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町からでも聖山が見える。
近いわけではない。
それほど大きく、標高が高いということだ。
「見えるから案内はいらないと思うが、一つだけ」
町境についたときにそう前置きして、ラナは山の右手側を指差した。
「行くのなら向こうへ迂回すると良い。遠回りに思えるだろうが直進するより早い」
「……分かった」
礼を言って町から出る。
途端に冷気が全身を襲った。
「わー寒いー」
間の抜けた声でレインが感想を言う。
苦笑しながら振り返ると、其処には既にラナの姿はなかった。
「もう行ったのか。早いなぁ」
オルカーンが感心したように鼻を鳴らす。
「ねぇ行こうよー。このまま此処に立ってたら雪だるまになっちゃうよ」
情けない声で言われ、ルベアは荷物を担ぎなおした。
道のりは特に迷うこともなく進めた。
誰かが踏み固めたのだろう獣道が、視界から消えることなくあったからだ。
「山へ行く人とか結構いるのかなぁ?」
「どうだろうなぁ。最近人が通った形跡は無いよ」
顔を低くして地面を見ていたオルカーンが応えた。
その答えに、レインが首を傾げる。
「シェンディルが通ったんじゃないのかな?」
「通らなかったんじゃないか?」
言いながら進んでいくうちに、周囲の木々が鬱蒼としてきた。
自分達三人以外の息遣いが、徐々に増えていく。
近いわけではない。
それほど大きく、標高が高いということだ。
「見えるから案内はいらないと思うが、一つだけ」
町境についたときにそう前置きして、ラナは山の右手側を指差した。
「行くのなら向こうへ迂回すると良い。遠回りに思えるだろうが直進するより早い」
「……分かった」
礼を言って町から出る。
途端に冷気が全身を襲った。
「わー寒いー」
間の抜けた声でレインが感想を言う。
苦笑しながら振り返ると、其処には既にラナの姿はなかった。
「もう行ったのか。早いなぁ」
オルカーンが感心したように鼻を鳴らす。
「ねぇ行こうよー。このまま此処に立ってたら雪だるまになっちゃうよ」
情けない声で言われ、ルベアは荷物を担ぎなおした。
道のりは特に迷うこともなく進めた。
誰かが踏み固めたのだろう獣道が、視界から消えることなくあったからだ。
「山へ行く人とか結構いるのかなぁ?」
「どうだろうなぁ。最近人が通った形跡は無いよ」
顔を低くして地面を見ていたオルカーンが応えた。
その答えに、レインが首を傾げる。
「シェンディルが通ったんじゃないのかな?」
「通らなかったんじゃないか?」
言いながら進んでいくうちに、周囲の木々が鬱蒼としてきた。
自分達三人以外の息遣いが、徐々に増えていく。
「オルカーン」
周囲を警戒しながら手前を行くオルカーンの名を呼ぶ。
周囲の気配に敵意は無い。
ただ純粋に、様子を伺っているようだ。
「……何もしなければ、特に問題はなさそうだよ」
低い声で言われたことに、ルベアは少し眉を顰めた。
この中で問題を起こしそうなのは一人しかいない。
「レイン。何処へ行く気だ」
早速道の脇にある木に近寄っていったレインを、腕を掴んで引き戻す。
「不用意にふらふらするな。囲まれてるんだぞ」
「何に?」
きょとんと、レインは周囲を見回した。
「見えないよ?」
「見えないようにしてるんだよ」
オルカーンが諭すように言うとレインは首を傾げて二人を見た。
「何で?」
「さぁな。こっちの出方を伺ってるんだろう。良いからさっさと抜けるぞ」
掴んだままだったレインの腕を引っ張りながら、ルベアは足を速めた。
駆け足で、オルカーンが先に立つ。
ちらりと左右に視線をやると、木々と見紛うような深い緑色の何かが動いたような気がした。
様子を伺っている割には追いかけては来ない。
そのままの状態で暫く進み、気配が薄れたところで漸くオルカーンが歩調を弱めた。
「ル、ルベアー。腕が痛い」
息を切らしながら、レインが訴える。
「あぁ、すまん」
手を離すと、レインはその場にへたり込んだ。
「もー、二人していきなり早くなるんだもん。もうちょっとゆっくり行こうよ」
「ゆっくり行ってたら入れ違いになるかもしれないだろうが」
その時、何処に行っていたのかオルカーンが戻ってきた。
「もう少し行った所に開けた所があったから、そこで少し休んでいこう」
「だ、そうだ。ほら早く立て」
「うぅルベア酷いー」
情けない声を出しながら、レインが渋々立ち上がる。
足元は少し覚束ない。
「……もうちょっと体力つけろよ」
思わず言うと、彼は頬を膨らませた。
子供じみたその仕草に笑いを押し殺しながら、先に進むオルカーンの後をついて行く。
オルカーンが見つけたその場所は、本当にぽっかりと開けた場所だった。
鬱蒼とした中の、唯一の明るい場所。
「……此処は、その、あれだ。……安全なのか?」
歯切れ悪く問うと、オルカーンは渋い顔で頷いた。
「まぁ、見た目は怪しいかもしれないけど、害意あるものは近づけないよ」
そう言う彼は少し辛そうだ。
「……お前も害意があるのか?」
からかい半分に言うと、尻尾を一度ぱたりと振った。
此処も魔法に関係した場所なのだろうか。
ルベア自身は何とも無い。
ただ場所に違和感があるだけだ。
周囲を警戒しながら手前を行くオルカーンの名を呼ぶ。
周囲の気配に敵意は無い。
ただ純粋に、様子を伺っているようだ。
「……何もしなければ、特に問題はなさそうだよ」
低い声で言われたことに、ルベアは少し眉を顰めた。
この中で問題を起こしそうなのは一人しかいない。
「レイン。何処へ行く気だ」
早速道の脇にある木に近寄っていったレインを、腕を掴んで引き戻す。
「不用意にふらふらするな。囲まれてるんだぞ」
「何に?」
きょとんと、レインは周囲を見回した。
「見えないよ?」
「見えないようにしてるんだよ」
オルカーンが諭すように言うとレインは首を傾げて二人を見た。
「何で?」
「さぁな。こっちの出方を伺ってるんだろう。良いからさっさと抜けるぞ」
掴んだままだったレインの腕を引っ張りながら、ルベアは足を速めた。
駆け足で、オルカーンが先に立つ。
ちらりと左右に視線をやると、木々と見紛うような深い緑色の何かが動いたような気がした。
様子を伺っている割には追いかけては来ない。
そのままの状態で暫く進み、気配が薄れたところで漸くオルカーンが歩調を弱めた。
「ル、ルベアー。腕が痛い」
息を切らしながら、レインが訴える。
「あぁ、すまん」
手を離すと、レインはその場にへたり込んだ。
「もー、二人していきなり早くなるんだもん。もうちょっとゆっくり行こうよ」
「ゆっくり行ってたら入れ違いになるかもしれないだろうが」
その時、何処に行っていたのかオルカーンが戻ってきた。
「もう少し行った所に開けた所があったから、そこで少し休んでいこう」
「だ、そうだ。ほら早く立て」
「うぅルベア酷いー」
情けない声を出しながら、レインが渋々立ち上がる。
足元は少し覚束ない。
「……もうちょっと体力つけろよ」
思わず言うと、彼は頬を膨らませた。
子供じみたその仕草に笑いを押し殺しながら、先に進むオルカーンの後をついて行く。
オルカーンが見つけたその場所は、本当にぽっかりと開けた場所だった。
鬱蒼とした中の、唯一の明るい場所。
「……此処は、その、あれだ。……安全なのか?」
歯切れ悪く問うと、オルカーンは渋い顔で頷いた。
「まぁ、見た目は怪しいかもしれないけど、害意あるものは近づけないよ」
そう言う彼は少し辛そうだ。
「……お前も害意があるのか?」
からかい半分に言うと、尻尾を一度ぱたりと振った。
此処も魔法に関係した場所なのだろうか。
ルベア自身は何とも無い。
ただ場所に違和感があるだけだ。
レインは、と見ると、彼は開けたその中央に仰向けに横たわっていた。
町の時も少し鈍かった。
気づかずに倒れてしまったのかと傍らに行くと、彼は目を開いて笑った。
「此処、日が射しててあったかいね」
無駄な心配だったようだ。
「お前はなんともないのか?」
聞くと、不思議そうに上体を起こした。
ゆっくりと近づいてきたオルカーンを見て、レインはもらった包みを掲げた。
「それよりこれ開けてみようよ」
言われて開くと、彼らが作ったのだろう、パンが入っていた。
触ってみるとまだ暖かい。
「外寒いのにまだあったかいんだね」
「……そうだな」
一つとって食べる。
パンは焼き立ての状態を保たれているようだった。
いろいろな所に、惜しげも無く魔法が使われているようだった。
暫く休みながらパンを食べ、荷物をまとめる。
町を出たときから見えていた山は、周りの木々の所為で頂上が僅かに覗くだけだ。
それでも未だ遠い。
三人は誰からとも無く顔を見合わせると、また歩き始めた。
麓の森に漸く着いたのは、あれからさらに3日がたってからだった。
予想より遅い。
本来なら1日2日でつくはずだ。
原因は主に体力の無いレインだが、幸いにしてまだ連絡は無い。
「……おい、いつまでへばってる。早く行くぞ」
ルベアが容赦なく言うと、もうちょっと、と言ってレインが項垂れた。
「どっちから行くんだ?」
蹲ったレインの横に座って、オルカーンが問う。
少し考えて、ルベアが答えた。
「シェンディルの方からだ」
帰りで良いと言われている。
急ぐものでもないだろう。
「どの辺にいるか、わかるか?」
オルカーンは山に向けて三つの目を向けると、そのまま凝視した。
ふわりと、毛が逆立つ。
瞳は淡く輝き、けれど身体は微動だにしない。
オルカーンは隠されたものでなければ、魔法の気配を視ることが出来る。
探し人であるシェンディルは、隠れる必要の無い人間だ。
範囲は広いが、探すのは比較的容易だろう。
町の時も少し鈍かった。
気づかずに倒れてしまったのかと傍らに行くと、彼は目を開いて笑った。
「此処、日が射しててあったかいね」
無駄な心配だったようだ。
「お前はなんともないのか?」
聞くと、不思議そうに上体を起こした。
ゆっくりと近づいてきたオルカーンを見て、レインはもらった包みを掲げた。
「それよりこれ開けてみようよ」
言われて開くと、彼らが作ったのだろう、パンが入っていた。
触ってみるとまだ暖かい。
「外寒いのにまだあったかいんだね」
「……そうだな」
一つとって食べる。
パンは焼き立ての状態を保たれているようだった。
いろいろな所に、惜しげも無く魔法が使われているようだった。
暫く休みながらパンを食べ、荷物をまとめる。
町を出たときから見えていた山は、周りの木々の所為で頂上が僅かに覗くだけだ。
それでも未だ遠い。
三人は誰からとも無く顔を見合わせると、また歩き始めた。
麓の森に漸く着いたのは、あれからさらに3日がたってからだった。
予想より遅い。
本来なら1日2日でつくはずだ。
原因は主に体力の無いレインだが、幸いにしてまだ連絡は無い。
「……おい、いつまでへばってる。早く行くぞ」
ルベアが容赦なく言うと、もうちょっと、と言ってレインが項垂れた。
「どっちから行くんだ?」
蹲ったレインの横に座って、オルカーンが問う。
少し考えて、ルベアが答えた。
「シェンディルの方からだ」
帰りで良いと言われている。
急ぐものでもないだろう。
「どの辺にいるか、わかるか?」
オルカーンは山に向けて三つの目を向けると、そのまま凝視した。
ふわりと、毛が逆立つ。
瞳は淡く輝き、けれど身体は微動だにしない。
オルカーンは隠されたものでなければ、魔法の気配を視ることが出来る。
探し人であるシェンディルは、隠れる必要の無い人間だ。
範囲は広いが、探すのは比較的容易だろう。
「見つけた」
不意に、オルカーンが声を上げた。
視線は前方を向いたまま。
否。
ある一点を、凝視している。
「何処だ」
「此処から真っ直ぐ、少し開けたところが見えるだろ? あの辺だ」
見ると、山の中腹辺りに木々の緑ではない場所があった。
多分其処がオルカーンの言う場所だろう。
「よし。じゃあ行くぞ……って何やってるんだレイン」
荷物を担ぎなおし、レインを振り返ると、彼はオルカーンの尻尾をじっと見ていた。
「何でオルカーンの尻尾っていつもふかふかなんだろー」
「……いいから行くぞ」
出鼻を挫かれた気分で、レインの首根っこを掴む。
半ば引き摺って歩き始めると、観念したのかレインもきちんと歩き出した。
「動く様子は?」
「今の所無いなぁ。寝てるのか動けないのか」
そうか、と言いかけて眉をひそめる。
「……動けない?」
「かも、ってこと。何もいないわけじゃないだろ? 此処って」
聖山は他に比べて魔物や魔獣の出現率は低い。
だが低いだけであって、出ないわけではなかった。
ただ、周りに注意をしていれば遭遇は防げるほどの小物ばかりなので、大して警戒はしていなかった。
「……でかいのがいるかもしれないってことか……」
憮然とした顔で呟く。
戦うことは嫌いではない。
時間に制限が無いのなら。
「とにかく急ごう」
二人を急かし、ルベアは歩を早めた。
オルカーンの言う場所に着いた時には、もはや日は暮れかかっていた。
「此処か?」
「うん……」
オルカーンの返事は歯切れが悪い。
何だ、と思ってみると、オルカーンは顔を上げて遠くを見ていた。
否、実際には見ていないのかもしれない。
何を。
見ているのか。
レインは歩きつかれたのか、近くの木にもたれかかって座り込んでいる。
周囲に視線を走らせながら、ルベアはオルカーンの次の言葉を待った。
「こっちだ」
短く言って、鼻先を右へと向けた。
周囲は既に薄暗くなり、視界があまり利かなくなって来ている。
視線を向けた先は木々が壁のようで、幹の間に僅かに覗く奥は闇に覆われていた。
「動けないわけではなさそうだな」
「特に怪我はしてなさそうだけど……」
「レイン、動けるか?」
振り返ると、レインは木の根元に丸くなって眠っていた。
呆れて起こそうとすると、オルカーンが遮った。
「動きはゆっくりだし、そう遠くまで行く気はなさそうだから、今は少し休もう。無理してもレインが動けなかったら意味無いんだし」
ルベアは僅かの逡巡の後、溜め息と共に頷いた。
「仕方ない。それならレインが起きたら行くことにしよう」
不意に、オルカーンが声を上げた。
視線は前方を向いたまま。
否。
ある一点を、凝視している。
「何処だ」
「此処から真っ直ぐ、少し開けたところが見えるだろ? あの辺だ」
見ると、山の中腹辺りに木々の緑ではない場所があった。
多分其処がオルカーンの言う場所だろう。
「よし。じゃあ行くぞ……って何やってるんだレイン」
荷物を担ぎなおし、レインを振り返ると、彼はオルカーンの尻尾をじっと見ていた。
「何でオルカーンの尻尾っていつもふかふかなんだろー」
「……いいから行くぞ」
出鼻を挫かれた気分で、レインの首根っこを掴む。
半ば引き摺って歩き始めると、観念したのかレインもきちんと歩き出した。
「動く様子は?」
「今の所無いなぁ。寝てるのか動けないのか」
そうか、と言いかけて眉をひそめる。
「……動けない?」
「かも、ってこと。何もいないわけじゃないだろ? 此処って」
聖山は他に比べて魔物や魔獣の出現率は低い。
だが低いだけであって、出ないわけではなかった。
ただ、周りに注意をしていれば遭遇は防げるほどの小物ばかりなので、大して警戒はしていなかった。
「……でかいのがいるかもしれないってことか……」
憮然とした顔で呟く。
戦うことは嫌いではない。
時間に制限が無いのなら。
「とにかく急ごう」
二人を急かし、ルベアは歩を早めた。
オルカーンの言う場所に着いた時には、もはや日は暮れかかっていた。
「此処か?」
「うん……」
オルカーンの返事は歯切れが悪い。
何だ、と思ってみると、オルカーンは顔を上げて遠くを見ていた。
否、実際には見ていないのかもしれない。
何を。
見ているのか。
レインは歩きつかれたのか、近くの木にもたれかかって座り込んでいる。
周囲に視線を走らせながら、ルベアはオルカーンの次の言葉を待った。
「こっちだ」
短く言って、鼻先を右へと向けた。
周囲は既に薄暗くなり、視界があまり利かなくなって来ている。
視線を向けた先は木々が壁のようで、幹の間に僅かに覗く奥は闇に覆われていた。
「動けないわけではなさそうだな」
「特に怪我はしてなさそうだけど……」
「レイン、動けるか?」
振り返ると、レインは木の根元に丸くなって眠っていた。
呆れて起こそうとすると、オルカーンが遮った。
「動きはゆっくりだし、そう遠くまで行く気はなさそうだから、今は少し休もう。無理してもレインが動けなかったら意味無いんだし」
ルベアは僅かの逡巡の後、溜め息と共に頷いた。
「仕方ない。それならレインが起きたら行くことにしよう」
「ルベア」
眠っていたらしい。
オルカーンの呼び声で目が覚めた。
「……どうした」
「気をつけて。囲まれるよ」
低く抑えた囁き。
ルベアは完全に目を覚ますと、剣の柄に手を添えて周りを見回した。
レインの姿が無い。
「レインは?」
何かの気配が近づいてくるのを感じつつ、ルベアが問う。
「……ちょっと散歩、って。追えてるから大丈夫」
オルカーンは視線を上げると嫌そうな顔をした。
「見つかった」
何に、とは聞かない。
周囲の気配は囲うように近づいてきていた。
レインがいなくて良かった、と思う。
彼は戦闘には向かない。
柄にかけた手に力をこめる。
「数は」
「数えられないな。細かいよ」
さわさわと、葉ずれの音がする。
風は吹いていない。
不意に音が止まった。
感じる気配が圧倒的に重くなっていく。
排除しようとする、完全な敵意。
神経が研ぎ澄まされていく。
オルカーンが姿勢を低くして警戒する。
いつでも跳びかかれる体勢だ。
がさり、と前方の繁みが音を立て、黒い塊が向かってきた。
居合の要領でそれに合わせて刃を滑らせる。
と、それは瞬時に後退し、間合いから逃げた。
僅かの明かりに見えたそれは、黒い鼬のような魔獣だった。
大きさは拳二つ分ほど。
確かに細かくはある。
数は多くいたはずだ、と思った時、最初の一匹の後ろから次々と同じ形の魔獣が飛び出してきた。
視線の先が闇色に染まっていく。
がさりと音がして、それは横や後ろからも現れた。
「多いなぁ」
「数だけだ」
ぼやくオルカーンに短く応え、ルベアは剣を構えた。
思ったより速かった。
ただ、殺傷能力は低そうだ。
攻撃を受けても大怪我にはならないだろうが、数だけは厄介だった。
めんどくさいなと思いつつ、一歩、前に足を進める。
それを合図にして魔獣は一斉に飛び掛ってきた。
間合いに入ったものから斬り伏せていく。
斬られたそれは声もなく塵となって消えていった。
その様をのんびり見る暇も無く、片端から斬っていくが、彼らは仲間が斬られても動揺もせず、襲い掛かってくる。
変だ、と思った時、背後にいたはずのオルカーンはかなり離れた位置にいて、そして魔獣の数は減りもしていなかった。
眠っていたらしい。
オルカーンの呼び声で目が覚めた。
「……どうした」
「気をつけて。囲まれるよ」
低く抑えた囁き。
ルベアは完全に目を覚ますと、剣の柄に手を添えて周りを見回した。
レインの姿が無い。
「レインは?」
何かの気配が近づいてくるのを感じつつ、ルベアが問う。
「……ちょっと散歩、って。追えてるから大丈夫」
オルカーンは視線を上げると嫌そうな顔をした。
「見つかった」
何に、とは聞かない。
周囲の気配は囲うように近づいてきていた。
レインがいなくて良かった、と思う。
彼は戦闘には向かない。
柄にかけた手に力をこめる。
「数は」
「数えられないな。細かいよ」
さわさわと、葉ずれの音がする。
風は吹いていない。
不意に音が止まった。
感じる気配が圧倒的に重くなっていく。
排除しようとする、完全な敵意。
神経が研ぎ澄まされていく。
オルカーンが姿勢を低くして警戒する。
いつでも跳びかかれる体勢だ。
がさり、と前方の繁みが音を立て、黒い塊が向かってきた。
居合の要領でそれに合わせて刃を滑らせる。
と、それは瞬時に後退し、間合いから逃げた。
僅かの明かりに見えたそれは、黒い鼬のような魔獣だった。
大きさは拳二つ分ほど。
確かに細かくはある。
数は多くいたはずだ、と思った時、最初の一匹の後ろから次々と同じ形の魔獣が飛び出してきた。
視線の先が闇色に染まっていく。
がさりと音がして、それは横や後ろからも現れた。
「多いなぁ」
「数だけだ」
ぼやくオルカーンに短く応え、ルベアは剣を構えた。
思ったより速かった。
ただ、殺傷能力は低そうだ。
攻撃を受けても大怪我にはならないだろうが、数だけは厄介だった。
めんどくさいなと思いつつ、一歩、前に足を進める。
それを合図にして魔獣は一斉に飛び掛ってきた。
間合いに入ったものから斬り伏せていく。
斬られたそれは声もなく塵となって消えていった。
その様をのんびり見る暇も無く、片端から斬っていくが、彼らは仲間が斬られても動揺もせず、襲い掛かってくる。
変だ、と思った時、背後にいたはずのオルカーンはかなり離れた位置にいて、そして魔獣の数は減りもしていなかった。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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