うルベアに、レインが誤魔化すように笑う。
「まーその辺はいろいろ。……それより、いい? まずはね――……」
レインは楽しそうに、説明を始めた。
体中に漲っていた覇気が、薄れていく。
それを感じ、彼は剣を退いた。
「……段々勝てなくなってきたなぁ」
しゃがれた声は獣から。
剣を鞘に収め、鋭い眼差しを獣に向ける。
「当たり前だ。その為に訓練してるんだからな」
「理由は……教えちゃくれねぇんだろ?」
眼差しが鋭さを益す。
赤い瞳に射竦められて、獣が少し怯えたように首を傾げた。
「そんなに睨まなくったって無理に聞きゃしねぇよ。それより、もうそろそろレインが帰ってくるぞ」
少しして、草を踏む騒々しい音を立てて人影が現れた。
その人影はこちらに気づくと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「ルベア、オルカーン、ただいまー」
近くまで来たところで、彼はきょとんとした顔をした。
「どうかしたの?」
オルカーンは喉の奥で低く唸ると、ちらりとルベアを一瞥して言った。
「何も無かったよ。なぁ? ルベア」
ルベアは返事をしようと口を開き、獣の目に面白そうな色が浮かんでいるのに気づいて口を閉ざした。
憮然として視線を逸らす。
「ま、それより何かあったか?」
笑いを堪えるような口調でオルカーンが聞く。
「うん。いくつかあったよ」
苦虫を噛み潰したような表情で黙り込むルベアに、レインが座るように指示する。
彼は背に負った荷物から紙を取り出し、草の上に広げた。
それは。
「地図……? 何処で手に入れたんだ?」
上から覗き込み、怪訝そうに問うルベアに、レインが誤魔化すように笑う。
「まーその辺はいろいろ。……それより、いい? まずはね――……」
レインは楽しそうに、説明を始めた。
地図は貴重品だ。
一つ一つが手書きな上にそもそも書く人物が少ない。
基本的に市場に出回っているのは近隣を記した簡単なものだけだ。
それより細かく、また広範囲なものはかなり値が張る。
今、レインが持っているのはそんなものではなかった。
それは、三つの大陸が描かれた、世界地図だった。
街道はもとより、他の細かな部分まで書き込まれている。
これだけのものを手に入れるには、かなりの額が必要なはずだ。
だがレインはそんな大金は持っていない。
彼はいつもと変わらない表情で、現在地や町との距離を説明している。
此処から近いのは、エールという町だ。
湖の町として有名で、市場はいつもかなりの賑わいを見せている。
東大陸各地から様々な物が集まるので、何かないかとレインは情報収集もかねてその町に行っていた。
「レイン、どうやってこの地図を手に入れた?」
説明の途中で唐突に質問を投げると、彼はきょとんとして顔を上げた。
先ほどと似た問いだ。
だが。
「誤魔化すなよ」
まず釘をさしておく。
レインは困ったように眉間に皺を寄せると、地図に手を這わせた。
「買ったんじゃなくてもらったんだけど。……条件付きで」
最後の一言は小声だったがはっきりと聞こえた。
オルカーンが鼻を鳴らす。
「……まぁそんな事だと思ったよ」
「……何だ、その条件とやらは」
不機嫌そうな声でルベアが問う。
「えぇと、欲しい物があるから取ってきて欲しいって」
睨み付けるようなルベアの視線から目をそらしながら、レインが答える。
その答えに、オルカーンは首を傾げた。
きょとんとした表情は酷く人間くさい顔に見える。
「欲しい物って……そいつが取ってくれば早いんじゃないか?」
「うーん……そうなんだけど、何かね、今忙しいんだって。だから、イーアリーサに行く時に……帰りでも良いって言ってたけど、取ってきてくれないかって」
一つ一つが手書きな上にそもそも書く人物が少ない。
基本的に市場に出回っているのは近隣を記した簡単なものだけだ。
それより細かく、また広範囲なものはかなり値が張る。
今、レインが持っているのはそんなものではなかった。
それは、三つの大陸が描かれた、世界地図だった。
街道はもとより、他の細かな部分まで書き込まれている。
これだけのものを手に入れるには、かなりの額が必要なはずだ。
だがレインはそんな大金は持っていない。
彼はいつもと変わらない表情で、現在地や町との距離を説明している。
此処から近いのは、エールという町だ。
湖の町として有名で、市場はいつもかなりの賑わいを見せている。
東大陸各地から様々な物が集まるので、何かないかとレインは情報収集もかねてその町に行っていた。
「レイン、どうやってこの地図を手に入れた?」
説明の途中で唐突に質問を投げると、彼はきょとんとして顔を上げた。
先ほどと似た問いだ。
だが。
「誤魔化すなよ」
まず釘をさしておく。
レインは困ったように眉間に皺を寄せると、地図に手を這わせた。
「買ったんじゃなくてもらったんだけど。……条件付きで」
最後の一言は小声だったがはっきりと聞こえた。
オルカーンが鼻を鳴らす。
「……まぁそんな事だと思ったよ」
「……何だ、その条件とやらは」
不機嫌そうな声でルベアが問う。
「えぇと、欲しい物があるから取ってきて欲しいって」
睨み付けるようなルベアの視線から目をそらしながら、レインが答える。
その答えに、オルカーンは首を傾げた。
きょとんとした表情は酷く人間くさい顔に見える。
「欲しい物って……そいつが取ってくれば早いんじゃないか?」
「うーん……そうなんだけど、何かね、今忙しいんだって。だから、イーアリーサに行く時に……帰りでも良いって言ってたけど、取ってきてくれないかって」
「俺たちの目的地を知ってるのか?」
怪訝そうにオルカーンが言う。
あまり目指す場所は特定させていない。
秘している、のに。
その人物は今の目的地を知っている。
オルカーンは警戒を露わにしてレインの答えを待った。
その前に、とん、と地図を叩いて、ルベアが注意を集める。
二人の注意が集まったところで、彼は口を開いた。
「最初から話せ。誰に、何を取って来いと言われて、その地図を借りた?」
「んと、ディリクに、『きよーせきじゅ』を取って来いって言われた。……花の状態が好ましいらしいけど、根ごとであれば問題ないみたい。ちゃんと持ってこれたら、この地図くれるって」
にこやかに言うレインに、ルベアは苦虫を噛み潰したような顔で聞いた。
「……お前、貴葉石樹って何か知ってんのか?」
レインは、よくわかっていない顔で首を傾げた。
頭の痛いことにオルカーンもほぼ同様の表情を浮かべている。
「……それの生息している場所は聞いているよな?」
「うん。此処の山だって」
得意げに指差した先は、王都より北の方角にある山だった。
オルカーンがぽかんと口を開け、ルベアは溜め息をついた。
「……貴葉石樹って言うのは、空気中の毒素を吸収し、清浄にする効果をもつ樹木の一種だ。めったに群生せず、大気の毒素が多いほど大量の花を咲かせる。主な生息地は確かにこの山の中腹だ」
一気に説明して二人を見ると、へぇ、と言いながら頷いていた。
その反応にルベアは額に手を当てて項垂れた。
わかってはいないようだ。
「あのな……、毒素を消す樹を抜いたら、どうなると思う?」
「あー……」
思い至ったのか、オルカーンが声を出した。
溜め息に近かったが。
群生はしない。
つまり、一つ抜くとその場の毒素を浄化するものが何もなくなる可能性が高いという事だ。
「元をどうにかしないと駄目ってことだな」
「どうにかできないの?」
何も考えていないような表情で問うレインを、呆れたようにルベアが答える。
「最悪を考えておけよ。聖山であるはずの場所に生えてるんだ。元は相当なものだ。……それに、情報は殆ど無い」
それを聞いてレインが押し黙る。
途端沈黙が落ちた。
緩やかに風が吹いていく。
怪訝そうにオルカーンが言う。
あまり目指す場所は特定させていない。
秘している、のに。
その人物は今の目的地を知っている。
オルカーンは警戒を露わにしてレインの答えを待った。
その前に、とん、と地図を叩いて、ルベアが注意を集める。
二人の注意が集まったところで、彼は口を開いた。
「最初から話せ。誰に、何を取って来いと言われて、その地図を借りた?」
「んと、ディリクに、『きよーせきじゅ』を取って来いって言われた。……花の状態が好ましいらしいけど、根ごとであれば問題ないみたい。ちゃんと持ってこれたら、この地図くれるって」
にこやかに言うレインに、ルベアは苦虫を噛み潰したような顔で聞いた。
「……お前、貴葉石樹って何か知ってんのか?」
レインは、よくわかっていない顔で首を傾げた。
頭の痛いことにオルカーンもほぼ同様の表情を浮かべている。
「……それの生息している場所は聞いているよな?」
「うん。此処の山だって」
得意げに指差した先は、王都より北の方角にある山だった。
オルカーンがぽかんと口を開け、ルベアは溜め息をついた。
「……貴葉石樹って言うのは、空気中の毒素を吸収し、清浄にする効果をもつ樹木の一種だ。めったに群生せず、大気の毒素が多いほど大量の花を咲かせる。主な生息地は確かにこの山の中腹だ」
一気に説明して二人を見ると、へぇ、と言いながら頷いていた。
その反応にルベアは額に手を当てて項垂れた。
わかってはいないようだ。
「あのな……、毒素を消す樹を抜いたら、どうなると思う?」
「あー……」
思い至ったのか、オルカーンが声を出した。
溜め息に近かったが。
群生はしない。
つまり、一つ抜くとその場の毒素を浄化するものが何もなくなる可能性が高いという事だ。
「元をどうにかしないと駄目ってことだな」
「どうにかできないの?」
何も考えていないような表情で問うレインを、呆れたようにルベアが答える。
「最悪を考えておけよ。聖山であるはずの場所に生えてるんだ。元は相当なものだ。……それに、情報は殆ど無い」
それを聞いてレインが押し黙る。
途端沈黙が落ちた。
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