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2012/02/11 (Sat)
 一歩、前へと進み出る。

 踏みしめた靴の下は、爪先を覆うほどの長さの草が生い茂っていた。
 街道を少し外れた森の中、そこだけが開けた草原になっている。
 一陣の風が吹いた。
 項で一つに纏めた髪が、後へとなびく。
 ぐ、と僅かに左手に力を込める。
 構えた剣の切っ先は、正確に相手を捉えたまま、揺るがない。

 対峙するのは薄茶色の大きな獣。
 見た目は大型の犬、といったところか。
 だが長く伸びた尾は二つに分かれ、爛と輝く瞳は三つあった。

 じり、と双方が円を描くように動く。
 張り詰められた空気。
 その場には息をするのも憚られるような気迫が満ちていたが、双方の表情は平静を保っていた。

 風が足元の草をなぎ倒していく。
 風が凪ぐ、一瞬の後、双方は同時に動いた。
 弧を描き迫る刃を爪で弾き、獣が踊りかかる。
 身を捻って牙を躱し、鞘で打ち払う。
 獣は喉の奥で低く唸ると、僅かに距離を開けた。
 距離をとって飛び掛るのだろうか。
 それ以上は深く考えずに踏み込んでいた。

 剣を振るう。
 だが獣は敏捷な身のこなしで避けた。
 それを追うように、もう一歩、強く踏み込む。
 振りぬいた勢いのまま身体を半回転させ、逆手に持っていた鞘で獣の胴を打った。

 手加減はしていない。
 すれば自分が怪我をするだけだ。

 呻き、よろめいた獣の鼻先へ切っ先を突きつける。
 獣は虚を突かれたような顔をし、視線を上げて唸った。


「――勝負あったな」


 冷静に告げる。
 その声音は突きつけた刃のように、揺ぎ無く響いた。
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