小説用倉庫。
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「だから?」
関係ないといわんばかりの声に、思わずそちらを睨む。
「元はといえばお前が俺の制止を聞かずに飛び出したからだろうが」
冷徹な声音。
何の感情も含まずに。
「でも……私は……ッ!」
続きが言葉にならない。
この男を罵ってやりたいのに。
「残念だが、お前の罵声を聞いてるほど俺は暇じゃねぇんだ」
言うが早いか、彼はアルファルの背後に回ると右の羽根を片手で掴んだ。
「何……ッ!」
慌てて振り返ろうとするが、肩を抑えられていてそれも適わない。
ぐい、と地面に押し付けられる。
そして彼は羽根を思い切り引っ張った。
「――――ッ!」
激痛が走る。
けれど彼は手を緩めることなく、そのまま羽根を引きちぎった。
「ぅわあぁぁぁ――――――――――ッ!!!!」
みしみし、と神経が引き裂かれる音が聞こえたような気がした。
羽根の付け根は最も神経の集まる場所。
急所。
目のくらむような激痛。
回廊に絶叫が響く。
「もう片方」
右肩を抑えて蹲るアルファルにはお構いなしに、アルジェンテウスは左の羽根を掴んだ。
ためらいも見せず右と同じように引き抜く。
「あぁぁ――――――ッ!! ……ぅ……ぐ……! あ……ァ……ッ!」
荒い息の中でうめき声が上がる。
「これでお前は天界にいる必要はなくなったわけだな」
地に落ちた羽根を濡らす血に手を赤く染めながら、アルジェンテウスが嘲笑う。
「な……ぜ……!」
「羽根がなきゃ、ここにいる意味もねぇし……。両方の羽根がなくなっても、お前は死なねぇだろ?」
淡々と呟かれる言葉。
天使は羽根によって命をも支える。
だから、羽根を失うということは死ぬことに等しい。
それに、天使は両の羽根をもって天使たりうる。
だから。
「お前はもう純粋な天使じゃねぇ」
額に手が触れる。
ひんやりとした感触。
振り払うこともできずにただ見上げた。
「ここと別の場所に、お前を飛ばす。どうせこの世界はもうすぐ崩れる。……そうだな、突然なくなったんじゃ不便だろ。俺が……羽根を与えてやるよ」
手のひらから風が吹いたと思った。
とたん痛みが半減する。
驚いて肩越しに背中を見ると、以前と変わりない羽根が生えていた。
「じゃあな。もう、会うことはないだろうけど」
にやりと笑って、彼はアルファルの肩を押した。
軽く。
世界が傾ぐ。
堕ちていく。
暗い闇の中に。
喧騒も遠くなる。
そして、笑う彼の顔がだんだんと小さくなっていった。
関係ないといわんばかりの声に、思わずそちらを睨む。
「元はといえばお前が俺の制止を聞かずに飛び出したからだろうが」
冷徹な声音。
何の感情も含まずに。
「でも……私は……ッ!」
続きが言葉にならない。
この男を罵ってやりたいのに。
「残念だが、お前の罵声を聞いてるほど俺は暇じゃねぇんだ」
言うが早いか、彼はアルファルの背後に回ると右の羽根を片手で掴んだ。
「何……ッ!」
慌てて振り返ろうとするが、肩を抑えられていてそれも適わない。
ぐい、と地面に押し付けられる。
そして彼は羽根を思い切り引っ張った。
「――――ッ!」
激痛が走る。
けれど彼は手を緩めることなく、そのまま羽根を引きちぎった。
「ぅわあぁぁぁ――――――――――ッ!!!!」
みしみし、と神経が引き裂かれる音が聞こえたような気がした。
羽根の付け根は最も神経の集まる場所。
急所。
目のくらむような激痛。
回廊に絶叫が響く。
「もう片方」
右肩を抑えて蹲るアルファルにはお構いなしに、アルジェンテウスは左の羽根を掴んだ。
ためらいも見せず右と同じように引き抜く。
「あぁぁ――――――ッ!! ……ぅ……ぐ……! あ……ァ……ッ!」
荒い息の中でうめき声が上がる。
「これでお前は天界にいる必要はなくなったわけだな」
地に落ちた羽根を濡らす血に手を赤く染めながら、アルジェンテウスが嘲笑う。
「な……ぜ……!」
「羽根がなきゃ、ここにいる意味もねぇし……。両方の羽根がなくなっても、お前は死なねぇだろ?」
淡々と呟かれる言葉。
天使は羽根によって命をも支える。
だから、羽根を失うということは死ぬことに等しい。
それに、天使は両の羽根をもって天使たりうる。
だから。
「お前はもう純粋な天使じゃねぇ」
額に手が触れる。
ひんやりとした感触。
振り払うこともできずにただ見上げた。
「ここと別の場所に、お前を飛ばす。どうせこの世界はもうすぐ崩れる。……そうだな、突然なくなったんじゃ不便だろ。俺が……羽根を与えてやるよ」
手のひらから風が吹いたと思った。
とたん痛みが半減する。
驚いて肩越しに背中を見ると、以前と変わりない羽根が生えていた。
「じゃあな。もう、会うことはないだろうけど」
にやりと笑って、彼はアルファルの肩を押した。
軽く。
世界が傾ぐ。
堕ちていく。
暗い闇の中に。
喧騒も遠くなる。
そして、笑う彼の顔がだんだんと小さくなっていった。
悔しかった。
何もできなかったことが。
憎かった。
自分に痛みを与えた彼が。
身の内を焦がす負の感情に取り巻かれたまま、終わりのない暗い闇の中をどこまでも落ちていく。
目が覚めると、土の匂いがした。
顔を上げる。
そこは草原のようだった。
近くには湖もある。
身体に着いた血が固まってぱらぱらと落ちた。
洗うために湖に近づく。
水辺に膝をつき、手を伸ばす。
ふと、水に映る自分の姿が目に入る。
「え……」
思わず凝視する。
目の色が、変わっていた。
鮮やかな青から、眩い金に。
彼と、同じ色に。
「……ッ……!」
ばしゃん、と水面を叩く。
水の中に入り、怒りに身を任せて身体に着いた血を洗い流す。
あらかた洗い終えたところで、羽根に力を入れて飛び立った。
いつもと変わりない羽根の感覚。
それにもまた苛立つ。
ふと気がつけばあたりが暗くなっていた。
そういえば何かゆらりとした感触の場所を通った気もする。
疑問に思いながらも、下に降り立つ。
そこは芝生だった。
疲れていた。
身体も、……心も。
ため息をひとつ吐いてその場に倒れる。
不意に涙がこぼれた。
拭っても、それは後から流れ出て、止まらなかった。
何もできなかったことが。
憎かった。
自分に痛みを与えた彼が。
身の内を焦がす負の感情に取り巻かれたまま、終わりのない暗い闇の中をどこまでも落ちていく。
目が覚めると、土の匂いがした。
顔を上げる。
そこは草原のようだった。
近くには湖もある。
身体に着いた血が固まってぱらぱらと落ちた。
洗うために湖に近づく。
水辺に膝をつき、手を伸ばす。
ふと、水に映る自分の姿が目に入る。
「え……」
思わず凝視する。
目の色が、変わっていた。
鮮やかな青から、眩い金に。
彼と、同じ色に。
「……ッ……!」
ばしゃん、と水面を叩く。
水の中に入り、怒りに身を任せて身体に着いた血を洗い流す。
あらかた洗い終えたところで、羽根に力を入れて飛び立った。
いつもと変わりない羽根の感覚。
それにもまた苛立つ。
ふと気がつけばあたりが暗くなっていた。
そういえば何かゆらりとした感触の場所を通った気もする。
疑問に思いながらも、下に降り立つ。
そこは芝生だった。
疲れていた。
身体も、……心も。
ため息をひとつ吐いてその場に倒れる。
不意に涙がこぼれた。
拭っても、それは後から流れ出て、止まらなかった。
※流血・暴力シーンが含まれます。※
血生臭いのが嫌いな方は見ないことをお勧めします。
それでも見るという方は自己責任でお願いします。
血生臭いのが嫌いな方は見ないことをお勧めします。
それでも見るという方は自己責任でお願いします。
※流血・暴力シーンが含まれます。※
血生臭いのが嫌いな方は見ないことをお勧めします。
それでも見るという方は自己責任でお願いします。
血生臭いのが嫌いな方は見ないことをお勧めします。
それでも見るという方は自己責任でお願いします。
「殺したのか」
背後で響いた声に振り返り、男、レヴィアールは頭を左右に振った。
「気絶させただけだ」
振り返った先に立っていたのは、彼にとっては旧知の人物だった。
レヴィアールとそう年の変わらなさそうな青年は、色違いの瞳を倒れた彼に向ける。
「彼を、どうするんだ? ディリク」
レヴィアールがディリクに尋ねる。
声は、少し不安そうだった。
「正気に戻す」
ディリクはにべも無い。
倒れている彼を肩に担ぎ上げ、ディリクは立ち上がった。
「戻らなかったら」
「……その時は、殺すしかない」
僅かに苦渋の滲む声だった。
そうか、とレヴィアールが言って視線を伏せ、次に上げた時には彼らの姿は何処にも見当たらなかった。
周りに立ち込める血の臭いが、夢ではなかったことを告げた。
「彼は」
「無事だ」
「良く、止められたね」
「村にいたからな」
暗い闇の中、声が響いていた。
「あぁ……あそこには彼がいるんだったね」
呟きと同時に淡い光が灯った。
其処にいたのは先程の青年、ディリクと、もっと小さい、少年だった。
「どうする?」
「正気に戻すよ。……戻さなきゃならない。彼は必要になるから」
「必要?」
謎めいた少年の言葉に、ディリクが僅かに顔を顰める。
「……彼の弟が倒れたときに」
「倒れるのか」
淡々と問うと、少年は躊躇いがちに頷いた。
言い過ぎた、と思っているのかもしれない。
だがそれ以上は問わず、そうか、と頷いた。
少年の役割は知っている。
そして自分がするべきことも。
ディリクは寝台に倒れて眠る彼に一瞥を与えてその方向に歩き出した。
彼を、起こす為に。
背後で響いた声に振り返り、男、レヴィアールは頭を左右に振った。
「気絶させただけだ」
振り返った先に立っていたのは、彼にとっては旧知の人物だった。
レヴィアールとそう年の変わらなさそうな青年は、色違いの瞳を倒れた彼に向ける。
「彼を、どうするんだ? ディリク」
レヴィアールがディリクに尋ねる。
声は、少し不安そうだった。
「正気に戻す」
ディリクはにべも無い。
倒れている彼を肩に担ぎ上げ、ディリクは立ち上がった。
「戻らなかったら」
「……その時は、殺すしかない」
僅かに苦渋の滲む声だった。
そうか、とレヴィアールが言って視線を伏せ、次に上げた時には彼らの姿は何処にも見当たらなかった。
周りに立ち込める血の臭いが、夢ではなかったことを告げた。
「彼は」
「無事だ」
「良く、止められたね」
「村にいたからな」
暗い闇の中、声が響いていた。
「あぁ……あそこには彼がいるんだったね」
呟きと同時に淡い光が灯った。
其処にいたのは先程の青年、ディリクと、もっと小さい、少年だった。
「どうする?」
「正気に戻すよ。……戻さなきゃならない。彼は必要になるから」
「必要?」
謎めいた少年の言葉に、ディリクが僅かに顔を顰める。
「……彼の弟が倒れたときに」
「倒れるのか」
淡々と問うと、少年は躊躇いがちに頷いた。
言い過ぎた、と思っているのかもしれない。
だがそれ以上は問わず、そうか、と頷いた。
少年の役割は知っている。
そして自分がするべきことも。
ディリクは寝台に倒れて眠る彼に一瞥を与えてその方向に歩き出した。
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管理者:西(逆凪)、または沖縞
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