小説用倉庫。
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真剣な眼差し。
それに気圧されたかのように影がひるむのがわかる。
視線を外さずに、サキが問う。
「この間、言っただろう。世界が、……滅びると」
「ああ、そんなことも言ったか」
なんでもないことのように言い放って、影は立ち上がった。
その態度にサキがかっとなる。
「そんなことってなんだよ!」
思わず怒鳴るが、金の目は動かない。
「何故怒る?」
「何故って……!」
「僕が言ったから滅びたとでも言うのか? ……それこそ愚かだな。自業自得なくせに……!」
冷ややかに突き放すような物言いに、サキは口を閉ざす。
そんな彼を見て、影は一歩下がった。
「……! どこへ行く!」
「別に。もう用はないだろう」
まるでここにいることが堪えられないかのような、かすかな声の震えに、サキはけれど引き止めてしまう。
「ちょっと待てよ! ……自業自得ってどういうことだ」
「言ったはずだ。それが、わからないからお前は愚かなんだと……!」
その言葉をさえぎるようにサキが叫ぶ。
「わかるものか!」
「……何故わからない! お前が……、お前こそが……!!」
突然声を荒げた影に、サキが驚いた目を向ける。
影は小さく舌打ちすると、身を翻した。
「待て……!」
「お前は、わかるはずなんだ……」
かき消されそうなほどの声。
サキは追おうと立ち上がるが、脚がもつれて手をついてしまう。
顔を上げたとき、そこには誰もいなかった。
周りを見回しても、見えるのは風にそよぐ草と、遠くに見える建物の影だけだ。
ため息をついて仰向けに倒れる。
いつもより大きく見える月たちは、サキの真上にあった。
それに気圧されたかのように影がひるむのがわかる。
視線を外さずに、サキが問う。
「この間、言っただろう。世界が、……滅びると」
「ああ、そんなことも言ったか」
なんでもないことのように言い放って、影は立ち上がった。
その態度にサキがかっとなる。
「そんなことってなんだよ!」
思わず怒鳴るが、金の目は動かない。
「何故怒る?」
「何故って……!」
「僕が言ったから滅びたとでも言うのか? ……それこそ愚かだな。自業自得なくせに……!」
冷ややかに突き放すような物言いに、サキは口を閉ざす。
そんな彼を見て、影は一歩下がった。
「……! どこへ行く!」
「別に。もう用はないだろう」
まるでここにいることが堪えられないかのような、かすかな声の震えに、サキはけれど引き止めてしまう。
「ちょっと待てよ! ……自業自得ってどういうことだ」
「言ったはずだ。それが、わからないからお前は愚かなんだと……!」
その言葉をさえぎるようにサキが叫ぶ。
「わかるものか!」
「……何故わからない! お前が……、お前こそが……!!」
突然声を荒げた影に、サキが驚いた目を向ける。
影は小さく舌打ちすると、身を翻した。
「待て……!」
「お前は、わかるはずなんだ……」
かき消されそうなほどの声。
サキは追おうと立ち上がるが、脚がもつれて手をついてしまう。
顔を上げたとき、そこには誰もいなかった。
周りを見回しても、見えるのは風にそよぐ草と、遠くに見える建物の影だけだ。
ため息をついて仰向けに倒れる。
いつもより大きく見える月たちは、サキの真上にあった。
「サキ、少しいいですか?」
翌朝、まんじりともせずにベッドに横たわったままだったサキは、ミカゲの声に身体を起こした。
「どうしたんだ?」
声をかけてから、ドアを開ける。
不安そうな面持ちのミカゲが立っていた。
「話が、……ッ!?」
言いかけたときに、また地震が起きた。
このごろ立て続けだと思いながら、サキは厭な予感が広がっていくのを感じていた。
揺れはそんなに長くかからなかった。
少し収まったのを感じて、サキはつかまっていた扉から手を離す。
「今のは、……まさか」
ミカゲが呟く。
苦虫を噛み潰したような顔で、サキが問い掛ける。
「ミカゲ、……さっきの話は……?」
「……中央に、行きませんか?」
決意に満ちた表情をした彼は、けれどサキを見てはいないようだった。
翳のある瞳。
「……ミカゲ?」
「中央には神がいるんでしょう? ……だとしたら、何とかなるんじゃないですか?」
何の感情もこもっていないような声。
自分こそが、それを信じていないのだと。
奇跡などないのだと。
言っているように感じられる。
サキは決めなければならなかった。
中央に行ったところで救われるのかわからない。
けれど。
「わかった……。行こう」
「サキ様! 大丈夫ですか!?」
「レイラ」
あわただしく駆け込んできたのはレイラだった。
いつもどおりの。
どこかにぶつけたのか、右腕に小さな傷がある。
「レイラ、その傷は? どうしたんだ」
「あ、さっきの地震で……」
腕を見下ろして苦笑する。
大丈夫そうだと判断して、サキは少し表情を改めた。
「レイラ、俺たちは今から中央に行って来る。……君も来るか?」
「中央に、ですか……?」
驚きを隠せない表情で、レイラはサキを、次いでミカゲを見た。
一瞬目を伏せると、サキを見てきっぱりと言った。
「私も、行きます」
翌朝、まんじりともせずにベッドに横たわったままだったサキは、ミカゲの声に身体を起こした。
「どうしたんだ?」
声をかけてから、ドアを開ける。
不安そうな面持ちのミカゲが立っていた。
「話が、……ッ!?」
言いかけたときに、また地震が起きた。
このごろ立て続けだと思いながら、サキは厭な予感が広がっていくのを感じていた。
揺れはそんなに長くかからなかった。
少し収まったのを感じて、サキはつかまっていた扉から手を離す。
「今のは、……まさか」
ミカゲが呟く。
苦虫を噛み潰したような顔で、サキが問い掛ける。
「ミカゲ、……さっきの話は……?」
「……中央に、行きませんか?」
決意に満ちた表情をした彼は、けれどサキを見てはいないようだった。
翳のある瞳。
「……ミカゲ?」
「中央には神がいるんでしょう? ……だとしたら、何とかなるんじゃないですか?」
何の感情もこもっていないような声。
自分こそが、それを信じていないのだと。
奇跡などないのだと。
言っているように感じられる。
サキは決めなければならなかった。
中央に行ったところで救われるのかわからない。
けれど。
「わかった……。行こう」
「サキ様! 大丈夫ですか!?」
「レイラ」
あわただしく駆け込んできたのはレイラだった。
いつもどおりの。
どこかにぶつけたのか、右腕に小さな傷がある。
「レイラ、その傷は? どうしたんだ」
「あ、さっきの地震で……」
腕を見下ろして苦笑する。
大丈夫そうだと判断して、サキは少し表情を改めた。
「レイラ、俺たちは今から中央に行って来る。……君も来るか?」
「中央に、ですか……?」
驚きを隠せない表情で、レイラはサキを、次いでミカゲを見た。
一瞬目を伏せると、サキを見てきっぱりと言った。
「私も、行きます」
水の国寄りに進んでいくと、前方から人影が近づいて来た。
ゆっくりと、地面を踏みしめるかのような動き。
真っ先に気づいたのはミカゲだった。
「あれは……ラクス?」
その声に、サキは目を凝らすが、よく見えない。
ようやく互いの顔が判別できるくらいの距離に縮まったとき、それがミカゲの言うとおり水の国主付き人であることがわかる。
「何で、こんなとこに……?」
「ラクス!」
叫んで駆け寄ると、彼はその場に立ち止まった。
ぼんやりした表情。
「……ああ、サキか」
「ああじゃない! どうしたんだ、こんなとこで……!」
「……サキ。セプテントゥリオーは滅びたよ」
どこか自嘲気味に。
淡々と紡がれた言葉に、サキが目を見張る。
「なんだって……? どういうことだ」
ラクスは答えず、背を向けた。
「……じゃあな。俺は確かに伝えたぞ」
「待て! ……どこへ行くんだ?」
歩きかけていたラクスは、肩越しにふり返ってサキを見据えた。
聞き取れないほどの小さな声で呟く。
「国に……」
視線を前に向け、歩き出す。
「……ヒウリの元へ」
3人は追うこともできずにその姿を見送った。
「……これで、残るのは風の国だけになってしまったんだな……」
囁きには誰も答えず、ただ風だけが吹いていた。
ゆっくりと、地面を踏みしめるかのような動き。
真っ先に気づいたのはミカゲだった。
「あれは……ラクス?」
その声に、サキは目を凝らすが、よく見えない。
ようやく互いの顔が判別できるくらいの距離に縮まったとき、それがミカゲの言うとおり水の国主付き人であることがわかる。
「何で、こんなとこに……?」
「ラクス!」
叫んで駆け寄ると、彼はその場に立ち止まった。
ぼんやりした表情。
「……ああ、サキか」
「ああじゃない! どうしたんだ、こんなとこで……!」
「……サキ。セプテントゥリオーは滅びたよ」
どこか自嘲気味に。
淡々と紡がれた言葉に、サキが目を見張る。
「なんだって……? どういうことだ」
ラクスは答えず、背を向けた。
「……じゃあな。俺は確かに伝えたぞ」
「待て! ……どこへ行くんだ?」
歩きかけていたラクスは、肩越しにふり返ってサキを見据えた。
聞き取れないほどの小さな声で呟く。
「国に……」
視線を前に向け、歩き出す。
「……ヒウリの元へ」
3人は追うこともできずにその姿を見送った。
「……これで、残るのは風の国だけになってしまったんだな……」
囁きには誰も答えず、ただ風だけが吹いていた。
中央に通じる橋を渡ると、空気の色が変わるのがわかる。
「ここが……。初めて来たよ」
高くそびえ立つ塔を目の前に、皆が感嘆の色を隠せない。
立ち止まった中でミカゲが一番早く歩き出した。
「……行きましょう。きっと……この中に」
その声に含まれた何かに、サキは息を呑む。
何かわからなかったけれど、それは嫌な予感のするものだった。
レイラよりわずかに遅れて後に続く。
消えない予感。
不快な違和感が拭えない。
思わず顔をしかめてしまい、レイラに見られて慌てて微笑む。
彼女は少し困ったように首を傾げてから微笑んだ。
綺麗な笑顔。
ふたりで笑いあっている間に、ミカゲは先に進んでしまっていた。
慌ててミカゲの後を追う。
不意に歩みが止まった。
「どうしたんだ?」
見ると、ミカゲの前で道が左右に分かれていた。
「……どっちかなぁ」
「こちらでは、ないでしょうか」
レイラが先に立って歩く。
今度はレイラを先頭に、ミカゲを挟んでサキが続く。
入り組んだ塔だった。
階段がたくさんあったり、道が3つに分かれていたり。
ともすれば迷いそうなそこを、レイラは大して迷う様子も見せず進んでいく。
途中大きな薄い布が上から何枚も垂れているところなどがあったが、皆何も言わなかった。
なぜこうも簡単に進んで行けるのかサキは不思議に思うが、ミカゲはそんなこと考えもしないのか無言でレイラの後に続いていく。
「……レイラ」
理由を聞こうと声をかけると、レイラが立ち止まった。
「……サキ様、つきました」
そこは大きな扉の前だった。
首が痛くなるほどの。
「……ここに?」
レイラは答えず扉に手をかけた。
それは音もなく左右に開く。
大きいくせに何の音もしないことに首を傾げながら、サキはふたりに続いて中に入った。
「ここが……。初めて来たよ」
高くそびえ立つ塔を目の前に、皆が感嘆の色を隠せない。
立ち止まった中でミカゲが一番早く歩き出した。
「……行きましょう。きっと……この中に」
その声に含まれた何かに、サキは息を呑む。
何かわからなかったけれど、それは嫌な予感のするものだった。
レイラよりわずかに遅れて後に続く。
消えない予感。
不快な違和感が拭えない。
思わず顔をしかめてしまい、レイラに見られて慌てて微笑む。
彼女は少し困ったように首を傾げてから微笑んだ。
綺麗な笑顔。
ふたりで笑いあっている間に、ミカゲは先に進んでしまっていた。
慌ててミカゲの後を追う。
不意に歩みが止まった。
「どうしたんだ?」
見ると、ミカゲの前で道が左右に分かれていた。
「……どっちかなぁ」
「こちらでは、ないでしょうか」
レイラが先に立って歩く。
今度はレイラを先頭に、ミカゲを挟んでサキが続く。
入り組んだ塔だった。
階段がたくさんあったり、道が3つに分かれていたり。
ともすれば迷いそうなそこを、レイラは大して迷う様子も見せず進んでいく。
途中大きな薄い布が上から何枚も垂れているところなどがあったが、皆何も言わなかった。
なぜこうも簡単に進んで行けるのかサキは不思議に思うが、ミカゲはそんなこと考えもしないのか無言でレイラの後に続いていく。
「……レイラ」
理由を聞こうと声をかけると、レイラが立ち止まった。
「……サキ様、つきました」
そこは大きな扉の前だった。
首が痛くなるほどの。
「……ここに?」
レイラは答えず扉に手をかけた。
それは音もなく左右に開く。
大きいくせに何の音もしないことに首を傾げながら、サキはふたりに続いて中に入った。
そこは何か異様な匂いに包まれていた。
異臭。
その発生源はどこかとサキは周りを見回す。
「ようこそ」
声が聞こえて、3人はそちらに視線を移す。
そこには、椅子に座ったアンスリウムがいた。
ゆったりと背もたれにかけたその顔が、心なしか青ざめている。
質問をしようとサキが少し前に出て口を開いたとき、また地震が起きた。
突然のことに思わず膝をつく。
瞳に少し悲しそうな色を乗せて、アンスリウムは3人を見る。
正確には唯ひとりを。
けれど地震をやり過ごすのに集中している彼らは気づかない。
椅子から微動だにせず、彼はただ見ていた。
なす術もなく床に這いつくばる彼らを。
揺れは程なくして収まった。
何とか立ち上がったサキは、レイラに手を貸して立たせる。
ミカゲは自力で立ち上がったようだ。
「……今の揺れで、最後の大地が堕ちたな」
その言葉にサキがぎくりと動きを止める。
上目遣いに睨みつけるが、ふと、その視線が自分に向いているわけではないことに気づく。
「どこを見て……」
視線をたどる。
サキ達よりも後ろ。
奥のほうに。
誰かが椅子に掛けていた。
それは人形のよう。
ろうのような肌。
虚ろににごった目。
「……まさか、アザミ……」
呆然と、ミカゲが呟いた。
唇からは鮮やかな赤い血。
それは彼女の死体だった。
部屋に漂う異臭の源。
「どういうことだ!」
サキが怒鳴る。
「見たままだ。……彼女は死んでいる」
億劫そうに囁く。
ぎこちない動き。
「何が……」
「本当は……全員に死んでもらうつもりだったのだがね。……レイラ?」
緩やかな笑みをレイラに向け、吐息のような声で言う。
肩を震わせ、レイラはアンスリウムを凝視する。
「……レイラ、どういうことだ……?」
「彼女は私の意思に沿ったまでだ……ひとり、生き残ってしまったようだがね……」
「……ッ……!」
異臭。
その発生源はどこかとサキは周りを見回す。
「ようこそ」
声が聞こえて、3人はそちらに視線を移す。
そこには、椅子に座ったアンスリウムがいた。
ゆったりと背もたれにかけたその顔が、心なしか青ざめている。
質問をしようとサキが少し前に出て口を開いたとき、また地震が起きた。
突然のことに思わず膝をつく。
瞳に少し悲しそうな色を乗せて、アンスリウムは3人を見る。
正確には唯ひとりを。
けれど地震をやり過ごすのに集中している彼らは気づかない。
椅子から微動だにせず、彼はただ見ていた。
なす術もなく床に這いつくばる彼らを。
揺れは程なくして収まった。
何とか立ち上がったサキは、レイラに手を貸して立たせる。
ミカゲは自力で立ち上がったようだ。
「……今の揺れで、最後の大地が堕ちたな」
その言葉にサキがぎくりと動きを止める。
上目遣いに睨みつけるが、ふと、その視線が自分に向いているわけではないことに気づく。
「どこを見て……」
視線をたどる。
サキ達よりも後ろ。
奥のほうに。
誰かが椅子に掛けていた。
それは人形のよう。
ろうのような肌。
虚ろににごった目。
「……まさか、アザミ……」
呆然と、ミカゲが呟いた。
唇からは鮮やかな赤い血。
それは彼女の死体だった。
部屋に漂う異臭の源。
「どういうことだ!」
サキが怒鳴る。
「見たままだ。……彼女は死んでいる」
億劫そうに囁く。
ぎこちない動き。
「何が……」
「本当は……全員に死んでもらうつもりだったのだがね。……レイラ?」
緩やかな笑みをレイラに向け、吐息のような声で言う。
肩を震わせ、レイラはアンスリウムを凝視する。
「……レイラ、どういうことだ……?」
「彼女は私の意思に沿ったまでだ……ひとり、生き残ってしまったようだがね……」
「……ッ……!」
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